不思議な出会い
よろしくお願いします!
空を飛び、コブ率いる部隊との戦闘があった場所から離れ、ハトはもといた木のてっぺんへと戻っていた。
「はぁ……疲れたぁ。もうこれ以上関わりたくなくて逃げてきちゃったけど、知らないこととか、わからないこととか聞けばよかったかなぁ……」
戻ってすぐにこの世界について聞かなかったことを後悔するハト。そもそも、ハトはこの世界が元いた世界と違うことすら完全には理解していない。ただ、自分が不死鳥であること、魔法じみたことができたことに何となく思い出せる元の世界とは別の世界である予感はしている程度だ。
「けどなぁ……どこか辺境の地の森の中っていう可能性もなくはないだろうし、やっぱり聞いておけばよかったー!」
空を飛んでいるのは見た限り自分だけであり、元いた木のてっぺんに近づいたこともあって、どうせ誰にも聞かれてないんだー!と、ハトは後悔を口に出す。
しかし、そんな時は得てして誰かに聞かれているものであり、
「何を聞いておけばよかったのだ?」
と、ハトは誰かから問いかけられてしまった。
「えぇ!?だ、誰?一体どこから……」
ハトは慌てて問いかけてきた主を探すが、それらしい人物は見かけられなかった。もしや、自分と同じような鳥だろうかと背後や下を見てみるが、こちらを見ているものを見つけることはできなかった。
気のせいだったかな……と、ハトが思い直したとき、
「おい、どこを見ているのだ。こっちだぞ」
と、正面から声がかけられた。そこはハト自身が降り立とうとしていた場所、つまりは巨大な木のてっぺんだ。
ハトはバッと顔を上げて声のした方を見るが、そこに人はいない。だが、その代わりに緑の中に茶色のもふもふがあるのを発見した。
「もふ……?」
「もふ……?まあいいのだ。そうだ、ここにいるぞ。それより、さっきは急に叫んでどうしたのだ?」
「毛玉がしゃべったぁぁーー!!?」
「また叫んだのだぁーー!?」
そのもふもふの毛玉がしゃべったことに驚き、ハトは声を上げながらバランスを崩して落下していった。
残されたもふもふの茶色い毛玉は呆れながら、
「一体、なんなのだ……」
と、ぼやくのだった。
それから少しして、ハトは空中でなんとか体勢を立て直して戻ってきた。
「はぁ、はぁ……死ぬかと、思った……」
「鳥類が、それも不死鳥が落ちて死ぬとかとんだ笑い話なのだぞ」
「わぁ!?やっぱり喋ってる!?」
ハトが木のてっぺんへ戻るとそこにはまだ、茶色いもふもふがいた。
「動物が喋っているという点ではお主も人のことを言えないぞ?」
「人……?」
「今はそこはいいのだ。そこを突っ込んだらめんどくさいのだ」
ハトのツッコミを軽く流し、茶色いもふもふはやっとその姿の全体像を見せた。二足歩行ですくっと立ち上がって、両手を上げてこちらを威嚇してくる。
その尻尾は太く逞しく、口元から見える牙は白く鋭い。
焦げ茶色の両手両足、赤茶色の胴体と頭。
その正体は……レッサーパンダだった。
「あぁ!レッサーパンダだぁ!!」
そのレッサーパンダの愛らしい威嚇にハトは大興奮となる。
「こっちは威嚇してるのだぞ……ちょっとは怖がるなりしてみたらどうなのだ」
そんな様子のハトに茶色いもふもふの毛玉もとい、レッサーパンダは呆れた声を上げる。
興奮気味のハトだったが、レッサーパンダに苦言を呈されたことで少し落ち着きを見せた。
「ご、ごめんなさい……つい、知ってる姿だったので……ん?あれ??」
そして、ハトは咄嗟に謝罪の言葉を口にしたが、なぜかその自分の言葉使いに強い違和感を感じていた。
「……ほう?不死鳥が敬語を……」
「え?」
レッサーパンダはハトの様子に何か気づいているようだが、これについてハトに対して何か言うことはなく、
「いや、すまない。こっちの話なのだ。まぁ、そこまで気にする必要もかしこまる必要もないのだ。お主は不死鳥なのだから、楽な話し方でよいのだぞ?」
と、謝罪の言葉を快く受け入れ、それだけでなくハトに対して気遣いの言葉すらかけてくれた。
「あ、うん。ありがとう、えっと……」
ハトは楽な口調に戻すと違和感は綺麗さっぱりなくなった。これに対してお礼を伝えるが、ハトはここで互いに名前すらまだ知らないことに気づいた。そうして、なんで呼ぼうかと悩んでいるとレッサーパンダはそれを察して、
