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無償の優しさ

よろしくお願いします!

「う、うーん……はっ!ショウ、ショウは!」



 ハトは目覚めてすぐにショウの安否を確認しだした。最後の記憶は首を絞められ倒れた姿。その瞳に涙を溜めながら心配そうに周囲を見回した。



「あら、起きたの?」



 ハトがそうしていると、突然、背後から声がかけられた。その声は優しげで落ち着いた女性の声であったが、ハトは驚いてつい声を上げてしまった。



「うわぁ!?」


「ふふふ、驚かないで?ほら、お友達はそこにいるでしょう?」



 物凄い勢いで振り返ったハトに対して、その女性は優しく微笑みながら指をさし示していた。髪は植物のような黄緑色でふくよかな胸が特徴的なスタイルの良い女性だったが、ハトはその人に目もくれずに教えてもらった方向に顔を向けた。



「あ……」


「怪我はなかったわよ。もしかして……あなたのおかげかしら?」



 そこには穏やかな寝顔を晒しながらへそを天に向けるショウがいた。胸は一定の間隔で膨らんでおり、しっかりと呼吸をしていることが確認できた。



「よかった……よかったよぉ……」


「……とても、大切なのね」


「うん……あ、ごめんなさい。挨拶もせずに……あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございます」



 ハトがそう言うと、女性は目を丸くして驚きながら笑い始めた。



「ふふふ!あはははは!」


「え?え?」


「あははは!はぁ……ごめんなさいね。あなた、あんな目に遭ったのに全く私のことを警戒しないのね。それと、あなた、神獣でしょう?敬語なんていらないわよ、楽にしてちょうだい」



 笑いすぎて出た涙を人差し指で拭いながら、その女性は困惑するハトを宥めるように声をかけた。初対面で緊張しているハトに対して敬語はいらないと言い、穏やかな空気を醸し出したのだ。



「けど……」


「けども何もないわよ。神獣なんて存在は普通の人間からしたら畏れ多い存在なのよ?慣れとくといいわ」


「わ、わかった」



 ごねるハトだったが、自身の存在についてそう言われてしまってはもう何も言うことはできなかった。そして、ぎこちない言葉遣いで返事をした。



「うん、それでいいわ。それと、あなたはもっと警戒心を持ったほうがいいわよ?今、神獣を狙っている人間がいるらしいからね」


「え、もしかして……?」



 ハトの言葉遣いに満足し、その女性はにっこりと笑った。次いで、ハトが自身を一切警戒しなかったことに注意を促した。


 一方、ハトはその注意を聞いて頭の中にいくつか思い当たる節を思い出した。そして、そのことをわざわざ伝える女性に少し警戒心を出し始めた。



「うん?あら、違うわよ、私は。まぁ、けど、それくらいのつもりでいなさい?」



 女性はそのハトの様子から早速自分のことを警戒していることを察したが、怒りもせずにむしろ推奨すらした。



「ご、ごめんなさ……」


「け・い・ご」


「あ……ごめん」


「ううん、気にしないでいいわよ。何があったかしらないものね。それはそっちの子が起きたら説明してたげるわ。それまでは……こんなものしかないけど食べてゆっくりしてて」



 女性はそう言ってそばにあった籠をハトの前に取り出した。そこにはいくつかの果物が入っており、ハトの食欲を刺激した。



「ありがと……いただきます」



 思えば、ハトは自分が自分として自覚してから何も食べてきていなかった。そんなことを忘れてしまうくらいの怒涛の一日だったのだ。食事をしなくても問題なく生命を保てる神獣の身体であるが、それでも食事を目の前にすれば空腹感は湧いてくる。ゆっくりと果物に口をつけながらハトは涙をこぼした。


 人の優しさに触れて。落ち着いて自分の現状について考えて。様々な感情と考えがハトの頭を巡り、それが涙として溢れたのだ。


 女性はそんなハトを優しげな、そして、少し寂しそうな表情で眺めていた。





 それからいくらか時間が経って、ショウが目を覚ました。



「……ここはどこなのだ?」


「ッ!?ショウ!!」



 ショウが声を上げたことでハトはショウが起きたことに気づいて、駆け寄って抱きしめた。



「むぐぅ!?ハ、ハトなのだ……?」


「そうだよ!心配したんだからね!?」


「と、とりあえず離すのだ……」



 ショウは現状を確認する間もなくハトに抱きしめられてしまい、少し困惑していた。ただ、ハトの体が震えていることに気づき、そこから、心配をかけたこと、自身の策が失敗に終わったことを悟った。なかなか離れようとしないハトにショウは優しく声をかけて離れるように頼んだ。


