小さな体、大きな覚悟
お久しぶりです。よろしくお願いします。
「随分と長かったのだな。何をしていたのだ?」
「何とは……準備があると言っただろう?」
「ショウ?女性の準備には色々とあるんだよ?」
ハト達が家の外に出て十数分後、ようやく出てきたラフォレ達に向かってショウが文句を言うが、ハトがそれを窘める。
しかし、見た目がそれほど変わらず、何かを持ってきているわけでもないスミレに対して何の準備をしていたのかと問うくらいのことはしてもいいだろう。
「ごめんなさいね、ショウ。少し、ハトの特訓方法について話し合ってたの」
「むぅ?そういえば、それについて何にも話し合ってなかったのだ。労をかけさせてすまないのだ」
「いいわよ、気にしないで。わざわざ外に出て待ってもらってたのだもの。こっちももう少し急ぐべきだったわ」
「むぅ、ではここはお互い様としておくのだ。それよりも……どうすることに決まったのだ?」
「あ、それ、僕も気になる。何をするの?」
もとより、ショウはラフォレらが遅いことに対して責めるつもりはなく、ただただ何をそんなに長くなるのかと疑問を持っただけであった。もちろん、無駄なことをしていれば多少は文句を言ったかもしれないが、謝罪までさせるつもりではなく少し気まずくなっていた。
こういう時はさっさと話を流すに限る。ショウはそう考え、ちょうど良く話を進められるラフォレの話題に乗っかった。そうすると、ハトも口を出してきて二人の視線がラフォレへと向かうことになった。
「それなんだが……一つ、確認をさせてくれ」
「むぅ、どうしたのだ?……手短に頼むのだ」
しかし、口を開いたのは二人の視線が向けられたラフォレではなく、隣にいたスミレだった。
ショウとしてはハトの特訓方法が気になってしかたなかった。ただ、自身に向き合って真剣な表情でこちらを見やる唯ならぬ雰囲気を醸し出すスミレを無碍に扱う気にはなれなかったショウは、だが、それと同時に話が長くなる気もしたため、一言だけ釘を刺すにとどめた。
「ふむ……では、端的に聞こう。お前はどうするつもりだ?」
「どうする、とは何をなのだ?」
「……その小さな身でハトと共に戦うのか?と、聞いている」
「けっ、何を真剣にかと思えば……今更そんなこと言ってるのだ?一緒に戦うに決まっているのだ!」
「えっ!?」
スミレに対して釘を刺すつもりが、逆に釘を刺されることになったショウは、その釘をものともせずに一蹴する。ショウからすれば、そんなことは選択肢にすら入っておらず、決まりきっていたことだからだ。つまり……何を今更、ということだ。
しかし、そのショウの回答に驚きの声を漏らしたのは、質問したスミレではなく……まさかのハトであった。
「……ハト?そのえっ?は……いったい何のつもりなのだ?」
「えっ、あっいや……」
「ハト」
ショウは静かながらも、確かにその内側に怒りを秘めていた。名前を呼び、ハトに有無を言わせない。
「……わかったよ。ショウ、僕はもう君にウツワと戦ってほしくないんだ」
「何故なのだ?」
「僕には……守りきれる自信が、ない」
「……ハトは、我を守っているつもりでいたのだ?」
「うん……この前の戦いでショウがやられそうになった時、とても胸が苦し……」
「別に、守ってくれなんて言ってないのだ」
ショウはハトとの関係の意識の違いに悲しみ、そして、その悲しみを怒りに変えて吐き出す。
「何を勝手に守るつもりでいるのだ?我とお主は、共に戦う仲間なのだ」
「……!」
「そう思っていたのは我だけなのだ?弱気になるのは構わないのだ。だがしかし、それだけは許さないのだ」
「ショウ……」
「……もちろん、我が力不足なのは百も承知なのだ。というか、神獣とそれに比肩する奴が相手なのだからそんなの当たり前で、わかりきっていたはずなのだ。しかし、もう我は決めたのだ。ハト……お主と共に歩むと。絶対なのだ。これだけは絶対に譲るつもりはないのだ」
……ショウがこう言うのには、何も自分の感情と目的だけが理由ではない。そうしなければ、ハトはこの世界で一人になってしまうからだ。今ならば、ラフォレやスミレ、エルフ達がいる。しかし、いつまでも別の神獣の住まう地域に居着くことはできない。
