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『魔術師』のハカリゴト

あけましておめでとうございます。

本当なら去年のうちに投稿したかったのですが、作者の頭が悪いせいで設定の矛盾がないか考えながら書いていたら年が明けてしまいました・・・

『さて、お前の名前はもう聞いた。ならば今度は私が名乗っておこう・・・何を隠そう、誠二から贈られた名を』

「・・・っ!!」

『伊坂ツキコだ。よろしく頼むぞ?黒葉の魔女』


 目の前の『ツキコ』と名乗る女が出てきたのは、ワタシの予想の範囲内だった。

 白上羽衣には人間のプレイヤーにしては違和感のある部分が多すぎることから、裏で糸を引いている存在がいるとは思っていた。

 直接会って、この眼で見ることで予想は確信に至り、その黒幕は白上羽衣の『中』に潜んでいることも突き止めた。

 だから、白上羽衣はただの操り人形に過ぎず、恐らくは誠二くんが白上に抱いている好意も、黒幕によって誘導された可能性が高いということも。

 黒幕は他人を玩具のように操り、尊厳を犯し、媚びを売らせることを何とも思っていない外道であるということも。

 白上羽衣の中にいる寄生虫は、ただただ誠二くんを利用するだけの、誠二くんにとっても倒すべき『敵』であることも。

 すべて予想の範囲内。

 そしてワタシの想定を超えていたモノは。


『さて、自己紹介は済んだ。誠二。そのチビに私たちの契約を教えてやれ』

「いやオレかよ。オレ、説明そんなに自信ねーぞ」

『・・・だそうだが?お前は私と誠二が説明するのならどちらがいい?』

「・・・誠二くんで。あなたの口から言われても信じられませんから」

『だとさ。お前をご指名だ。説明して差し上げろ』

「お、おう・・・あ、あの、黒葉さん?一応こいつ、そこまで悪い奴じゃないと思うよ?」

「そう・・・でも、それを決めるのは誠二くんじゃなくてワタシだよ」

「お、おう・・・」

『クフフっ・・・』

(コイツ・・・今、ワタシを嗤った?)


 イライラする。

 先ほどまでの優越感はあっという間に消え去り、あっという間に心の中にドス黒い何かが溜まっていく。


(・・・このツキコとかいう女。コイツ、誠二くんのなんなの?)


 ワタシの予想を超えていたモノ。

 それは、このツキコという女と、誠二くんの間の距離感。

 お互いタメ口で話し、『下の名前』で呼び合っている。

 まるで、気心の知れた昔からの仲だと見せつけるように。

 誠二くんに至っては、庇う姿勢まで見せている始末。

 なによりも・・・


(『伊坂ツキコ』・・・誠二くんと同じ名字で、しかも下の名前は誠二くんが付けた?何ソレ?)


 『伊坂ツキコ』

 その氏名のすべてがワタシの神経を逆なでする。

 どうして誠二くんが名前を付けるようなことになったのか。

 誰の許しを得て誠二くんと同じ名字を名乗っているのか。


「契約のことの前に教えて。あなたは『何』なの?どうして誠二くんと契約を結ぶようなことになったの?」

『・・・誠二。説明してやれ』

「あ、ああ・・・えっと、コイツは、『始まりの魔女』の欠片らしいんだ」

「始まりの魔女の、欠片?」

「うん。ツキコとは、GWのときに初めて出くわしたんだけど・・・」


 誠二くんが話してくれたところによると。


・ツキコはかつて儀式に挑み、敗れた始まりの魔女の残滓であり、その目的は志半ばで途絶えた儀式の完成。願いそのものに興味はない。


 ・長い間を月のカードに潜んで過ごし、白上の一族の魔法使いのプレイヤーの身体を乗っ取るもしくはアドバイスをしていたらしい。


・今回は、白上の一族から魔法使いのプレイヤーが出なかったため、人間のプレイヤーに取り憑くことになった。


・白上は儀式に狙われやすいらしく、ツキコが入ることでボディーガードをしている。


・ツキコという名前は誠二くんが適当に付けたモノ。名前がなかったので白上と区別するための呼び名に困ったから付けた。名字も、最初は『白上』にしようとしたら誠二くんが嫌がったのと、名付け親だから『伊坂』にしたとのこと。


