特訓道中
よろしくお願いします!
二人が世界樹の根元へと出発してから少し後のことである。一向に特訓を開始しようとしないショウにハトは疑問を持っていた。
「ところでさ、特訓はいつになったら始めるの?」
首を少し後ろに傾けて背に乗っているショウへとそう問いかけた。先ほどから話してはいたが、通りがかったところの植生だったり、先ほどの妖魔についてわかったことだったりとポツポツと会話をするだけでこれからのことについてはあまり話そうとしないためだ。これに対してショウは、
「もう少し進んでからなのだ。ちょっと、我が暴れすぎたせいで周囲の魔獣や妖魔の気配が近くなっているのだ」
と返す。魔獣や妖魔はあまり理性を持たないが、音や臭いに反応して寄ってくる。そのため、大暴れした直後はいくらハトがいるとは言えども、それらの類が寄ってくる可能性があったのだ。また、木の上を飛んでいることから森の中がよく見えないため、音に注意する必要もあった。しかし、終始無言はショウも耐え難いことからちょっとした会話のみを続けていたのである。
「うげぇー……ちょっと急ごっか」
「うむ、頼むのだ」
ハトはそう聞いてやはり無用な争いは避けたいため、急いでもといた場所から離れ始めた。
ハトが急いで飛んでいることに配慮してなのか、ショウから話しかけることはなく無言の時間が続く。しかし、ハトも急いでいるものの、上に乗っているショウのことを考えて飛んでいるため、せいぜい全速力の四割ほどの速度であった。よって、会話をできるくらいの余裕はあり、少し前から気になっていたことについて質問をした。
「そういえばさ、それ大きさどうなってるの?もっと大きくてブカブカだったじゃん」
ハトはそれ、とショウの頭上に視線を向けて何について話しているかを示す。話を振られたショウは一瞬何のことかと悩むがすぐに何について話しているかに気づいた。大きさというとそれ以外にないからだ。
「むぅ?これなのだ?この兜は、可変の霊術の術式が刻まれた霊具なのだ」
霊具。ショウは自身のかぶる兜を指差してそう言った。しかし、ハトにとって霊具という言葉は初めて聞くものであってそう説明されても理解できるはずがなく、霊具という言葉をオウム返しで聞き返すことしかできなかった。
「霊具?」
「うむ。霊具とは、霊術の術式が刻まれた道具のことなのだ。霊術との違いとしては術式を起動させる時に言霊を必要としないところなのだ」
「え、言霊がいらないの!?」
ハトの疑問を受けて、ショウによって霊具の説明がされる。その説明の中には今までの説明に反したこと、霊術の起動に言霊を必要としないという驚愕の事実が含まれていた。ハトは霊術の発動にはすべからく言霊が必要と考えていたため、つい大きな声を出してしまう。
「まぁ、だからと言って、霊術の術式を刻む段階で言霊は必要であるが故に本質は変わらないのだ」
「なるほど……」
ハトがショウの説明に考え込んでいると、ショウはふと思い出したかのようにして、
「そういえば、ついでに言っておくのだが……我がハトについて調べてた時に使ったモノクルも霊具なのだぞ」
と、さらっと述べた。
「え?いきなりなに……あー!?やっぱりなにかしてたんだ!何かわからなかったけど変な感覚があったもん!何かするにしても先に言ってよ!」
「それについては悪かったのだ……普段はしないのだが、つい、自制ができなくなってしまったのだ」
「まぁ、もう今更いいけどさ……それで、どんな術式が刻まれてるの?」
ショウは自身の使うモノクルが相手に不快感を与えることくらいは把握しており、そのことから普段は使う相手に一言くらい断りを入れてから使用するのだが、今回は好奇心に負けて急いてしまいそのことを怠ってしまった。そのため、ハトの言うことは最もでありショウは反省する。そして、その詫び……とまでは言わないが、ショウはいつもであれば断るハトの霊具に対する質問に答えた。
