ダンジョンボス
部屋に充満した甘い香りと嗅ぎ慣れた鼻につく匂いを感じながら床を拭く。
(どうしてダンジョンでこんなことしてるんだろか、色々あって話しかけるタイミングもを逃してしまったし。とりあえず攻撃してこないってことは敵じゃないってことでいいよね)
彼女は何者なのか。
「ねえ、君、名前は」
「・・・」
「なんでこんなところに」
「・・・」
無理か、睨まれてるし、警戒されてるんだろうな。
頭のツノからして人間ではないんだろうけど。
そもそも通じてなかったりして。
『ギッッッッッッ』
なんともいえない空気感の中、危機感地が反応し直後、数秒後の未来が見えた。
飛んできた無数の巨大バリによって破壊されるお菓子の家
(早くこの家出ないと危ない、無理やり連れ出すしかないか)
勇気を出して行動する。
何かされると思った少女は、警戒心を強めていたがそんなことはお構いなしだ。
くるまっていた布団ごと彼女を両腕で抱き寄せ、左足で家の壁を破壊する。
そのまま飛び出してその場から離れる。
『なっ!?』
「その、危ないから!」
直後首筋に痛みを感じた。
「痛っ、噛まれた。ごめんって、でも君を守るためで・・・」
彼女は泣いていた。
その目には強い意志が宿り、強くしがみつこうとする気持ちが見えた気がした。
自分が思っているより、よっぽど強い子だったかもしれない。
軽率だったかもしれないし、もっと方法があったのかもしれないと後悔しそうだ。
でも、今まで積み重ねてきた5年間が自信になり、今の自分を動かしている。
「大丈夫だから」
首筋に歯を立てる少女の頭を軽くさわる、少しでも安心してもらえるように。
すると触れ合う体を通して、体の力が少し抜けた様に感じた。
首筋の痛みが少し弱くなり、少女は顔を上げた。
その瞬間
背後の家が壊れる音が聞こえた。
それを見た彼女は目を丸くし、驚いているのが視界の隅で見えた。
危機感知で見えた未来。
床から黒く大きい棘がいくつも生え、飛んできた針がお菓子の壁を破壊する。
「デカいハリネズミ?」
家を出て目の前に現れたのは、マンションの三階くらいはあるであろう、ハリネズミだ。
さっきの攻撃はコイツの針に違いない。
「可愛らしい見た目からは想像もできないんだけど」
「フシャー!!!!!!」
巨大なハリが雨のように飛んでくる、当たったらタダでは済まないだろう。
だが、避けれない速度ではない。
結果、ハリネズミの周りを回るように避け続ける。
ハリに当たる事はないが、この子に怪我をさせるわけにはいかないので、逆に攻撃もできない。
「フシャッ」
今まで直接狙ってきたハリが俺の行き先を予測して狙う様になった。
抱えている方とは逆の手で回避しきれないハリを壊す。
「攻撃自体はなんとかなるか。なっコイツ、重ねて打ってきやがった」
重ねて打つことによって、後に飛ばしたハリを隠すことができる。
意外と頭を使うらしい。
「ただ2回壊せばいいだけなんだけど、ほんと厄介」
そう言いながら2本とも叩き壊す。
「フシャ!」
すると追い討ちと言わんばかりに足元からハリが生えてきた。
空中に飛び上がり回避する。
だがそれが狙いだったかの様に一気に攻撃の威力があがった。
「空中では避けれないとでも思ってるのか」
守りの手を止めスキル「手」の最後の力を発動した。
瞬間、巨大な針は全てその場で静止した。
いや、針だけではないハリネズミや空中に飛び上がった瑠叶も含めて止まっている。
奇妙な現象に少女は周りをキョロキョロと見回したり、手を空に伸ばしている。
そして何かに気づいたように何もないはずの場所を確かに触っていた。
つまり、この空間全てを「手」のスキルでみたしているのだ。
その為時間が止まったりしているのではなく、透明なもので覆われて動けないでいるのだ。
そして少女はもう一つある事に気付いた。
『なんじゃ、その姿、かっこよいの』