『適当に付けたのはわかるが、お前は本当にセンスがないな』

「うるせえ。嫌なら自分で改名しろよ」

『別に嫌とは言ってないだろうが』

(・・・その名前、気に入ってるんだ)


 ツキコの胸の灯りは明るいオレンジ。

 どうやら名前については思い入れがあるらしい・・・癪だが、ワタシも誠二くんに送られた名前なら多少センスが悪くても気にしないだろう。

 ともかく、これでツキコという名前の由来はわかった。

 誠二くんに特別な意図があってのものではないということも。

 ただ・・・


(名前のない幽霊に、死神の適性が高い誠二くんが付けた名前・・・もしかして、刷り込みみたいなことが起きてる?)


 名付けというのは魔術的に重要な意味を持つ。

 名前を送る方が上位であり、送られる側が従うという一種の主従関係を決定づけるモノでもある。

 特に、逆位置の死神という『新たな始まり』を象徴する存在が、過去の魔法使いの残滓という『終わってしまった』存在に名付けた場合には、誠二くんを上に置く強固な上下関係ができてもおかしくない。

 それでなくとも、『こうあって欲しい』という意味を込めて付けられた名前は、付けられた側の運命に関わり続ける祝福、あるいは呪いであるとも言える。

 誠二くんは適当に付けたようだが、『白上羽衣とは違うモノである』という願いを込めて名付けたのならば、そのように機能することもあるかもしれない。


(・・・例えば、白上を嫌いになりやすいとか?)


 ともかく、ツキコが誠二くんに好意的に見えるのは、名付けの影響があるのかもしれない。

 まあ。


(だからと言って、鬱陶しいのには変わりないけど)


 どんな理由だろうが、誠二くんに好意を持っている女という時点でワタシからの好感度など永続でマイナス確定だ。

 誠二くんも完全に気を許しているワケではないようだが、敵意は持っていないみたいだし、白上の身体を乗っ取っているのなら万が一もあり得る。

 できることなら早めに退場させてしまいたいところだが、知らなければならないこともある。


「とりあえず、ツキコさんがどんな存在なのかはわかったよ。それじゃあ、ツキコさんと結んだっていう契約について教えて」

「わかった。え~と、オレたちが結んだ契約なんだけど・・・どんなんだっけ?」

「『・・・・・』」


 契約の内容を説明しようとした誠二くんだが、内容をよく覚えていなかったらしい。

 これには、ワタシもツキコも呆れた目を向けてしまった。


『・・・おい。お前まさか、契約内容を素で忘れているんじゃないだろうな?契約書はどうした?』

「家だけど?ああいう大事なモノって普通持ち歩かないだろ」

『・・・まあ、お前のことだからそんなところだろうと思ったよ。ほれ、貸してやるからさっさと教えてやれ』

「スゲーなお前。いつもこれ持ってるのかよ?もしかしてスマホの契約書とかも持ってるのか?」

『そんなワケがあるか。というより、スマホも白上羽衣の所有物で私のモノではないからな。私が持っているのはそれだけだ・・・言っておくが、丁重に扱えよ?読み上げるのはいいが、そのチビに渡すのは許さん。仮にも契約書なのだからな』

「わかったよ。まあ、コレはお前のだしな」

「・・・・・」


 『仕方がない』と言うかのように呆れた顔をしたツキコが制服のポケットからスリーブを取り出し、折りたたんでいたルーズリーフを誠二くんに渡す。

 そのとき、ワタシの方をチラリと警戒するように見てきた。

 魔法使いにとって契約魔法は非常に重いものだ。

 契約書を第三者が破棄しても契約が切れることはないが、みだりに見せびらかすようなモノでもない。

 そういう意味ではツキコの反応は普通と言える。


(・・・ずいぶん、大事そうに仕舞ってる)


 とはいえ、いくら重いモノとはいえ契約書を常に持ち歩くのは普通とは思わないが。

 ツキコは誠二くんと結んだ契約を字面以上に大事にしているようだ。

 

