表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/74

第5話 ウサギおいし

ザナのから乗り合い馬車に揺られながら、次の大きな町に移動し、そこでまた乗り合い馬車を乗り換えて移動する…


正直、『帝都まで行くゾ!』と意気込んで出発したが、約二週間移動したアルトワ王国という国の王都に来ている…いや、もうここを暫くの拠点とする事にした。


理由は幾つかある。


まず、帝都が遠い!

二週間頑張ったのだが、馬車移動で腰が悲鳴を上げている。


しかも、まだここから帝都まで1ヶ月程掛かるらしいので、もう、心が折れました。


そして二つ目は、金が掛かり過ぎる事である。


仕事もせずに1ヶ月以上旅している程、俺の財布に余裕はない。


別に帝都に行かなければならない状態では無いので、手前の国々の中で比較的大きなこのアルトワ王国でのんびり金を稼いで、時間停止付きのマジックバッグを手に入れる予定だ。


それさえ手に入れば、依頼とは別に 貿易等で稼げるかもしれないし、帝都でなくてもマジックバッグは売っているだろう…それに、何より今は冬、移動するには大変だが、野原に虫が殆ど居ないから冒険者仕事をするには絶好の季節だし、春までここで働く事にしたのだが…

問題は野宿すれば凍死するし、宿に泊まると金が掛かるのでマジックバッグの為に稼いだ金がガンガン減っていくが、こればっかりは仕方ない。


アルトワ王国の王都クレストの冒険者ギルド経営の宿屋に空き部屋が無いかギルドの窓口で問い合わせる。


まぁ、ギルドの宿屋というが、週単位や月単位で借りれる冒険者専用のウィークリーマンションの様なもので、食事は冒険者ギルド経営の酒場で取れるし、節約の為に宿の共同キッチンで自炊をしても構わない。


そして、共同の釜戸でお湯を沸かして体が洗えるのは、そこらの素泊まり宿に無い何とも最高な設備だ。


町の素泊まり宿屋なら1泊小銀貨一枚前後だが、ギルドの宿は一週間分6泊7日で、大銀貨一枚と小銀貨二枚と、巷の素泊まり宿より少々お高い金額設定だが、素泊まり宿屋はベッドのみのカプセルホテルみたいなのに対してギルドの宿は、ベッドと机が有り、ワンルームマンション並みの広さがあり、お値段以上に快適な宿だ。


1ヶ月借りると、大銀貨四枚と更にお得になるので、大概冒険者は1ヶ月単位で借りるので、なかなか部屋の空きが出ない人気宿である。


しかし、今は運良く空きがあり、俺は迷う事なく1ヶ月分の支払いを済ませて、まずは、このクレストの街をぶらついてあちこち見てまわる事にした。


アルトワ王国は帝国の中でも比較的裕福な国で、主要産業の一つがこの国に五つもあるダンジョンで手に入る、アイテムやスキルスクロールの買い取りと販売にかかる手数料である。


ダンジョンショップという、国営の店でのみダンジョンアイテムやスキルスクロールの買い取りを行い、買い取り手数料と販売手数料という二つの手数料で潤っており、ダンジョン内で手に入れた素材や魔石は普通に冒険者ギルドの窓口で買い取ってもらえるが、ダンジョン産の武器や防具もダンジョンショップ扱いとなり普通の武器屋では買い取りしてくれないらしい。


ということはダンジョンショップで、ダンジョン産のマジックバッグどころか、もしかしたらナイスなスキルが手に入るかもしれないのでは?!と、俺はさっそく、ウキウキしながらダンジョンショップに来たのだが…

微妙に高いのは、手数料が乗っかっているからなのか?、物価の差なのだろうか…時間停止なしの荷車程度入るマジックバッグが小金貨二枚と大銀貨五枚で、時間停止ありで同じ容量のマジックバッグが大金貨一枚と小金貨五枚との値札がついている。


