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覚悟の証明、人任せ

お久しぶりです。

よろしくお願いします!

 ハトが特訓を、そしてショウが召喚術の準備を開始して三日が経った。



「三日……経ったわよ?進捗はどうかしら」


「……むぅ?もう来たのだ?」


「もうって……はぁ。まさか終わってないなんて言わないわよね?」


「はっ……まさか、なのだ。ただ、朝一で来るとは思ってなかっただけなのだ」


「ふーん……まぁいいわ、終わってるなら。早く説明しなさい」


「……お主なら口で言うよりも見た方が早いのだ。ついてくるのだ」


「……わかったわ」



 ショウのもとへと訪れたラフォレは三日間の成果を要求する。それもそのはずで、ラフォレはショウに程度は知らないが手伝いを請われており、当然ながらその内容を知る権利があるからだ。しかし、ショウはその場では説明をせず、実際に目で見ての理解を求めた。ショウのしようとしていたことはある程度の想像がついていたため、ラフォレからしてもその方が早いと判断して素直にショウの後ろを歩く。


 トコトコ、ヒタヒタと小さな足音と素足の足音がやけに大きく聞こえる。木々が見守る中、静寂に耐えかねたのか、先に口を開いたのはショウであった。



「……ハトの特訓は?」



 事実として。ショウは自身の準備に掛かり切りであり、ハトの様子を伺う暇など全く無かった。ラフォレがついていることから心配こそしていなかったが、その進捗くらいは気になるというモノだ。



「上々……とは言えないけれど。悪くはないわよ。多分、ウツワと戦った時に何らかの覚えがあったのね。かなり成長してるわ」


「むぅ……勝算は?」


「ハト一人なら二割、かしら」


「……成長して、なのだ?」


「そうよ。ハトは戦闘において素人も素人。戦場に身を置いたことなんてなかったのね。そんな状態でウツワと戦ったのは本当に無謀よ」



 ウツワとハトを戦わせたことを責めるような口ぶりでラフォレはハトの実力について淡々と語る。成長していることは事実であり、決して喜んでいないわけではない。ただ、実力を把握したからこそ、勝率が一割にも満たない戦いに挑ませたショウに憤りを覚えているだけだ。



「勝算は……なかったわけではないのだ」


「そうね。けど、一割もないでしょう?あなた、少し神獣に夢を見過ぎじゃないかしら?」



 ラフォレの指摘する通り、ショウは少し神獣に夢を見過ぎている。確かに、ポテンシャルだけで言うのであれば、神獣であるハトはウツワに勝ちうるだけの能力はあるのだろう。しかし、生まれ持った力でもなく、大きすぎる経験の差がある状態で神獣の能力を十全に使いこなすなど土台無理な話なのだ。



「……むぅ」


「はぁ……むぅ、だなんて白々しい。私が言わなくてもそんなことわかってるくせに。というか、わかってて戦わせたのでしょう?」


「……」



 ラフォレの指摘に唸るショウだったが、ラフォレにはショウの狙いはすっかり見透かされており、ただ無言になるしかなかった。そんなショウを見ながらラフォレは言葉を続ける。



「ハトの魂と神獣の体は全くと言っていいほどに馴染んでいなかった。そして、あなたにもそれをどうにかする術はなかった。だからこそ、カンフル剤としてウツワと戦わせた。ショウ、あんたはハトの心を軽視しすぎよ。そんなだから、ウツワなんていう面倒極まりない奴に目をつけられるのよ」



 ラフォレが何よりも憤りを感じる点は、ハトの心を軽視した点である。たしかに、ハトの属性である『再生』ならば万が一にも殺されるような心配は不要だろう。しかし、霊力のコントロールが不十分であるが故に痛みは感じてしまう上、相手は自身を殺す気で来るのだからハトの心に消えない傷をつけかねない賭けであったのだ。



「……わかってるのだ。だから、今回は万全の準備をしているのだ。幸いなことに、お主に出会えたのだから無駄ではなかったのだ」



 ただ、ショウとてそのことを理解していないわけではない。当初、ハトの心を理解しようとせず、自分の判断基準で行動をしてしまっていたのは事実だ。ウツワの使った転移に怒りを覚えたことは嘘ではないが、戦う理由としては不十分。それでも、無理矢理にハトを戦場に立たせた。優しいハトを、その優しさにつけ込んで自分が逃げないことで戦場に立たせたのだ。だからこそ、もうなりふり構ってなどいられない。そうでなければ、二度とハトの横に立つことなどできないのだから。