「よし、じゃあオレたちが結んだ契約を教えるよ・・・まずは」


 そして、誠二くんはツキコと結んだ契約を読み上げていく。

 その内容を聞くたびに、ワタシの眉間にどんどんシワが増えていくのが自分でもよくわかった。



① ツキコは白上羽衣の身体に入る限り、悪事を行わない。この場合の悪事とは、現行法に反する犯罪行為(魔法を使った場合、凶器を使用したとする)ならびに他者(白上羽衣含む)の精神、記憶を改ざんすることを指す。ただし、儀式において必要な場合はこの限りでない。



② ツキコは白上羽衣の身体に入る限り、白上羽衣の安全を最優先とする。



③ ツキコは自身の目的(儀式の完成)が成された場合もしくは白上羽衣が参加資格を失った場合、白上羽衣に一切の損害を与えず解放する。



④ 伊坂誠二はツキコが上項を守る限り、ツキコに一切の危害を加えない。

 


⑤ 伊坂誠二はツキコおよび白上羽衣の持つカード以外のすべてのカードを集めなければならない。また、集め終えた際にはカードをツキコに譲渡するが、願いの内容は伊坂誠二が決定する権利を有する。



⑥ 伊坂誠二はツキコが白上羽衣の精神と入れ替わっている時以外、すべての契約内容ならびにツキコの存在を忘却する



⑦ ツキコと伊坂誠二両名の同意が得られた場合のみ、契約を破棄できる。



「んで、後は・・・あ、いや、これで終わりだった!!」

『・・・ほう?』

「・・・・・」


 ⑦を読み上げた後、さらに目線を下げた誠二くんだったが、慌てたように打ち切ると、すぐにツキコに契約書を返した。

 ツキコは小さく声を漏らすと、受け取った契約書を丁寧に畳んでスリーブに入れてから、またポケットに仕舞う。


「・・・まだ何か、続きがあるの?」


 言いたいことがたくさんあるが、それはまず話を聞いてから。

 そう思いながら我慢して誠二くんの言うことを遮らなかったが、まだ何かあるというのなら早く出して欲しい。

 ワタシの忍耐が持つ間に。


「え~と、いや、ない・・・です」

「嘘だよね?」

「う゛・・・」


 この眼のチカラがなくても、今の誠二くんが隠し事をしているのは普通にわかる。

 

(・・・気に入らない)


 これまで、誠二くんがワタシに隠し事をしたことなどなかった。

 誠二くんの正体を『一般人である黒葉鶫』に言わなかったことはあるが、それは魔法使いのプレイヤーとしてのワタシと普段のワタシが結びついていなかったから。

 白上羽衣が好きだというのは隠していたワケではなく、話す理由がなかっただけ。

 ツキコとの契約は、ツキコが白上羽衣の意識を乗っ取っている時以外は忘れるように仕込まれていた。

 初めてなのだ。

 

(誠二くんが、ワタシに嘘を付こうとするなんて)


 しかも、その嘘の内容をツキコも知っているのは間違いない。

 ワタシが知らないことをツキコが知っている。

 2人だけで秘密を共有しているということだ。


(すごく気に入らない!!)


『・・・ふん。そう心配せずとも、最後の契約はお前にも、誠二にも、さらに言うなら私にも直接関係のあるものではない。白上羽衣に関するものだ。儀式の進行に影響のあるモノでもない』

「・・・白上さんに関係のあること?」

「お、おいツキコ!!」

『そう騒ぐな。この疑り深い女にお前の下手な誤魔化しが通用するワケがないだろう。ある程度の真実は公開しておく方がいい。無論、誠二が言いたがらないようだから、私もすべてを口にするつもりはないがな・・・お前なら、私が嘘を付いていないことはわかるだろう?黒葉の魔女』

「・・・・・!!」


 ワタシに向かって嫌みったらしく確認してくるツキコ。

 ・・・この女。


(『心映しの宝玉』のことを知っている?)


 実を言うと、先ほどから、具体的には誠二くんが契約について話し始めてから奇妙な『反応』がこの眼に映っていた。


(・・・感情の色が、すごく見えにくくなった)


 ツキコの胸に灯る炎の色。

 さきほど、最後の契約とやらの内容について口に出したときだけは普通の緑色だったが、今はその色がとても見えにくい。

 誠二くんは前々から見にくかったが、それ以上だ。

 うっすらと赤黒い『敵意』の色こそ見えるが、消えかけのロウソクのように、灯りがついていないようにすら思える。

 

(心映しの宝玉のことも、その『対処法』も知っていたってこと?)


