エルフの昔の話
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それは、まだ魔獣や妖魔……魔物が世界中に出現するよりも前のことだ。
森は神獣である木の龍によってもたらされる自然の恵みであり、人々はその恵みによって生活を支えられ、感謝し、共存してきた。
しかし、世界に魔物が出現したことで森は魔物の巣窟へと変わってしまった。
基本的に霊術というものは遠距離での戦闘を得意とする。その力は狩りにおいても絶大な効果を発揮して素早い獲物であっても狩ることができるほどのもので、魔物に対しても当たりさえすれば有効であった。
そう……当たりさえすれば。
魔物のうち、魔獣は従来の獣らより圧倒的な身体能力を有し、木を利用した立ち回りは勿論のこと、木の上を自由に立体的に行動するものさえいたのだ。では、そんな相手に遠距離からの霊術が当たるのか。答えは否である。
人類は森において、狩る側から狩られる側へと立場が逆転し、人類にとって森とは魔物の住まう近寄ってはいけない恐ろしい場所となったのだった。
このことにより、当前、多くの人類が住まいを森の近くから移した。しかし、そうするわけにはいかない種族がいた。それこそがエルフだ。人類の中で霊術を最も得意とし、世界樹の森の守り人として世界に生まれ落ちた種族である。
彼らは森から住まいを移すわけにはいかず、むしろ魔物から森を守らなければならない……かといって彼らエルフも例に漏れず、森において魔獣には勝てずにその数を減らしており、このままでは森はおろか自分たちの身すら守れないままであった。
彼らの問題は明白であった。エルフの問題……それは、霊術を当てられないこと、そして、魔獣の攻撃を避けられないことの二つであった。
逆に言えば、霊術が当たりさえすれば勝てるのである。実際、妖魔相手であれば相手も比較的ひらけた場所での戦闘を好んだことから大した被害も出さずに勝利が可能であったのだ。
よって、エルフは魔獣の攻撃を避け、霊術を当てられるようにするために、それぞれの里で結論を出した。
とある里の結論は、至近距離での戦闘可能にすることが重要と考えて肉体を鍛えるというもの。
また別の里の結論は、姿を隠し、バレないように近づいて霊術を当てるというもの。
そして、これらは両方とも魔獣に有効だった。
その後、彼らはさらに技術を磨いていき、次第に自身の生息圏を確保できるようになり、二つの里が合流した。そして、彼らのエルフという種族としての使命を果たすため、世界樹の森を守るために里を六つに分け、現在に至っている。
「と、大体こんな感じかしらね」
ラフォレはそう言って話を締め括った。このラフォレの話を聞いた二人は、
「……え?ということは、ムッキムキのエルフがいるの?」
「……え?ということは、お主みたいなエルフがまだいるのだ?」
と、アホ面をさらして自身の中の常識が崩れていく感覚を覚えながらそう問いを投げかけていた。
「えぇ、どの村にもいるわよ」
そして、その問いはどちらもあっさりと肯定されてしまい、二人は無言のまま呆気に取られていた。先に気を取り直したのはハトであり、なんとか声を発するもののその内容は率直な本音であり、少しばかり失礼なものであった。
「そ、そっかぁ……なんか、見てみたいような、見たくないような」
「あら、珍しい。今時、エルフに幻想を抱く子がまだいたのね。もう長い間私たちのようなエルフは森の外に姿を現してないはずなのに」
ただ、ラフォレはそのハトのエルフへの幻想を否定しなかった。それどころか、珍しいと口にしてしてはいるが、懐かしさをも覚えている様子だった。
「姿を現してないだけってことはそれなりの人数がいるのだ?」
ハトとラフォレが会話しているうちに気を取り直していたショウはその会話の中から気になるところをかいつまんで問いただした。お前のようなエルフがまだいっぱいいるのか、と。少なくとも、ラフォレの発言から複数人いることは確定しており、後はその規模だ。ショウは正直、自分がカケラも知らなかったことがあったことに内心ショックを受けており、その目は早く答えろと催促していた。
ラフォレはその圧に気づいているのかいないのか、何食わぬ顔をしながらサラッと答える。
「うーん、今は至近距離での戦闘が主流だから、私みたいなのは里の中でもかなり少数派ね。でも、どうしてハトは知っていたのかしら?」
「あはは……本で読んだことはあったけど、実際に会ったことはなくっ……て?」
ラフォレの答えから、当前浮かぶであろう疑問にハトは答える。その途端、ハトの頭に痛みが走った。この痛みは……
「あら?どうしたの?」