なぜなら、神獣が強大な霊力の塊だからだ。
先にも述べた通り、魔物には霊力の多いところを避ける性質を持つ。しかし、森には神獣や霊地である世界樹があるにも関わらず、多くの魔獣が存在している。
では、ここに新たな神獣が住み着いた場合、どうなるだろうか。結果は瞭然、森からほとんどの魔物が出て行くであろう。そうなった場合、広大な森に住む強力な魔物の脅威による被害はどれほどだろうか。考えたくもない話である。
さて、ここまで語ればハトが神獣の住まう地域に永住できないことは理解されただろう。
つまり、ハトはまた行く宛のない旅に出なければならないのだ。エルフ達がついてくる可能性も完全な否定はできないが、森という危険地帯から貴重な戦力を割いてまで一人でも大丈夫なハトに同行するとは考え難い。
そして、幸いなことに今回はラフォレという理解者がいたことでハトは受け入れられたが、本来なら不死鳥とは、火の鳥には近づくなと言われるほどに神獣の中でも危険視される存在なのだ。今後、ラフォレのような理解者は得難いだろう。
そうすると……ハトが森を出ていくその時、ハトはショウがいなければ一人である。
これを許して良いのか。否、断じて否である。
「……ハトよ」
「うん」
「我は……ここでお主と共に戦わない選択をしたら、今後、お主の隣には立てない……そんな気がするのだ」
「……うん」
「ウツワに負けたのは、我が弱かったからなのは百も承知なのだ。だから、これは我儘なのだ」
ショウも理解している。自分が弱く、ハトの横に並び立つには力不足だと。故に……こう述べる。
「三日」
「……うん?」
「三日、我にくれ!なのだ!それで、お主を納得させてみせるのだ!」
正直、ハトはショウがここまで言うのであれば、共に戦っても良いと考えていた。ハトに戦闘の経験はなく、ショウがいた方が有利なのは明確だからだ。前回の対策は、何とか自分の体に括り付けておくことができれば問題ないだろう。
しかし、ショウの口から出てきた言葉は、ハトを唖然とさせた。一瞬、先ほどまでの考えがすっ飛び、目をパチクリとさせるほどに。
だが、ショウの真剣な目がハトを我に返した。そして、ハトは、
「……わかった。その間に、僕も強くなってみせるよ」
と、自分への決意も含めて、そう返答した。
「恩にきるのだ」
こうして、ショウはハトに三日間という約束をこぎつけ、それぞれ別れての行動をとることになった。
*
「それで?どうして私をご指名なのかしら?できれば、ハトについてあげたかったのだけど……」
ショウはハトと別れた後、ラフォレを呼び出して里の外に出ていた。
「問題ないと言ったのはお主だろう?別に、駄目ならいいのだ。ハトの後で」
「あら、それならハトのところに……え?どちらにしても後で呼ぶの?……はぁ、いいわ。そこまで言うなら付き合ってあげる」
「……助かるのだ」
ショウの何がなんでもラフォレを付き合わせるという強い意思に、ラフォレはたじたじとなって折れた。どうせ後で呼ばれるのであれば、さっさと済ませてしまおうと判断したのだ。
それから少し歩き、あたりがひらけた場所に出た。そこでショウはラフォレの方へと振り返って声をかける。
「むぅ、この辺りでいいのだ」
「そう……ん?ここ、何もないわよ?」
「何もないから都合がいいのだ」
「ふーん……」
ラフォレはショウの発言を受けて思案していた。正直なところ、ラフォレはショウに何かできるとは考えていない。そして、そのはずにも関わらず、何かできる気でいるショウの考えを読み解こうとしているのだ。
しかし、ショウはそれを気にせず続ける。簡単な話だ。ショウがその答えを言ってしまえばいいのだから。
「……未熟であっても神獣は神獣なのだ。さすがの我でもハトと並んで戦うのは夢のまた夢だと理解しているのだ。つまるところ、自衛の術さえあれば良いのだ」
「ええ、そうね」
「だから、召喚するのだ」
ショウの答え、それは召喚術であった。召喚術とは、簡単に言ってしまえば物を呼び寄せるというものだ。
