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戦闘の一歩目

よろしくお願いします!

「ど、ど、ど、どうして!?」



 突如……とは言い難いが、目の前にあらわれた敵にハトは驚き、慌てた。それは四足歩行の獣であり、爪や牙が鋭く肉食であろうことが窺える。そして、その牙を剥き出しにしながら涎を垂らし、今にも飛びかかってきそうな雰囲気を醸し出していた。



「多分、高笑いとハトの霊力に釣られたのだなー」



 しかし、ショウはこれに動じず、呑気にも敵があらわれた理由を予測していた。



「それ、高笑い九割じゃない!?」



 そのショウの出した理由はハトにとって不服なもので、ついツッコミを入れてしまう。ハトにしてはどう考えても自分より大きな声を出していたショウが原因だと思えるからだ。



「いや、ハトの霊力が九割なのだ。だって、ハトの笑い声にめっちゃ霊力がこめられてたのだ」


「えぇ!?なにそれ、聞いてない!?」



 ここにきて衝撃の新事実である。ハトはよくよく思い出してみると自分が声を出した時の相手、その中でも特に覚えている者としてコブが挙げられるが、身構えていた印象があった。それはこのことが理由だったのかと今になって思い直す。しかし、ハトはあの時はむしろそれで良かった気もしていた。


 それはともかくとして、今は目の前の敵である。もし、本当に霊力につられて来たのだとすれば、今後、言葉を発すること自体が災いを呼ぶ元となりかねない。ハトはその懸念点に気づき、不安そうな顔でショウに視線を向けた。



「まぁ、本来は無意識で霊力がこめられることなどないのだが……ちょっとハトの霊力が多すぎるのだな。これからは意識して抑える必要があるのだ」



 その視線を受けてショウは不足していた説明を補足する。敵の目の前ということもあり端的に済ませようとしたことが裏目に出たようだ。さて、これで説明も済み、ハトも納得……



「あ、なんとかできるんだね。よかったぁ……とはならないよ!?そういうことは先に言ってよ!どうするのさ、この状況!!」



とはならなかった。ハトからすれば事前に教えてくれていれば回避できたはずの状況に納得できるはずもない。もし、教えてもらってもハトが霊力を押さえ込むことができなかった場合であっても心の準備くらいはできたはずなのだ。ハトからすれば、なぜ、こんな重要なことを話さなかったのかと文句の一つも言いたくなる。しかし、その答えは明確で、



「慌てる必要ないのだ。これくらいならなんとかできるのだ」



と、ショウは重要だと思っていないからである。実際、圧倒的な霊力を撒き散らす相手に近づいてくるものなど限られており、圧倒的強者か、無知な弱者くらいなものである。そして、前者は言ってしまえば神獣レベルであり、この森に住む強い魔獣や妖魔でさえ近づくことはできない。


 もちろん、こんなことが許されるのは森の奥深くであるからであり、ショウも森から出る前にはハトに霊力を抑え込む術を学ばせるつもりであった。


 そして、森の民に関してショウはまだ大丈夫だと踏んでいた。森の民は世界樹を神聖視してその近くまで来ることは稀であるからだ。つまり、神獣の捜索の時間くらいは問題ないということである。


 さて、ショウがハトに自身が霊力を垂れ流しにしていることを教えていなかった理由はこの通りであり、ハトはその理由を知らないまでもショウの自身ありげな態度から不安だった気持ちも少し晴れた。



「ほ、ほんと!?それならよかっ……」


「ハトが」



 晴れた不安は一瞬にして曇り模様に変わった。



「うそん!?僕がやるの!?」



 ハトからすれば、あまりに堂々とした態度だったためにてっきりショウが敵を対処してくれるものだと思っていたのだ。そんなところに、手のひらを返すような発言をされてハトは裏切られたような感覚に陥り、その心は動揺していた。


 そして、その動揺につけ込むようにしてショウは言葉を紡ぐ。



「……言ったはずなのだ!この世界は今、災厄に満ちていると!戦えないものは生き残ることすらできないのだ!!」



 紡がれた言葉はこの世界で生きるための最もな意見だった。しかし、その最もな発言でハトを納得させようというショウの目論見は、



「逃げちゃだめなの!!?逃げよう!?それがいいよ!!」



と、ハトの自分が戦わなければならないことになって湧いてきた恐怖が勝ったことで失敗に終わった。



「えー、ハトは随分と臆病なのだなー……ほら、さっきは勝ったのだから今回もきっと大丈夫なのだ」



 自分の目論見が外れたこと、そして、ハトの及び腰にショウは入っていた熱が少し冷める。ジト目をしながら訴えるような目をハトに向けるもショウの想いが伝わることはなかった。



