死の恐怖
よろしくお願いします!
「うわあああああああああ!!!!!!!!!!??」
吸われる大切なものが致命的なそれだと直感したハトは突如、急激に迫ってきた死の恐怖に、目も当てられないくらいに喚いて半狂乱となる。
あの時は気丈に振る舞う必要があった。……を心配させないため、悲しませないため。しかし、今はその必要がない。
あの時は必死になって気取られないように隠していた恐怖、……がそばにいる安心感から何とか隠し通せた恐怖を、今は一人だけで感じている。耐えられるはずがなかった。
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だぁぁ!!?死にたくない、死にたくない……!!」
ハトのこの尋常じゃない様子に、部下を宥めていたハトを捕らえている部隊のリーダーらしき人物も気付いたらしい。
「……ん?お主もどうした?何を言っておる。お主は不死鳥、完全に死ぬことはないであろう?何を怖がるというのだ」
部隊のリーダーはハトを不死鳥と呼び、そして、死ぬのが怖いと言っている不死鳥であるハトを心底不思議に思っている様子を見せた。
しかし、過去の記憶からこの感覚が死であることが明白であるハトにとっては悠長に会話をしている暇などない。今の状況をどうにかするため、矢継ぎ早に言葉を叩きつける。
「離して!!やめて!!どうして!!何でいきなりこんなこと……」
「ん?……どうにも話が噛み合わんな。今更、いきなりも何もないだろう。すでに数えきれないほど顔を合わせておろうに。こちらこそ、急にどうしたと聞きたいほどだ。お主の今の様子はまるで初めて会ったときみたいだぞ?」
そんなハトに対して部隊のリーダーは、冷静に互いの認識の違いを確認しようとする。しかし、そこには余裕がなくまともに言葉を聞き取れないハトにとっても決して無視できない、聞き逃せない言葉が含まれていた。
「……!!?これを、何度も……?あ、あ、あああああぁあぁあああああ!?嫌だぁ!!!離して、離してよ……離せぇぇぇ!!!!」
半狂乱となったハトは死に物狂いで全身に力を入れながら叫んだ。
「ぬぅ!?」
その圧力に思わず部隊のリーダーは後ずさり、他の隊員の中には腰が抜けて尻もちをついている者もいた。
だが、ハトがどうあがいても現状が変わることはなかった。結界の基礎となる刀がカタカタと揺れていたが、すぐに部隊の隊員達に抑え込まれてしまった。そうすると、円形の結界は一切の揺らぎも見せない盤石なものとなってしまった。
それを見たハトはもうここまでか、何もわからないまま死んでしまうのか、そう考え、その感情は涙となって零れ落ちる。そして、どうしようもない現実を受け入れたくないと最後の抵抗として瞳を閉じた。
その時だった。
ハトは心の中で、バチバチと音を出しながら導火線を伝うかのように迫ってくる紫色の火を見た。
それがまとう雰囲気は禍々しくて、普通の人であれば自身に近づくことを拒否したであろうものだ。しかし、ハトはそれにどこか懐かしさ、愛おしさを感じていた。
ジリジリとにじり寄ってくるその火をハトが受け入れたとき、ハトの全身は現実で紫色の爆発を起こした。
「ぬぅおぉぉぉぉ!!?何だ、何が起きた!?」
叫んだと思えば黙り込み、諦めたのかと思えば全身を爆発させたハトに、最早、部隊のリーダーですら状況についていけなくなってきていた。他の者は吹き飛んでしまい、安否の確認もできない。
結界や装置は壊れ、周囲の木々も吹き飛び、更地となった空間を見た部隊のリーダーは完全とは言えないまでも瞬時に現状を把握し、何らかの術により結界や装置が破られたのだと察した。
しかし、現状を把握し、何が起きたのか察しても、理解はできなかった。
「なぜだ!?このカラクリによって作られた結界の中では神の火を除いて、霊力を術にできないはず!それはこのカラクリをつくられたあのお方も例外でない!!今までだって神獣である不死鳥すらも封じ込むことができていたのだ!!お主、何をした!!?」
部隊のリーダーの問いにハトは答えない。否、答えられない。なにせ、先ほどの爆発で全身が吹き飛んで原形をとどめていないのだ。
そんな状態のハトに口や耳があるはずもなく、何も見えない、何も聞こえない世界にハトはいた。だというのに、ハトにはそんな世界でとある声が聞こえていた。
『生きて……!!』
あの紫色の火は優しさに、思いに、愛に満ち溢れていた。そして、そこに込められた強い狂気にも似た願いは、ただハトに生きていてほしいというものだった。
狂乱するほどに荒れ狂っていたハトの心はまるで豹変したかのように急速に落ち着きを取り戻していた。ありがとう、ハトはその一言だけを、思い出すことのできない相手に心の中でつぶやく。
そして、ハトは現実へと引き戻された。
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