俺、生まれ変わったら【体温計】になってて…はぁ…
……俺は、体温計。
誰もが知っている精密機器メーカーの予測式&実測式両刀遣い、販売価格2000円の電子体温計である。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、こだわりの強い男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、体温計になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺はわきフェチで、真夏にノースリーブを着こなすご婦人が大好きだったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…目をギラつかせていた日常は忘れていなかった。
思わぬところで無防備なわきに出会って滾った事と、間近でクンカクンカできなくてくすぶっていた事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――ナニこれ、反応にぶっ!!
俺を購入早々投げ捨てたのは、皮膚のざらつきがハンパないOLだった。
常にイライラしている、余裕のない女だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
精密機械なので匂いを堪能する事ができないうえに、OLは毎日俺を乱暴に扱って投げ捨て、いたたまれなかったのだ。
とがった爪の先でボタンを乱暴に押され、毎回「ヤダ、狂ってるじゃない!高かったのに!」と罵声を浴びせられ、太陽の光がさんさんと降り注ぐ窓辺に放置され…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――え?これ使ってるの?
俺を見上げたのは、若い婦人科の先生だった。
いわゆる研修医丸出しの、まじめそうな女医だった。
俺は願った。
「こいつに正しい体温計の使い方を教えてやってくれ!」
そう願ったのには、理由があった。
体温計に生まれたからには、きっちり自分の仕事をして何らかの成果につなげたかったのだ。
体調不良に悩まされていたOLは毎朝几帳面に体温を測っては、「こんなに低いはずがないじゃない、1℃たしとこ」と言って、計測結果を改ざんしていた。
俺は真面目に己の任務を遂行しているのに、完全に無駄でしかなくなっている事が、いつまでも心をえぐり続けている。
……現状を知って、きちんと治療をすれば…健康そのものになれるかもしれないだろうと言ってやりたかった。
―――自動記録付きの婦人用体温計を買ってください
OLは俺を引き出しにしまいこみ、新しい体温計を手に入れた。
いつか健康な身体になって、風邪をひいて熱を出した時には、俺を出して使ってくれよ。
いつか子供が生まれたなら、ぷくぷくの脇にはさまれるのも気持ちが良さそうだ。
俺の願いも…むなしく。
OLはイライラしながら書類や細かい雑品を引き出しに突っ込むようになり、俺は押されて隅に追いやられていった。
長年の放置がたたり電池が腐食し始めた俺は…緑色の粉を噴きながら、ただのゴミになっていく。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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