ラブ〇〇〇
頭が痛い。
窓を2人で飛び出した後、思いっきり地面に激突した。
「飛ぶこともできんのか。全くどうしてこうなっとるんじゃこの世界は」
仰向けの俺の上でヨルが騒いでいる。
ただでさえ頭が割れそうなのにやめて欲しい。
「人の上でそんなに騒がないでくれ、厳しそうなのは分かったから」
「うるさいのー。あれだけ言って失敗したなど、恥ずかしいではないか。大体、人間こそ命狙われとるんじゃ。もっと焦らんか」
そうだ、逃げないと。
「あれ、でも何から逃げるんだっけ」
「は、何からじゃと、頭でも打ったか」
「打ってるけどな」
「そうじゃったな...、すまぬ」
俺の頭の下にあるコンクリートにはしっかりヒビが入っていた。それに気づいたのか、少しシュンとするが、すぐに元に戻った。
「とにかくじゃ、今はここから早く離れねば」
「それなら多分大丈夫だと思う」
そもそも俺は体が動かない訳じゃない、ヨルを担いで動くことも出来るだろう。
お姫様抱っこってやつだ。
記憶も完全に忘れたわけじゃない。
またすぐ思い出すだろうし、また後でいいか。
ヨルを両腕で支え、立ち上がる。
「なんじゃ動けたのか。ならば早くいくぞ」
「はいはい」
せっかちな姫を抱え、病院の門をくぐる。
なぜだろう。
走り出して約10分ほど、周りから視線を感じる。
「なあ、やっぱりツノが目立ってるんじゃないか?」
ヨルのツノは別に大きいわけではない。
でも、目を引くものであることには代わりないだろう。
そういうとヨルは周りを見渡し始めた。
「それもあるんじゃろうが、人間の見た目を見ているのではないか」
「あ、納得した」
視界の上に白い毛が見える。
言われるまで気が付かなかった。偽装のスキルで見た目を変えたはずが、元に戻ってしまってる。
また戻そうとするが、どうもうまくいかない。
スキル自体がなくなってしまっているような感じだ。
管理画面もでなくなっているので、後で状況を調べてみる必要があるな。
「そりゃ目立つよな。まあそれなら上から行こうか」
実は走っている間に身体能力は戻ってきているみたいだった。
この調子なら1日もいらない内に力は戻るだろう。
人気のない細道に入り、少し入った所で足に力を込める。
体は高く飛び上がり雑居ビルの屋上に着地した。
こうすれば比較的人に姿を見られることなく移動できる。
とにかく今は落ち着けそうな場所に行きたい。ヨルも休ませてあげたいし。
携帯はポケットの中にしまっていたのでお金には困っていないが、ホテルや漫喫だと身分証が無ければ利用できないだろうし、今の自分の見た目やヨルがいることを考えても難しい。
そんな時、特徴的な文字が目の端に入った。
「LOVE」の文字が描かれた看板。
そこは店員と会うこともなく、身分証を見せなくても済むかもしれない場所。
ラブホテルだ。
一か八か行ってみるか、ダメだったら他の場所を探せばいいし、そしてホテルの入り口まで降りる。
空調の効いた室内。
ほんのりと薄暗い灯りが部屋全体を照らしている。
部屋には大きいベット、そして寝そべると丁度いい位置にテレビが置かれている。
枕元には小さいテーブルがついて、テレビのリモコンなどが置いてあった。
他にもお風呂に冷蔵庫、一般的なホテルにあるものは一通りありそうだ。
だいぶ走って汗もかいたし1度流すか。
いつの間にか寝ていたヨルはベッドに寝かせておく。
お風呂場は広く触れそうな椅子もある、妙におしりの部分が凹んでいる。
初めてみる形の椅子、意外と座れた。
シャワーの水が頭を冷やし頭の中を整理する。
バラバラだったものが綺麗に並んでいくような。
「ほんとにどうしてこうなったなんだろう」
思い出した。
「俺ユメのこと全然知らなかったんだな。全部嘘で何一つ見えてなかった」
もっとこうしていたら変わっていたかもしれない。
どうして気づかなかったのか、自分の中で後悔がどんどん大きくなっていく。
辛い
このままいったら壊れてしまうんだろうか。
きっと少しは楽になる、何も考えず、流されるまま。
涙が溢れシャワーと混ざる。
悲しい、認めたくない。
「ユメとのあの時間すべてが全部嘘だったなんて」
とにかくもう一度会って話がしたい。
それに助けないといけない人だっている。
今は流されてなんてる場合じゃない。
「後少しがんばろ」
赤坂を助けて、ユメともう一度話をする。
これからの行動が決まった。
力を試そうと部屋に戻ったけど、ヨルを起きてしまっては流石に可哀想なのでやめておいた。当たったら危ないかもだし。
なのでそのまま寝ることにした。
横で寝るのは悪いかとも思ったけど、ベットは一つなので仕方ない。
熱のこもった布団は心地よく、すぐに眠りにつけた。
太陽の光で目が覚める。
寝ぼけた目に映ったのはレールから外れたカーテン、荒れたベット、テーブルからはいくつかモノが落ちている。
テレビにはビデオの選択画面が映っている。
一体何があったのか。
「ユメが襲いに来たとか、いや、俺が生きたら時点で違うか。となると俺がねている間にヨルがしたのか、起きたら聞いてみるか」
今すぐ聞きたかったけど、まだ寝ているみたいだった。
二度寝中悪いけど、起きたら説教だな。
「片付けている間におきるだろ」
出る準備も含めて始めることにした。
「だからこちらの世界ではモノを壊したり、生き物を傷つけたりしないようにね」
「うむ。気をつける」
ベッドの上で正座をし、向かい合う。