「やだよ!?さっきのだって死ぬ思いをしたんだからね!?ね!?」



 ハトはそう言いながら既に敵に対してその背中を向けていた。



「……仕方ない、わかったのだ」



 そんなハトの行動に対して何かを諦めたかのような表情をしたショウは、ため息をつきながらトコトコと歩きだした。



「え、ほんと?よかった……ってあれ、どうしたの?乗らないの?」



 その歩く方向はハトではなく敵に向かっており、ハトから離れ、敵に近づき、ある程度の距離で立ち止まった。そして、ショウはこう言った。



「……我はここから動かないのだ。ハトはそのまま逃げるといいのだ」


「え!?え!?」



 ショウは敵を前に仁王立ちして、不動の宣言をしたのだ。ハトはその行動に対して理解が追いつかず、ただひたすらに困惑する。だが、ショウはハトのそうした行動を許さず、選択を迫った。



「ほら、逃げるならはやく行くのだ!」



 ショウの言いたいことを簡単にまとめると、『逃げるなら逃げろ。ただし、我を見捨てて一人でだ』ということになる。これには及び腰のハトであっても、さすがに逃げると言うことができなくなった。そして、ハトはショウの思惑通りに行動に移った。



「うぅ……わかったよ!やればいいんでしょ!?うわぁぁぁぁああ!!!」



 ぺちーーーん……



「随、分と……しょぼい、音がしたのだ……」



 ハトの翼が敵を捉えて打ち据える。しかし、その勢いに反して響く音は人間の一般的な平手打ちよりも数段劣るものであった。


 行動こそはショウの思惑通り。しかし、結果は全くの予想外であり、仮にも神獣のはずのハトの攻撃にショウは呆れて苦笑すら出てこなかった。辛うじて言葉を発するが、それは全く理解できない事態を自分に理解させるためのものだった。



「わぁぁぁ!?痛い!痛い痛い痛い!?噛まないでーー!?」



 しょぼい攻撃の後、案の定、反撃にあっていたハトの悲鳴によって、もう諦めて自分がやってしまおうかとすら考えていたショウは、やっとのことで冷静さを取り戻した。


 そして、その冷静な頭で現状に疑問点が浮かんできた。



「……むぅ?ハトよ。お主、傷もなければ血も流れていないのに痛いのだ?」



 そう。敵はハトにしっかりとその爪と牙をたてて突き刺さっているにも関わらず、ハトは血の一滴も流していないのだ。そして、ハトの力は再生。であれば、常に自身の怪我を再生していると考えるのが自然だ。そして、血が流れるよりも早く怪我を再生しているのであれば痛みはないのではないかとショウは考える。しかし、実際はショウの考えとは裏腹に、



「そりゃ痛いでしょ!だって、刺さってるんだよ!?体に!あ、いたたたた!?」



といった具合である。そして、その疑問を無視できるはずもなく、ショウは思考に耽り始めた。



「ふむ……その痛みすらも再生、くらいならできそうなものなのだが。どうしてなのだ?神獣なのだから、それくらい本能でできてもいいはずなのだが……」


「助けて!ショウ!助けてー!」



 一度、考えることに集中しだしたショウは、なかなかそれを止められない。それこそ、大きな声で助けを求められても。



「元人間にしては鳥としての動きが自然すぎるのだから、本能みたいなものはあるはずなのだ。しかし……戦いはヘッタクソなのだ……どうし、て……あっ」


「またそれ!?ブツブツ言ってないで助けてよぉ!!……ぐすっ」



 とうとう、ハトに本気の泣きが入ってきた時、ショウの頭はその考え事の結論に辿り着いた。



「本来の不死鳥、火の鳥はその名の通り全身が火であり、その全身が武器……つまり、戦いの本能は不要!?あとは……ハト本人にも才能がないのだな……はぁ、仕方ないのだ」



 その結論とは、本来の火の鳥の戦いはただ存在するだけで勝利が約束されていたというものだった。故に、技も知恵も不要であり、その本能に闘争が存在していなかったと考えられるのだ。