ウツワの転移術にも似ているが、そんな危険なモノではない。転移術はスタート地点の空間ごとモノを送り込む術であり、削られた空間のより戻しによって災害を引き起こす。一方、召喚術とは、あらかじめ空間を削り、その場所に指定した任意のモノを引き寄せるという術だ。
そして、そのモノとは生物も可能であり、魔獣や妖魔を使役することも不可能ではない。というより、生物を召喚して使役する際にはある程度の命令をかけるため、意思の薄い魔物の方が容易である。
「……何を言ってるのかしら?召喚?何を?ウツワ相手にただの召喚術が通用するとでも?」
しかし、召喚術によって召喚できるモノには限りがある。それは、召喚時に消費した霊力よりも霊力の低いモノだ。そして、ショウの霊力では到底、ウツワに対抗できるモノを召喚できるはずもなかった。故に、自信満々に語るショウに、ラフォレは疑問を叩きつけたのだ。
「まぁ、通用しないのだろうな。おそらく、魔物だろうと数を揃えても一蹴されておしまいなのだ」
そして、そんなことはショウも承知している。だからこそ、ラフォレはそこに光明を見出しているショウが不思議でたまらないのだ。
「なら、どうするのよ」
「強力な個を召喚するのだ」
「だから、その方法、その対象を聞いてるのよ」
強力な個を召喚する。ひとくちにそれだけ聞けばそうなのかとしか思えないが実際は違う。強力な個、それも神獣に匹敵し得るウツワと同等となるとその存在は限られる。人間のような知性持つモノを召喚したとしてもウツワとの戦いを了承してくれる可能性はほぼ皆無、かつ、魔物を召喚するにも神獣に匹敵する魔物はいない。やつらの脅威は総合力の平均が高く、その数が異常であることだからだ。
そして、先述した通り、仮にその強力な個がいたとしてもショウに召喚できる実力はないはずだった。しかし、それはショウの次の言葉によってひっくり返される。
「……我の名はショウ。『召』の名を冠する者なのだ。お主なら、この意味がわかるはずなのだ」
「……!そう、あなた、名持ちだったのね。通りで知能が高いわけだわ。けど、それだけじゃウツワに敵うわけ……」
名持ち。それはこの世界から名を贈られた者のことを指す。名は体を表すというが、この場合は読んで字が如く、その名にこめられた意味に関する霊術の適性が跳ね上がる。
そして、ショウとは『召』であり、ショウは召喚術のスペシャリストなのである。
だがしかし、それでも足りない。
名持ちは珍しいと言えども、世界に四体しかいない神獣ほどではない。一つの村や町に一人や二人くらいならいるのだ。その実力は、その適性に限ってしまえばウツワに匹敵、それどころか上回ることもある。では、何が足りないのか。それは……その他の霊術の適正、及び、保有霊力である。
ウツワは類い稀なる才を持つ者と呼ばれ、あらゆる霊術に適性がある。また、その一つ一つが鍛えていない名持ちと同等程度の実力を発揮できるのだ。そして、何よりもそのあらゆる霊術を発動可能にする圧倒的なまでの保有霊力。これは神獣と比べることができる程であり、並の名持ち程度であればその一割も使用せずに完封できてしまう。
故に……足りない。何もかもが、足りないのだ。足りない、そのはずなのに……ショウの瞳は自信に満ちていた。
その自信はどこから湧いてくるのか。その答えを、ラフォレはショウの次の発言で知らしめられることになる。
「……そして、我はお主の正体に気づいているのだ」
「え゛……って、まさかあなた!強力な個って……」
ラフォレの正体。その言葉を聞いた瞬間にラフォレは冷や汗を流し、取り繕う余裕もなく、大慌てでショウの口を塞ぎにかかった。
「口に出した方がいいのだ?あー……ここからなら、大声を出せばハトにもきっと聞こえるのだ。よし。スゥ……お主は!!き……」
だが、これはショウにとって交渉でもある。故に、理由まではわからないが、相手であるラフォレの嫌がることは見抜き、徹底的にそこを突く。
「まってまってまって!?わかったから、わかったわ!協力するわよ!」
「ふんっ、話が早くて助かるのだ」
交渉成立。
口にしてしまえばハトの耳に届く可能性があるため、具体的な内容は互いに伏せたままである。しかし、言葉に込められた意思によりお互いにそれを理解している。