「ふんっ、どの口が幸いなんて言ってるのかしらね」


「いいや、本当に幸いなのだ。ハトにとっても……我にとっても」


「……なによ」


「もうすぐ、つくのだ」



 突然、自分に出会えたことが幸いだと言ってきたショウの気味悪さに悪態をつくラフォレに対して、覚悟を決めたような目を向けたショウは、目的の場所が近づいていることに気づき、話をしていたことによって遅くなっていた歩みを速めた。



「さっきの場所では少しばかり、手狭になってしまったのだ。だから……スミレに言って広い場所を借りたのだ」


「そうらしいわね。一応、報告として聞いてはいた、わよ……?」



 三日間、一度もショウのところに訪れなかったラフォレだが、その様子はスミレら森の民から報告を受けていた。故に、ある程度ではあるが、ショウのしていたことは理解しているつもりだった。しかし、ショウの完成させたモノを見た瞬間、言葉が詰まってしまった。



「……ッ!?しょ、ショウ、あなた!?これはなに!?」



 ラフォレがなんとか絞り出した声は、驚愕だけでなく、言葉にできない様々な感情を孕んでいた。



「……見ての通り、ただの召喚術式陣なのだ。ただし、サイズは普段使いの物とは比較にならないのだが。頭の中に描いたことはあっても、さすがにこのサイズの物を描くには骨が折れたのだ」


「そんな話をしてるんじゃないわよ!あなた、この流れてる霊力は……!!」


「もちろん、こんな術式陣に必要な霊力は計り知れないのだ。言ったように、我にもアテはあったのだ。それを使ったまで」


「〜〜ッ!!……あんた!!そのアテは!!!」


「わかってる。お主に責める資格があるということも。見逃せとは……言わぬ」


「ーーーはぁ……わかったわ。これは、確認よ。拒否権は、無いと思いなさい」


「……うm」


「『根貫』」



 ショウに対して責めるように、怒ったように言葉を叩きつけるラフォレだったが、淡々と説明を続けるショウを見て、声を荒げるのをやめた。そして、静かな態度のまま、確認、と称して霊力のこもった言葉を放つ。霊力のこもった言葉、それ即ち……霊術である。


 ラフォレの言葉に応え、周囲の木がザワザワとさざめく。葉の擦れるような音が止んだ次の瞬間、地から伸びたいくつもの根が先端を尖らし、ショウに迫った。それらは容易にショウを貫き得る威力であったが、ショウはその場から一歩も動かず、ラフォレを見つめ続ける。そして、ショウに突き刺さると思われた木の根は……その全てが漏れなくショウの寸前で止まっていた。



「……答えを」


「……あなた、ここまでしてバレないとでも?もう、何を言っても遅いわよ」


「……知った事じゃあ、ないのだ。ハトの事以上に今、重要な事などないのだ」


「あっそ……どうせ、私から直接何かできるわけじゃないし。せめてもの温情をあげるわ」


「温情?……言ってみるのだ」


「ウツワとの戦いが終わるまで、待ってあげるわ」


「……我は我の道を行くぞ」


「……好きになさい。イアのことを許すつもりはないけれど……どうせ、あなたには破滅の道しか待っていないのだから」


「……ふん」



 突きつけられた木の根はいつの間にか消え、盛り上がった地面は元に戻っていた。変わった所は一つだけ……ラフォレの立っていた場所に残された、うっすらと湿った地面のみだった。





 会話を終えたラフォレとショウは、ハトの下へ足を運んでいた。白く発光するハトが見えてくると、ショウが声をかけるよりも早く、神獣の五感をもってして向こうが気づいて声をかけてきた。



「あっ、ショウ!どう?僕を納得させられそう?」



 三日ぶりだというのに久しぶりの一言もなく、ハトの第一声はショウの三日間の成果についての質問だった。三日ぶりだからこそかもしれないが、もう少しゆっくりと話したいものだとショウは思う。しかし、時間がないことも確かであるためにそのことに言及はせず、



「ラフォレ、頼むのだ」



と、手っ取り早い解答をする。結局のところ、ショウがいくら自ら自分の成果を示しても説得力は皆無なので、ショウの成果を確認したラフォレに頼んだのだ。



「あなたねぇ……全く。ハト、私が保証するわよ」



 そして、ラフォレはショウの態度に呆れつつも、自身が説明した方が説得力が増すことは理解しており、ハトのために、ハトのためだけに渋々説明を始める。決してショウのためではないと言含めておく。