やっぱりヨルが犯人らしく、こうなった理由とこの世界での基本も一緒に教えておいた。
どうやら、物珍しいものが多くはしゃぎ過ぎだらしい。
散らかってはいたけど、壊れていたわけじゃなかったので、そこまで強くは言っていない。
「じゃあそろそろ出ようか」
「そうじゃな、だが良いのか。またその格好では目立つと思うのじゃが」
「大丈夫、ここに来たのは理由があってね」
「ほー、休むだけではないと」
すると部屋のドアがノックする音が聞こえてきた。
「丁度来たみたい。ヨルは待ってていいから」
「なんじゃ、気になるでは無いか」
そう言うと、後ろをついてきた。
ドアを開けると、ホテルの従業員がメイド服と学ランを持ってきてくれている。
だが、俺たちの姿を見た従業員は驚いた表情をした後、怪しい奴をみる目をしてきた。
「あの、お客さん失礼ですが」
「ありがとうございます」
何か言いかけたところで強引に言葉を遮る。
彼から服だけをもらい、すぐにドアを閉めた。
悪いと思うが捕まってしまっては元も子もないので仕方ない。
『早く着替えて出て行かないと』
小声で呟く。急がないと通報される。
「なんだ、また着替えるのか、我はもう良いのじゃが」
「いやヨルはこれだけツノに付けてくれ」
そう言って、メイド服についていた黒いリボンを渡す。
題してツノごとアクセサリーにしてしまう作戦だ。
「おーそういうことか、結べば良いのかの、ん?いや、こうか・・・どうじゃ、似合うか」
少し手こずったが様になっている。
黒地に英字のTシャツに短パンとニーソックス。
正直まじで可愛い。
「いいと思う。似合ってる」
「そうか、なら良いんじゃ」
その満面の笑みが最高だった。
その後、俺は学ランに着替え黒色のカツラをかぶる。
こっちはギャルゲーの主人公だな。
前髪が邪魔でしかたない。
「えらくボサボサじゃな。よし、我が切ってやる」
「それはありがたいけど、どうやって」
するとヨルは何もない所から黒い鍵を作り出した。
「実は人間と契約した事で新しく出来るようになったことがあってな」
その鍵で鍵を開ける動作をする。
すると「ガチャ」と何かが開く音がした。
「それでの、欲しい物を念じると、こうやって現れるというわけじゃ」
何もなかった筈の手にはハサミが握られていた。
金色で宝石が付いてゴージャスなやつ。
本物?後で聞いとこ。
「おー、すご。そしたらお願いします」
前髪は綺麗なぱっつんにしてもらった。
正直微妙だが、代わりのカツラはもうない。
ヨルも自分でやっておきながら大爆笑だった。
その後一通りの支度を終える。
折角だったので残りのメイド服もハサミと一緒に戻してもらう事にした。
「ひとまずここを出て赤坂の家に行こうと思う。ユメの事も心配だけど、俺が狙われるならまた何処かで会えるはずだし」
「うむ、ずっと言っておったしな。だが忘れるなよ、我もミリアに会わねばならんこと」
「忘れてないよ。それも含めてユメと会えればあっちの世界に行く手掛かりになると思う。空間とか移動したりとか詳しそうだから」
「なら良い、それに折角こんな世界に来たんじゃ、もっと味わんとな」
「やけに機嫌がいいな。何かあったか?」
「そうじゃな、あるにはあるのじゃが...。何より頭が楽になったのが良いな、菓子の家にいた時は頭痛やダルさで最悪じゃったし。こっちに来てから絶好調じゃ!」
嬉しそうに喋るヨルを見ているとこっちまでそんな気分にさせてくれた。
連れてきてよかった、本当に。
ホテルを出て記憶を頼りに赤坂の家を目指した。
「確かこのあたりなんだけど、あ、あれかな」
空の上から探しているとそれらしい家を見つけた。
ヨルの魔力も回復して、空が飛べるようになったので一緒に俺を後ろから抱きしめる形で担いでもらっている。
「ふむ、これじゃな。落ちるでないぞ」
降りて確認してみる。
表札には「赤坂」の文字。
「この家で間違いない」
「そうか」
ヨルはインターホンに手を伸ばし、押した。
『ピンポーン』
「インターホン知ってたっけ」
「契約の時、我の記憶を見たじゃろうが」
「あー、そりゃこっちも覗かれてるよな」
しばらく話していても返事がない。
「出てこんの、おらんのか?」
「気軽に出歩けるような体じゃないし、誰か付き添ってたりするものだと思ったけどな」
そう言いながら携帯で曜日を確認する。
「平日だったわ。家族は分かんないけど、少なくとも赤坂 陽葵は学校にいるはずだ。すっかり忘れてた」
「へいじつ?よく分からんが場所が分かるのか」
「一応ね、なんて言えばいいのかな。大きな建物に俺と同い年くらいの子が集まってる所かな」
「ん〜あ!それなら覚えがある。確かあっちの方じゃったか」
辺りをぐるぐると見回し学校の方角で止まる。
「おー合ってる。だから次はそっちに飛ぶ感じでさ」
「嫌じゃ!」
「えっ」
「もう遠回りをするのは面倒じゃなのでな」
ヨルは片目を閉じて、もう片方の目を手で軽く覆う。
その指の隙間からは瞳がのぞいている。
少しすると魔力が高密度に集められ、炎のように瞳を覆う。
学校の方向を見つめ、何かを探すような動作をする。
「あれかの、多分」
「何がだよ」
「まあよい」
そう言って腕を掴まれる
「えっ」
「と言うわけで先にいっとれ」
ヨルは俺を空高く投げ飛ばした。
学校があるであろう方向に。
「いや、人の話をきけやああぁぁぁぁぁぁ」
人間はスキルがなくたって空を飛べる。
知らなかった。