 離れたハトは未だショウの顔を覗き込むように心配していた。そんなハトの顔を、ショウは正面から見つめた。そして、頭を下げた。



「すまなかったのだ」


「ショウ?ど、どうしたの……?」



 起きたと思ったら突然に謝罪を口にしたショウにハトは困惑を隠せない。ハトはてっきり、無事を喜ぶ場面だと思っていたためだ。しかし、ショウは違った。



「我は……我の都合でお主を付き合わせたのだ。だから、決して失敗してはならなかったのだ。だと言うのに、相手の力量を読み違え、策は失敗に終わり、挙げ句の果てにはお主に助けられたのだ。本当にすまなかったのだ」



 ショウは今回の敗北のその全ての責任は自分にあると言いだし、謝罪をしたのだ。ハトを無理に作戦に付き合わせたことは確かに事実であり、ショウが冷静であったとは決して言えない。ハトは知らないが少なくともショウが冷静さを多少失うくらいに転移は禁忌とされている霊術なのである。そして、ショウもそのことを今更ながらに自覚していた。



「ちょっ……顔を上げてよ!別に、そこまでしなくてもいいよ!」


「では、怒っていないと言えるのだ?我の都合で戦う必要のない相手と戦わされたというのに」


「それは……」



 ショウの謝罪を受けてハトは慌てて止めようとしたが、続くショウの言葉に一度黙らされてしまう。しかし、それでもハトはショウだけの責任ではないと思い直し、逆に問い返した。



「じゃあ、逆に聞くよ……あそこで戦ってなかったらどうなってたの?」


「……森への侵入は禁じられ、木の龍に会う機会は失われるのだ」



 ショウは痛いところを突かれたと言わんばかりの表情をしながらも、誤魔化さずに自分の予測を伝える。そして、その予測にハトも、



「そうだよね。僕もそうだと思ったから戦ったんだよ。だから、ショウだけが責任を負う必要なんてないんだよ」



と、同意を示してショウにだけ責任を負わせることを許さなかった。



「……ありがとうなのだ」



 その頑として譲らない態度のハトに、ショウは根負けして顔を上げて礼を述べる。そして、二人で顔を見合って笑い合ったのだった。



「あ、それと、ショウを最後に助けたのは僕じゃないよ」


「……?そういえば、ここは……」



 話は変わり、先程までの会話の中におけるショウの間違いをハトが正した。そのことにより、ショウは現状にようやくしっかりと目を向け始めた。



「あら、お話はもういいのかしら?」



 そして、そうなればずっと黙って話を聞いていた女性が声をかけるのは当然のことだった。



「むぅ!?お、お主は?」


「あはは!まさか本当に気づいてなかったの?二人して呑気な性格してるのね」



 ハトとの会話に集中しすぎていたショウは、突然の女性の声に驚いて体が跳ねた。そのショウの様子を見てその女性は声を上げて笑い、揶揄うように二人の似た性格をつつく。



「むぅ……ひとまず、助けてくれたことには感謝するのだ。ただ……」



 今更ではあるがショウは警戒をあらわにして女性と会話を試みた。ハトの先程の言葉と全く警戒していないことから自身らを助けた相手が目の前の女性だと察して感謝を述べる。と、同時に助けた理由が全く予想できないことから、信用できないといった心情を口には出さずに相手に察せさせた。



「……助けたのに理由はないわよ。ただの気まぐれ。それで、納得できないのなら……そうね、その子が私の友人に似ていたからでどうかしら?」


「……わかったのだ。感謝するのだ」



 ショウの目論見通りにショウの意図を察した女性は明確な理由こそ提示しなかったものの、最低限の理由を答えた。ショウはそれを聞いて少なくとも害意はないと判断して、再び感謝を述べて警戒を解いた。



「そう、いい子ね。それじゃあ、現状について説明でもしたげるわ」



 こうして、三人の間にそれぞれのわだかまりはひとまずなくなり、ようやく話が進展するのだった。

ありがとうございました!

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