衝撃の事実
(ハトにとって)
よろしくお願いします!
ハトが元人間であり、かつ、別の世界からの転生者である。それは今更のように感じられるが、ハトにとっては重要な情報だった。なぜなら、ハトの記憶は不透明で何が正しく、何が間違っているかがわからず、それを判断するための記憶もないからだ。
もちろん、自分でもその可能性に気づいていなかったわけはなく予測していたことの一つだった。しかし、無意識にその考えを拒否し、考えないようにしていた。
「え?ちょっと待って!?別の世界って……やっぱりここは別の世界なの!?」
そのため、ハトは突然にここが別の世界だと判断されたことに驚き、そして、どこか悲しみの表情を見せた。その悲しみの意味はハトにしかわからないというのに、ハトにもなぜこんな気持ちになるのかはっきりしない。
ショウはそのハトの様子に気づき、記憶喪失が関係しているだろうと予測までしているが、何もしてやれないことはわかっているため、口を出さずにそのまま会話を続ける。
「……うむ、それに関してはほぼほぼ確定と見ていいと思うのだ。その理由としてまず一つ、お主が自分の体を見て違和感を覚えたことから世界による自然発生ではないと思われるのだ」
「……どういうこと?確かに違和感はあるけど」
「もし、の話であるが、お主が自然発生であれば体に違和感など覚えぬし、そもそも記憶は完全にリセットされているはずなのだ。生まれたばかりの赤子に記憶なんてないのだ」
ショウの言い分は至極真っ当で、それが本来当たり前なものだった。つまり、ハトがレアケースなのだ。
「……!なるほど、体がもとから大きかったから考えもしなかった……けどさ、人間かどうかははっきりしないんじゃ?ショウだって人間じゃないのに喋ってるんだから」
ハトは自身が転生者である可能性が高いことには納得することができた。しかし、だからと言って生前が人間であることの保証はない。なにしろ、目の前に喋る小動物がいるのだから。
これに対してショウは、
「いや、その可能性は低いのだ」
と、ばっさりと否定する考えを示した。
「え、なんで!?」
「これについては段階を踏んで説明する必要があるのだ」
ショウはそう言うと小さな可愛い手を器用に動かし、指を一本立てて説明を始めた。
「まず、ハトの記憶についてなのだ。お主の記憶は靄がかかっているだけで忘れてはいない。であれば、違和感を覚えることイコール、記憶に引っ掛かりがある可能性が高いのだ。細かいことまではわからないのだが、今回みたいなYESか NOかならそれなりに確度が高いのだ」
ショウの言うことはハトとの質疑応答をもとに考えて予測されたものだ。ケースが少ないとはいえども、ハトがYESかNOかの質問には答えることができたことは事実であり、一考の余地がある。しかし、それでもハトは思い出せないことが多いために自分のことを信用することができなかった。
「……そうかな?僕の勘違いかもしれないよ?」
ハトのこの返答をショウは予想していたらしい。そのため、本来であれば面倒なハトの言葉に、ショウは特に気にした様子も面倒くさそうな様子も見せず、
「ハトが記憶に自信がないことはわかっているのだ。そこにもう一押しなのだ。ハトは霊術を見た時点で何も思い出すことはなかったのだな?」
と、ハトの疑問を解消するための説明を続けた。
「うん、そうだけ、ど……はっ!ということは僕の記憶として存在しない……?」
そして、ハトはここまでの説明から自分でショウの言わんとすることにたどり着いた。
「そうなのだ!もちろん、記憶に引っかかることなく思い出せないだけかもしれないのだが……自分のことという重要な記憶ですら引っ掛かりがあるのだ。だから、その可能性は低いのだ」
「……うん、そうだ。一番大切だと思えることも、思い出せないっていう感覚があるよ」
ハトには思い出せない記憶がある。何よりも愛しく、大切な記憶だ。その存在の感覚はつい最近のことのように思い出すことができる。
「ほう!では、ほぼほぼ確定と見てよさそうなのだ」
それほどの大切で重要な記憶ですら引っかかるのだから、全くの無反応であればそもそも記憶にないのでは?というのがショウの推測だ。ハトもここまでは納得することができた。
「けどさ、それがどうして僕が人間だってことに繋がるの?」
しかし、それでもハトが人間であったことの可能性を高めるにはまだ足りない。
「うむ。実は、歴代の勇者、別の世界から召喚された者の発言から別の世界には霊力や霊術といったものが存在しないことがわかっているのだ。それと、その世界に人間以外の言語を操る生命はいないことも。これはつまり、ハトに霊力の記憶がなかったイコール、ハトは別の世界の人間であった可能性が高いと考えられるのだ」
ショウは長々と説明をし、その判断の妥当性を提示し、最後には別の世界から来た人物たちの証言までも引っ張り出してきた。ハトは懇切丁寧なショウの説明に納得し、自分が人間か否かの悩みがすっきりと晴れた気分になった。
「なるほど!それなら納得できそう!」
「それはよかったのだ。ただし、念のため言っておくのだが、これはあくまで可能性の話なのだ。我の推測が間違っていることもあり得ることは頭の片隅に入れといてほしいのだ」
「うん、わかった」
ここまででハトの記憶の話は一旦、ひと段落し、二人、いや一羽と一匹はようやく一息つくことができた。
ありがとうございました!
もし、面白いと感じたり、これからも読みたいと思ったりしていただけましたら、ぜひこの下にある☆評価やブックマークなどで応援していただけると嬉しいです!