「むぅ?これは……ハトよ、何かを思い出したのだ?」
「思い出した?そう言えば記憶喪失って言ってたわね……」
「うむ。何かを思い出す時は頭痛を伴うようなのだ」
「そう……ハト、大丈夫かしら?答えられそう?」
と、ショウの言うとおり、何かを思い出したときの頭痛だ。急に黙り込んだハトを心配そうに眺めるラフォレだったが、ショウの説明によってほっと息を吐いていた。
「うん……ごめん、思い出せたのは少し、本当に少しだけ。エルフについてなんだけど……」
「いや、少しでも進歩したのだ。やはり、旅できっかけを探すのはいい考えだったのだ」
「うん、そう……だね」
ハトは大したことは思い出せなかったと申し訳なさそうな顔をしたが、ショウは小さなものでも進歩には違いないと笑いかける。
「ちなみになのだ。ということは、別の世界にもエルフっていたのだ?」
「あ、ううん。僕の世界では架空の存在だったよ」
二人はそのまま会話を続けるが、ここでラフォレが何かを呟いた。
「別の世界……?そうね、管理は……」
「む?ラフォレ、何か知ってるのだ?」
「あ、いいえ、ごめんなさい。なんだか、勇者みたいって思っただけよ」
「ふむ、確かにそうなのだ。けど、勇者は召喚のはず。ハトは転生なのだ」
ラフォレは別の世界という単語に何らかの思い当たる節があったらしかった。それも、つい口にしてしまうくらいには、ラフォレに何らかの衝撃を与えたらしい。
その様子から何かを知っているのかとショウが問うたが、そんなことはなく、ただ勇者に似ているというだけだった。確かにこの世界において別の世界と言えば、別の世界から召喚される勇者であり、その事実は世界に広く知れ渡っている。何せ、何度もこの世界を救われたのだから。
だから、別の世界と聞いて勇者を連想したラフォレの思考回路は当前だった。
続くショウの転生という発言に、
「そう、転生……そうだったのね……やはり、それなら……」
と、何らかの納得を示したのも、ハトが未だにエルフに対する幻想を抱いていたことに対するものだとするならこれも当前の考えだ。
「ラフォレ?」
「あ、ううん。それなら……ええ、この村でこの世界のことについて学ぶといいわ。外との違いは多少はあるけど、そんなに変わらないはずだもの」
ぶつぶつと何か呟いているラフォレにハトは心配そうに名前を呼びかける。そして、その呼びかけに気づいてラフォレはハトに微笑みながらそう告げた。
「いいの?ありがとう!けど……ムキムキのエルフかぁ……」
ラフォレの提案に一度は素直に喜ぶハトだったが、外にいるのがムキムキのエルフだと思い出してその笑みが苦いものへと変わる。
「何がそんなにひっかかるのだ……」
「いやぁ、エルフと言えば美形って聞くし……」
ショウの問いに答えるハトの想いは、結局のところ、理想が崩れるのが怖いだけなのだ。美形で、理知的で、魔法が得意。そんなエルフが実はムッキムキで、野生み溢れて、近接戦闘も得意だったら確かにがっかりするだろう。もはや、それはエルフではないと叫びたくなるほどには。
「ふふふ。本当に昔の人みたいね。けど、その気持ちわかるわ。だって、私も初めて会った時はびっくりしたもの。ドワーフを嫌ってるのにそのドワーフみたいに体を鍛えて、基本的に菜食のはずなのにお肉まで食べてたのよ?」
げんなりした表情のハトに笑いかけながらも、自分でも会ったばかりのことを思い出しながらそう語るラフォレはハトと似た表情をしていた。変わり果てた同胞を見てラフォレがどう思ったかはその表情にありありと写し出されていた。
「あぁ、エルフとドワーフが険悪なのは有名なのだ。逆に言えば、そこまでエルフは切羽詰まってたのだな……む?ラフォレ、お主……」
「あら!何かしらショウ?うふふ!」
「まぁ、エルフは長寿なのだ……聞かないでおくのだ」
「とても、賢明な判断よ」
……女性に年齢の話は厳禁。藪蛇をつつきかけたショウだったが、何とか許されたらしい。
「ラフォレ……目が笑ってないよぉ」
ハトはショウに笑顔で詰め寄るラフォレを見て、少し怯えていた。普段は優しい人がキレると異常に怖く感じるあれである。
「うふふふふ!あ、ハト。筋肉ムキムキなのは確かだけど、美形ってのも間違いじゃないわよ?霊術も得意だし、言うほど……ハトの幻想は壊れないと思うわ」
ラフォレは話を戻し、ハトヘエルフに対するフォローの言葉を告げた。
「そうなの?そしたら……会ってみようかな」
ハトはラフォレの言葉に期待半分、不安半分……そんな感情を孕んだ表情を浮かべて、そう言葉にしたのだった。
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