 この心映しの宝玉は他人の感情を色として見ることができる瞳だが、機能しない場合もある。

 例えば、寝ている人間。

 意識のない相手の場合、色は見えなくなるのだ。

 その他には、実際に存在するとは思わなかったが・・・


(感情を完全にコントロールできている・・・?)


 己の感情というものを殺す、あるいは制御する。

 感情と実際の行動を切り離せる。

 そんなことができる人間がいたら、この眼は何も映さない。

 理論上そう思っていたが、まさか本当にできる者がいるとは。


『・・・ともかく、誠二が話せる契約についての内容は以上だ。これが私と誠二の関係と言えるだろう・・・それで?何か言いたいことでもあるか?』

「いや、結局お前が締めるのかよ」

『お前がもっと口が上手ければ済んだ話だろうが』

「うぐっ・・・」

「・・・・・」


 ワタシの目の前で軽口を叩く2人。

 ・・・これ以上、このツキコがいる前で情報を引き出すのは無理だろう。

 ならば。


「誠二くん」

「は、はい・・・」


 ワタシは、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすことにした。


「誠二くんは、馬鹿なの?何考えてるの?どうしてこんな奴隷契約結ぼうなんて思ったの?」

「ど、奴隷って・・・いや、別にそこまでは・・・」

「奴隷でしょ!!この⑤番!!それに①だってこんなのいくらでも抜け道があるんだから、④番に意味なんてないも同然だし、誠二くんはこの女に絶対逆らえないじゃない!!」


 ①の内容は一見ツキコの行動を縛っているようだが、最後の『ただし、儀式において必要な場合はこの限りでない』という言葉の解釈次第でどうとでもできるだろう。

 ②の『白上羽衣の安全を最優先する』という項目が一応のストッパーになっているようだが、言い換えれば白上が危険に晒されないなら拘束力はないということ。


「・・・例えば、白上さんが無一文になったとして、白上さんがベストコンディションになれるように他人の家の住人を魔法で殺す、とかはできるよね?」

「え!?いや、それはさすがに・・・」

『ふん。まあ、できなくはないかもな』

「・・・マジで?」

『殺害まではできなくとも、魔法で金を盗むくらいはできるだろうよ・・・念のため言っておくが、そんなことはしていないからな』


 ツキコはどうやら心映しの宝玉のことを知っている。

 見えにくいとはいえ、あからさまな嘘を付けばバレることはわかっているようで、誤魔化しはしなかった。

 一応、そこまで悪用していないことは本当のようだ。

 だが、だからと言って誠二くんがかなり不平等な契約を結ばされていることは確かだ。

 なにせ、誠二くんはツキコに一切手を出せず、ツキコのためにカードを集めなければならないのだから。

 願いの内容を決める権利があるとはいえ、誠二くんの実力なら元々すべてのカードを集められる。

 ツキコとの契約は足枷にしかなっていない。

 得をするのは、儀式が終わるまで誠二くんを使いっ走り兼護衛にできるツキコだけだ。

 そして、ワタシが一番腹が立っていることは・・・


「っていうか!!この⑤番!!これは本当にどういうことなの!?ワタシのカードも集めるってことだよね!!」


 この⑤の条件は、『ツキコおよび白上羽衣の持つカード以外のすべてのカード』。

 すなわち、ワタシの持つカードも含まれる。

 そして、この儀式においてカードを他のプレイヤーから得るには譲渡してもらうか、無理矢理奪い取るかだ。

 譲渡をすれば戦うことはないが、深刻なペナルティーを受けることになる。

 つまり、どっちみち誠二くんの手によってワタシが傷つくということであり、いくら誠二くんがちょっとアレでもそこまで考えていないなどないはずだ。

 だと言うのに、この契約を結ぶことをヨシとしたというのか。

 それは。


「誠二くんは・・・ワタシを裏切るの?」


