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第1話 どん底からのスタート

「はいよ。」


と、冒険者ギルドの買取カウンターの端にいつも居る、あまり冒険者の並ばない高齢なギルド職員の()()()()から、1日がかりでやっと見つけた薬草を買い取ってもらって、小銭を手に入れたのだか、これでは飯を食ったら無くなる程の金額しかない。


日の出から夕方までかけて稼いだ金額がこれだけしかないのは悔しいが、しかし、集めた薬草の量を考えると仕方がない…そもそも、お手頃なポーションの原材料を2本分程度集めて、パン一個と、干し肉一枚が買えるだけでも上出来だ。


親の顔も知らない俺、ポルタは孤児である…この世界では別に珍しくもない孤児院出身の十歳は、冒険者になれる歳になり孤児院を卒業することになり、現在駆け出し冒険者としてその日暮らしをしている。


まぁ、あまりコレといって珍しくもない子供なのだが、唯一、変わっているとすれば、俺には前世の記憶がある程度かな?…完璧では無いが、住んでいた町や、仲間との会話、大好きな漫画に好物の白ご飯…

これは、下手に記憶が有る分、ここでの生活がキツイ。


そして、俺は前世から徹底した虫嫌いなのだが、教会で五歳の時の祝福の儀式で神官のオッサンかれ発表された俺のスキルは、

〈インセクトテイマー〉という、虫を従える能力と、

〈虫の王〉という、虫から好かれる能力であった。


多分、俺は前世でとんでもない大罪を犯したのだろう…でなければ、こんな嫌がらせの様な能力を授かる訳がない。


坊主をシバいたか、神父を蹴り上げたか…

とりあえず、神様か仏様に嫌がらせをされる程に何かをやらかしてなければ計算が合わない状況で暮らしている…

簡単に説明すると、虫を見ただけで蕁麻疹が出てしまうのにもかかわらず、何故か奴らの方から俺の元に集まってきてしまうのだ。


つまり、冒険者の基本中の基本である薬草類の採取ですら、草むらから現れる昆虫(ヤツら)に阻まれる…


しかも、異世界の虫は、タダの虫ではなくて、虫型魔物であり、デカイしグロい…動きも早いし、良いとこ無しだ。


そんな奴らが、嫌がらせスキルの能力なのか、勝手に集まって来る。


いくら駆け出しの子供冒険者であっても、普通なら薬草だけでも十分頑張れば食べて行けるらしいが、それすら俺には厳しい。


薬草を探して草むらに入れば、虫魔物に遭遇してしまうのだが、いくら嫌いな虫とはいえ敵意なく集まり、


『兄貴!仲間にして。』


みたいに直視したくない瞳で訴えかける馬鹿デカいバッタやダンゴムシを問答無用で殺す訳にもいかないので、仕方なく俺が購入出来た唯一の武器であるヒノキの棒で突っついて追い返すのが関の山…


薬草を探す → 虫に見つかる → 逃亡 or 追い返す → 採取


と、手間だけ増えてなかなか採集まで至らずに効率的ではない。


ついでに、奴らを倒してないから経験値も入らない…つまり、強くならないし、金も無いから武器も手に入らない上に、使えるスキルすらない。


と、まぁ個性ゼロならまだしも、虫に悩まされる分、完全にマイナスである。


ろくな武器も無くて、ほぼ丸腰のスキルすら無いスッピン冒険者というだけでもかなり生き辛いのに、虫に邪魔されながら効率の悪い薬草採取しか出来ない。


駆け出し冒険者の救済依頼みたいな日当がほんの少し良い草刈りクエストも、やはり俺だけ虫の遭遇で効率が悪いし、この草刈りクエストには1日に刈り取るノルマがあり厄介で、目標以下なら容赦なく報酬を削られてしまう。


どうも、今夜もパンをかじり干し肉と広場の水で晩御飯を済ませて、広場の隅で丸くなって眠るしかないようだ…

出口の見えない、ドン底でその日暮らしの冒険者生活から抜け出す手段など見つける事も出来ずに、硬い地面の敷き布団に保温効果ゼロの夜風の掛け布団で眠るしかない…あと数ヶ月でやってくる冬までには何とかしなければ、余裕で凍死するか、風邪を拗らせて死んでしまう自信がある。


などと考えながら、眠りにつき、翌朝、早くから目が覚めて活動する…いや、目が覚めるというか、テントも寝具も何も無い状態でグッスリ休める筈がない!

