黒葉の悲願
今回のお話は後々追記修正するかもしれません。作者自身が取りこぼしてる設定がいくらかあるようなないような。
築30年の我が伊坂家の二階にあるオレの部屋。
その窓枠に、大きなカラスが止まっている。
普通の人が見たら、ただそれだけの光景にしか見えないだろう。
だが、オレは違った。
『やはり、あんたには見えてるんだね。そもそも、アタシの声もしっかり聞こえてる』
「はい・・・今更ですが、あなたは黒葉さんのおばあさん、ですよね?」
「ああ。そうさね。色々と話すことはあるが、その前に自己紹介はしておこう」
カラスしかいないというのに、オレの頭の中に響くように、人間の声がする。
そしてオレの眼には、カラスの姿に重なるように、黒い着物を着た老婆の姿が見えていた。
その顔は、黒葉さんがショッピングモールで不良に襲われたときに場所を教えてくれたお婆さんであり・・・
『アタシは黒葉アカネ。アンタの言うとおり、黒葉鶫の祖母さ』
黒葉さんの家に行ったときに見た、遺影に映っていた顔であった。
「やっぱりそうだったんですか・・・」
『アタシとしては、むしろ気付くのが遅いと思ってたくらいだよ。鶫がチンピラに絡まれてるのを教えたときにバレると思ってたからね』
「なんかすみません」
『別に謝る必要はないさ。アタシとしては好都合だったからね。変なタイミングでバレると面倒なことになっていただろうし』
いきなりダメだしをされるオレ。
だがお婆さんの言うように、ヒントはあったのだ。
遺影を見ていたことも勿論だが、初めて会ったときに、ゾワリと嫌な感覚がしたことを覚えている。
あれは、初めてツキコに出会ったときと同じ感覚だったが、それはお婆さんが死者だったからなのだろう。
今も、目の前のお婆さんからはどこか不吉な気配を感じる。
「・・・やっぱり、黒葉さんには黙っておいた方がいいんですか?」
『おや?アンタにしては気が回るね?』
「いや、塔を倒した後にめっちゃ怒られたんで」
ショッピングモールのあとでオレがお婆さんの姿を見たのは、塔を倒した後だった。
どこかに避難していたアカバが戻ってきたと思ったら、どこぞのホラー映画の幽霊のようにお婆さんが宙に浮いていたのである。
オレ的にはあのとき叫ばなかった自分を褒めてやりたいと思っている。
それでも、姿が見えていることを察したおばあさんにめちゃくちゃ突かれたが。
『そんなことだろうと思ったよ・・・まあ、その辺の事情も含めて説明してやるからよく聞きな』
おばあさんはハァとため息をつくと、オレの部屋の中に飛び込んで、あまり使っていない学習机の上に乗った。
実際にはカラスが机の上に止まっているのだが、オレの目線では半透明のおばあさんも見えているので中々シュールな光景だ。
『アタシが今日ここに来たのは、鶫も知らない儀式のことや、昼間にアンタが話してたツキコって子について警告するためさ。けどその前にアタシの家系について教えておこう』
「おばあさんの家系・・・黒葉さんの一族ってことですか?」
『ああ。黒葉の一族はこの国で数百年続いてきた異能の名家だった。まあ、元々はヨーロッパの方から流れてきた魔法使いが祖になったらしいけどね。代を重ねるごとに弱まってはいたが、それでも火、水、土、風、氷、雷。自然界に満ちる魔力の扱いと、魔法薬の扱いに長ける名門さ。そして黒葉の一族には、ある悲願が代々伝わっている』
「ある、悲願?」
『ああ』
黒葉さんに外国の血が混じっているのは少し驚いたが、そんなことに反応するのが怖くなるくらい、おばあさんは真剣な様子だった。
『『始まりの魔女を殺せ』。それが、初代から伝わっている言葉さ』
「っ!!」
『始まりの魔女』。
これまで、黒葉さんやツキコから幾度か名前を聞くことがあった。