「あれ、ラフォレはもう見てきたの?」


「えぇ。頼まれてたこともあったから、そのことの確認がてら、ね」


「あ〜、そういえば。それで……どうだった?」


「あなただけだとウツワに対する勝率は二割って言ったのは覚えてる?」


「……うん。それがどうしたの?」


「……はぁ。認めたくないけど、ほんっとうに認めたくないけど……ショウがいれば、六割に届くんじゃないかしら?」


「えっ、そんなに!?」



 勝率六割。それはハトにとって大きな数字だ。元々、ほぼないとされていた勝率だったが、ハトは自身の頑張りによってそれを二割まで持ってきた。ただ、それでも二割だ。最初に聞かされた時はあまりの悔しさに涙を堪えきれなかった結果だった。しかし、ショウがいることで四割も増え、互角以上の戦いができるとなれば驚くのも無理はない。



「霊力の消費量が少しネックのはずだったのだけれど……ショウのアテとやらによって解決したわ」


「……そっか。……そっか!それなら納得せざるを得ないね!!」



 ラフォレの説明を受けてから数瞬ほど呆けた顔をしていたハトだったが、そこには段々と笑みが浮かびあがっていた。



「……むぅ?ハト、ホッとしてるのだ?」



 ハトの嬉しそうな様子は表情だけでなく声色からも伝わってきた。しかし、元々ハトはショウの戦いへの参加に反対をしていたはずである。そんなハトが喜んでいることにショウは疑問を覚えて理由を問いただそうとした。



「あはは……わかる?ショウなら僕が納得しなくてもついてきそうだったから。ウツワを知ってるラフォレが言うのなら、安心できるよ」


「うぐっ」



 返ってきた答えは、ショウにとって正直なところ図星であった。仮にラフォレから協力を得られずとも、あの手この手あらゆる手を使ってでも、ショウは戦いに関与しただろう。ショウは藪蛇をついてしまったと言わんばかりの声が、つい漏れ出る。


 そんな二人の様子を満面の笑みで眺めていたのはラフォレだった。先ほどのハト以上に楽しそうな雰囲気を全面に出し、ニヤニヤとショウを文字通り見下す。



「ふふふっ!信用ないのね〜、ショウ」


「嬉しそうにするんじゃないのだ!ふんっ、信頼なんてすぐに取り戻してみせるのだ」



 ハトの無邪気で辛辣な言葉がショウの胸にグサリと刺さり、それを見ていい気味だとラフォレが笑う。


 この三日間、一度もなかった和やかな雰囲気が空間に広がる。



「はぁ、ついつい笑いすぎてしまったわ。さて……そろそろかしらね」



 しかし、そんな雰囲気は長続きしない。すぐに、嵐の前の静けさであったと知ることとなる。



「うん?どうしたのラフォレ」


「面倒なのがくるわよ。準備なさい」



 ラフォレの言葉にハトが反応してその顔を見る。そして、ラフォレの視線が上に向いていることに気づき、ハトもつられてそちらへ視線を向ける。


 それはなんて事のない、ただ枝の先についている葉が揺れてるだけの光景だった。ただ、その葉が枝からプツリとちぎれてひらりと落ちると、その光景は様変わりすることとなる。



「……見つけた」



 ボソリと呟かれただけで小さいはずのその声が、やけに鮮明に耳に届く。その途端、既に鳥肌であるはずのハトの全身を、ゾワリと鳥肌が立つような寒気が襲う。


 森すら黙りこくった静寂の中、落ちる葉と共に木々の隙間から現れたのは、全ての元凶とも言えるウツワ、その人だった。


 現れたウツワは、一度ハトに視線を向けた後、その視線を険しくしてラフォレに向ける。



「ラフォレ。貴様、これはどういう了見だ?」


「あら、あなたならてっきり気づいて見逃してるものかと。随分と腕が鈍ってるんじゃないかしら?」



 背筋が冷えるような視線を一身に受けるラフォレだったが、そんなことはまるで気にしていないかのように飄々とした態度でウツワを煽り返していた。


 そんな余裕なラフォレに対して、ウツワは何故だか余裕のない表情を浮かべて口を開く。



「御託はいい。さっさと戦わせろ」


「はぁ……化けの皮剥がれかかってるわよ。まだ、二十年も経ってないはずだけど?」


「……おっと、失礼。で、場所は?」


「あぁ、もう取り繕う余裕もないのね。全く……いいわ。森の奥、いつものあの場所に向かいましょう?」


「……あそこか。先に行ってるぞ」


「好きになさい」



 ハトが言葉も出せないでいる中、ラフォレとウツワがいくつか言葉を交わしだと思えば、ウツワはその場を立ち去った。ハトの頭にその内容は入ってきていない。しかし、これだけはわかっていた。これから、『アレ』と戦うのだと。