『う~ん…時間停止付は6倍…まぁ、それもそうか…便利だもんな。』


と納得しながら、次はスキルスクロールが並ぶコーナーに足を運んだのだが、コモンというランクの、一般的なスキルである身体強化のスキルは、便利だけど良く手に入るスキルスクロールで、比較的お買い得な価格で小金貨六枚…って、一般的なスキルスクロールでこの値段…


「はぁ~、俺には縁遠い商品だな…」


と諦めて、お目当てのマジックバッグも移動と家賃で減ってしまったので全く手も足も出ない。


今のお財布事情ではどうにもならないので、この足で一刻も早く稼ぐ為に冒険者ギルドの資料室に行って、五つのダンジョンと、近隣の情報を入手することにした。


ギルドの資料室で、ダンジョン関係の資料とにらめっこしながら考えてはみたが、俺は現在Eランク冒険者なので、初級ダンジョンにしかまだ入れない…Dランクに成れば中級ダンジョンに入れて、夢であるスキルスクロールの入手確率が格段に上がるのだが、アルトワ王国の初級ダンジョンは虫ダンジョンらしく、俺は一生行かないであろう。


中級は3つあり、お肉ダンジョンと、鉱物資源ダンジョンと、魔法ダンジョンの三種類と資料に書いてあった。


お肉ダンジョンは一番人気で、豚、牛、鳥系統の魔物のみで、敵を倒すと高確率で肉をドロップするらしく、時間停止付きのマジックバッグが有れば安定して稼げるらしい。


鉱物資源ダンジョンは硬い系統の魔物と、採掘ポイントが多く、中層以下では希少金属や宝石も手に入るエリアがある。


魔法ダンジョンは、魔法攻撃が主体な魔物が多く、遠距離から攻撃してくるので、魔法防御手段がないと厳しいが、魔法系統のスキルスクロールやマジックバッグに魔法武器など、数々のマジカルなアイテムが入手し易いらしい。


とまぁ、色々と魅力的だが、使えるスキル無しの素っぴん冒険者の俺には厳しく、たとえ、ポイントが貯まってDランクに成っても、安心して潜れるダンジョンは無い。


しかし、どちらにしても当面はクレストの街の周辺でDランクのを目指しつつ稼ぐしかないので、一旦ダンジョン関係の資料を棚に戻して、代わりに周辺の地図や、大体の出現魔物の情報を読みあさり、知識を頭に入れてから冒険者ギルドのクエストボードの確認に向かうと、


『緊急、王都周辺に雪ウサギの大量発生あり、依頼申請なしで参加可能、取れたウサギの素材を割り増しで買い取り中 』


と、張り出してあった。


「おっ、これだ!」


と、思わず口に出してしまったのだが、俺のメイン武器である片手剣ではウサギ狩りはキツい…

なので、ボウガンか弓でも購入して、冬の間はウサギ狩り中心の生活にしようと決めて、少なくなった全財産を使い準備をはじめた。



翌日、クレストの周りの森に入り、ウサギの足跡をたどるのだが、雪ウサギって可愛い名前に反して、デカイ足跡が雪の上に続く。


弓とボウガンで迷ったが、店の親父さんから、狙いを付けやすいとオススメされたのでボウガンにしたのだが、このデカさの足跡を残す獲物を今、俺の手元にある小振りなボウガンで倒せるか不安だ…

しかし、すでに元手がかかっているので、もう後には引けない。


雪に残る足跡を追って、たどり着いた森の奥に30程のウザキの群れを見つけた。


こんな群れがあちこちにいて、森の食糧や生き物を群れで食い散らかしているのだ。


しかも、雪ウサギさんは冬眠不要な雑食性の子沢山、放っておいたら春を待たずに森を食い尽くす食害を起こす厄介な魔物だが、毛皮の保温性は抜群で肉も結構美味しいヤツである。


町の冒険者総出で、倒して、食べて、数を減らす作戦らしいので、俺も冒険者の端くれとしてその作戦に参加するべく、雪に埋もれながら、ほふく前進して群れに近づきボウガンを構えて雪ウサギを狙う。


眉間に一発が理想だが、大型犬サイズのウサギがこのボウガンで仕留められるか不安もあるが、しかし、殺るしかない!


