一触即発
よろしくお願いします!
「一番会いたくない、厄介な奴が来やがったのだ……」
ショウはそう言ってウツワと名乗る人物を親の仇でも見るかのように睨みつけていた。しかし、当のウツワは飄々とした態度でその場に佇んでいる。
「ほう、随分な言葉ではないか。そこまで嫌われるようなことをした覚えはないのだがね」
ショウの視線に含まれる嫌悪の感情を読み取り、ウツワはショウに疑問を投げかける。初めて出会うにも関わらず、なぜそんなに私を嫌悪するのかと。
「白々しいのだ。お主ほどの人物が自身の異端さを理解してないはずないだろうに……」
ショウはその疑問に対して心当たりがないとは言わせないと突きつけた。ショウからすれば、おそらくウツワは誰からも嫌われて当然なのだろう。
「それと嫌われることはイコールではないのだよ。畏怖だったり、恐怖だったりの感情を抱かれることはあるが」
しかし、それは嫌悪する答えになっていない。ウツワの言葉通り、恐怖などの感情は嫌悪とはまた別のものであって他に理由があるはずなのだ。
「その何割が畏怖なのだろうな?いや、何分と聞いた方がいいのだ?」
だが、ショウはそれに答えることはなく、器用にも話題を逸らした。ウツワの興味をウツワ自身の発言に移したのだ。ウツワは目元をぴくりと動かして明らかに反応していた。ショウは出方を伺い、ウツワは動きを止めた。ちなみにハトは剣呑な空気に飲まれて動けないでいた。
そして、張り詰めた糸が切れるようにしてウツワが声を上げて笑い出した。
「はっははは!どちらかというと厘だったかな?すまない、昔はそれなりだったが、ここ数十年の間、まともに人と関わりを持たなかったのであまり覚えてないな」
ウツワはショウの言葉を冗談として捉えたようで笑いながら冗談を返した。
「別に?気にすることないのだ。更々、まともな対話など期待していないのだ」
しかし、ショウは依然として態度を変えなかった。嫌悪感を隠そうともせず相手を煽っており、ここまでくると何らかの狙いがあるかと疑ってしまうほどだった。そして、もしそんな狙いがあるのであればそれは成功したと言っていいだろう。ウツワの飄々とした態度が一変して真顔になったのだから。
「ふむ……そこまで言われるのは心外だな。よかろう!ならば久方ぶりの対等の交渉といこうではないか。幸い、世界樹に火がつくという惨事は免れている。速やかにこの森から立ち去ると言うのなら私も今回のことに目を瞑ろうではないか」
ただ苛立たせることには成功したが、それは意外な展開へと発展した。ここに来てウツワが危惧していたことを開示してまで交渉を始めたのだ。それはハトたちにとっても、その内容さえ無視すれば望むところであった。
「この、森……?この場所じゃなくて?」
しかし、その内容こそが重要で、ハトたちにとって無視できないものであった。その衝撃は今まで黙って見ていたハトが思わず疑問を口に出してしまうほどだ。
「ああ、そうだとも。今、私はそう言っただろう?無論、従えないのなら実力行使も辞さない」
「へうっ……ショ、ショウ、逃げよう?無理する必要ないよ」
「ほほう、賢明な判断だな。決して神獣とは思えないが、所詮、紛い物か。さて、もう片方はどうする?」
ウツワは条件をこれ以上に譲歩するつもりはないらしく、視線を鋭いものへと変化させ、さらにその意思を言葉にして示した。ハトはこれに気圧されてしまい、今すぐこの場から立ち去ることをショウに提案する。だが、
「断るのだ」
と、ショウは頭のおかしな人を見るような目をしてそう言ってのけた。
「……ほう?それは……この森から出て行かないと、愚かな決断をしたのかい?」
その答えは意外だったのか、ウツワも驚きを隠しきれていない様子だ。案外、感情を露わにする人物なのかもしれない。極めて冷静を装っているが、それが逆に違和感を生んでいる。ハトはこの姿しか見ていないため知らないが、ウツワという人物は決して人に動揺しているところを見せず、ウツワを知るものは口を揃えて全く感情がわからないと言うほどだ。故に、この現状はショウのペースと言っていいだろう。そして、ショウはそのペースを崩さず、