オレの知っている限りでは、この世界に初めて誕生した魔法使いというワケではなく、魔法使いが普通の人間に迫害されている最中で初めて魔法使いを統率し、魔法使いの『国』を創った魔女ということらしい。
そして、『儀式』の元になった『願いを叶えるおまじない』の怪異の手綱を握ろうとして、失敗。
そのまま、儀式に取り込まれて死んだ。
だが、厳密には・・・
『アンタもよく知っているだろう?始まりの魔女は生きている・・・いや、正確には『残っている』と言った方がいいのかもね。その残滓が、今の儀式の中に潜んでいる』
「・・・・・」
--今の私はツキコだが、同時に『始まりの魔女』の残滓でもある
自らを始まりの魔女の残滓と名乗り、今はこのオレによって名を与えられた存在から、オレは今も始まりの魔女がこの世界に存在していることを知っている。
だが、まさか普段よく話す友達である黒葉さんの一族が、その始まりの魔女を滅ぼそうと考えているとは・・・
そしてそれは。
「じゃあ、おばあさんは、いや、黒葉さんも・・・ツキコを殺すんですか?」
いやに仲が悪いとは思っていた。
いくらプレイヤー同士でぶつかることになるとはいえ、黒葉さんとツキコの仲は険悪という言葉で言い表せるレベルを超えている。
いつか、冗談ではなく殺し合いをするつもりなんじゃないかと。
プレイヤーどうしが戦う場合、負けた方はすべてのカードを勝者に差し出す義務があるようだが、生死についてはとくに言及されておらず、必ずしも殺す必要はなさそうなのに。
それがただの懸念ではなく、近い未来に確実に起こることだと言うのなら。
(オレは、オレは、どっちの味方をすれば・・・いや、どうすれば止められる?)
黒葉さんは、今となってはオレの一番の友達と言っていい存在だ。
男女の間に友情は成立しないというが、オレと黒葉さんがその言葉を否定する確たる証拠となっているのは明らか。
オレが初めて出会った同類であり、たった独りで魔法も怪異も、異能に関わることなど何も知らずに不安しかなかったオレに道を示してくれた恩人でもある。
この世のすべてが敵に回ったとしても、黒葉さんの味方でありたいと、オレは心からそう思う。
だが、かと言ってツキコが殺されると言うのなら、それを黙ってみていることは決してできない。
(悔しいし、認めたくない。アイツには絶対に知られたくないけど・・・オレは、アイツに情が湧いちまってる)
最初は、嫌なヤツだと思った。いや、今も嫌なところがあることに変わりはない。
白上さんの身体を乗っ取っていることについては、徹頭徹尾オレが認めることはないと言い切れる。
他にも、ことあるごとにお局のようにネチネチと小言を言うわ嫌味を言ってくるわ、性格は白上さんとは似ても似つかないくらい陰湿だ。
だが。
--なっ!?お、お前、覚えて・・・?
--お前は一度恩を受けたと思ったヤツに暴力を振るえるような男じゃない
「・・・・・」
次に会ったときには、アイツは変わっていた。
初めて会ったときに感じた、今もお婆さんから漂ってくる嫌な気配がほとんど消えていた。
思えば、オレがアイツを『ツキコ』と思って接したのはあれが初めてだった。
だからだろうか、ツキコと気軽に話せるようになったのは。
--まあ私は寛大だ!!その無様さに免じてしっかり指導をしてやろう!!
--うるさい。お前の大好きな白上羽衣にくっつかれるのだから文句を言うな
「・・・・・」
そして、そのままツキコと契約を結ぶことになって、黒葉さんと同じようにアイツにも借りができた。
ツキコに教わった魔力操作がなければ、オレも、黒葉さんも、ツキコもおばあさんも今頃生きてはいない。
アイツにだって打算はあっただろう。
でも、そのおかげでオレたちが生き延びたのは事実。
なにより。
--よし!!私の名字はこれから『伊坂』だ!!『伊坂ツキコ』!!それがこれからの私だ!!
