ダンジョンタワー
中に入るとすぐに大きな空間にでた。
コロシアムの形と言えばいいのだろうか、丁度それにドーム状の屋根を付けた感じで、ここは観客席みたいだ。
「なんだあれ、誰か戦ってる」
何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。
コロシアムの中央あたり、人間・・・じゃないな。
豚の顔をした人間、オークか。
でもそれにしてはイメージと違いすぎる。
赤黒い肌の割れ目から、マグマみたいなものが蠢いている。
それにあの岩を軽々粉砕しそうな大きな爪。
見るからに強そうだ。
後、観察して気づいたけど、仲間内で戦ってできた傷がすぐに治っていく。
再生能力もかなり高いし、かなり手強そうだ。
よし。
「行ってみよう」
観客席から一気に飛び上がり、コロシアムの中央に思いっきり着地する。
俺を中心に土埃が起き、オークたちは一斉に注目する。
そして生まれた一瞬の静寂。
「「「「グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」」」」
オークたちは一斉に雄叫びをあげてかき消した。
それを皮切りにオークたちは一斉に襲いかかってくる。
思った以上にみんな動きが早い。
それに
「頭、首、心臓しっかり急所狙ってくるんだけど」
鋭い爪が360度あらゆるところから殺しにくる。
敵味方関係なくぶん回されるその爪を体を少しだけ動かして避ける。
10年の修行でこのくらいは出来る様になった。
結果、感じるのは肌を通り過ぎた時に起こる爪の風だけ。
そんな中ふと思った。
「食らってみるか」
危機感知のスキルが上がって、少し先の未来を見ることができる様になったけど、ただ避けるだけじゃ今の俺が、どれだけ強いのか分からない。
なら当たってみるしかない。
そうして思って爪に当たってみた。
「こんなもんか」
オークの爪は体にあたる前に動きを完全に止めていた。
俺はこの10年で「スキル手」の形状を自在に変えることができる様になった。
思いつきで始めてみたことだけど、意外とそれが便利だったりする。
スライムの様に動かして体を纏ってみたりして身を守る鎧にしたり、逆に敵を攻撃する武器にしたりで、名前の固定概念にさえとらわれなければ、色々なことができる。
それでもかなりの力が加われば壊れるけど。
「「「「グエ゛ッ!?」」」」
オークどもはそれでも攻撃をやめない。
さらに力を加える者、何度も叩きつけてくる者。
無音なだけあって少しシュールだ。
どれだけ攻撃しても変わらないだろう。
それでも明らかに、簡単なダンジョンの最初に出てくるモンスターとは思えないが、異世界のモンスターにこちらの常識は通用しないってことかもしれない。
強さも大体わかったし、後は。
「ふうー、ごめんね」
深呼吸して覚悟を決める。
突き出された拳は正面のオークの体に風穴をあけ、壁まで吹っ飛ばした。
周りの奴らも風圧で飛ばされる。
『ギッッッッッッ』
頭の中に危機感知の警告。
かなり強い反応だ。
そして、この先の未来が見えた。
「槍かッ」
俺の真後ろ、避けなきゃやばいかもしれん。
考えてる暇なんてない。
頭を傾けた瞬間、とてつもない力を受けた槍が頬を通過する。
「危な、なんだお前、俺に隙ができるまで待ってたってことか」
振り向いた先には明らかに周りとは違うオークが立っていた。
纏ってる雰囲気がまるで違う。
体格も一回りはでかい。
少し遠くて分かりづらいが、あの距離から確実に狙ってくる様な奴が弱いわけない。
そして俺と目が合った瞬間、一気にこちらに距離を詰めてきた。
「やっぱり考えてる暇なんてないか」
俺もオークに合わせる様に地面を強く蹴って同じく真っ向勝負、俺の拳と奴の爪どちらが強いか。
なんてしてる暇ない。
速度を落とす俺に戦意を喪失したと思ったのか、オークはさらに速度を上げた。
途中で立ち止まった後、片腕を空に掲げる。
「待ってる人がいるから。戦ってる暇ないんだ」
振り下ろした腕に合わせて空から銀色に光る何かが降ってきた。
その光は正面のオーク含めここにいるすべてのオークの首を落とした。
オークの死体とともに地面に折れた剣が深々と刺さっている。
光の正体は観客席から飛び降りる時に空に浮かし、『手』で剣にコーティングを施した剣だ。
自分を中心に細く枝の様に「スキル手」を伸ばしてオークの頭上に配置しておいた。
