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第8話 初めての仲間

鶏魔物を探しては倒すのを繰り返しているが、効率が悪い…鶏魔物は飛爪を使わなくても普通に倒せるが、なにしろ探すのが大変で、草むらをうろうろして、やっと見つけて倒しても出てくるのが、主に鶏皮である。


卵やササミも何回かに一回現れ、そして、やっと今回初となるモモ肉が1つ手に入った。


鶏皮は20枚以上あるし、一度出てきた内臓は拾うかどうか悩んだ末に、


『マジックバッグが汚れそう』


との理由から断念した。


レバーだけ外して自分用にするか?とも考えたが、鶏レバーもそんなに好きではないので、今回はサヨナラしてきた。


そのうちダンジョンが消してくれるだろう…多分…

そして、俺は辺りを見回して、


「鶏皮はもういいか、次に行こう…」


と呟き、3階層を目指して移動したのだった。


3階層は森のエリアで、やはり見える範囲だけでも数チームの冒険者がいる様子である。


「木で視界が開けていないが、この階層も広そうだ。」


と呟きながら歩き始めると、すぐに歓迎の為か、獲物さんの方から俺に会いに来てくれた。


登場したのは猪魔物だが、初級ダンジョンのアタックボアよりも一回り大きくて、トサカの様なタテガミが特徴の…知らない猪魔物である。


『鑑定でも出来たら解るけど、レアスキルだから高いだろうし、最悪図鑑でも有れば…?!

王都だから図書館ぐらい有るんじゃない?

帰ったら探そう。』


などと、気楽に考えていたら、猪は俺に向かい地表を滑るように突進してくる。


『えっ、ちょ、早い!』


と、あまりのスピードに面食らった俺は、思わず飛爪を繰り出した。


顔面目掛けて横に振り抜くと、


剣の直線上に有る牙に当たり、ガキン!っと甲高い音が鳴り、俺の手元の剣にも手応えが伝わる…


『やはり、飛ばす能力ではなくて、伸ばす能力だ!』


と改めて確信した俺は、新たな相棒の固有スキルである飛爪の正体を考えていたが、しかし、今はそんな事をしている暇はないと気が付く。


突進の軌道を逸らされただけの猪が、仕切り直しして向かって来るのだ。


今度は、一旦避けてから、側面から首筋目掛けて縦に飛爪を振り下ろす。


すると、猪は俺の横を通り過ぎて走りながら、パシュンと消えた。


ホッとしたのと同時に、急に気だるさを、覚えた俺は、


『当面は飛爪は、1日三発までだな…』


と、これ以上の魔力消費をしない様に決めた。


猪魔物のドロップは魔石と、肉はかなり大きなブロック肉が手に入った。


満足しながらマジックバッグに回収していると、


『よっ、旦那!お見事でやんした。』


と声をかけられた…気がした。


いや、気がしたとかでは無くて、直接脳に来るような…奴か?!


辺りを見回す。(特に地面)