夜露で少し湿気た服を乾かすように朝日を浴びて、


『前世の様に、段ボールや、ビニールシートがそこら辺に有ればもう少し快適なのだろうが…』


などと考えながらも、


『段ボールハウスが快適って、末期症状だな…』


と、自分の思考にツッコミを入れて、昨晩、わざと少し残したカチカチのパンを味がしなくなるまで噛みしめてから、薬草採取に出かける為に町の門から草原に向かう。


お気づきだろうが、昼飯などない。


朝一番、幸先よく草原にある岩の影に生えていた薬草と、その岩影在住の革靴サイズのダンゴムシが俺にすり寄ってくる。


俺は、痒くなる首筋を気にしながら、


「ハイハイ、帰って!」


と、優しく棒で突っつくが、


『そこを何とか、兄貴、お願いしますよ。』


みたいに必死に俺にすり寄ろうとするダンゴムシに諦めて貰う作業が続く。


実にダルいが、この分で行くと今夜も昨晩の再放送みたいな夜になりそうだ…



今日も町の広場の片隅で目覚める…正直、詰んでいる気がする毎日を俺は送っている。


虫が居ない地域は無いのだろうか?

虫さえ居なければ、駆け出し冒険者として何とか生活出来る筈だ。


魔物を倒して、少しずつ強くなり、装備を整えてダンジョンなんかに潜って、武器や、防具にスキルスクロールなんかを手に入れる事が出来るのに…


『ん、ダンジョン?』


と、現実逃避の為の独り言のような思考に引っ掛かるキーワードを見つけ、俺は薬草を探すのを一旦止めて、その場で頭をひねる…

初級ダンジョンは全て、出てくる魔物が調査済みだから、虫の居ないダンジョンを目指して、スライムや牙ねずみなどの魔物を獲物にすれば、レベルアップも、冒険者のランクアップも目指せるのでは?…と閃き、思わず草むらのど真ん中で、


「イケる!これは、イケる!!」


と騒ぎ、周囲の駆け出し仲間から冷ややかな視線を向けられ、少し恥ずかしかったが、


『其どころではない!』


たしか、冒険者ギルドの二階には資料室があるので、虫の居ないダンジョンを調べる為に町に戻り、ギルドに向かう。


ギルドの資料室でダンジョンに関する資料を広げるのだが、この周辺にはダンジョン自体が無くて、一番近くでも一週間程歩いた小さな村に、ほとんどスライムのダンジョンがあるが、冒険者ランクがFランク以上でないと入れないらしい。


今の俺は、Gランク…登録したら割り振られる、通称G〈ゴミ屑〉ランクだ。


地道にコツコツやっていれば、薬草納品でもいずれFランクには上がれるが、このペースなら確実に冬に…いや、来年の春になってしまう。


凍え死ぬ前に、素泊まり宿を拠点に出来るくらいに、毎日稼げる様にならねば…

しかし、状況は変わっていない、薬草採取では、ジリ貧が続くだけなのだ。


かといって、一週間の旅が出来る、装備も非常食も何もないし、旅をしたとてダンジョンに潜れる冒険者ランクでもない。


お先真っ暗でトボトボと冒険者ギルド二階の資料室から降りてくると、一階のカウンターで、


「町の西でスライムが大量発生しました。

我こそはと思う冒険者の方、手続き不要なので向かって下さい。

スライムの魔石や素材を一割増しで買い取ります。

宜しくおねがいします。」


と、受付の職員さんが必死に叫んでいるが、先輩冒険者達はピクリとも動かない。


中には、


「2~3日放置して、スライムイーターが出てから狩に行くか?」


と冒険者同士で話している始末、


確かにスライムは十匹倒して、やっと屋台で買い食い出来る程度の稼ぎだが、スライムイーターというスライムに触手の様な根っこを突き刺して食べる植物系の魔物は、体は薬の素材として買い取って貰えるし、スライムよりも大きな魔石があり、一匹倒せば余裕で飯屋で食事をして、宿屋に泊まれるぐらい稼げるらしいので、先輩方々が待ちたい気分も解る。


しかし、今の俺にスライムイーターは倒せない…

でも、現在、大量発生中のスライムならば、俺の文字通り相棒であるヒノキの棒でも何とかなるはず…多分…

スライムは、過去に数匹しか倒した事がないので断言は出来ないが、スライムの中にある核さえ壊せれば倒せる相手だったし、石を投げてぶつける程度の衝撃でも核は壊せたから、最悪素手で殴りつけても何とかなるかな?…などと考えていると、俺の中からドン底生活に嫌気がさしているもう一人の俺の声がする。


『殺るしかない!

このチャンスをモノにするんだ!』


と…俺はその声に背中を押される様にその足で、町の西側の池に向かった。


町の門を出て、スライムが好んで生息している水辺を目指すのだが、池にたどり着く手前の草原の辺りからスライムをちらほら見かける程だった。


本当ならば、数がまばらな草原で一匹ずつ相手をしたいが、しかし、草原は虫達のお庭…

バラけたスライムを撃破しやすいが、虫達(ヤツら)の邪魔も予想される。


俺は腹をくくり、プルプル、ヌルヌル地獄と成っているであろう池のほとりを目指して突き進んだ。


走ることしばし、草原から池の中間の林を抜けたソコには、集合体恐怖症は近づけないほどのスライムがひしめいていた。


「わらび餅のパックかよ…」


と、思わずツッコみたくなるプルプルが敷き詰められた足元をヒノキ棒で、叩いたり、突き刺したりとスライムを討伐しながら戦い易そうな池の近くの開けた場所を目指して尚も突き進む。


