親愛なるスローライフの君へ、殺意を込めて
「それではあなたのご健闘をお祈り申し上げます」
「はい、女神様! 授かったこのチート、傍若無人の如く持て余すことなく振るわせて頂きましょう!」
はいはいワロスワロス。さっさと行けっつうんだよ。どうせこいつもテンプレ展開しか描くことのできない凡人だろう。
目の前のとりわけイケメンでもない、オーラもないこの少年はトラックに轢かれて死んで、この狭間の世界へとやってきた。
私の役目はこういうミジンコ共にチートを与えて異世界へと送り込むこと。
「ありがとう女神様! 俺、がんば」
少年がなんか言おうとしてたけど、ゴミ置き場にゴミを出すように転生させました。
「エリス……エリスよ」
一体誰なの? 一仕事終えた後の休息を邪魔する輩は。
【黒髪ロング、そこそこ豊満な胸。ピンクを基調としたジャージを纏っている者。これがエリス。
エリスは仕事を終えた後はいつもお尻をポリポリ掻きながらボケーと過ごす。】
「エリス……エリスよ」
さっきからごちゃごちゃうるさいわね。
どうせジジイだから無視しておこう。
【ジジイ】
<天界転生協会会長>。女神が役割を果たしているか時折確認しにくる。
「エリス……エリスよ」
「…………」
「……あ、もう分かった! そういう意地悪な子にはこの『転生者たちと触れ合おう』というチケットはあげないもんね!」
「待って待ってなにそれ!?」
声が聞こえてくる上空に向けて、叫ぶように問いかける。
「え、これ? 転生者たちに会いに行ける夢のチケットだよ」
ルールとして、私たち女神は転生者たちには干渉することができない。
転生させた後は、水晶で転生者たちの日々を観察しているだけだ。これが業務時間内の唯一の暇つぶし。だけど最近の転生者どもときたら、ハーレムやらスローライフやら、無双やら、ワンパターンの展開しか見せてこない。
……そうだ! 良いことを思いついた。
「欲しいです! 下さい!」
「いいよ〜。楽しんできてねー」
「ありがとうございます!」
胸あたりに小さな光が現れて、次第にその光はシルバープレートへと変化した。
「そのチケットを保持している者は、転生者たちに自由に会いに行っても良いんだよ。今までよく頑張ってくれていたからねエリスは。息抜きでもしてきなさいなー」
「うぇーい! サンキュー!」
ふふふ。無自覚だとかほざいているアホ共め。
貴方たちはいつまで余裕ぶっていられるかな?
この──、『裏ボス』の前で!
「最初のターゲットは……よし、あの子で行こう」
子猫を助ける際に、横から突っ込んできたトラックに轢かれた少年。子猫は助かったものの、そのまま死んでしまったあの少年。その少年らしいチートの使い方をして、今や仲間達とのんびりスローライフを満喫している。
でもごめんね。それもここまで。今からそこに押しかけてやるわ! そして貴方をボコってやる!
行き先を設定して、ゲートを開く。
「おぉ……、リアルに見るとやっぱり凄いわね」
スローライフの少年の世界へと着いた。
ここは前までは荒れ果てた土地だったのだが、少年のチートにより緑豊かな自然あふれる森林へと変わっていた。
「少年は、あそこね」
一キロ程離れた場所から少年の気配を感じる。
「よっと」
ドギュン! という音を立て、光速で駆けて行く。
森の木々には如何なる方法をもってしても破壊することのできない施しがされているけど、破壊しながら進んでいきます。
これは私が与えた『一呼吸』に過ぎない! 破壊するなんて朝飯前よ!
ほんの一瞬で少年の元に辿り着いた。
茶色の短髪に半ズボン。爽やかな雰囲気だ。そして、周りには仲間と思しき者たちがいる。
「ん? え、女神様!?」
「がーはっはっはっはー! 今は違う! 私は──裏ボスよ!」
「え、裏ボぐわぼぉぐえ!?」
少年の頭にゲンコツを喰らわすと、少年は地面に一瞬で食い込み、恐らく反対側へとすっぽ抜けたことだろう。
周りから悲鳴やらなんやらが聞こえるが、しりましぇーん。
ドゴゴゴゴ……。
「おっと……」
いけないいけない。今のでこの星の核を貫いてしまったようだ。
この星はあと一日も経たずにビッグバンを起こすことだろう。まぁ私なら全然生き残れるけど。
「じゃあねぇ〜」
再びゲートを開いて、天界へと戻る。
少年の仲間たちよ、恨むのなら私を退屈させた少年を恨むのだな。