「おー、初めて喋ってくれたけどなんて言ってるのか分からんな」
背中が熱い。
まるで自分に翼が生えたように感じる。
黒い炎で形取られた悪魔の翼。
ユメがいつの日か言っていた。
元々このスキルを持っていた悪魔は、力の上限を超えた時、目に見えないはずの魔力を黒い炎として顕現させていたという。
修行で使えるようにはなったが、自分の力が膨大でコントロールがうまくできない。
今でも使うと1時間は動けなくなる。
それでも、いずれ使う時が来るなら今使うべきだと思った。
それに怖がられると心配していたが、予想に反し好印象みたいだ。
驚きに見開かられた瞳に、翼を触ろうとする好奇心に、この異形な見た目が恐れられていない事だけはわかる。
よかった、これなら大丈夫そう、、、ん?触ろうとするって)
「危ないって、怪我させれわけには行かないから」
『なんじゃ主、少しくらいよかろう、減るもんでなし、押さえるでない。んなぁぁあ!!』
「そんなに暴れないでって」
あっ、やべ、倒れる。
スキルで足場を作っていても倒れる時は倒れる。
とっさに守ろうとして下敷きになった俺は少女と目が合う。
「い、いや、そのこれは...仕方ないことで」
無言で見下されてどうするのが正解なんだ。
『なんじゃお主その反応は、情けないの』
笑われてしまった。
言葉は分からないが、ろくなことは言われてないな。
とにかく!
まだしないといけないことが残っている以上に乗ってるこの子には退いてもらう。
『ダメじゃ。我に利用されてみんか。お主』
「え!?いや、何言ってるか分からないんだけど」
何か言ったかと思えば、両手を地面に押さえつけてきた。
(何、どう言う流れ!?)
咄嗟に視線を逸らす。
(いった何が...)
少しするとなんだか手が熱くなってきたような。
恐る恐る見てみれば、繋いだ手が燃えていた。
一瞬驚いたが、どうやらこれは魔力らしい。
黒と赤の炎が混じり合いとてもキレイだ。
黒いのは自分のとして赤い炎は彼女のものなんだろう。
意外と簡単に出来るのかもな、炎の出すヤツ
『両手を通してお互いの中にあるもの、要は魔力を交換する。それで契約となす。唯一あるとすれば竜種だけは相手の同意なく一方的に契約できることじゃな。勿論、例外はあるが...大丈夫じゃろ』
なんだろ、何か腕を通して流れ込んでくる。
強い恨みの感情、それに彼女が今までどんなことを経験してきたのか、言葉でなく感覚そのものとして伝わってくる。
気まぐれに訪れた村。
あらゆる生物に恐れられるドラゴンに唯一近づいてきた少女、ミリア
愚か者と笑った少女がくれた、見たことのない幸せ。
そんな気まぐれの時間を気付けば楽しみにしていたヨル。
でも、そんな時間は長くはなく、ミリアの裏切りで、お菓子の家に閉じ込められ、長い間囚われていた。
記憶を追体験した後、頭の中に古びた紙のイメージが妙に具体的に思い浮かんだ。
契約
「ミリアの殺害を協力し、その対価として魔力を分け与える」
作成者 ヨル・シロックス
言いたい事はたくさんある。
復讐に巻き込むなとか、そもそもこれは本当の話なのかとか。
あまりにも信用に欠けていると思う。
それでも、この力をユメからもらった時、とにかく楽しく生きる為に使おうと思った。
ここで手助けすることが自分の為かは正直分からない。
けどせめて、この手が届く所まではどうにかしてあげたい。
「わかった、ヨル。契約するか」
「そうか!そうでなくてはな。それに契約の繋がりのおかげで言葉も分かる様になったな」
「お、おう、そういうのがあるのね。知らなかった。とりあえで悪いんだが、そこどいてもらっていい?」
「まだダメじゃ、契約したのだ。まずその対価を支払わねばな」
そう言ってヨルは繋いだ両手をさらに強く絡めてきた。
徐庶に体を近づけ、俺の体の上で寝る様な形で体を合わせる。
