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第6話 やっと稼げた

マジックバッグを購入して、意気揚々と翌日も雪の積もる森に狩りに向かう。


他にもウサギ狙いの冒険者がチラホラ見えるのだが、彼らは飛ぶ斬撃でウサギを凪払う剣士に、魔法でウサギを切り裂く魔法使い、それに何か解らない弓の技で次々とウサギを射抜く狩人と、見れば見るほど、俺がいかに泥臭い戦いをしているかが解る。


『羨ましいな、プラスのスキル』


と思いながら、スキル持ち冒険者を横目に森の奥を目指す。


あんな感じでスキルを駆使してサクサク狩ってる冒険者達の中で、使えるスキルが一つも無い俺の肉弾戦みたいな狩りは、披露していられないから、できるだけ離れて狩りをしようと、雪ウサギの足跡を追って進む。


本日もまた、30匹前後の群れに突き当たり、俺は昨日と同じく泥臭い戦いを繰り広げる。


昨日と違うのは、狩った後の運搬を気にせず、おもいっきり殺れる事だ。


何匹か倒すとビビって逃げるウサギを見送り、倒した獲物の血抜きをして、麻袋に入れてからマジックバッグに入れる。


『マジックバッグの中で血が滴ったり、他の物に血が着いたら嫌だからね…』


と、丁寧に血抜きをした後てマジックバッグに入れて、担いでみると、思わず俺は、


「あぁー、超ぉぉぉ楽ぅぅぅぅ!

かさばらないし、重くもない!!」


と、マジックバッグの実力を実感して小躍りをしていた。


『これならば、このままもう一戦イケるぞ!』


と、俺はまた足跡を探して跡を辿り、少し小さい20程の群れに出逢いまた戦う…

朝イチから昼までに2つの群れで15匹を倒し、一旦ギルドに帰り、買い取りを頼んでからギルド食堂という名前の酒場で軽い食事を食べてから、もう一度狩りに向かう。


そんな生活を一週間程続けて、ついに、雪ウサギ大量発生イベントが終了してしまった。


最初は1日平均20匹程の狩っていたが、ウサギは徐々に数を減らしていき、それでも一週間を通して俺一人で百匹以上倒した。


そして俺は、この大量発生イベントで、なんと、大金貨を初めて手にしたのだ。


現在、大金貨三枚と小金貨七枚が鞄に入っている。


俺は、イソイソとダンジョンショップに向かい、この世界に生まれてから一番の買い物をする予定だ。


370万円…前世であれば乗用車が買えるし、ド田舎ならば中古の家だって買えそうな金額で、今日俺は、人並みになる為にスキルを買うのだ!


