覚悟と意思
よろしくお願いします!
ハトの首がゴトリと音をたてて地面に落ちる。
いくら不死鳥であり死なないと言っても肝が冷える光景だ。
ショウが思わず声を上げて呼びかけるが、返事は一向に返ってこない。それどころか、首の離れた胴体の火が段々と弱まり消えていく。
まさか。そう思ってショウはハトの首に近づき、手を口元に近づけた。しかし、その予感は幸いにも外れたようで、首だけでありながら辛うじて呼吸はしており、また、近づいてわかったことだが、消えた胴体の火と同じくらいの量の火が首から燃え広がっていた。このことからハトは死んではいないが、気絶したものと考えられた。
「はぁ……火の鳥ともあろう者が心配させないでほしいのだ、全く」
ショウは心配を返せと言わんばかりにそうぼやき、面倒くさそうな表情で敵を見た。
今の今まで、ショウは敵に対して牽制を欠かしておらず、敵は警戒しながらショウとハトの周りをぐるぐると歩くことしかできなかったが視線を向けられたことでその警戒を強めた。
「ハトは……これならほっといても問題なさそうなのだ」
敵は喉をグルグルと鳴らし、今にも攻撃を仕掛けようとしている。
「というか、此奴はなんなのだ?魔獣に擬態する妖魔など我でも初めて見たのだ」
妖魔の周囲に風が吹き始める。
「……まあいいのだ」
妖魔の周囲の風が刃を形成する。
「今からそれを確かめればいいだけの話なのだ」
ショウがその言葉を言い終わるよりも早く、妖魔による風の刃が放たれる。
だがしかし、ショウはこれに動じるどころか、逆に目をギラギラとさせて妖魔に相対していた。
風の刃がショウの眼前に迫る。
「さあ、お主の全てを我に見せるのだ!」
*
「う、うぅん……」
「お、やっと起きたのだ。気分はどうなのだ?」
あれから少し時間が経過して、妖魔は二人の前から跡形もなく姿を消していた。
ぼんやりとした視界と同様に思考も朧げなハトは、目を擦ることで視界がはっきりしていくと共に思考も冴えていった。その目にくっきりとショウの姿が写ったとき、ハトは今までのことを急激に思い出した。
「……あ!?」
「ふむ、やっと状況を理解したようなのだ」
「敵は、敵はどうなったの!?」
ハトはその場から飛び起きて周囲をぐるぐると見回す。既に結果がどうなったかを知っているショウからすれば滑稽に見えるが、それも仕方ないと思える。なぜなら、不死鳥でなければ十中八九、その命を散らしていたはずだからだ。
ショウにとっても初見の相手ではあったが、舐めてかかったことは事実であり、その油断がハトに災難を招く結果となってしまった。故に、ショウは少しハトに後ろめたい気持ちを持っており、ハトに対して少し優しく接していた。
「ハトは首と胴体が離れていたのだから少し休んだ方がいいのだ。とりあえず、そこの湖で顔でも洗うといいのだ」
「……え?く、首が?……そうだね。とりあえず、顔を洗ってくるよ!なんなら全身使ってこようかな!あはあはあははは!」
ハトがショウに聞かされたことはあまりに衝撃的であったため、ハトは一旦聞かなかったことにした。しかし、完全に聞かなかったことにできるはずもなく、その動揺は言葉と行動にあらわれてしまい、ハトは湖に勢いよく飛び込んで行った。
「どうなのだ?少しは落ち着いたのだ?」
ハトが湖からのそのそと緩慢なペースで上がってきたところにショウは声をかける。ハトは見ただけでわかるほどに落ち着いており、それどころか少し落ち込んでいるようにも見えた。ハトはショウの声に気付き、ゆっくりと顔を上げた。
「うん……あの敵はショウがなんとかしてくれたんだよね?ありがとう」
湖に全身をつけた甲斐はあったようで、ある程度状況の把握はできたらしい。どうしたかはわからなくてもどうにかして落ち着ける状況をつくったのはショウであることに辿り着き、ハトはその礼を述べた。
「いや、気にしないで欲しいのだ。それよりも我こそすまなかったのだ。神獣だからと油断しすぎていたのだ」
「神獣なのに勝てなくてごめん……」
「あ、いやそういう意味ではないのだ。実はあれは魔獣じゃなくて妖魔だったのだ。だから、そもそも霊力を込めないと倒せない敵だったのだ」
実はショウも相手が妖魔であると見抜けなかったことに負い目を感じていた。それどころか初見の相手だったにも関わらず、ハトの神獣としての力を過信して碌な助力も助言もせずに敵の目の前に放り出したのだ。普段から偉そうにしているショウであってもさすがに反省するというものだ。
しかし、ショウが今回の敗因は自分にあると告げても、ハトはさらに落ち込んでしまい謝罪の言葉を口にしだした。
今のハトは首が切られた直後であり、精神的に参っていた。そのため、励ましや擁護の言葉であっても、悪い方へと思考が傾いてしまう。今も、ショウがそう言っていないにも関わらず、自分が神獣という強い存在であるのに負けたということに着目してさらに落ち込んでいた。
そこで、ショウは今回戦った敵についての説明をすることでハトを説得しようと考えた。
今回戦った敵は魔獣に擬態する妖魔であった。妖魔は霊力のこもった攻撃以外を受け付けず、また、同属性の霊術に大幅な耐性を持つ。また、怪我をすることはなく、毒なども効かない。よって、倒すにはその内包する霊力、妖魔だから魔力を完全に消費させ切る必要があるのだ。そして、ハトはまだ霊術について学んでおらず、倒すに至るにはかなり困難であった。
ハトはこれを聞き、少しだけ顔を明るくしたが、その直後に疑問を口にした。
「……そうなんだ。あれ?けどさ、僕の翼はずっと燃えてるのに霊力こもってないの?」
「……それは」