--うむ。わかればよろしい
--レディの手をいきなり握るな野蛮人め
--おい誠二。よくわからん宗教やセールスの勧誘には気をつけろよ
--お前が私のことをどう思っていようが、何があろうと、この契約があるのなら私だけは裏切らない。
(オレの面倒を見てくれたときのアイツの言葉が、全部嘘なんてことはないはずだ)
ツキコはツキコなりに、オレに対して親しみを持ってくれていた・・・オレは、そう思っている。
いや、もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれない。
それでも、オレがツキコに死んで欲しくないと思う理由としては十分だ。
だから、もしも。もしも、おばあさんがオレの問いを肯定するのなら・・・
『はぁ・・・そんなに情けない顔をするんじゃないよ。話は最後まで聞きな』
「え?」
おばあさんが返す答え次第で、オレはどうすればいいのか。
それがわからないままにビクビクと答えを待つことしかできないオレを見て、おばあさんは呆れた様子でため息をついた。
『確かに、黒葉の一族には始まりの魔女を殺せという言い伝えがあるし、アタシ自身も個人的な恨みがあるからそうするつもりさ。だが、あのツキコって子についてはいろいろ決めかねているんだよ・・・アタシが前の儀式で見た始まりの魔女の残滓とツキコは明らかに別の存在だ』
「そ、そうなんですか!?」
『なんであんたが驚いてるんだい?そうしたのはあんただってのに』
「え?」
『・・・やっぱり自覚がなかったか』
魔法の知識に乏しくバカなオレにはお婆さんの言っていることがよくわからない。
ここには難しい話を要約してくれる黒葉さんもツキコもいないのだ。
『・・・アンタには聞きたいことがいろいろあるんだけどさ。とりあえずツキコに関することを聞こうか。あの子にツキコって名前を付けたのは、アンタでいいのかい?』
「え?あ、はい。そうですけど・・・?」
『やはりそうか・・・ちなみに、ツキコって名前にしたのはどうしてだい?』
「えっと確か・・・アイツが月のカードを使ってるなって思ったからですね。『月』ってのが月って意味だってくらいは知ってたし、服もなんか三日月みたいなマーク付いてたし。あのときアイツに名前を付けようとしたのは、白上さんと区別するためで、そんなに深いところまで考えてたワケじゃないですよ」
『深い意味はない、ね。なるほど』
「・・・?」
1人納得するお婆さんだが、一体どうしたと言うのだろう。
(っていうか、オレがツキコに名前を付けた話は朝にもしたような・・・いや、あのときはツキコの結界があったか)
そういえば、昼休みのオカ研での会話はおばあさん、いやアカバも聞いていたようだが、朝の教室でオレたちが話していたときはツキコの結界の中だった。
あの結界が使い魔の感覚の共有まで遮断するのかは知らないが、もしもそうならばオレがツキコに名前を付けた云々はそのときに言ったから、お婆さんは今まで知らなかったのだろう。
だが、それがどうしたと言うのか。
『前の儀式で出くわした始まりの魔女の残滓には、名前がなかった。そして、魔法に疎いアンタに一つ教えてやるけど、名付けっていうのは魔法の観点から見てもすごい大きな意味があるんだよ』
「大きな意味?」
『ああ。名前ってモノにはソレそのものに意味があるだろう?『この子には幸せになって欲しいから幸子って名前を付ける』とかね。名前を付けられた側も、『自分の名前がこうなんだから、そうやって生きよう』なんて思うヤツもいる。まあ、ここまでは普通の人間にも共通するところさ』
「・・・はい。それはわかります」
親が子供に『こう育って欲しい』と思って名前を考えるのは普通の話だ。
ニュースでも、その年の新生児の名前ランキングなんかをやっていたりするし、有名人の名前の画数で縁起がいいだの悪いだのと言った話もよく耳にする。
クラスでも話のネタとして自分の名前の由来を話すというのは、よくあることだ。
そういう話を聞いていると、話している中に自分の名前を自慢に思っているヤツもいたりする。
・・・まあ、オレ自身はつい最近までろくに友達ができたことがないから、よくある話と思ったのはオレが誰かと話すときに参考にするために盗み聞きしていたからなのだけど。
ちなみに、まだ一度もネタとしては活かせていない。
『んで、ここからが魔法使いの話だ。魔法使いは魔力を持つが、魔力っていうのは生命力や精神力がこの世界の欠片である魂に影響受けたことで変質したエネルギー。つまりは、この世界っていう概念そのものにわずかであっても干渉できるエネルギーでもある。故に、魔法使いが付ける名前は普通の人間のソレよりもその人生に影響を与える可能性が高いのさ。さらに、名付けっていうのは一種の主従関係の成立を意味をする。親が子より上に立つという意味もある』
「主従関係、ですか・・・」
(主従関係って言ってもアイツめっちゃ反抗的だよな。っていうかむしろ自分こそがご主人様でオレのこと従者呼ばわりしてたよな?)
