窮地の選択
よろしくお願いします!
「おっと、地面にはおちないでくれたまえ。木に燃え移ったら大変だ。『一式・土台』」
ウツワが吹き飛んだ二人を見て、森を燃やすまいと森を覆う巨大な土台を出現させた。そこに勢いよくハトとショウが落下し、ハトはショウを抱えていたが落下の衝撃でショウを離してしまい、二人してゴロゴロと土台の上を転がった。
土台の上に転がる二人は上空にいるウツワからその様子が丸見えであり、ウツワは余裕ある表情を浮かべながらそれを眺めていた。
「うぅ……ショウ、大丈夫?」
「……うむ、ハトのおかげなのだ。まだ、痛みはあったのだが……それでも、本来なら死んでておかしくないのだ。ありがとうなのだ」
「今それ言う?……まあいいけどさ、無事なら。それより離れないで。離れたら再生出来ないと思うから」
「もちろんなのだ。まだ死ぬ気はないのだ。ハト、奴が来るのだ。いつでも炎を出せるように準備するのだ」
いくら再生するとはいえ、落下した衝撃と痛みまでは消すことができず、二人は悶えていた。ハトは自身も苦しみながらも、つい離してしまったショウを心配するが、返ってきたのは減らず口であり、変わらない様子に安心する。
ハトはゆっくりと立ち上がり、ショウに再生を施しながらウツワを睨みつける。
「ゆっくり休めたかな?さすがは神獣。今ので体がバラバラにならないとは驚きだ」
点から点に移動するようにして目の前にウツワが現れて二人にそう告げる。その顔を実に楽しそうであり、目的が二人を森から追い出すことから変わっているのではと思わせるほどのものとなっていた。
そして、その言葉から明らかに殺すつもりの威力で二人を攻撃したことがわかり、ショウは憎まれ口を叩く。
「神獣を……殺す気なのだ?神をも恐れぬとはまさにこのことなのだ」
「まさか。むしろ、私ほど神に従順な者はいない。世界樹を守るという神命のためならばなんだってやるのだから」
「その顔で何を言っても説得力などないのだ!」
「ふふふ。さあ、どうだろうね?さて、そろそろ再開といこうか。『五式・土針・千段』」
しかし、ウツワはあくまでも休憩させるために時間をとっただけであったらしく、会話は早々に打ち切られ、戦闘の火蓋は再び開かれることになる。
ウツワによって繰り出されたのは勢いよく飛来する土の針。一つ一つは小さく威力は低めだが、あらゆる方向から千本もの針が飛んでくるのはかなりの脅威である。
「ほ、『炎よ』!!」
ショウに指示された通り、会話にも参加せずに警戒を続けていたハトは咄嗟に全方位に炎を広げて二人を包む。
「……やはり、土が燃え尽きたのか?五式なら有り得なくもないが……ならば、『四式・土槍・一五段』」
「『炎よ』!」
「ほう……これもほぼ変わらない速さで燃え尽きたのか……面白い!色が変わってもその火力は健在のようだ!てっきり、多少の違いはあると思っていたが……しかし、この森には相応しくないな。だから……少し私を楽しませたら、この森から出て行きたまえ!!ふははは!!」
ウツワは絶えず霊術を繰り出し続け、ハトはその全てを再生する。
その様子を見たウツワは楽しそうに次々と様々な属性の霊術を唱えていき、まるでハトの炎の能力について実験をしているかのようにして霊術を炎に焚べていった。
一方、ハトは自身とショウの姿を炎で隠して猛攻に耐えながら、ウツワの様子を伺い続けた。
「ぐ、う……ショウ、どうしよう!?防ぐだけで精一杯だよ!」
「ウツワは……やはり、噂に聞く通り悦楽主義の面があるようなのだ。ハト!今しかないのだ!」
どう見てもピンチな状況で防戦一方であり、ハトにはどうすることもできない。そんな時、ショウはそう言ってハトから羽を一本だけ抜き取ったのだった。
「いたぁ!?な、何するの!?集中を欠いて炎が消えたらどうするのさ!」
「今はそんなこと気にしてる暇ないのだ!耳を貸すのだ!」
ショウは断りもせずに羽を抜いたことに文句を言ってきたハトを黙らせ、耳元で囁くようにして何かを伝える。
「え?だ、だめだよ!危険だし……できるかどうかもわからないよ!」