「さ!と、いうわけで。これから戦いになるわ。スミレ、この村、そして、周囲の村の防衛を」


「はい、ラフォレ様。いつもより……」


「そうね。いつもより厳重にお願い」



 ハトはまだ意識を切り替えられないでいるが、それでも周囲は待ってくれない。スミレは村の防衛に動き、



「ふむ……では、我も準備に入るとするのだ。すまない、ハト。想定よりも奴が来るのが早かったのだ。すぐに向かうから先に行っていてほしいのだ」


「私は?」


「当然、我と共に来るのだ。わかってて聞くんじゃないのだ」



ショウはラフォレと共に戦闘の準備へと移る。



「はいはい……それじゃあ、ハト。あなたは一人で向かって頂戴。……ハト?」


「…………はっ!?え、えっと、な、なに?ラフォレ、何か言ってた?」



 話は済んだが、肝心のハトには何一つ頭に入っていやしなかった。それもそのはず。先ほどのウツワは先日出くわした時と別人かと思うほどに雰囲気が異なっていた。纏う霊力は冷たいかと思えば荒々しく。まるで今にも爆発してしまいそうだった。



「……ハト、それも修行の成果よ。及び腰になるのも仕方ないわ。それでも、やるって決めたんでしょう?……ショウと一緒に世界を巡るんでしょう?」


「……うん」


「それなら、行きなさい。場所は……知らなくてもわかるわよ。教えたでしょう?あいつの霊力の跡を辿りなさい。……できないとは言わせないわ。ハト、頑張りなさい」



 ラフォレの言葉はハトにとって厳しいモノだった。しかし、それと同時にハトに対する信頼や優しさなんかも伝わってくる。それは、まるでハトがショウに向けるようなモノで。ハトは、どうしてもそれに応えたくなる。



「……わかった、ラフォレ。それじゃあ、ショウ。また、後で」


「うむ。……絶対に、勝つのだ。絶対なのだ」


「うん、絶対に勝とう」






 ハトが特訓していた場所よりも村から離れた地点、そこにはおあつらえ向きな開けた場所があった。そこにウツワはいた。



「おや?どうして、君一人だけなのかな?」


「一人?」


「失礼……一羽だった。まあいい、楽しめればそれでいいのだから」



 ハトが到着するや否や質問を突きつけてきたウツワに、ハトはとぼけた返しをする。周囲の確認のために少しでも時間を稼ぐためだ。特にウツワの周囲を念入りにチェックしながら、会話を続ける。


 ウツワの纏う雰囲気は、初めて会った時はどこか掴めない印象だったが、今回はそこに素が混ざっているかのように感じられた。特に言葉はそれが顕著であり、本音であると確信を抱くほどだ。戦いを楽しむと、本気でそう言っているのだ。



「あはは……それならそうと最初に言って欲しかったな」



 ハトはその発言に僅かながら怒りを滲ませて困ったように言葉を返す。



「ふむ……それで戦ってくれたとは思えないが」



 その怒りを受けて、ウツワは諦観を込めてそう返答する。すでに試して無駄であったと言外に伝えるかのように。しかし、ハトにも言葉に怒りを滲ませた理由がある。それは、



「友達を傷つけられるくらいなら、僕は戦うよ」



と、いうものだった。


 その発言を受けて、先ほどまでの空気はどこへやらきょとんと呆気にとられたウツワは、数瞬後、微笑を浮かべていた。



「……そうか、それはすまなかった。では、今回は君だけなのかな?」


「あ、ううん。怒られちゃったよ、なんで守る気でいるんだって」



 続けた質問に対するハトの答えに、ウツワは微笑を獰猛な笑みに変えた。



「つまり!来るってことでいいのだね!?彼はできる!ラフォレはあまり評価していなかったようだけど、前の段階で私に負けの目は確実にあったくらいには!!では……さっさと始めようか!!!」


「どうあっても、戦うんだね。わかった……僕たちは、あなたを倒して木の龍に会いに行く。だから!そこを!!どいて!!!」


「大口を叩くのは、実力を示してからにするといい!!」



 再生の神獣『ハト』VS世界樹の『ウツワ』……ここに開戦。

ありがとうございました!

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