雪に埋まりながら構えたボウガンからビュンと空気を切って飛び出した矢は雪ウサギの横をかすめる…


『あちゃー、外したよ…』


と思った途端に、攻撃された方向を確認してワラワラと集まりはじめるウサギ達は雪に半分埋もれた俺を見つけて怒りの表情で睨む。


結局ボウガン要らなかった?

しくじったなぁ、弓なら連射出来たかもしれないがボウガンをセットするには時間がかかってしまう…と思いながらも剣に持ち替えてウサギを睨み返しながら俺も構えをとる。


敵さんの数は多いが、ダンジョンボスのブラッドブルより威圧感は無く感じた俺は、少し心に余裕が出来た様で、


「さぁ、うさちゃん。

出来れば順番守って一匹ずつでお願いね。」


とお願いしてみたが無理だった。


数匹単位で飛びかかってくるウサギを片手剣を振り回して切り飛ばしていく。


噛みつき攻撃にさえ注意すれば、うさぎの体当たりはストーンスライム程度で何とか我慢出来る痛さだ。


『ヨシ、このまま全滅させてやる!!』


と意気込んだのだが、五匹ほど仕留めた時に、ウサギ達は逃げ出してしまった。


しかし、内心は、


『…よかたぁー!』


と、俺は安堵していた。


実は何発も体当たりを浴びて、地味に数が多い攻撃にフラフラな俺は、ウサギ達が逃げてくれた事に感謝していた。


しかし、ホッとしたのもつかの間、新たな問題が出てきたのだ。


それは、仕留めた五匹のウサギをどうやって運ぶかだが、10匹以上ならば、ギルドに連絡して駆け出し冒険者君にお駄賃をはずんで運んでもらう手もあるが、五匹では…うーん?…2往復するか。


と結論をだして、二匹のウサギはロープで吊るして血抜きしながら放置し、普通であれば町まで十五分程の距離だが、雪が積もり帰るのにも倍程の時間をかけながら、麻袋に一匹ずつウサギを詰めた袋を3つ、エッチラオッチラと担いだり、引き摺ったりしながら運搬して冒険者ギルドまで移動する。


『一刻も早くマジックバッグを、購入せねば…』


と心に誓いつつ、やっと到着した冒険者ギルドの買い取りカウンターに三匹のウサギを渡して、


「まだ現地に二匹置いてきたので、取りに戻ります。

全部買い取りでお願いします。」


とだけ伝えて、再び雪道をトボトボ歩いて、吊り下げてある二匹の回収に向かう。


雪道をまた三十分程かけて戻ると、吊り下げてあった二匹は…俺より先に戻って来たウサギの群れのおやつになっていた。


「うげっ、マジかアイツら…共食いって…」


と、ドン引きする俺だったが、よく考えれば冬場は食い物が少なく、何でも食べなきゃ生きていけないのだろうし、言っても雪ウサギは魔物であるので、肉だって平気で食べるよね…と納得してみたのだが、やはり、共食いはどうにも引っ掛かる。


しかし、そんな事よりも二匹食われたから二匹は殺らないと、俺の稼ぎの計算合わない。


『今度こそ!』


とボウガンで木の影から腹が膨れたウサギ達を狙う事にした。


仲間というご馳走で腹が満たされて、日が差す場所でウトウトしているウサギにストンとボウガンの矢が刺さる。


『やった、当たった。』


と喜ぶのもつかの間、やはり俺が気にくわないのか前回の様に再び辺りを取り囲むウサギさん達、


「ウサギさん達、見た目は可愛いのに、諸々残念なんだよ…特に共食いは、引くわぁ…」


と悪態をつきながら俺は剣と盾を構える。


さっきは、とっさの事で盾を取り出し損ねたが、今回は万全…

さて、ウサギちゃん達は完全体の俺に敵うかな?