「この時を待っていたのだ!これしかないのだ!ハト、従うって言ったのは嘘だったのだ!?」
「う……でも、できるかもわからないことが二つもあるんだよ!そこにショウの命をかけるなんてできないよ!」
「それでも、やるのだ!」
「なんで、そこまで!」
伝えられたのは何らかの作戦。ショウは今この時を待っていたと言う。ただ、それは未確定なことが含まれており、そこにショウは自身の命すら賭けると言う。ハトからすればそれは狂気にも感じられるものだ。なぜなら、例え捕まったとしてもハトがいれば命までを脅かされることはないからだ。だから、どうしてそこまでするのかと問わずにはいられない。
「あれに捕まったら、もう二度とこの森には入れないのだ!!それだけは避けなくてはならないのだ!!我は、我は……!」
返ってきた答え、それだけではハトを納得させることはできなかっただろう。ハトからすれば木の龍に会えずとも自分の記憶を取り戻せる可能性はあるし、会ったからといって確実に記憶が戻るわけでもないのだ。だから、ただ可能性の高い機会が一度失われるに過ぎないのである。しかし、ショウの訴えはどこか泣きそうなくらいに必死だった。
いや、実際、必死なのだろう。こんなところまで単身でやってきてハトと出会い、ウツワと遭遇した時は見事に会話まで持ち込んだ。本来ならば、ウツワは問答無用で二人を排除できたにも関わらずだ。
これまでの、そして今見せたショウの姿からハトは、
「わかったよ……けど、今回だけだからね」
と言ってショウの作戦を承諾した。
「……恩に着るのだ」
その後、二人は打ち合わせを終えるとすぐさま行動に移る。
一方で、防戦一方でなかなか反撃とまではいかずとも次の行動に移らない二人にウツワは少し疑問を持っていた。粗方、試してみたい霊術は撃ち終えており、出方を伺い始めた。
その直後のことだった。先程まで全てが炎によって消されていた霊術が炎を通り過ぎて薄っすらと見える影に直撃したのだ。ウツワは少し拍子抜けした気分になり、霊術を撃ちやめて炎と煙が晴れるのを待つ。
「ふむ……霊力が切れるはずはないが、では、集中力が切れたのか。生まれたての神獣とはこんなものか。少し、がっかりだな」
段々と勢いを衰えさせる炎をウツワは眺め続ける。そこに現れたのは……ショウ、ただ一匹だけだった。
「……!?しまっ!」
「『炎よ』ぉぉ!!」
「ぐ、がぁ!」
ウツワは油断をしていたところをハトに不意を突かれた。ただ、それだけならば問題はなかった。しかし、ハトが自身の炎を後方に噴射させることで推進力を得て、ウツワの予測を上回るほどの速度を発揮したのだった。これにより、ウツワは土台の上で激しく吹っ飛ばされた。
「何だ……その速度は!?炎だけでは、説明が、つかないぞ!!?」
「畳み掛けるのだ!『四式・風砲』!!』」
「『炎よ』ぉぉ!!!」
ハトのそのあまりの速度にウツワですら驚愕を隠すことができなかった。そして、その隙を逃すほどショウは甘くはない。
「『五式・土壁・八段』!!!」
ウツワは咄嗟に壁を発生させるが、ハトの体当たりによってガガガッと一瞬で壊されて壁としての意味をなさなかった。
「ぬ、ぐぅ……げほっ、ごほっ」
超速の体当たりを受けて、ウツワは明らかにダメージらしいダメージを受けていた。正面から霊術で戦っては勝てないはずの相手に傷を負わせることに成功したのだ。
では、なぜ霊術では勝てないはずのウツワと戦いが成立しているのだろうか。その答えは簡単で、ハトのしていることが肉弾戦であるからだ。それだけで?と、疑問に思うかもしれないが、これは意外にも馬鹿にできない。というのも、人類が魔獣らに押されている理由に、霊力によって底上げされた脅威的な身体能力も含まれるからだ。
人類は皆、生まれながらにして霊術を扱う素養を持ち合わせており、狩りなども含めて戦闘の多くが霊術によるものであった。もちろん、霊術の才能があまりない者や身体強化の霊術を用いる者による近接戦も存在するが、その技術はその他の霊術と比べてあまり発展しておらず、数も多い魔獣にはあまり効果的でないとされてきた。そのため、肉体を戦える程に鍛えてその技術を磨く者は多くない。
