そろそろ限界
口に出しては言わないけれど、彼は明らかに不満げだった。
パレードの華やかな音楽も、ジェットコースターの爽快感も、ふれあいコーナーの小動物さえも彼を癒すことは出来ない。
朝に駅前で待ち合わせてからずっとこう。
始終うつ向いて、地面をきつく睨みっぱなし。
初デートなのに全然楽しくないんだけど。
文句を含ませた私の盛大な溜め息にだって顔を上げようとはしない。
彼の不機嫌の原因は分かっている。
彼の不機嫌の原因は、私。
入場料を払うとき、財布にたくさん絆創膏が入っているの、私、見たんだ。
そうだよね。こういうときは女の子はハイヒールを履いてくるべきだよね。
慣れないヒールにつまづいて足を挫いたり、靴擦れを起こしたりするべきだよね。
そしたら彼は私をベンチに座らせて、手当てしてくれて。
そしたらそしたら彼が無言で立ち去っちゃって、私は不安とか寂しさを感じちゃったりして。
『ほら、これで冷やせよ』
背後から私の頬っぺたに缶ジュースを押し付けたりしてね。
そういうのに憧れていたから、私がスニーカーを履いているのが心外なんだろうね。ついでにスカートじゃなくてズボンなのも一因かな。
全く、分かっていないんだから。
キラキラした目で『乗り物制覇しよう』と言っていたのは誰だったか。
何回転もするジェットコースターにスカートで乗れるか。ハイヒールでせかせか歩き回れるか。
ああもう、本当に分かっていないんだから。
「ねえ」
新しいスニーカーだって結構な頻度で靴擦れを起こすこと、知らないの?