『…いない?』


俺が焦りながら、キョロしていると、


『旦那、下じゃ無くて、上でやんす。』


と言われて、恐る恐る近くの木を見上げると、木にしがみつくスケボーぐらいの黒い何が見えた途端に、先ほどの鶏皮のように全身鳥肌が立つのがわかった。


しかし、声を上げたり、震えることはない…平常心のスキルが効いているようだ。


木の上の黒い物体を睨み付けながら、剣を握り締め、


「出てこい!」


と叫ぶと、


『御意でやんす。』


とカサカサと降りてくる……黒いクワガタ……


『セーフ!ノットG、イエス!クワガタ』


俺は心から安堵した。


虫の中でも、クワガタやカブトムシは、その裏側を見なければギリギリ耐えれる部類だ。


俺は、クワガタに、


「なんで食用肉のダンジョンにクワガタが居るんだ?」


と、文句に近い疑問を投げ掛けると、


『旦那ぁ、越冬でやんすよ。

外は冬でやんしょ?アッシらは寒いのは苦手でやんすから…』


と言って…

って!俺は今になって重大な事に気がつく『会話してない?!俺と…』と…


「クワガタさん、俺と話せるの?」


と俺が、恐る恐る聞くと、


『ワッハッハ』と顎をガチガチしながら笑うクワガタは、


『アッシが、喋れるんじゃなくて、旦那がアッシらと話せるんでやんすよ。

なんと言っても王様でやんすから。』


と教えてくれた…前から、というか、あのデカイGの時に、ウッスラそんな気はしてたが、ヤッパリか…と、がっかりするやら納得するやら、何とも言えない気持ちで、クワガタに、


「で、俺に何か用か?」


と聞くと、地面にまで降りてきたクワガタは、


『えぇ、旦那の子分に成りたいんでやんすよ。』


と、俺の足元で言ってくる。


確かにインセクトテイマーというスキルは有るが…と思いつつも俺は、


「なんで、子分になりたいの?

自由に樹液でも吸ってたら良いんじゃない?」


と提案するが、クワガタの魔物は、


『いえいえ、アッシらは数は居りやすが、基本は弱い、食べられる側の命でやんす。

しかし、主を得た場合は、主の力量に応じて強化され、賢く、強く、固くなり、寿命も長く成りやす。

しかも、旦那はこんなに話せる上に、配下に成りたいの衝動が止まらない事から絶対に王様でやんしょ?

アッシらにしたら、死んでもお仕えしたいし、配下に成った時の恩恵が凄い、最高のお方でやんすよ。』


と力説されたのだが、俺が、


「えー、俺、虫苦手だしなぁー。」


と渋っていると、


『そこを何とか…お試しで…何なら先っちょだけでも…駄目でやんすか?』


と、仲間になりたそうに見つめながら懇願してくる


「何の先っちょだよ?」


と呆れて言う俺に、


『えっ?顎でやんすよ。』


と、ガチガチとやっているクワガタ…

確かに、ましな部類ではあるが…やっぱり虫だよ…と、かなり悩みに悩んだ末に、


「わかった、俺に裏側を見せない事を条件に配下にするけど、俺は、何をすれば良いの?」


と答えると、クワガタは、


『いゃったぁぁぁぁ!

旦那ぁ、有り難うでやんすっ!

契約は簡単でやんすよ。

アッシに手をかざして名前をつけるだけでやんす。』


と言いながら嬉しそうにガチガチしている。


俺は、言われるままに手をかざして、


「ガタ郎!」


と呼んでみた。


すると、スケボーサイズのクワガタが光りだし、一回り小さくなり、顎の形は波打つ様なカーブ状に変わる。


そして、光りが弱くなると、


『有り難き幸せ、〈影アギト〉のガタ郞、この命、殿の為に!』


と、種類どころか、キャラまでもが変わったクワガタが現れた。


しかし、事態が飲み込めない俺は、


「ガタ郎、キャラや語尾が変わったけど…?」


と、素直に聞くと、


『殿と、魂が繋がり、殿の知恵や力を与えて頂きましたので、

喋り方も変えたでやん…変えました。』


と答えるガタ郎…


『ん?無理してる??』


と思った俺は、


「無理に変えなくて良いよ、気楽にやってよ語尾ぐらい。」


と呆れると、ガタ郎は、


『そうでやんすか?旦那様。』


と、ホッとしている様子のガタ郎だった。


「無理なキャラは疲れるよ…で、色々聞きたいんだけど?」


と俺がいうと、


『何でも聞いて欲しいでやんす。』


と答える気満々のガタ郎に、

なんで、姿が変わったのか?

影アギトとは何か?