名前を付けたのはオレなのに、むしろオレを下僕扱いしてきたこともあるツキコである。
早速名付けの効果とやらに信憑性がなくなってきた。
『・・・まあ、今の話は名前を付ける側と付けられる側の持つ魔力でいろいろ変わるから絶対ではないけど、あんたとツキコの場合は別さね。主従関係なんて生やさしいモノじゃない』
「オレとツキコの場合?」
『そう。もともと、死霊術士はその真名を知ることで死者の魂を操ることができると言う。だが、既にある真名を利用するのではなく、一から名前を付ける・・・それも、『再出発』の象徴である逆位置の死神に異常なくらい適性があるあんたが、名前を持たない亡霊に、だ・・・これはもう、存在の再定義っていう魔法の儀式と言っていい』
「そ、存在の再定義?なんかスゴそうなんですけど、オレそんなことしてたんですか?」
『スゴいなんてもんじゃない。自覚なしにやってのけたのが信じられないくらいの御業さ。あの『儀式』の怪異からその一部を削って新しい怪異を生み出したようなモノ。塔を倒してのけたあんた固有の魔法もそうだが、言わば擬似的な死者蘇生だ。世が世なら、あんたを信仰の対象にした宗教ができてもおかしくない・・・いやまあ、あんたへの態度とか、今日見た限りだとそこまで完成はしていないみたいだったけどね。儀式の影響を完全に振り切るのが難しいのか、あるいは受け手のあの子の精神的な問題か。深い意味がないのなら名前にさらに意味を込めることができればあるいは言い方向に転ぶかもだけど』
「は、はぁ・・・?」
『・・・あ~、かみ砕いて言うと、あんたが始まりの魔女の残滓に、始まりの魔女とも儀式とも全く関係のない名前を付けたことで、あのツキコって子は始まりの魔女の残滓ではなくなりつつある。それだけ理解できればいい』
「あ~、それだけなら、なんとか」
難しい単語やら何やらが多すぎてオレの脳がオーバーヒートしそうなのを察したのか、お婆さんは一番大事そうなところだけわかりやすく教えてくれた。
(要は、ツキコは始まりの魔女とは別のモノに変わろうとしてるってことか・・・ん?ってことは)
『さすがに気付いたかい。そう、それがアタシがツキコを殺すか決めかねているって理由だよ。始まりの魔女でないのなら、黒葉の一族として滅ぼす理由はない。まあ、とはいえさっきも言ったがあの子はまだ完全に別のモノになったってワケじゃない。それに、たとえ始まりの魔女の残滓でなくなったとして、変わった先が危険な存在ではないとも限らない。だから、あの子をどうするかは見極める時間が必要なのさ』
「そ、そうなんですか・・・よかった」
オレは安心して思わず息をついた。
お婆さんの言うとおりならば経過観察をする必要はあるが、黒葉の一族が、ひいては黒葉さんがツキコを殺す必要はないかもしれないということだ。
しかし、それにしてもだ。
「その、おばあさんはいいんですか?」
『何がだい?』
「いえ・・・オレ、お婆さんが倒したいヤツを勝手に倒しちゃったってことですよね?」
『・・・ふむ』
お婆さんは、さっき『始まりの魔女の残滓には個人的な恨みがある』と言っていた。
だが、お婆さんの話によれば知らず知らずのうちにとはいえ、オレがお婆さんの仇?を別の存在に変えてしまったらしい。
お婆さんも、変わってしまった存在であるツキコについては倒すかどうか迷っている・・・というか全く恨んでいるような感じがしないのだ。
そうなると、お婆さんが倒したがっていた相手をオレが横取りしたようなモノだと思ったのだが。
『・・・さっきも言ったが、アタシが前回の儀式で見た始まりの魔女の残滓と、あのツキコって子はまるで違うんだ。それと、名付けは確かに強力な効果があるけど、名付けられた側が拒絶すれば不発になる。何にでも名前を付けるだけで存在を変えられるなら、今頃あんたに儀式そのものに名前を付けろって言ってるさ』
「それもそうですね・・・」
お婆さんの話では名付けは相手の存在そのものを変質させることができるようだが、そんな万能の手段があるのならもっと早くに、それこそ黒葉さんが不良に襲われる前にでも教えて儀式を倒させているだろう。
『アタシが知っている前の残滓ならば、そもそも名付けを受け入れるとは思えない。これも聞きたかったことなんだが、名前を付ける前のツキコはどんな印象だったんだい?死者の気配がするとかじゃなくて、性格的な意味でね』
「名前を付ける前のツキコ?えっと・・・」
ツキコはずいぶん前から白上さんに取り憑いていたようだから、ツキコに会ったのもそこそこ前ということになる。