 こんな契約をワタシに黙って結んだ時点で裏切ったと捉えてもいいくらいだが、これはライン越えだ。

 この契約を結ぶ際、恐らくは白上の身の安全を盾に、要は白上を人質にされてのことだとは思うが、それでもだ。

 ワタシは絶対に誠二くんの敵にはならないし、誠二くんを白上から奪い取りたいと思っている。

 だけど、誠二くんがワタシを傷つけてもいいと思っているのかもしれないと思うと、ひどく悲しかった。


「いやいや!!そうじゃないって!!おいツキコ!!あれだよな!?プレイヤーどうしでカードを渡すとき、ペナルティーを受けないようにする方法があるんだよな?」

「え?」

『・・・チッ。ああ、そうだ。カードをこの儀式で現われる怪異の半分。11枚以上所持してから他のプレイヤーに渡す場合、ペナルティーは発生しない』


 しかし、誠二くんが慌てたようにツキコに話を振ると、ツキコは渋々と言った具合に答えた。

 ワタシの眼で見る限り、見えにくいが本当のことらしい。

 

「ほら。前に黒葉さんも、たくさんカードを集めたら条件がわかるかもって言ってたよね?それがこの方法みたいなんだ。黒葉さんの初期カードの魔術師に、オレが渡した、吊された男、女帝、皇帝、女教皇で5枚。後6枚集めて黒葉さんに渡せば、黒葉さんは儀式から抜け出せる」

「・・・そういうこと」


 ホッと一息つく。

 誠二くんの灯りから、ワタシを危険から遠ざけたい思ってのことなのは間違いないようだ。

 ワタシに何の相談もなくというのは腹立たしいが、契約で忘れていたのだからしょうがないし、ひとまずそれで安堵する。

 そして、客観的に考えてみれば誠二くんの考えていた方法は悪い手ではない。

 『昨日まで』のワタシは弱くて誠二くんに守ってもらうばかりだったし、放っておけば負けてしまいそうなワタシを抜けさせて、誠二くんが戦いに専念できるようになれるのは大きい。

 ワタシ自身、誠二くんに出会っていなければ一も二もなく飛びついただろう。

 そう、誠二くんと出会っていなければ。


「誠二くんのやろうとしていたことはわかったよ。ワタシも、悪い手じゃないと思う」

「でしょ!?」

「でも、その方法でメリットの方が大きいのは昨日までだよ」

「・・・え?」

『・・・・・』


 誠二くんがワタシを助けようと思っていたのは嬉しい。

 でも、それをワタシが何の抵抗もなく手放しで受け入れると思っていたのなら、それはワタシを見くびりすぎだ。


「ワタシ、この儀式を抜けるつもりはないから」

「ええっ!?な、なんで!?こんなヤバい戦いばっかの儀式なんて、さっさと抜けた方が・・・」

「そんなヤバい儀式に誠二くんを置き去りにして?そんなの、ワタシは嫌だよ。学校に来る途中にも言ったよね?ワタシはもう守ってもらうだけじゃない。誠二くんの隣で戦えるって」


 例え昨日のワタシでも、きっとその提案は受け入れられない。

 魔法薬でも、作戦でも、直接戦える力がなくても、ワタシだけが逃げ出すなんて絶対に嫌だ。

 ましてや。


「今のワタシは、自分で言うのも何だけど、強いから。少なくとも・・・そこのツキコさんよりは」

『・・・お前』


 憎々しげな眼で、ツキコがワタシを睨んでくる。

 だが、ワタシは負けじと睨み返す。

 

(この女には、絶対に負けたくない!!)


 ワタシはツキコの実力をよく知らないが、この眼で見る限り魔力は昨日までのワタシよりは高いが、今のワタシより二回りほど低い。

 そもそも、白上という人間のプレイヤーに寄生している以上、並程度の魔法使いのプレイヤーより弱いはずだ。

 怪異だってほとんどワタシたちの方に吸い寄せられていた可能性が高いのだし、大アルカナを倒してレベルアップを図るのも難しいだろう。

 レアで他属性に強い光属性で、この結界を見るに幻術を使えるようだが、出力に差がある以上真っ向から戦えば押し切れるし、幻覚はワタシに効かない。

 正面からだろうと、搦め手を使われようと、戦えばワタシが勝つ。


(だからこそ、さっき⑥を無効にされたのは痛かった・・・)