「むぅ……これは霊視のモノクルなのだ。簡単に言うと、見た対象の霊力の質や量が見れるのだ」
「ふーん……なんか納得したよ。だって、内側を覗かれてるようなゾワゾワする嫌な感覚したし。次からは気をつけてよね」
「……すまないのだ」
ハトはショウが何かを隠そうとしていることは少し言い淀んだことから何となしに察していた。それでも秘密にしたそうにしていることを答えてくれたのだ。だから、この話はここで終わりにした。ショウもハトの配慮に感謝しつつそれに甘える。これ以上の話、どこで入手したかなどは答えるわけにはいかないからだ。
「あのさ、話は戻るんだけど……魔獣とかが使う魔術に言霊はいらないの?」
ハトは話を変えようとして、先程までショウの霊術についての説明で頭に引っ掛かっていたことを問いかける。ショウの説明によると、霊術は基本的な法則としてやはり言霊が必要なようだった。しかし、ここでハトには新たな疑問が浮かんでくる。それは、魔獣や妖魔はどのようにして言霊を発するのかというものだ。言霊が要らないものを魔術とするのかと考えたが、霊術と魔術の違いは使い手だけであり本質的に変わらないはずだった。であれば、魔術に言霊が必要ないという理屈は通るはずもなかった。
「むぅ?魔術なのだ?あれは少し難しいのだが、魔獣と妖魔自体が誰かに術を付与されている状態なのだ。簡単に言うと霊具とほぼ同じような感じなのだ。だから、言霊はいらないのだ」
魔術の発動には言霊が不要な理由はわかった。だが、その説明をされれば当然、この疑問が浮かんでくる。
「……?誰に術をかけられてるの?」
霊具のようなものだと言うのなら。その術をかける誰かは必要不可欠のはずであった。しかし、魔獣や妖魔は突如現れたと聞いており、人為的な存在という話はされていない。
「それは……今現在では不明なのだ。魔獣を解剖したり、研究したりしてその仕組みを理解できても、誰によるものなのかはわからないとされているのだ。ただ、人智を超えたものであることに違いはなく、故に災害なのだ」
ショウは真剣な面持ちでそう説明して述べた。
「人智を超えた……それなら神様とか?」
「いや、それは不可能なのだ。神は以前に言った通りあまり世界に対して干渉できないのだ」
「そっか……じゃあ、本当に謎なんだね。とっかかりもないほどに」
「認めたくはないのだが……そうなるのだ」
わかったことはただ人の手が及ばないということだけ。解決する方法も対処する方法もなく、ただ抗うことしかできなかった。それはとても苦しい現実だ。
だから、ショウはハトに抗う術を身につけさせようとしているのだろうか。それの明確な答えはわからないがハトはそう思うことにした。そうすれば、戦う理由を増やせると考えるからだ。
「そっか……ショウ。僕、頑張って強くなるよ」
「むぅ?何でその気になったのだ?まぁ、それはいいことなのだ!一緒に頑張るのだ!」
ショウはすっとぼけているのか、それとも純粋にわからないのか。それは、ショウのみぞ知るところであり、ハトには知り得ない。けど、ハトの言葉を聞いて笑顔になったショウにハトは協力したいとそう感じていた。
ハトはそろそろ特訓を始めてもいい頃なのではと思い始めていた。今なら気合い十分であるし、良い結果も残せるかもしれない。そう考えて、ショウにそのことを提案しようとした。だが、それはショウも同じだったらしい。
「さて、そろそろ頃合いなのだ」
ハトが言うまでもなく、ショウから特訓の開始を提案してきたからだ。
「あ、特訓だよね!そういえば、霊力を抑えるのも覚えなきゃじゃなかったっけ?」
これからする特訓とはハトが傷ついた際に痛みを感じるより早く再生するためのものである。これにより、戦闘において躊躇いがなくなることが考えられるため、結果として強くなれるとショウは予想していた。これに関してはハトも同意であり、痛みさえ感じなければもう少しどうにかできるんじゃないかと思っている。