「お主も生き物なんじゃな。心臓がドクンドクンと動いておるぞ。なんじゃ、少し鼓動が早いか」
「気のせいだ。何もないなら早く退いてくれ」
「なんじゃせっかちじゃの、今からじゃ」
そういうとヨルは魔力を流し込んでくる。
先程とは比べ物にならない量、自分の中に異物が無理やり侵入する様な少し気持ちの悪い感覚。
だがその感覚はすぐに終わり、胸の奥が熱くなる。
力が体の中を巡る様な感じ。
「ふんっ、どうじゃ。我の最後の魔力じゃ。はよう終わらして来い」
新しい体験に驚いているとヨルが完全にドヤ顔だ。
それを最後にヨルは力が抜け、身を預けてくる様にになった。
「幼女にここまでしてもらっておいて、頑張らない訳にはいかないよね」
「このあほーが」
ヨルを丁寧に抱え込み、空中にスキルでベットを作り、その上に寝かし直す。
ハリネズミに向き直り、ゆっくりと歩き出す。
さっきので気づいたことがある。
スキルの一つとして使っていた「手」は厳密には魔力を触れられるものに変えるスキルなんだと思う。
普段透明で触れない物質である魔力は一定の密度になると目に見える様になる、だが触れるわけではない。
しかしこのスキルを使うと無形である魔力に質量を与え、物として扱える様になる。
自分の中にヨルの魔力が入ってきた時、無意識で使っていた魔力をより意識的に感じ取れる様になったから気づくことができた。
なので今この空間は俺の魔力で満たされていることになる。
スキルの理屈が分かれば多分、こういうこともできるはずだ。
右腕を前に伸ばし、魔力を剣にかたどる様にイメージする。
魔力が集められ、俺の黒い炎にヨルの赤い炎が混ざり合い剣を形どる。
刀身は一般的な竹刀ほどだろうか。
「終わりにしよう。そろそろ俺も止まった時間を進めたいと思ってたんだ」
燃える柄を握り、ハリネズミに向けて剣を振り下ろした。
一切の抵抗もなくスルリと刀身が通り抜ける。
ハリネズミは一瞬「シャッ」と高い声を出した後、体が風船のように破裂し、黒い煙となって消えた。
まるでゲームの演出みたいだった。
そして、斬撃は進みその方向にある全てのものを真っ二つにした。
ダンジョンタワーや一帯に広がっていた剣山の大地、ついにはこの異空間の壁にまで到達した。
真下の塔は崩壊を始めており、まるで透明な観覧車から下を覗いている気分だ。
「おー、すごいの!まさかそこまでとは」
遠くからヨルの声が聞こえてくる。
急いで戻ると、横になりながら目をキラキラさせる姿があった。
「うん、想像以上だった。とりあえずこれでダンジョンはクリアしたはずなんだけど」
するとタイミングを図ったように画面がに現れた。
『クエスト クリア』
魔力の塔を登り最上階のモンスターの撃破
「報酬」
アイテム
神の雫×4
新スキル
死魔法・分離・射出・軟硬・気配察知・耐熱・耐寒・衝撃吸収・嗅覚・硬化・味覚・夜の帷
「ステータス上昇」
STR(筋力):409,889→459,000
CON(体力):410,203→460,000
ユニークスキル:全ステータス上昇+12、危機感知Lv10→1+、手Lv10→進化「魔王の手Lv1」、5分「停止中」
スキル:回避Lv4++→回避Lv5++、剣術Lv10、投擲Lv1+、銃技Lv10、全運転技能Lv1、偽装Lv2
※「+」はカンストした分、増加します
「報酬に加えて新しいスキルまで、いろいろ手に入ったみたいだな。ステータス含め、このダンジョンで使ったスキルはレベルがあがってるっぽい。何より気になるのが、「手」が「魔王の手」に進化してる事か」
「おい!何ぶつぶつ1人で喋っておる」
不審な目を向けられる、どうやらヨルにはこの画面は見えていないらしい。
「いや、これは俺のスキルなんだ、また説明する。だから今は早くここを出ないと」
「外か!良いの。それは早くせねばな」
横たわる夜を抱き抱える。
元の異世界に戻りますか。
はい いいえ