 誠二くんが契約の内容を説明したときに一番腹が立ったのは⑤だが、最も悔しかったのは⑥だ。


(誠二くんが忘れてても、ワタシには関係ない。誠二くんが気付いていないうちに、白上ごと倒せたのに・・・)


 白上を操る黒幕がいることには気付いていたのだ。

 そもそも、白上は人間のプレイヤーであり、いずれは倒さなければいけない相手。

 ならば、昨日の夜にでも倒しに行けば誠二くんにバレることなく白上もツキコも両方とも葬ることができた。

 だが、今はもうダメだ。

 

(誠二くんは、もうツキコのことを忘れない。そして、『ワタシがツキコのことを知ったこと』を知っている)


 こうなると、白上を事故に見せかけて殺してしまえば、いくら誠二くんでもワタシを疑うだろう。

 そうなってしまえば意味がない。

 恋敵を消したところで、結ばれなければ何にもならない。

 しかし、これは見方を変えれば好機でもある。


「ワタシは、この儀式を降りるつもりはない・・・だから、ゆくゆくは戦うことになるね、ツキコさん?」

『・・・小娘が』

「ふ、2人とも・・・」


 誠二くんがオロオロしているが、ワタシとツキコはにらみ合いを続ける。

 ・・・そう、搦め手が使えなくなったのは向こうも同じ。

 ワタシが白上を殺した場合と同じく、ワタシに何かあって死んだ場合も、誠二くんは確実にツキコを疑う。

 不用意にワタシを殺すことはツキコにもできない。

 結局は、ワタシに有利な直接対決する道しかない。

 ただし。


『お前、わかっているのだろうな?私と戦うということは、誠二と戦うことになるのと同義だぞ』


 誠二くんはツキコに一切危害を加えることができず、ツキコが持つカード以外を集めて渡さなければならない。

 すなわち、ツキコに最後まで生き残ってもらわなければならない。

 だから、誠二くんはツキコのことも守り抜かなければならず、ワタシとツキコが戦う場合はツキコ側に付く必要がある。

 今のワタシは強くなったが、戦闘では100%誠二くんに勝てない。

 戦うことになれば、敗北は必至だ。

 だがそれは、誠二くんとツキコの契約が最後まで続いていればの話。


「もちろん。でも、それはそういうことになるまでに契約を維持できていればの話だよね?」

『チッ』

「???」


 やはりツキコも気付いていたか。

 この契約だが、誠二くんなら一方的に破棄することも可能なのである。

 当の誠二君は気付いていないようだが、ならばここで教えてしまえばいい。


「誠二くん。誠二くんの死神の権能なら、契約魔法だって破壊できるんだよ」

「マジで!?」

「なんなら試してみてもいいんじゃない?」


 逆位置の死神の権能は、『終わりからの始まり』を強制すること。

 完全な終わりを意味する塔とは相克の関係にあったが、強力とはいえ権能も絡んでいない契約魔法の効果を無効にすることは難しくない。

 ただ、まあ・・・


「・・・いや、でも白上さんのこともあるし、最後の最後まではこのままでいいんじゃない?」

「・・・・・」

『・・・ふん、当然だな』


 誠二くんは、当面の所契約を破棄するつもりはないようだ。

 まあ、ワタシの予想通りでもある。

 

(不平等な契約だけど、②と③がある限り白上の安全は保証されてる。それなら、誠二くんだったら、割に合わなくても続けるよね・・・あと、よくわからない⑧のこともあるのかな。なんとなく、その⑧はワタシにとってすごく都合が悪い気がする)


 予想できていても、面白くはなかったが。

 ついでに言うなら、ツキコの得意げな顔も腹立たしい。

 しかし、これでおおまかに状況の整理と今後の方針は定まった。


(白上を操っていた黒幕はツキコ。そして、ツキコと誠二くんは白上を人質にされて契約を結んでいて、誠二くんは実質手が出せない。けど、ツキコがワタシに勝つのは無理・・・)


 白上の背後にいた黒幕の正体と、誠二くんとの関係。

 さらには、誠二くんが結んでいた契約の内容と、ワタシとツキコが双方ともに最後まで手を出せないこともわかった。

 そうなれば、ワタシがどうすればいいかも決まる。


(・・・考えてみれば、この契約は『途中までは』放っておいてもいい。どうせ最後には誠二くんが契約を壊すんだから)