「けっ!我はそのあからさまに自分が上だっていう態度が気に食わないのだ!それに、目的を達していないにも関わらずここから立ち去れるはずがないのだ!物事はよく考えてから喋るのだ!」
と、言い放った。最早、言いたい放題である。
「……そうか。一応、その目的とやらを聞いといてあげよう。拒否権などないぞ?もちろん、黙秘権も」
ウツワは奪われたペースを取り戻そうと上から発言する。しかし、ショウはこれも一蹴。
「それは誰が決めたのだ?目の前にいるのがそんなことを素直に聞くとでも?」
決してウツワの要求を飲まないという姿勢だ。
「いいや、思わないとも。だから、こういうこともする」
ただ、ウツワもされるがままではない。ここまでくればある程度の落ち着きを取り戻しており、ショウとの言葉のみでの交渉は無理だと悟っていた。故に、実力行使へと移る。
「え?ひぇっ……」
「……ハト!?」
「これなら話す気になったかな?」
世界樹が風に揺られ、ハトが瞬きをしたその短い時間でウツワがハトの背後へと移動していた。そして、手のひらをハトに向けている。
ハトが人質にとられてしまったが、ショウはそれ自体は然程気にしていなかった。それよりも決して無視できないことが発覚し、あまりのことに動揺していた。
「そうだったのだな……さすがに気配を消していただけだと思いたかったのだが。お主、今といい、ここに来た時といい、やはり……禁術である転移を使ったのだな?」
その無視できないこととは、この世界において周知されている数少ない禁術の一つである転移が使われたことだ。
「ほう!今では口伝すらされなくなったというに。よく知っているものだな」
「その口伝されなくなった理由が転移による災害と知ってて言っているのならその頭は随分とお花畑なのだ」
霊術は基本的に禁止されることはない。なぜならそれは人にとって、神から与えられた特別な権能であるからだ。しかし、それでも一部のものは神教によって禁術に指定される。そして、それは漏れなく、術の発動によって必ず事故や災害が伴うものである。よって、禁術を使うのは浅学の者か倫理観のない者に限られるのだ。
「ふむ……もちろん知っているとも。知った上で使っている。空間ごと移動するため世界に一部欠けた空間と重なった空間ができることで空間が狂う。たかがその程度だろう?」
ウツワの説明だけである程度はどれほどに危険な代物であるかがわかるだろう。もう少し具体的に説明すると、重なった空間は元の空間の場所に戻ろうとする。一方、欠けた空間はそれを強い力で引き寄せる。しかし、その際の方向は最短距離ではなく、不可解なものとなる。これにより、その動いた間でその空間に入るサイズのものが巻き込まれて途中で振り落とされることがある。つまり、簡単にまとめると、人ひとりの転移によって関係のない人が知らない場所に飛ばされるのだ。
「……!!そうか、ではもう話すことなどないのだ。会話は人同士でするもの。人道に背く人でなしにかける言葉などないのだ」
ショウはウツワに対して軽蔑の目を向けて対話を諦める。どうしようと分かり合えることなどないと悟ったのだ。
「……人でない者に人道を語られたくはないな。君の言うとおりもう会話は不要だよ。消えるといい」
ショウの言葉から会話の終了を察し、ウツワはハトに向けたものとは反対の手をショウに向けた。
「二度も言わすななのだ。断るのだ!」
「では、このまま私自らが手を下すまでだ!」
ショウが言葉を放つと共に走り出し、それが……世界最強の霊術使いとの開戦の合図となった。
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