だが、名前を付ける前の印象という話なら、白上さんのフリをしていたときは参考にならないだろう。
ツキコに名前を付けたのは、アイツが尻尾を出してすぐなので、名前を付ける前のツキコと接したのは『正義』と戦っていたときだけだ。
そして、そのときのアイツの性格は・・・
「あんまり今と変わらないですね。名前を付けてから嫌な気配は消えたけど、性格は相変わらず嫌みったらしいままですよ」
『今と変わらないか・・・やっぱり違うね。あたしが前の儀式で戦ったヤツは、もっと残忍というか機械みたいだったよ。感情らしい感情があったのは、あたしと戦っていたとき・・・儀式の進行を妨害されたときだけさ』
「あいつが・・・?想像できないなぁ・・・あ!!そういえばツキコ、前の儀式でお婆さんと戦った記憶があるって言ってましたけど、それでもアイツは前のアイツと違うんでしょうか?」
『あたしもこの眼で見たワケじゃないが、始まりの魔女の残滓は儀式ごとに記憶を引き継いでいるらしい。あくまで受け継がれるのは記憶であって、人格は別なんだろうよ。まあ、それであんたが出会った比較的甘いヤツになった理由まではわからないけどね』
「記憶を引き継ぐ。それに人格・・・そういや、そんなことも言ってたな」
--私が負けた後は、『この私』が直に見たわけではないが記録は残っている
あれは前の儀式について聞いたときだったか。
お婆さんの話と併せて考えると、『この私』という言い方は過去の始まりの魔女の残滓と今のツキコが違う存在だと言っているようにも聞こえる。
しかし、お婆さんの言うように、名付けを受け入れるような性格になっているというのは理由がわからない。
始まりの魔女の残滓にとってはデメリットしかないと思うのだが・・・まあ、お婆さんにわからないことがオレにわかるはずもない。
『ツキコを恨んでるかどうかで言えば、鶫のこともあるし、相変わらず寄生虫みたいなことをやらかしてるから複雑なところだけど、どう見ても前のヤツと同じようには見えなくてね。あんたの名付けで存在そのものも変わっちまってるし、あたし自身がどうこうしてやりたいとは思っていないよ。なにより、ツキコ・・・いや、プレイヤーに取り憑くヤツは始まりの魔女の残滓の中でも『欠片』に過ぎないのさ。大本は別にある。だから、あたしがやり返してやりたいと思ってるのはそっち。そもそも実行者はもう『悪魔』に倒されてるしね。あたしのダチを儀式に巻き込んだ黒幕はまだいるのさ』
「黒幕・・・」
--私はあくまで欠片に過ぎない故、もう詳しいことはおぼろげにしか覚えていないがな
(恋人と戦ったあとのあれは、そういう意味だったのか・・・それにしても、黒幕。そうだ、前に黒葉さんの家で)
「その黒幕っていうのが、黒葉さんの一族が倒すべき敵ってことですか」
『ああそうさ。始まりの魔女は儀式に取り込まれたけど、その大部分が未だに儀式という怪異を侵食し続けているという。黒葉の初代が言い伝えで倒すように言ってるのはソイツだ』
「・・・今思い出しましたけど、図書室みたいな場所で霊体を滅ぼす方法だとかそんなことが書いてあるノートを見た覚えがあるんです。もしかしてあのノートは」
『あんた、あれを見たのかい。あのノートはアタシが書いたモノだが、よく見つけたね。アタシも置いた場所を忘れてたよ』
初めて黒葉さんの家に行って、図書室みたいな場所に迷い込んでしまったとき、偶然他の国の言葉で書かれた本の中から日本語のノートを見つけたのだが、そこにお婆さんが言っていたことが書いてあったのだ。
そのときはツキコの記憶も消えていたし、今よりも魔法への知識がなかったから創作だと思っていたけど。
『黒葉の一族は代々光と闇属性以外に適性を持っているんだけど、初代だけは闇属性か光属性が使えたらしい。それで魂の扱いに関しては初代が相当研究していたみたいでね。その分野の書物がたくさん残ってるんだ。アタシがこうしてカラスになっているのもその応用さ。ただ、内容がやたらと小難しくてねぇ。後の代への導入用に書いたんだよ。まあ、鶫はまだ読んでないみたいだけど』
「そうなんですか?まあ、確かにわかりにくいところにあったけど」
『鶫には、黒葉一族の悲願については言ってないんだよ。アタシが倒したいヤツがいることもね。書物の類いも、あたしがこの身体になる前に少しずつ隠した。もしも鶫があのノートを読んでいれば、今日ツキコに会ったときに違う反応をしたはずさ』
「え?」
黒葉さんが、黒葉一族の言い伝えを知らない?