沢山あるスキルスクロールに目移りするので、とりあえず店員さんに事情を説明して予算を伝える。


どんなスキルが有るかもよく解らないので、店員さんの知恵を借りたほうが良いからである。


そして、店員さんが知恵を絞ってくれた結果、


〈身体強化〉という一時的に魔力を糧に意識を集中させた部分の身体機能を少し底上げする能力が、 小金貨六枚と、


〈頑強〉という常時防御力を底上げする能力が、大金貨一枚、


〈豪腕〉という腕力を常時底上げする能力が、大金貨一枚に


〈スタミナ〉という体力を底上げして疲れ難くする能力が、小金貨六枚である。


一般的な、〈コモン〉スキルだが、兵士や冒険者が好む〈基本セット〉だ。


この、4つを取得するとスキル同士が融合して、〈複合スキル・フィジカル〉になり、

各スキルの効果もほんの少し上がるので、とてもオススメなのだと説明してくれた。


流石はスキルスクロールを扱う店員さんだ…確かにお値段以上かもしれない。


そして、俺の虫関係の悩みを相談した結果、店員さんは、


「効果が有るか解りませんが、もしかしたら一番お客様の力になるかも知れません。」


と言って小金貨五枚の〈平常心〉という、錯乱や、精神攻撃耐性が上がり、いざという時の集中力が上がるスキルをオススメしてくれた。


確かに、そのスキルがあれば、不意な虫でビビらなくなるかも…

と考えた俺は、


「それも、お願いします。」


とお願いして、代金を支払った。


店員さんは、


「お客様はスキルスクロールの取得方法はご存じでしょうか?」


というので、俺は、


「ご存じ無いので、お願いします。」


と素直に答える。


店員さんは、


「スキルスクロール開いて、書いてある魔法陣に手を置いて、魔力を流すだげでございます。

では、試しに1つ…」


と促されるままに魔力を流すと、スキルスクロールが光り、その光りがジワリと体の中に流れこんでくる。


暖かいような、こそばゆいような不思議な感覚を味わいながら、


『あぁ、これで使えるスキル持ちになっちゃった…素っぴん冒険者卒業だ…』


と、スキル無し冒険者からの卒業という喜びを噛み締めた。


無事に全てを取得して大満足の俺だが、本当の事をいうと中古の時間停止付きのウエストポーチも食事入れに欲しかったが、次回にまわした。


一週間前は、〈縁遠い〉と思っていたスキルスクロールが手に入れる事が出来たのも、雪ウサギさんが大量発生してくれたおかげだ。


『ありがとう、ウサちゃん達…』


と心の中で、お星さまになったウサちゃん達に礼を言って、店員さんには、


「頑張って稼いで、時間停止のウエストポーチを、買いにきますので、その時は宜しく。」


と頭を下げてからダンジョンショップをあとにした。


金貨は綺麗サッパリなくなったが、残った銀貨で食糧を買って宿に戻る。


今日はお祝いだから少し奮発して雪ウサギのお肉をお肉屋さんで買って、ステーキにする。


宿の共同キッチンで、ジュウジュウとウサギ肉を焼きながら、


『これ、俺が獲ったヤツかもな…』


等と考えながらも、美味しそうに焼き上がったウサちゃんに、


『改めて、有り難う。』


と、手を合わせてから頂く。


ウサちゃんステーキは、思った以上に油がのり、たんぱくな味かと思っていたが、かなりジューシーだった。


色々な意味で美味しいウサギのおかげでスキルが持てたので、明日からは依頼か、買い取り素材を狩るのを頑張って、ポイントを稼いでDランクを目指す。


多分、雪ウサギのおかげでポイントもかなり入ったと思うので、あと一息で昇格すると思う。


そして、来月ぐらいからは、可能ならば中級ダンジョンに潜ってみたいからね…

お肉は時間停止バッグがないと厳しいらしいが、買えるぐらいのお金は冬の間に稼げるかな?