「……ふむ、そういえば自己紹介すらまだだったのだ。これは失礼したのだ。我の名はショウ。よろしくなのだ」
と、自ら名乗った。ハトはショウの小動物らしからぬ理知的で落ち着いた様子に驚きながらも、名乗り返した。
「……よろしく、ショウ。僕はハト、さっきはいきなりごめん。言い訳になるけど、まさかこんな高いところに誰かいるとは思ってなかったんだ」
「それは別にいいのだ。誰だってこんなところに誰かがいるなんて思わないのだ。それよりもなのだ。我はお主に、ハトに少し話があるのだ」
ハトが名乗ると同時に先ほどの非礼について再び詫びるも、ショウは全く気にしていない様子であり、それよりも話があるという。
「話?申し訳ないけど、実は僕、覚えてることがほとんどないんだ。正確には思い出せないっていう感覚なんだけど……だから、あまり話せることはないと思うよ?」
ハトはショウの今まで見せてきた姿から少し信用を置き、そうするべきだと考えて正直に自分の事情を話した。
しかし、事情があるのはハトだけではなかったようだ。
「それでもいいのだ。というか、我の知りたいことの手がかりがハトにしかないのだ」
「手がかり?」
「うむ。我はここから原因不明の超巨大な霊力を感知したために調べにきたのだ。と言っても、その原因は十中八九、ハト、お主なのだ。だから、ハトについていくつか教えてほしいのだ」
その事情とは、そもそもの目的がハトであるもいうものだった。しかし、これに対してハトはあまりいい反応を示さなかった。
「うーん……」
その理由として、真っ先に自分を目的とした相手、コブ達と出会い痛い目にあったからだ。もうあんな目には遭いたくないと思うと同時に、目の前の愛らしい姿のショウがそんなことをするだろうかと悩んでいると、ショウはハトに利がないことで悩んでいるのだろうと考えたらしく、ハトに対して交換条件を出してきた。
「勿論、タダではないぞ?我の知っている範囲でハトの知りたいことを教えるのだ。記憶喪失のハトには魅力的な話だと思うのだぞ?ちなみに知識量には自信があるのだ!こう見えて我は長生きなのだぞ!」
「あ、うん……そうなの!?」
ハトは悩みながら聞いていてなんとなくぼんやりと聞き流しそうになったが、その内容を頭の中で反芻していると驚くべきことがあることに気づいた。
「そうなのだ!百年を超えてからは数えてはないが、それすらも遠い昔なのだぞ?」
「ひゃ、百歳!?なのに、そんなに若々しいんだ……毛並みとかすごいのに。というか、そんなに生きれるの?僕のこと、騙してない?」
ショウの理知的な部分からは知識が多いということに納得できるが、見た目では全くもって納得できない。毛並みは艶々としており、動きは滑らか。決して老人、いや、老レッサーパンダとは考えられない。ましてや、レッサーパンダが何百年も生きるなど聞いたこともないのだ。……いや、目の前のレッサーパンダが喋っていること自体ありえないのだが。
「身だしなみを整えるのは相手に対する礼儀なのだぞ?勿論、自分の気分を昂揚させる効果も見込めるのだ。面倒と一蹴するのはあまりに勿体無いのだ」
ショウは見た目の理由について説明してくれて、それはとても高尚な理由であった。しかし、ハトの求める答えとはズレており、それだけでは理解できないものだったため、ハトはあまり深く考えてはだめなのだろうと考えるのをやめた。
「ほぇー……人とよく会うんだねー」
「まぁ、これだけ生きてるとそれなりに交友を持つのだ。どれも得難いものだぞ?……っとと話が逸れたのだ。で?この取引、どうするのだ?」
ハトは悩む。これまでの印象からすればショウは悪い奴には見えない。ショウの発言からすれば、身だしなみを整えていることからこちらに対して礼を持って接していることも伺える。だが、その前の出来事がハトの一歩を踏みとどまらせる。
しかし、だ。不死鳥である自分に対して人間が好意を持って接してくれるかどうかの保証はなく、ショウのような存在が今後現れないことの可能性に思い至ったことで、ハトは決断した。
「……わかった。じゃあ、お願いするよ」
「よしきた!なのだ!!」
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