なぜ、お婆さんは黒葉さんに伝えていないのだ?
そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、お婆さんは『ハァ』とため息をついた。
『別に、そう大した理由じゃない。アタシは一族の悲願っていうところにそこまで興味はなかったけど、個人的な恨みがあるから始まりの魔女の残滓を倒そうと思った。けど、鶫にまでそれを押しつけようとは思わなかっただけさ。どう見ても、あの子は争いには向いてな『かった』からね』
「なるほど・・・」
言われてみれば納得だ。
黒葉さんは性格的に荒事が苦手そうだし、お婆さんも個人の恨みより黒葉さんが争いに関わらないで済む方を優先したのだろう。
まあ、結局は儀式に巻き込まれてしまったワケだが。
(ん?でも待てよ?なんかおかしいぞ?)
だが、オレはそこでおかしなことに気が付いた。
(さっき、黒葉さんとツキコが仲悪いのは黒葉一族の言い伝えがあるからだと思ったけど、黒葉さんが知らないんなら、なんであそこまでお互いに敵意を持ってるんだ?)
プレイヤーどうしなのだから、いつかは戦うことになるとはいえ、今日の朝が初めて会ったはずなのにあの2人の仲の悪さは異常だった。
その理由として黒葉一族のことやお婆さんの仇のことがあるのかと思ったが、それらを知らないのならば一体どうしてああも険悪なのか。
『ん?どうしたんだい?変な顔して』
「あ、いえ・・・言い伝えのことを知らないのなら、なんであの2人はあんなに仲悪いんだろうって」
『・・・はぁ。鶫もそうだが、ツキコも哀れだね。だから恨む気持ちになれないんだよ。鶫にしたってなんでこんな鈍いのを・・・いやまあ、あそこまでされればわからなくはないがそれにしたってねぇ』
「???」
お婆さんが、呆れたような眼を向けてくる。
ただでさえ2人の仲が悪い理由がわからないというのに、お婆さんの反応も謎であり、ますます頭が混乱してきた。
『アタシにとって、鶫は大事な孫だ。だから、個人的な恨みはないし、アタシ自身がなにかしようとまでは思わないけど、ツキコが鶫を傷つけようとするのなら許せない。例え、ツキコより今の鶫の方が強くともね。けど、あの2人の仲があそこまで悪いのは今のところ間違いなく・・・』
「間違いなく?」
『あ~・・・いや、いい。ここでアタシが言うのはナシだろうしね。『今』の鶫を怒らせるようなのはアタシもやりたくない。ただ、これだけは言っておくよ。あんたが最後にどちらの味方になるにせよだ』
「は、はい?」
どうやら、お婆さんはあの2人の仲が悪い理由を知っているようだが、オレに教えるつもりはないみたいだ。
オレとしてはとても気になるのだが、黒葉一族の悲願を語るときよりも重苦しいプレッシャーを放っているので聞くに聞けない。
そして。
『『また』鶫を泣かせたら、絶対に許さない。いいかい?よぉく覚えておくんだよ?いいね?』
「は、はい・・・」
念を押すかのようなお婆さんに、オレは頷いて返すことしかできなかったのであった。
-----
TIPS サイズの格差
黒葉さん>白上さん>>>>>ツキコ(生前)