理解はしているが、取り付けられた約束の結果、二人の見せた表情は真逆のものであった。
「全く、私をこんな扱いするなんてバチが当たるわよ?」
とある理由から交渉にのらざるを得なかったラフォレは、不愉快な気持ちを隠そうともせず綺麗な顔を歪めて睨みながらショウに言葉を叩きつける。それこそ、いつか本当にバチが当たってしまえと言わんばかりに。
この世界において言葉は大きな効果を齎すからやめてほしい。思うのは自由だが、口に出すとは……と、思わずにはいられないショウだったが、余計なことを口にして渋られても困るため、皮肉を返すにとどめた。
「なに、ただの長生きのエルフに力を貸してもらうだけなのだ。何が問題なのだ?」
「くっ……それで何をすればいいのかしら?」
皮肉に対応できず、自身が冷静でないことを悟ったラフォレは、肩を落として聞き返す。協力するとは言った。ただ、懸念点として、今のラフォレにできることは少ないということがある。それをどう解決するつもりなのかを問うつもりで、何をすればと言葉にした。
「最終日、三日後にここに来て欲しいのだ。その時、見ればわかるのだ」
「……それだけ?召喚に必要な霊力は?」
しかし、返ってきた答えはたったそれだけ。ハトがしようとしている召喚には洒落にならないレベルで霊力が必要になるはずだが、その答えを示さないハトにラフォレは怪訝な表情を向ける。
「それだけで十分……じゃあ、納得してはくれないのだな。まぁ、アテはあるのだが、当日、お主の霊力も少し借りると思うのだ」
「少し、ね?わかったわ、それじゃ、今日はもういいのかしら?」
ハトの答えに、おそらく言葉巧みに自分の霊力をアテにしているのだろうと納得したラフォレは話を終わらせにかかる。どちらにしろ、約束は三日後なのだから、もういいだろうと。
「うむ。ハトの力になってやって欲しいのだ」
「全く……言われなくてもそうするわよ。それじゃ、三日後を楽しみにしてるわ」
話は終わったと、片手を上げて背を向けるラフォレ。そんなラフォレを眺めていたショウは、思い出したかのように、
「あ、ちなみになのだが、なんでハトに隠してるのだ?」
と、問いかける。
「……秘密よ。帰り際に聞けば答えるとでも?」
「むぅ……だめだったのだ。まぁ、そこを利用できたのだ。とりあえず、それだけで満足しておくとするのだ」
「そうしなさい。ふんっ、じゃあね」
「うむ、三日後に」
ただの会話ですら罠を仕掛けてくるショウに対して疲れた表情を見せながら、ラフォレは今度こそ本当にその場から立ち去った。
*
「お待たせ。今はどんな感じかしら?」
ショウのいた場所とは里を挟んで真逆の位置にハトとスミレはいた。ラフォレが後ろから声をかけるとハトが振り返って目を丸くした。
「あれ!?早かったね。ショウとの話はもう終わったの?」
ハトはショウのしようとしていることから今日一日、少なくとも日が暮れかける時までは話が長引くと考えていた。そのため、一時間もかからずにラフォレが戻ってきたことに驚きを隠せなかったのだ。
「えぇ、三日後にまた力を貸さなきゃいけないから、一旦ではあるけどね」
「そっか……ショウは何をしてた?」
三日後にラフォレが何か手を貸すと聞いて、おそらく準備が必要であろうことは想像がついた。しかし、何をするつもりかは全くわからない。そのため、聞いて良いものかと迷いながらもラフォレに問いかけた。
「んー、それは三日後のお楽しみね。私も詳しくは聞いていないのよ」
「そう、だよね。うん……僕も頑張らなきゃ!」
意を決して問いかけたが、結局、答えはわからずじまい。落胆する気持ちは抑えられないが、ショウがラフォレに協力を約束させたということから、おそらく大掛かりな準備が必要であろうことは想像がつく。であれば、相当な労力がかかるだろう。
つまるところ、ショウは三日かけて頑張るということで、それ故に、ハトは自分も頑張らなければという気持ちになったのだ。そうして、ハトが気合いを入れ直す中、それを横目にラフォレは現状の把握に乗り出した。
「それで、スミレ?今は何をしていたのかしら?」