やっと人並みにスキルのある冒険者になれたが、俺は次なる問題にぶち当たる。


それは、微妙に冬場は依頼が少ない問題だ。


雪ウサギの様に冬に荒ぶるヤツの方が稀で、獲物が居ない冬場は、普通、ダンジョンで稼ぐらしい。


あとは、普通の狩りの獲物として跳ね鹿や森狼と、スライム系の敵ぐらいしか周辺に居ない。


鳩みたいな鳥がチラホラと飛んでいるが、あんなのは高値で売れずに晩飯のおかずになるかどうかぐらいだ。


諦めた先輩冒険者達は朝から雪ウサギの臨時ボーナスで酒を飲んで騒いでおり、あの感じで毎日過ごしながら春を待つらしい。


飲み過ぎて金が無くなれば最悪ダンジョンに行けばいいし、本当に冒険者は気楽な稼業に見られても仕方ない…

しかし、俺は財布を潤す為とポイントを稼ぐ為に、今日も雪の降り積もる森に鹿や狼を狙って、ボウガンを片手にうろついている。


少ないとは言え、獲物はいる。


森の木の皮を噛って飢えを凌ぐ鹿や、その鹿を狙う狼…

寒さに耐性のあるブルースライムはあまり買い取り額が高くないらしいからパスして、雪に残る足跡を探し歩く。


昼過ぎにようやく跳ね鹿という、この雪でもお構い無しで、ピョンピョンと跳ねて雪の森を駆け回る鹿の群れを見つける。


警戒心の塊の鹿を狩る為に、俺は木影に隠れてボウガンを構えたまま待ち伏せをしている。


『木だ、俺は木だ…』


と、木に溶け込むイメージで〈あくまでも個人の感覚です。〉

静かに獲物を待つ。


獲物がこちらに来る保証は無いし、来た道を帰ってしまう事もあり得るが、忍び寄る系のスキルの無い俺の取れる手段は待ち伏せくらいしかない…

仕方なくじっとして待っていると、俺の上にも雪が積もりはじめる。


『寒い…』


しかし、動く訳にはいかないので、


『我慢だ!俺は我慢が出来る子だ!!』


と、自分を励ましつつ雪像になりつつある俺の我慢も知らずに、鹿達に襲いかかり、明後日の方向に散らす馬鹿が現れた。


はぐれの森狼だ。


はぐれと言っても、見た目がドロドロで、経験値が多い訳でもなく、ただ単に、群から離れて生活する集団行動の出来ないボッチなだけの爪弾き者である。


指がかじかむのも忘れて、怒りで少し暖かくなった俺は、跳ね鹿(獲物)を散らした罰として、替わりに狼君に獲物になって貰う事に決定した。


鹿よりも警戒心が薄い様で、ボウガンの射程に入っても、森の奥に逃げた鹿の足跡の中で、どのルートを辿るか、足跡の匂いを確かめる様にクンカクンカしている狼目掛けて、ボウガンの引き金を引く。


ヒュッと冷たい森の空気を切り裂く様に飛び出した矢は狼を見事にとらえて、


「ギャン」っと一鳴きさせる。


そして、森狼は暫く暴れた後に静かになり動かなくなった。


予定が狂ったが俺は何とか獲物を得る事が出来たので、クレストの街に引き返した。



連日こんなペースだが、じわじわとポイントを加算していく俺に、買い取りカウンターのギルド職員さんが、


「もう少しで、Dランクに上がれそうですよ。

頑張ってくださいね。」


と声をかけてくれた。


『もう少しかぁ~。』


と、やる気になっていたある日…事件は起こった。


その日は森に鹿が全く見当たらなくて、足跡を探しながらかなり奥まで来てしまった。


1日探し回り、


「こりゃダメだな…」


と、もう諦めて帰ろうとした時に、獲物を探していた俺自身が獲物になっていた事に気がつく。


それは一頭の熊だった…そう、俺は知らないうちに灰色の熊に背後をとられていた。


クソ!しくじった。

盾はリュック型のマジックバッグの中だよ…肩掛け鞄型のマジックバッグにしておけば、ゴソゴソと装備を変えれたのに、普通の肩掛け鞄が有るからと、リュックにしたのが今になって悔やまれる…

しかし、今更悔やんでも仕方ない。


ボウガンでは致命傷は無理そうだが、目でも射抜ければ逃げる時間を稼げるかもしれない。


ジリジリと背後に近づく熊に狙いを定めて、振り向きざまにボウガンを放つと、肩口に命中した。


「ガルゥオォ!」


と短い叫びを上げたが、熊は肩口の矢をかきむしる様にして引き抜いてしまった。


残念ながら浅かったようだ…ボウガンの二発目の装填も許されぬまま、攻撃を受けた熊が俺に向かって走って来る。


咄嗟に剣を引き抜き構えるが、ボウガンは、どうする事も叶わず、左手に持ったままだ。


熊は近接戦闘の間合いに入ったとたんに立ち上がり、矢が刺さった方の手で襲って来たところを見ると、マジでボウガンは全く効いてないらしい。


俺はボウガンの本体を盾代わりにして、一瞬の隙を作る…

勿論、防御力がある訳ではないボウガンはバラバラに粉砕されたが、その隙にヤツの脇腹に、豪腕と身体強化のスキルの乗った片手剣の一撃を入れる事が出来たのだが、しかし、苦楽を共にした中古の片手剣ともここで別れる事となってしまったのだ。


相棒は熊の肉質に勝てずに、ヤツの脇腹に刺さったまま根元近くからポッキリと折れてしまった…

もう、俺に残された武器は、知恵と勇気と解体用のナイフのみだ。


リュックの中のこん棒は戦力外なので省く…


腰のナイフを引き抜き、逆手に構えて熊を睨む。


こんなピンチの瞬間だが落ち着いている自分に驚く…


平常心のスキルか?!


だからと言って、落ち着けたとしても、今の危機的状態は変わらない。


ヤツの脇腹に深々と刺さったままの剣先から、熊の血が滴っているが、手持ちの装備であれ以上のダメージを与えれるイメージすら湧かない…


『マジで詰んだかも知れん…』


と、冷静にピンチを受け入れるが、熊に向かい、あえて平気な顔をして強気でナイフを構える俺に、何か嫌な予感でもしたのか、熊は渋々俺という獲物を諦めて帰って行ってくれた。