しかし、ヒノキの棒を振り回し易い広場に到着したのだが、ハッと気がつけば、調子にノッて進んで来た道もプルプルに塞がれて、退路を断たれている。


単細胞みたいな見た目だが、案外いやらしい作戦を思い付くようで、俺がブッ倒れるまで有り余る物量で取り囲んで倒す予定らしい。


「さぁ、来いよ!わらび餅!!」


と、気合いを入れて、ヒノキの棒を振り回し、たまに背後から食らうスライムアタックにのけ反りながらも、一匹、また一匹と倒していく…

そして、有難い事に、スライムが辺り一面ミッチリなので、虫がカサカサと歩いて来ない。


『千載一遇のチャンスだ!。』


と、俺は力の限り暴れまくる。


疲労を少し感じるが、それ以上に、初めてとも言える敵を倒してレベルが上がる実感…

わらび餅野郎を倒せば倒すほどに体が軽く動きだす。


もう、アドレナリンびしゃびしゃ状態で、ヒノキ棒を振り回しながら、よく覚えていなが、何やら叫んでいたと思う…

昼過ぎから始めたスライム討伐は、レベルアップに興奮するハイテンションの時間は終わり、今は気分的にも少し落ち着き、月の光に照らされながら今も続いている。


自分でも驚いているのだが、夜の闇の中でスライムと戦っても大丈夫なくらい、スライム討伐から()()()()()()ぐらいの感覚になるほど俺は強くなれたようだ…


ヒノキの棒を凪払えば、手前に居る複数のスライムの核を叩き壊せ、後方のスライムがにじり寄るまでに一呼吸休む事も出来る様になったのだが、しかし、普通の冒険者から見れば、まだまだ弱いのだろうが、少なくとも今朝のドン底冒険者の状態では無いはずだ。


今、この俺に差し込んだスライムの大量発生という一筋の光を掴み取らなければ、俺の人生が終了を迎える…

腹ペコでクタクタだが、終盤は草むらの草でも掻き分ける様に左右に棒を振り回せば、まとめて数匹ずつ倒せるまでに成っていた。


そして、東の空が明るくなり始めた頃には、俺の周辺のわらび餅の在庫は空になっていた。


流石にアホそうなスライムでも、一晩中仲間が殺されるのを見たのだから、俺の周辺はヤバいと理解して遠巻きに様子を伺っている。


俺はスライムを警戒しつつ、辺りに散らばる屑魔石を拾い集めはじめた。


接着剤などの原料のスライム粘液はとても持てない量なので諦めたが、魔石だけでもろくに物が入っていなかった鞄がふっくらして、ザリザリと音が鳴る程の状態になり、


「よし、」


と、一声出した俺は、ドロドロのボロボロでフラフラのまま町に戻り、冒険者ギルドの買い取りカウンターでスライムの魔石を提出して、職員さんがソレを確認をしている間に、疲れ果てて寝てしまったようだ…



「おい、小僧!…そろそろ起きないと酔った冒険者に、いやらしいイタズラされるぞ。」


と野太い声で言われて、俺は思わず飛び起きると、ギルド職員のお姉さんが、


「ギルマス、可哀想でしょ、スライムに取り囲まれて夜通し戦ったらしいですよ。

ゆっくり寝かせてあげて下さい。」


と俺を起こしたオッサンに注意している。


オッサンは、駄々っ子みたいに


「だって、俺のソファーで寝てるんだぜ、俺はどこでくつろげば良いの?」


と抗議をするが、お姉さんは、


「ギルマスは、ソファーじゃなくて、デスクで書類を確認してください。

どれだけ溜め込んでいるんですか?」


と怒り、オッサンは渋々デスクに向かう。


俺はソファーからユックリと立ち上がり、辺りを見回し、そこでやっと、


『ギルドの中で爆睡した!』


と気がつき、慌てて、


「ご迷惑をおかけしました。」


と一礼して逃げ出そうとする。


職員のお姉さんが、


「ポルタ君はチョイ待ち!

買い取りの精算もランクアップの手続きも未だだから!!」


と呼び止められ、その日俺は、Fランクに上がり、この人生での最高額の報酬を受け取った。


一晩戦い続けてケバケバになったヒノキの棒をまともな装備に変えても、素泊まりの宿屋に何日か泊まれる程の、俺にとっては大金を手にしたのだった。


俺は先ずは装備を整えて、非常用の食糧を買い、なんと余ったお金で、スライムダンジョンの町までの乗り合い馬車にまで乗れてしまった…


『勝てる!勝てるかもしれない!!』


やっと、動き始めた俺の冒険者人生に、微笑みをこぼしながら現在、乗り合いの幌馬車に揺られている。


読んでいただき有り難うございます。

頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。

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