 誠二くんはワタシのカードを含め回収する義務を負っているが、いざそこまで行けば、そこで契約を破棄すればいい。

 誠二くんの性格なら、白上のために最後の最後まで契約を維持するだろうが、ワタシと戦わなければならないとなれば契約を踏み倒すことを選ぶ。

 例え詳細のわからない契約がまだあったとしても、塔に襲われたときにワタシを助けに来てくれたことを思えば、ワタシの命を引き換えにするようなことは絶対に選ばない。

 問題はその後だ。


(誠二くんが契約を破棄した後、ツキコはどう動く?・・・確実に白上を人質にするよね)


 誠二くんが契約を残す理由は、白上の安全が保証されているから。

 そして、誠二くんが契約を反故にすれば、ツキコも白上を守る必要はない。

 そうなれば結局誠二くんは動けなくなるが・・・


(その状況だと、ワタシも動けない。儀式の怪異をすべて倒せた後にそういう状況になったら、誠二くんだったらワタシを説得して穏便に済ませようとするはず)


 最後の怪異を倒し、プレイヤーだけが残った後のカードの争奪戦。

 一番平和的に終わるのは、誠二くんとツキコの契約を継続したまま、ワタシがカードを譲渡してツキコを契約に従って白上の身体から追い出すことだ。

 ワタシを儀式から一抜けさせようとしていたのだから、誠二くんもそれをわかっている。

 だから、ワタシがカードを渡すのを拒否すれば説得しようとするはずだ。

 もしもそんなことになるのならば、ワタシはどうするか。

 

(素直に従う?そうすれば、ツキコはいなくなる・・・でも、そうなったらツキコを排除するっていう大義名分で白上ごと殺すっていう手は使えなくなる。それは勿体ないな。どうせそんなことになるのなら、白上は殺せた方がいい。ワタシがそのときまでに勝っていれば別だけど・・・待って?それなら)


 ふと、思い出した。

 ワタシたちが巻き込まれたこの儀式が何のために行われているのか。

 そして、思いついた。

 ワタシが想定してる状況にまでもつれ込んだ場合の『保険』について。

 もしも。もしもだ。


(・・・もしも、もしも、ワタシが最後まで誠二くんを振り向かせることができなかったのなら)


 考えてみる。

 ワタシの一番欲しいモノが手に入っているのなら、ツキコとの契約など好きにすればいい。

 そのときは、喜んでカードくらい譲ってあげられる。

 残念ではあるが、白上だってわざわざ殺すまではしなくてもいい。

 だが、もしも、ワタシの望みが叶わないのなら。

 誠二くんを、ワタシのモノにできないのならば。

 誠二くんの中に、いつまでも白上がこびりついているというのならば。

 そして、そんな中でツキコが『願い叶える儀式の完成』のために動くと言うのなら。


(この儀式は、『願いを叶えるおまじない』から生まれた怪異。カードをすべて集めれば、どんな願いでも叶えることができる・・・そうだよ。ワタシは、手段を選ばない。誠二くんと最後に結ばれるのなら、何でもいい。そうだ、ワタシは・・・)



--ワタシ、悪い魔女になるよ



(ワタシは、悪い魔女になるって決めたんだから。だから・・・)


 ワタシは決めた。

 元よりその意志を貫くつもりであるが、それが叶わなかった場合。

 その保険として、この儀式に参加した者が最後まで残ったときに行使できる権利の中身を。

 今まで一度も考えてこなかった、本来の参加者ならば最初から決めている『願い事』を。


(そうだ。そこで、はっきりさせよう)


 そこまでで、ワタシを選んでもらえるように全身全霊を尽くした上で。

 それまでに手に入るのならばそれでいい。それが一番いい。

 でも、そうじゃなかったら。

 ワタシの真の望みを知った上で、ワタシの『眼』の前でそれを拒絶するのなら。


(この儀式に、ワタシの願いを託してもいい)

 

 魔法のチカラを以てでも、その意志をねじ曲げたとしても、その記憶を陵辱してでも手に入れるだけだ。

 そのためには、用意しておかなければならないモノがある。


(考えておかなきゃ・・・誠二くんを倒せる方法を)

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