しばらくは、熊の去った方向を睨み続けたが、ついに


「た、助かったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


と、半泣きでヘタリこみ、メインとサブの武器を両方失いながらも命からがら町まで帰還した。


俺はまず、冒険者ギルドに行き、近くの森で熊に出会った事と、脇腹に一撃入れたが死んでいない事を告げた。


そう、手負いの熊は危険なのだ。


ギルド職員さんに熊の特徴を伝えると、すぐにクエストボードに、


『キラーベアー出現

脇腹に傷を追ったまま移動、

手負い状態なので、緊急討伐受付中』


と、張り紙がされると、さっきまで酒に飲まれた陽気なオッサン達が、キリリとした漢の顔になり、


「よし、血の痕を辿れる今のうちに殺るゾ!」


と気合いを入れてから手続きを済ませ、ギルドに併設された酒場から出て行った。


任せたぜ、オッサン達…

武器を壊してしまった俺は、財布の中身を確かめた後に武器屋に行こうとしたら、ギルド職員さんに、


「武器を買いに行くなら暫く待った方が良いですよ。

今日は宿でユックリ休んで、明日、朝イチで窓口に来て下さい。」


と、不思議な忠告を受けたが、見も心もクタクタだったので、その通りにさせてもらった。


宿屋に帰るなり、泥の様に寝て、翌朝早くに目が覚めた…

早朝の冒険者ギルドに行くと、昨日のクエストボードの紙が剥がされており、代わりに、


『キラーベアーのメスを討伐、小熊の居る可能性あり、冒険者の皆さんは注意をしてください。』


という、張り紙に変わっていた。


窓口に移動すると、ギルド職員さんと、普段は酔っぱらいの先輩達の一人が、シラフの状態で待っていた。


俺が、


「すみません、何かお待たせしましたか?」


と、聞くと、先輩冒険者のオッサンが、


「いや、さっき帰ってきて報告を済ませたところだ。」


と答えてくれた。


ギルド職員さんが、片手剣の刃を取り出して、


「確認です。

ポルタさんので間違え在りませんか?」


と質問された。


鞘にしまって腰から下げた折れた剣を提出すると、ギルド職員さんは剣を鞘から抜き、刃と合わせてみると、折れ口が合う…


「間違い在りません。」


と職員さんが言ったとたんに先輩冒険者が、


「やったな、坊主!」


と、俺の背中をバンっと叩いて笑う。


ギルド職員さんも


「ポルタさん、おめでとうございます。」


と、祝ってくれるが何の事か解らない…

すると、職員さんは、


「Eランク冒険者、ポルタ様、

キラーベアーの目撃報告と、討伐の一番手柄で、Dランク昇格となります。」


と発表したのだが、討伐の一番手柄?と考えている俺に、先輩冒険者のオッサンが、


「いゃぁー、笑った、笑った。

坊主の報告を聞いて、パーティーで追撃依頼に出掛けたんだが、血痕を辿ってヤツの巣に着いた時には、ヤッコさん虫の息だったよ。

俺達は、死体回収程度の労力で、討伐依頼を達成しちまった。

坊主悪いな…」


と笑っている。


ギルド職員さんが、


「では、報酬です。

危険度Cのキラーベアーの目撃報告と、討伐の報酬の分け前と、素材買い取りの分け前です。

今ならば、一部の素材の買い戻しも可能です。」


と説明してくれた。


俺は、まだ状況が把握出来ていないが、先輩冒険者のオッサンが、


「坊主、その金は正当な分け前で、お前さんが命を削った取り分だ。

次は良い武器を持っておけ、そしたら次に同じ事が起きれば、その時はその倍以上の金を一人占めできる。

武器が折れてなければ、坊主の勝ちだったさ。

Eランクが良くもまぁ、強さ的に下の方とは言え、危険度Cのキラーベアーと殺り合えたもんだ…

面白い酒の肴が出来たよ。」


と言ってご機嫌で帰って行った。


俺は渡された報酬の中から大銀貨二枚をギルド職員さんに渡して、


「これで、ギルド酒場で先輩のパーティーが飲む時に一杯奢れますか?」


と聞いたら、職員さんは、


「ポルタさんは、本当に11歳ですか?

粋なことしますねぇ。

大丈夫ですよ。彼ら〈夢の狩人〉のパーティー全員にボトルで奢れますよ。」


とギルド酒場に話を通してくれた。


しかし、手元にはまだ大金貨一枚と小金貨三枚が残った…熊の素材は高いらしいな…


読んでいただき有り難うございます。

頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。

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皆様の応援がエネルギーに成りますので、

よろしければ是非お願い致します。


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