流石に倒したと思ったんだけど、グチュグチュと体が再生していく音があちこちから聞こえてきた。
「これでもダメか。お前らどうなってんの」
流石にしつこすぎる。
嫌味を込めて最後に向かってきたオークの鼻を指でつつく。
「あ〜、もう知るか」
流石に時間がかかりすぎると、力一杯拳を天井に放った。
建物が崩れる轟音に紛れて、モンスターの悲鳴が聞こえた様な気がした。
拳は塔全ての階層を貫き綺麗な夜空を映してくれた。
その星を今なら掴めるかもしれないと、足に力を込めた。
☆☆☆☆☆
塔の最上階その場所にはとても可愛らしいお菓子の家が一軒建っていました。
甘い匂いがする、全てがお菓子でできた家。
「はあ......」
(まるで夢のようだと思った時もあったが、時間の進まないこの場所ではお腹も空かぬし、一度食べてしまえばダダの物にすぎぬ)
小柄な体格に黒く癖っ毛のあるショートヘア、そしてどこか強い意志を感じさせる金色の目。
お菓子の家にぴったりな村の少女の格好をした女の子、だがそんな彼女には鋭い爪に小さいツノがついており、ただの少女ではない事を確かに伝えている
(あのメスガキを待ち続けてどれくらい経ったか、きっと迎えにきてくれるはずじゃと、どこかでまだ期待しているのか。
だがそんなものは幻で、結局は人間を容易く信じた我が愚かでたったのか。
絶対に許さん、次現れたら時が奴の最後だ。
裏切られた恨みが積もってゆく、だが、この部屋から出ることは出来ない。
お菓子でできとる癖にオリハルコンより硬く、我の魔力を根こそぎ吸収してくる。
最強と言われた我がお菓子の家一つ破壊できぬとは、さぞ滑稽だろうな)
「もうすぐなのじゃ、絶対に許さぬ、絶対に」
体に残る少ない魔力を溜め続け復讐のその時を待つ。
お菓子の家に魔力を吸われ続け、この異空間に我の魔力が漂うまでになったが、そのおかげと言うべきか、この空間全体を把握できるようになった。そして、先刻から誰かが来ているのも気づいている。
後はここまで上がってきている奴が姿を現した瞬間殺すだけ。
(ガキかどうかは関係ない、我の前に現れた自分を恨め)
そして、それは予想以上に早く現れた。
お菓子の強固な扉が綺麗に外れ、人影が見えた。
指にはめた宝石が赤々と光り、体に魔力が通うのがわかる。
体には黒い魔力を雷のように纏っている。
自分の髪と同じ色で、小さい頃は最強の父と唯一のものを共有した気分で嬉しかった。
だが、それは過去の話
「みせてやろう。前竜王が娘ヨル・シロックスの逆鱗に触れし者よ。消え去れ・・・『ドラゴンディザスター』」
そして拳に溜めた魔力を一気に解放した。
空間が歪み、力は全てその人影へ向かう。
この技を食らっては跡形も残らない。
「え?なぜ」
(そのはずなのだが、何故、何事も無かったかのように立っておる)
後ろに一歩下がり「竜の目」を発動させた。
これで相手のステータスは理解できる。
名前:黒井 瑠叶
性別:男
種族:半神半魔・人間
年齢:17歳
従者:ユメ
STR(筋力):409,889
CON(体力):410,203
ユニークスキル:????、????、全ステータス上昇+12、危機感知Lv10、手Lv10、30分「使用中」
スキル:回避Lv4++、剣術Lv10、投擲Lv1+、銃技Lv10、全運転技能Lv1、偽装Lv2
※「+」はカンストした分、増加します
(なんじゃこやつ、ステータスが生物のそれではない、さらにスキルレベルのカンストなど見たことないぞ)
生まれて初めて血の気がひくのがわかった。
体にチカラが入らず、声も出ない。
(嫌だ、まだ生きたい。こんなとこで死ぬわけにはたかぬのじゃ。くるな、くるなあぁぁぁ!!)
異次元なステータスに白髪で赤目の奇妙な見た目、知らない言語で歩み寄ってくる姿は気味が悪い。
我の前で立ち止まったヤツはポケットからハンカチを差し出してきた。
(ハンカチじゃと、一体どう言ういm)
そして気づいてしまった。
手に伝わる温かい水の感触、鼻にくる独特の匂い。
(もらした。この我が、恐れのあまり漏らしたというのか)
今まで自らの力で積み上げてきたもの全てがすごい勢いで崩れていくような感覚がした。
それに加え目の奥から何かが込み上げてくる。
「くうっ くっくっ、うわぁーーーーー」
本能のままに声を上げた。
頬を伝う水の感触、視界は滲み、前がよく見えない。
そんな初めての感覚に身を任せ、全てを諦めた。