そして、誰よりも霊術の扱いが上手いウツワもその例にもれなかった。
「『四式・治癒』」
だがしかし、あらゆる霊術を扱えるウツワはその魔獣らを相手に生き残ってきた実力がある。瞬時に自身の傷を全て回復させ、呼吸をととのえる。
「まずいのだ!ハト、奴に何もさせてはならないのだ!」
「うん!『炎よ』!!」
そして、二人が迫ってくる中、ある霊術を唱える。
「『一式・全身強化』」
身体強化の霊術。それは、足の速さだったり、腕力だったりと、一時的かつ補助的に能力を上昇させるのが基本である。後衛を守る前衛にかけ、後衛を守る壁とするなど、単純なことであればよく使用される霊術である。
しかし、全身に強化をかける者は限られており、身体強化に適性があり、近接戦闘を得意とする者がほとんどである。
つまり、身体強化を全身に、それも一式をかけたウツワの身体能力は、この世界でも上位を誇るものとなっているのだった。
「あまり、調子に乗らないほうがいい……小さい君はそこにいたまえ『五式・木檻』」
「しまっ……」
「ショウ!?」
ハトの攻撃は難なく避けられ、それに気を取られたショウは木の檻に閉じ込められてしまう。ショウが何とか脱出しようともがくが、傷をつけても瞬時になおってしまい、うつ手がなくなってしまった。
「安心するといい。命を奪うつもりはないよ。ただ、この手に握っているだけさ」
「『炎よ』!ショウ、逃げて!」
ハトはショウを何とか逃がそうとショウに向かって炎を放つ。
「『四式・土壁・二十段』」
「あぁ!!?」
しかし、その炎は二十枚もの土の壁に阻まれ、その全てを再生させたところで燃え尽きてしまう。
「ためらいもなく仲間に火を放つとは。私が知る限り、火の鳥の炎は無差別に全てのものを燃やすはずなのだが……やはり違うのか?しかし、その特性は今のところ違わないが……まぁいい、少し黙っていたまえ」
未だ、ハトの炎の持つ力を把握できていないウツワはハトの行動に疑問を覚えた。しかし、今は置いておいて捕まえてから考えればいいと判断した。
「ふっ」
「げほっ!」
「君は警戒するに値する相手だ。『四式・土織・百段』」
腹を殴られてその痛みと衝撃でハトはうずくまってしまう。そして、その周囲を百層の檻で囲まれてしまい、炎で再生してもその上からさらに檻が作られることで脱出が簡単にはできなくなってしまった。
「さて、試合終了といったところかな?」
一瞬にしてウツワによって場が支配された。
「くっ、ハト!炎を!」
「やってる!けど、どうにも!」
「……やはり、頭脳は君だな?」
もがく二人を少し眺めてから、ウツワはゆっくりとショウのもとへ歩き出した。そして、ショウの木の檻を解き、首を掴んだ。
「君が諦めるならば……それで済むのかね?」
「ぐぅ……ふふ、諦めると、言うと、思うのだ?」
「だろうね……ここまでやるのだから、そう言うと思っていた」
「ならば、どうするのだ?」
「仕方ない……消えてもらおう」
ウツワはそう言うとその手に力を込め始めた。
「う、ぐぅぅぅ!!!」
「や、やめて!ショウ!ショウ!」
ハトが静止の声をかけるも、ウツワは真顔のまま無視して続ける。
「やめて、やめてよぉ!!うあ、わぁぁぁあ!!!『炎よ』ぉぉぉぉ!!!」
「ッ!?」
錯乱したハトによって広範囲に炎が放たれる。檻も土台も炎によって包まれて瞬時に再生していく。ウツワもこれには思わずショウを手放し、転移して空へと逃れた。
「これほどの力を隠していたとは……参ったね」
正面に広がる白い炎の海をウツワは呆然と眺める。瞬時に燃え尽きる可能性もあるが、念の為四方を囲むように土壁を出現させ、消火へと行動を移した。
「うぅ、ショウ……」
ハトは一度に大量の霊力を消費したことで意識を朦朧とさせたまま、意識を失ったショウに覆い被さるようにして倒れた。
「全く、無茶するわね……」
そして、そこには謎の影が近寄ってきていたのだった。
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