「はい。ウツワについての説明をしておりました」
「そうなの?私が肉体面を特訓するつもりだったからちょうど良いわ。それじゃあ、終わったら声を……」
現状の把握と言っても、皆をまとめる里長であるスミレがハトについていたのだ。そのスミレに確認して仕舞えば、そんなものはあっさりと終わる。ショウとのやり取りで気疲れしていたラフォレは少し休憩しようと、木陰に移動しようとした。
「いえ、私が伝えられることの大体は終わりましたし、座学であれば夜にもできますので、ラフォレ様がご指導された方がよいかと」
「あら……そうなの?けど、ハトは……準備万端のようね」
「うん!」
「……それじゃあ、始めましょうか」
しかし、スミレはそんなラフォレに気づいているのかいないのか、逃してはくれないようで。ハトは両手?をギュッと握り気合い十分で。ラフォレは、そのまま特訓を開始せざるを得ないのだった。
「はぁ……もういいわ。ハト、ショウとはどんな特訓をしていたの?」
「?えっとね……」
ハトはラフォレにそう問われると、一つずつ思い出しながらショウとの特訓を説明した。背中に爪を突き立てられるアレである。
「ふむ……理にはかなっているわ。けど、説明が疎かすぎるせいでハトには正しく理解できていないようね」
「あ、理にはかなってるんだ……」
意外にもあの乱暴に思えたショウの特訓は理にかなっている方法のようだった。
「正直、これを自分の体だけで覚えるなんて無理よ?と言っても、神獣の霊力制御なんて誰も知らないだろうけど。そう考えると、ここまで理にかなった方法に辿り着いたショウはなかなか優秀ね。……認めたくないけど」
「ラフォレ様……?」
つい、ショウのことを素直に褒めてしまった自分に気づき、整った顔を盛大に歪めたラフォレ。そして、話から逸れた上に、普段は決してしない表情をする彼女に困惑するスミレ。彼女の声にハッとして、ラフォレは表情をもとの微笑んだものに戻して、話を再開した。
「あぁ、ごめんなさい。説明よね、説明……私にもちょっと難しいわね」
「えぇ!?ど、どうするのさ!!?」
ラフォレが数秒悩んだ末に出した答え。それは、説明はできないというものだった。気合いを入れ、前のめりになって話を聞いていたハトは、その勢いのままバランスを崩してズコッとこける。このラフォレの答えには、スミレすらも予測できておらず、目を大きく見開いている。
二人の反応を受けて、ラフォレは、
「あぁ、ごめんなさいね。難しいのは言葉での説明のことよ」
と、自身の発言が言葉足らず出会ったことを自覚し、謝罪を述べる。それでも、ラフォレの言葉に合点がいかないハトは不思議そうな顔をした。
「やり方なら示せるってことよ。ハト、手を貸して?」
「うん?……こう?」
「はい、ぐぅー!」
「え、うわ、わ!」
わけもわからないままハトはラフォレに両手を握られ、掛け声と共に自分の中で何かが力強く巡る感覚に陥った。
「これは……!?」
「ふふっ、気持ちいいでしょ?」
「うん、気持ちいいー……ちょっ!?ふふっ、まって、ふっ、くすぐったい!!ラフォレ?ふぅっ、やめっ」
最初は全身の滞っていた部分が解消されていくリラックスできるような気持ちよさがあった。しかし、それはすぐに別のモノへと変化し、体の内側からくすぐられるような感覚となる。ゾワゾワと思わず背筋を伸ばしてしまうくすぐったさが全身を襲ったのだ。
無論、くすぐったさにも理由はある。本来であれば、霊力の制御によってくすぐったさは起こらない。では、なぜか。それは、ハトが霊力を制御される感覚を掴めても、自身で制御する感覚はまた別物であり、霊力に関する部分の感覚を鋭敏にすることで、霊力を制御する方法を掴みやすくするためである。
「これはいま、私がハトの霊力を操って制御してる状況よ。本来なら神獣は霊力を無意識に制御してるはずだから、こんなことは起こり得ない。けど、ハトはそもそも霊力を制御する感覚がわかってない」
「じゃっ、あっ、どうっすれば、いいのっ……?」
「簡単よ。今、ハトは霊力が制御される感覚を意識できた。なら、今度は自分でもしてみればいいの。つまり、私から制御を取り返しなさい。それまでは、ずっとくすぐったさが続くわよ?それそれー」