あとは、俺の力を与えられたと言ったが、与えた俺は弱く成らないのかの三点を質問すると、


ガタ郎は、頭を左右にひねりながら、


『まずは…そうでやんすね。

旦那様の力を貰い受けた訳でなくて、共有したので弱くはなってないでやんす。

むしろ、アッシの固さや顎の力も旦那様と共有されたので、ちょっと強くなる方でやんす。

そして、旦那様の王様パワーでアッシは進化して上位種の仲間入りが出来たでやんすよ。

ありがたや、ありがたや。

それと、影アギトとは、簡単いうと、影に潜れる暗殺クワガタとでも言いやしょうか…まぁ、そんな感じでやんす。』


と説明してくれたが、


「影に潜る…?」


と、俺が呟きながら首を傾げて考えていると、


『やってみるでやんすよ。』


と言ってガタ郎は俺の影にチャプンっと潜った。


「おっ、すげー」


と、驚くと、


『そうでやんしょ!』


と、自慢気なガタ郎の声が聞こえた。


「えっ?」


と、さらに驚く俺に、


『影に居る間は旦那様の一部と同じ、考えた事は声に出さずとも、

あぁ、旦那様が流れこんでくりゅうぅぅぅ!

ってな訳でやんす。』


と聞こえてきた。


俺は思わず、『キモい…』と、考えると、影の中から、


『キモかったでやんしょ?!』


と、楽しげに言ってくるガタ郎…


どうやら要らない知識まで手に入れたガタ郎が仲間に成ってしまった…

しかし、あの時の平常心スキルがここまでとは…虫を前にしてもあまり焦らずに済んだ。


そして、正直ガタ郎が思った以上に高性能であった。


偵察は勿論、物の影を渡って敵の背後から強烈な攻撃を仕掛けて倒してしまう。


正直、5階層迄の相手なら、問題なく任せれるほどだった。


そして、何より一番の役に立つのが、集まる虫魔物の窓口となってくれる事だ。


『えーい、旦那様とお話したければ、アッシを通してからにして欲しいでやんす。

文句の有るやつは力で言うことを聞かせるでやんすよ。』


などと顎をガチガチさせてくれるおかげで、俺は相手を見ずに、


「お帰りいただいて。」


と答えるだけで、バッタや団子虫、それに芋虫など、デカくてグロい虫達に会わなくて済む。


ガタ郎には「コックローチの一族は相談無しでお引き取り頂いて。」と指示を出しているので、セーフティーエリアで虫除けのお香無しでも平気で眠れる様になった。


なので、有能な配下に守られながらお肉集めを続けている。


時間停止のマジックバッグのおかげで、地上の屋台で買った時のままの温かい食事や、新鮮な野菜もダンジョンの中で食べられる。


ガタ郎は森エリアで樹液を勝手に食べて、たまにおやつとしてリンゴなど、俺のデザートに買った果物を与えるぐらいで満足してくれている。


燃費もいい奴だ…


そして、5日潜って、〈鶏〉〈猪〉〈鹿〉〈牛〉とバリエーション豊富なお肉が、集まった。


「一度戻るか?」


と呟くと、


『了解でやんす』


と答えるガタ郎は、もう俺のチームメイトのようだ…虫なのに…

自分でも虫を仲間にしたことをが未だに不思議ではあるが、心強い仲間と共にダンジョンを地上に向かい上がって行く。


そして、数日ぶりの地上で、乗り合い馬車に乗りクレストの街まで帰ってきたが、やはり腰へのダメージで、ぐったりしながら冒険者ギルドへ向かうと、数日前と同じ配置で、酒場で飲んでいる夢の狩人の皆さんがいる。


