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相馬⑤

 服部は、自宅のベッドに一人、横になって天井を見つめていた。

 それから思い立ったように素早く体を起こし、近くにあった携帯電話を手に取った。

「もしもし」

「……誰だ?」

 服部がかけた電話の相手は室井だった。

「覚えてますか? 数日前にあなたに会った服部です」

「……おお、そうか。ん? 俺のこの番号、教えてなかったよな? 相馬のあんちゃんから聞いたのか?」

「いえ、自分で調べたんです。競馬の予想仲間というか、顔なじみの連中のなかに、あなたのことを知ってる奴がいるんじゃないかと思って訊いて回ったら、見つけまして。確かにあなたは的中率がすごくて、競艇好きの人の間ではけっこう知られているようですね。そして連絡先も入手して、こうして電話させてもらったってわけです」

「ふうん。で、何の用なんだ?」

「あの相馬って人は、本気であのとき言ってた非正規基金ってのをやろうとしてるんですか? 信用できる人間なんですかね?」

「まあ、うさんくさいと思うのは当然だわな。俺も初めはそうだった。あのあんちゃん、真面目って感じがちっともしねえしよ。だけど、奴は真剣にすべての非正規労働者を助けるくらいのことをやる気でいるみたいだし、人間的に信用できるってのはひしひし感じてるんだ。ていうのも、非正規労働者を支援してほしいと俺たちに頼んではいるが、あいつは同時に俺たちのことも助ける気でいやがるんだよ。ギャンブルの才能に恵まれた結果、幸せどころかつらい思いをするほうが多く、特にカネに汚い奴をたくさん見たりして人間不信に陥ってる傾向が強い俺たちに、人のためになる行いをして感謝されることで、他人とつながれるようにしたり、喜びや生きがいを得られるようにしてやろうってな。俺は生まれて初めてじゃねえかな、あんなに誰かに感謝されたのは」

「え? ていうことは、もうその基金の運用は始まってるんですか?」

「ああ。だからおたくに声をかけたのは、援助する相手を増やすからってのもあるんだろうが、それにしても今のところ俺たち四人で十分過ぎるのに、なんでわざわざあんたも加えようとしてるかってことだ。わかるだろ? それに、あいつは俺にギャンブル中毒じゃないかって訊き、違うって答えたのに、医者にチェックを受けさせやがった。そもそも俺のことをただ利用しようという奴じゃないってのは直感でもわかった。今までいろんな人間を目にしてきたし、ギャンブラーの嗅覚でもな。あんただって、あいつが信用できそうだって感じるところがあったから、こうして俺に確認の電話をよこしたんじゃねえのかい?」

「……。あの人の連絡先、わかりますか?」

「フフフ。その必要はねえよ」

「え?」

「また来るからさ、あいつは。この前の去り際のあんたの背中、哀愁が漂ってたもんな。あれを見ておいて、あいつがもうあんたのところに現れないってことはねえよ」


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