「えっ、ちょっ、あははは!!やめて〜!??」
*
「や、やっと治った……」
ラフォレとの特訓が開始して少しの時が経ち、ハトは意識しての霊力の制御を会得した。その姿は、広がる炎によってボヤけていた輪郭が比較的はっきりとし、より鳥らしいモノへと変化していた。
「よくできたわね。そしたら、次の段階よ。スミレ、お願いしてもいい?」
休憩もそこそこに、ラフォレは次の特訓へと進もうとする。自分に休憩はなかったのだから、ハトもそうであれ、と言わんばかりに。
「はい。ひとまず、四式で?」
「そうね。様子見だからそれでお願い」
「では。『四式・鉄剣』」
次の特訓はスミレが担当するようであった。彼女はラフォレの命を受け、すぐさま準備にとりかかった。一言、ラフォレへと確認を入れ、その手に作り出したのは鉄でできた剣。それを、頭上へと構えてハトの方へと体を向けた。
「待って待って待って!?なに普通に剣を出してるの!?何をする気なの!?」
「なに、とは?わかっているだろうに……」
「スミレ、いいわよ。思いっきりやっちゃって!」
「えぇ!?」
「お任せください!さぁ、いくぞ!」
「いくぞ、じゃなぁあ!!?」
ラフォレの許可がおり、突如、スミレによって振り下ろされる凶刃。ハトは咄嗟に自身と剣の間に翼を割り込ませた。そして、剣が翼に触れた瞬間、音もなく剣が弾かれたのだった。
「ッ!?これは……剣が」
音もなく、というのは少し語弊があった。なかった音は弾かれた際のモノであり、剣がハトの翼に当たった際のキレたようなサクッとした音は鳴っていた。ただ、音はそれだけであり、辺りは静けさに包まれていた。
「……弾かれた?いいえ、音からして違うわね……おそらく、これが再生の力……どう?成功したってことは、体の調子も良くなったんじゃないかしら?」
体の輪郭がハッキリしたとはいえ、神獣の神獣としての力まで制御できたかどうかは試してみるまではわからなかった。しかし、それは今、成功であると判明した。
「……うん。段々とスッキリしていく感じがするよ。体も……頭も」
霊力の制御は成功し、その結果、ハトは体や霊力の制御方法だけでなく、少しばかり頭がスッキリしていく感覚を覚えた。すぐに何かを思い出せる、というわけではないが、少なくとも今までよりはそんな予感を思わせてくれる。
「それはよかったわ。……記憶、戻るといいわね」
「あはは、そうだといいんだけど……あ、そういえば、こんなにあっさりと出来ちゃって、三日もいらなかったかな?」
ラフォレの柔らかな眼差しを向けられ、ハトは頬を少し赤くしながらそれを隠すように話題を逸らす。
「……あら、何を言ってるのかしら?」
「ふむ……ハト、あなたは思い違いをしているようだ」
「思い違い?」
「あぁ。……ハト、そなた……いや、貴様は未だスタートラインに立ったに過ぎん!!」
しかし、ハトの発言は見当違いだったようだ。ラフォレは首を傾げ、スミレはそれを指摘する。そして、スミレは急に声を大きくしてそう叫んだ。ハトはそのスミレに見たことないはずの教官のような雰囲気を感じ、戸惑った。
「あ、え、……っと?」
「つまり、ハトはまだ意識しての制御ができたに過ぎないってことで。無意識にはまだまだ程遠いっていうことよ。ほら、さっきのでもう制御が乱れてるわ」
声が出ないハトだったが、そこにすかさずラフォレによる補足が入る。スミレが突然声を荒らげたのには、制御を乱す目的があったようだった。
「そういうことだ。よって……ここからは我々、森の民が三日を存分に使い、貴様を鍛え直してくれる!!!」
「え、ちょっ、スミレ!?剣を、剣を下ろそう!?ね!?ね!?あっ、ちょっ、うわぁぁあ!!!?」
ザクゥッ!!!
「いたーい!?」
スミレによって振り下ろされた剣が弾かれることなくハトの体に埋まり、森の中にハトの絶叫が響き渡った。
「はぁ……前途は多難ねぇ」
そして、その絶叫は三日の間、度々森の民の耳に入ってくるのだった。
ありがとうございました!
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