一瞬、本当に数日俺はこの街を留守にしたよな?と自分に確認してしまったが、俺に気づいたオッサン達が、


「よう、ポルタぁ~、頑張って来たかぁ~」


と、べろべろで迎えてくれた。


俺が、


「えぇ、何とか…」


と、答えると、


「あー、あのダンジョンの入り口すぐ近くにあったバトルコッコのもつ煮が食いたいなぁ、

あの屋台の爺さん死んじまったから…寒くなると思い出すよ…」


と、酒飲みが思い出を肴に飲み始めた。


『あの内臓を美味しく食べる方法が有ったんだ…』


と感心しながら、俺は、


「では、買い取りカウンターに行ってきます。」


と挨拶をして、ギルドの奧に向かう。


買い取り窓口で、鞄から肉と魔石を出していると、ギルド酒場の女将さんがやってきて、俺の並べた肉を見ながら、ギルド職員さんに、


「鶏皮と4つ、ブロック肉を二つ、ギルド酒場に回しておくれ。」


と告げて帰って行った。


『あぁ、買い付けかぁ~』


と納得していると、ギルド職員さんが、


「結構頑張りましたね。その年齢でダンジョンは大変だったでしょ?

ギルドカードには〈ソロ〉って書いてあったから、野宿とか大丈夫だった?」


と、書類に何かを書き込みながら心配してくれた。


俺が、


「ダンジョンで仲間が出来たので、初級ダンジョンよりかなり楽が出来ました。」


と答える。


すると、職員さんは、


「では、パーティー申請しとかなきゃね。」


と手を止めて俺を見る。


『いやいや、クワガタだけど…』


と思いながら、


「仲間になったのはコイツです。」


と言ってから、「出てきて」と、ガタ郎を呼び職員さんに紹介したのだが、職員さんは、俺の影からニュッと現れたクワガタに一瞬ビックリしたみたいだが、ガタ郎を見つめた次の瞬間、顔色を悪くしながらアワアワした職員さんは、


「影アギトですか?もしかして…。」


と聞いてくるので、


「そうみたいですね。」


と俺が答えると、ガタ郎も『うんうん!』と、顎を縦に振り頷いている。


職員さんは、


「危険度Cの暗殺クワガタを…

Cランクのキラーベアー討伐に続いて、今度は危険度Cをテイムですか…?」


と、少し呆れられた。


俺が、


「駄目でしたか?」


と聞くと、職員さんは、


「従魔の登録はお願いします。

あと、街の中で暗殺は止めて下さいね。」


とお願いされた。


『いやいや、街の外でもダメだろ?!暗殺は…』


と、心の中でツッコミを入れつつ、俺は言われた通り、ガタ郎の登録を済ませて、買い取り金を受け取る。


5日潜った成果が、小金貨三枚以上に成った。


地上で倒した魔物は、皮から肉から売れるが、ダンジョンの魔物はドロップした一部分だけになるので、少し損した気持ちになるが、季節を問わずに安定して狩れるのは有難い。


その日、俺は移動で疲れたから、屋台で何か食べて、宿屋で体を洗って寝る事にした。


ギルドから出る時に酒場の横を通ると、酔っぱらい達が、カリカリに焼いた鶏皮せんべいをパリパリ噛りながら、また飲んでいる。


ギルド酒場の女将さんは、おつまみの仕入れに来たんだな…と思いつつ、俺は酔っぱらい軍団に


「お先に失礼します。」


と声をかけると、


「うぃ~。」


っと手をふり答えてくれた。


『毎年冬場はあんな感じなのかな?』


と先輩達の肝臓を心配しつつギルドを後にした。


ギルド宿に帰る前に、手にしたお給料で買い物に向かう。


日用品に、食糧など…もう、腐る心配が無いので、乾パンと干し肉とはオサラバだ。


温かな串焼き肉でも、焼きたてのパンでもマジックバッグでそのまま保管できる。


容量もデカイので、水袋も複数持ち歩けるし、ガタ郎の為に生野菜や果物を大量に購入し鞄にしまう。


一年前には想像も出来なかった…財布の中身を心配しないで、買い物ができる日が俺にやって来るとは…と、買い物をするたびに幸せを感じる。


読んでいただき有り難うございます。

頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。

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皆様の応援がエネルギーに成りますので、

よろしければ是非お願い致します。


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