しかし、ハトにはそれだけでは足りない。経験も技術も、その体以外何もないのだ。そして、その肝心な経験は今のままではほとんどつむことができない。ハトの強大すぎる霊力によって向こうから寄ってくることはないのだから。
「それに関しては心配いらないのだ。痛みを感じないようにするのも、霊力を抑えるのもどちらも我の予想では同じ方法で解決できるはずなのだ」
だが、それについてもショウは思慮深く考えていたらしい。あくまで予想に過ぎないとしても、ショウの長年の知識によるものであれは信用まではできないが試してみる価値はある。それに、同時にできるのであれば願ってもないことだ。
「へぇ〜、一石二鳥だね!」
「うむ!正直、助かるのだ!」
「それで?どんなことをするの?」
「簡単なのだ!我が背中に爪をたてるから、それを意識して再生するのだ!」
ハトは特訓の内容を聞いた瞬間、笑顔のままかたまった。そして、眼下の森に突っ込み、ショウを気にこすりつけるようにして振り落とす。
「うわっぷ!?な、何をするのだ!?」
突如、空中に投げ出されかけてすんでのところで爪を木に引っ掛けてことなきを得たショウはハトに非難の声を浴びせかける。今しがた二人で頑張ろうと話したばかりであるにも関わらずこの仕打ちをされれば許せないのも無理はないだろう。しかし、ショウは許す許さないよりなによりもひどく困惑していた。端的に言うとなんで!?である。
しかし、ハトからすれば何でと問いたいのはハト自身である。特訓とだけ聞いていたが、理屈を聞いて実践ではなく、いきなり実践であり、かつ、背中に爪をたてると言うのだ。いきなり凶行に及ぼうとする者を自身の背中には乗せて置けないだろう。故に、何を被害者面しているのかと非難を浴びせ返した。
「何をする、じゃないよ!?背中に爪をたてるなんて言われたら振り払うに決まってるよ!!?」
「仕方ないのだ!他に方法はないのだ!さっき、強くなるって言ったのだ!その言葉は嘘だったのだ!?」
「それは嘘じゃないけどさ!どうして背中に爪をたてるの!?というか、意識して再生するって何さ!それじゃあ霊力は弱まらないじゃん!」
どちらも同時に解決すると言っていたが、ハトはこのままではどちらも苦戦してどちらも成功できない気がしてならなかった。実際、ヒントもなしにどうしろというのだ。そのことを必死に伝えるとショウはやっと、
「何を言っているのだ!お主の漏れている霊力を集めて再生力を強めればいい話なのだ!」
と、答えた。ショウの口ぶりからして、ショウにとって、もしかしたらこの世界に住む人々にとって霊力の操作は体を動かすのと同じくらい普通なのかもしれない。しかし、それはハトには知ったことではなく、ショウの言葉足らずに段々とイラつき始めていた。
「それならそうと先に言ってよ!ショウは言葉が足りないよ!」
「ハトは理解力が足りないのだ!」
ハトの言葉を受けてもなお、ショウは自分の非を認めようとはしなかった。それどころかハトの理解力を責め立てる始末だ。
二人は互いに歪み合い、顰めっ面のまま睨み合う。そして、ハトはつい反抗したい気持ちから軽口を叩いてしまった。
「ふん!こんなのすぐにできるようになるもんね!ハトの毛だってちゃんと乾かせたし!」
その隙を逃すショウではなく、
「ほう!それは期待してるのだ!では、始めるのだ!」
と、ニヤリと笑いながらその爪を天に掲げて思い切り振り下ろす。そして、ハトの静止の声はあえなくスルーされ、その凶爪はハトの背中へと突き刺さる。
「え、うそ、待っ……」
「待たないのだ!えい!」
「イターッ!?」
それから十分ほど、森の中にはハトの悲鳴が響き渡るのだった。
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