とある女の子の話
ある一人の女の子は、何の不自由無く生まれました。生まれたはずでした。
男に狂った母親なんているはずがなく、酒に溺れていく父親なんかもいない。きっと両親にも愛されていて、友達も山ほどいたはずでした。
きっと、きっと幸せな子でした。少なくとも彼女はそう思っていました。
女の子は、「本」が大好きでした。たくさんの本を読み、文字の世界に体を沈めていく。
本は彼女をいろいろな世界に連れて行ってくれました。
しかしどうでしょう。
たくさんの本を読み進めていくと、その中には女の子が知りたく無い世の中のことがたくさん記されていました。
女の子は、一つの疑問に頭を悩ませます。
「愛って一体なんなんだろう。」
本を読めば読むほど、いくつもの答えが載っていました。
しかしそれらのどれもが矛盾していました。
好奇心旺盛な女の子は、愛が何かを探しに飛び出しました。
行く道すがら、塀の上で日光を浴びて気持ちよさそうに寝る猫に出会いました。
「気持ちよさそうだね〜」
女の子が撫でようとすると、猫は起き上がりささっとどこかへと走っていってしまいました。
女の子は肩を落として、また歩き始めます。
歩みを進めていると、足元に何かがぶつかります。
見てみると、サッカーボールが転がってきたようです。
遠くから男の子が走ってきています。
女の子が蹴り返すと、ボールはあらぬ方向に飛んでいってしまいました。
「お姉ちゃんのいじわる!」
男の子はそう言って、またボールを追いかけて行きました。
「そんなつもりなかったんだけどなぁ…」
ボールを蹴った靴の汚れを払って、また歩き出します。
すると、女の子は一人の男性に出会います。
とても気が合い、何回もその男性と出かけます。
女の子のことをよく考えて、とても幸せにしてくれる。そんな男性でした。
女の子は、その男性に純血を捧げました。
女の子は彼に自分の過去を明かします。
女の子は喜びました。
「この気持ちこそが愛だ。彼から受けているそのものが愛に違いない。」と。
しかしそれは愛ではありませんでした。
彼から告げられた言葉で、彼女は彼から受けていたものが
「情」
だということを知りました。
女の子はひどく傷心しました。
「甘く暖かいこの気持ちは、愛では無い。」
女の子の心に深く刻まれたこの事実は、彼女のこれからの人生をじわじわと蝕んでいくことになります。
それから女の子は初めて会う男性と体を交わし、時に金銭を受け取り。
そう自分に染み付いて離れないシミは、目の前にあるシーツに付いた血のようでした。
これは愛ではない。
そう気付いた女の子は想い人に会うために、お気に入りの口紅を引きます。
ここに想い人エピソード
興味もない男性に抱かれお金を受け取り、今日もブランド品に身を包まれていきます。
何が本当の愛かわからないまま、破滅していく身体で足掻き続けます。
負けず嫌いの女の子はきっと諦めません。
愛が何かを知るまで、きっと諦めません。
きっと、死ぬ時まで。
いや、死んでからも愛が何かなんて分かることなんてないでしょう。
なんでかって?
皆さんなら分かるはずです。
愛に答えを求めるなんて愚問。
あるわけがないんです。
人それぞれ定義はあるとしても、答えなんかあるわけがないんです。
もしかしたらもう、女の子は答えのない道を走り続けている事に気付いているのかもしれません。
しかし女の子は足を止めようとはしません。
なぜなら、それに気付けば全てに絶望してしまうから。
今までの人生で拾い集めたものを小さな両腕で抱きかかえて。
今女の子が抱きしめているものは、果たして正しいことなのでしょうか。
そんなことは誰にも分かりません。
でも、彼女には何も言わないであげてくださいね。
彼女は今も必死に、探しているのですから。
探さないでください。
探さないであげてください。