ハトの質問にショウは答えることができない。そんな様子のショウにハトはさらに気になっていたことを聞く。
「それと、あの敵、妖魔の中でも強かったの?」
「……むぅ」
これにもショウは答えることができない。
ショウの態度からハトはその答えを察する。そして、段々とその表情を曇らせていき、仕舞いには顔を上げることができなくなってしまった。
「神獣なのに、弱くて、ごめん……」
「これは……やっちまったのだ」
暫くの間、ショウはハトを元気づけるのに苦労するのだった。
それから少し時間が経過して、ハトが少なくとも話を聞いてくれるまでにこぎつけたショウは、今回の反省を踏まえた今後の戦闘について話をしていた。
「ハトよ。これからは戦闘については我が指導、指示するのだ。無理はさせないと約束するからできるだけ従って欲しいのだ」
「……たしかに、何もわからないよりはいいけど」
今回の事件の一番の要因が何もわからないハトに対して、なんとかなるだろうと全てを投げたことである。一応、ショウにもショウなりの意図としてひとまずの実力を測ろうとしていたのだが、事実は事実だ。そのことでハトに精神的な苦痛を与えたのだから反省しなくてはならない。
よって、今後の戦闘はどう動けばいいかなどをショウが指示していくという方針を提示した。ハトもショウの説得のおかげもあり心情的には比較的同意の姿勢だった。だが、先ほどまでのこともあってそう簡単に、はいとは言えなかった。また、痛い思いをしなければならないのか、そこまでして怖い思いをする必要はあるのかといった不安がハトの頭の中を巡る。
ただ、逆に言えばその不安さえ取っ払ってしまえばハトは同意の意思を示してくれるということだ。
「もちろん、自分でちゃんと考えた行動であればしてもよいのだぞ?つまり、二人で強くなる!ということなのだ!!」
ショウの二人でという言葉にハトはどこか心が軽くなる感じがした。
「二人で……それなら頑張れるかも」
今回の戦いでハトは、ただただ不安だったのだ。頼りになる仲間ができたと思って。そしたら、急に一人で戦うように仕向けられて。戦う理由もわからなかった。覚悟も、自分の意思もなく、一人で戦わなければならなかったのだ。
しかし、二人ならば。互いに助け合うことができる。戦う理由も、ショウを守ると考えればなんとかやれるかもしれない。
まだ不安はあれどハトは少しずつ強くなるための意思を持ち始めていた。
「わかった。二人でなら……僕も、頑張れる気がするよ」
そして、その意思は言葉に変わる。言葉にしてしまうと、ハトは不思議と勇気が湧いてくる、そんな気がした。
ショウはそのハトを満足気な表情で見て頷き、言葉をかける。
「うむ。そんなに心配する必要ないのだ!幸いなことにハトはそう簡単には死なないのだ。トライアルアンドエラーなのだ!」
……台無しである。
「ちょっと待って!?確かに死ななかったけど痛いのは痛いんだよ!!?」
ショウの言葉にハトの覚悟も意思も揺らぎに揺らぐ。まさか、これから何度も死ぬほどの痛みを感じなくてはならないのだろうかという不安が腹の奥底から湧き上がってくる。
「そこはちゃんと考えてあるのだ!もうお察しの通り、我は好奇心を抑えられない性分なのだ。そして、その好奇心がお主には何かがあると言っているのだ!だから、きっとなんとかなるのだ!」
ショウはニッコリとした笑顔でそうハトに告げる。満面の笑みだ。満面の笑みなのだが……ハトにはその笑みに影がかかっているように見えた。そして、湧いてきた不安が溢れて涙となって溢れてくる。
「……ひぅ!?ぼ、僕に何をするの!?」
「では、その方向でよろしくなのだ!」
ショウはハトの質問に取り合わず、笑顔のまま話を逸らす。
「よろしくないよ!?もう少しその好奇心を隠してよ!?嘘も隠し事もできないのはショウの悪いところだよ!?」
今更、自分の言葉を撤回できないハトは涙目のままショウを責め立てる。しかし、ショウはお構いなしに次へと行動を移す。
「それじゃ、出発なのだー!」
「あ、ちょっと飛び乗らないで!?重たい!!」
「ほら、早くしないと敵が集まってくるのだ!」
そして、最終的には丸め込まれてしまうのだった。
「……はぁ。全くもう!痛みを感じない方法、後でちゃんと教えてよね!」
ショウには悪いところだとは言ったが、隠し事も嘘も苦手なところは逆に信用しやすい要素である。故に、不安はあるが、ショウの言ったことは本心であり本当のことであろうという確信があった。だから、ハトは流されてあげることにしたのだ。
もちろん、ショウも何も考えずに発言したわけではない。ただ、少しは痛い思いをすることになるために覚悟を決めておいて欲しかっただけだったのだ。
「わかっているのだ!というか、その方法を覚えるまでまでハトは戦わなくていいのだ」
だからと言って、ショウはハトに無理に痛い思いをさせるつもりもなかった。そのため、元から特訓を終えるまでは戦闘に参加させるつもりなどさらさら無かったのである。
「……え、あ、そうなの?な〜んだ、それを先に言ってよー」
ハトはそれを聞くと露骨に態度を軟化させた。すぐには戦わなくていいと聞いて現金にも安心したのである。
「まぁ、さっきの戦いで少しコツを掴んでたからどうせすぐ覚えるのだ。心配いらないのだ」
ただし、それでもう戦わないなどと言われては困るため、ショウはしっかりと釘を刺しておいた。
「そうなの?なんか……嬉しいような、嬉しくないような」
最終的にハトの心中は複雑になるのだった。
好奇心の塊
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