と、それっぽい感じを醸し出しながら相手の出方を待つのだが、やはり、ウサギさん達は何とかの一つ覚えのようで、数が増えようが、減ろうが、基本的な攻撃パターンは同じだった。


前歯を使った噛みつきのみ注意して、体当たりは我慢か、盾でいなして、片手剣で斬りつけ、盾パンチで殴り飛ばして応戦する。


盾が加わった事で、応戦のパターンが増えて、先ほどよりは楽に対応できるし、ウサギは五匹ほど数を減らしているので、最初より体当たりの数も減っており戦い易い。


ウサギの攻撃パターンも解ってきたので、立ち回りも無駄なく動け、ウサギを新たに八匹倒したところでウサギ達の動きが止まり、


リーダーらしき個体が、悩んだ挙げ句『こりゃマズい!』と逃げ出すと、残りも後を追うように走り去った。


「ふぅー、終わった。」


と安心したが、足元に転がる八匹を眺めて


コイツらをどーするべぇーかな?と考え込むこと数分、


『とりあえず、血抜きだな。』


との結論にたどり着き、八匹を木からぶら下げる。


今回も新たなおやつをウサギ達に提供するのはバカらしいので、血抜きをしたあと麻袋に入れて数匹ずつ、


二十メートル程進んでは、一旦置いて、残りのウサギを取りに戻るのを繰り返し、30分程で帰れる予定の雪道を、二時間近くかかり、クタクタになりながら冒険者ギルドまでウサギを運んだ。


冒険者ギルドの待合のベンチで、買い取り結果を待ちながら、


「本当に疲れた、マジでマジックバッグを購入せねば…」


と、俺は独り言をブツブツ言っていた。


ウサギは、肉、毛皮、前歯、魔石と、使える素材が多くて、買い取り価格もなかなか良い上に、冒険者ギルドでは現在、買い取りアップキャンペーン中である。


解体手数料を抜いても、一匹あたり大銀貨三枚とかなり良い稼ぎとなった。


二匹食われたのはイタイが、十一匹全て売り払い小金貨三枚と大銀貨三枚、


約33万円の臨時収入だ。


『やっふぅー!マジックバッグが買える。』


買い取り金を受け取り、その足でダンジョンショップに向かい、店員さんに俺の全財産を告げて、マジックバッグを見せてもらう。


店員さんは、


「そうですねぇ、ご予算内なら…」


と、三種類の鞄をオススメしてくれた。


一つ目は、今の鞄と同じ肩掛け鞄で容量は荷車程度、


二つ目は、リュックタイプで容量は同じく荷車程度、


三つ目は、ウエストポーチで時間停止ありの品物で、容量はトランク1つ分であるが、ただし、中古で少し古めかしいデザインだが頑丈な商品


正直全部でも欲しいが、まずはウサギ入れとして購入しなければ成らないから…悩みに悩んだ末に、


「うん、リュックにします。」


と伝えて、店員さんに代金を払う。


ヨシ、これでウサギ狩りが楽になるが、ボウガン要らなかったかもしれないな?


まぁ、投資分は取り返したけど、ボウガンで仕留めたウサギは一匹だけだ…

ボウガンはまだまだ練習しないと狙いを外すし、ボウガン君は今後の活躍に期待かな?

この冬様子を見てダメそうならば中古として売り払おうかな…

等と思いつつ、早速リュック型のマジックバッグにボウガンを入れてみると、ニュンとボウガンがミニチュアになった様に楽々とリュックに納まった。


「おぉ、すげぇ…」


と、思わず声を漏らした俺に、店員さんが満足そうに笑っていた。


読んでいただき有り難うございます。

頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。

〈評価〉や〈感想〉もお待ちしております。

皆様の応援がエネルギーに成りますので、

よろしければ是非お願い致します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