 これに気づいたショウは何度目かわからないため息をつき、自身から敵を引き剥がそうとして泣きながら段々離れるハトに声をかける。



「うっ、うわーん!?そこ、おしり!やめてー!!?」


「……やれやれなのだ。ハトよー、鳥なら鳥らしく戦うのだー!例えば、空を飛ぶとかー!!」



 あくまでも戦うのはハトであり、ショウのすることはアドバイス、助言程度だ。襲われる恐怖のあまりに思考する余裕のないハトにショウは戦う方法を示した。



「うぅ……空を飛んでどーするんだよー!?」


「落とすのだー!というか、ハトよー!それくらい、自分で考えるのだー!」



 あまりに考えの及ばないハトに、ショウはつい小言を言ってしまうが、



「……えっ?これ、魔獣なんでしょー!?霊術とか、使わないで倒せるのー!?あと……飛ばない!?」



と、ショウにとって予想外の返答がされた。つまり、ハトは魔獣や妖魔の類を倒すには霊力を用いた攻撃でしか不可能と考えていたのだ。事実として、妖魔はその通りであり、その懸念は最もだった。よって、ショウはハトをみくびり過ぎていたと反省しつつ、ハトの求める答えを提示した。



「……なるほど、そういうことだったのだな。ハトよ!何も問題ないのだー!魔獣は魔術が使えて全体的にパワーアップして、凶暴なこと以外、普通の獣と変わらないのだー!飛ぶことに関しては元から飛ぶ獣なら話は違うのだが」


「十分違くない!?」


「とにかく!早くするのだー!……あれ?そういえば、さっきから痛くないのだー!?」



 ショウによって説明された獣と魔獣の違いはかなり違った。もはや別物と呼べてしまうほどには違った。そのため、ハトは咄嗟にツッコミを入れると共に、ショウの感覚は少なくとも自分とは異なるということを理解して把握した。ハトがそんなことを考えていると、ショウはまたハトに対して違和感を覚えてそのことを指摘した。



「え?あ、ホントだ!なんか、慣れてきたー!……ってやっぱり痛い!?あ、ちょっとアグアグしないで!?いたたたた!!?」



 この指摘にハトは一瞬だけ納得しかけたが、思い出したかのように痛がり始めた。



「……ふむ。そういうこと、なのだな」



 そんなハトの様子を見てショウは何かを理解したような反応をしていた。そんなショウをよそに、ハトはついに痛みに耐えかねて限界を迎えていた。

 


「うぐぅ!もうやだ!痛いって、言ってるじゃないか!!!!」



 ハトはそう叫びながら天に向かって高く高く飛び上がる。



「僕から、離れろォーー!!!」



 そして、身をがむしゃらに捩って敵を引き剥がす。かなり痛みに耐えかねていたようで、その口調が悪くなるほどだった。敵はヒューっと音をたてながら落ちていく。敵はなんとかしようともがくがその手足は空を切り、為す術がないようで、ついにはグシャっという音と共に地面に墜落して力なく横たえてぴくりとも動かなくなった。



「はぁ、はぁ、つ、疲れた……」



 ハトはヨロヨロと危なげにゆっくりと元の位置へと降りていく。ショウは敵の無力化を確認して、近づいてきたハトに声をかける。



「お疲れ様、なのだ」


「おつかれ、じゃないよ!!めっちゃ痛かったんだからね!!?」


「まぁ、勝ったのだからそれでいい話なのだ」


「よくないよ!?」



 戻ってくるなりぶーぶーと文句を垂れるハト。これに対してショウは慰めの言葉を送るが、それでもハトは納得しない。


 だが、ショウとしてはここで納得してくれないと困ってしまう。なぜなら、これ以上言えることはハトにとって辛い話となってしまうからだ。しかし、ハトはそんなショウの憐憫の目に気づかずに詰め寄ってくるため、ショウは答えざるを得なかった。



「むぅ……ハトよ。この際、はっきり言ってしまうのだが、お主に戦闘の才能はないのだ」


「……?いきなりどうしたの?そんなのわかりきってることじゃん」



 しかし、ハトはそれを意に介さず、むしろ、今さら何を言っているのかと、ショウに対して疑問すら持っていた。



「……!?……ハトはそれでいいのだ?」



 このハトの考えにショウは衝撃を受ける。



「え?うん」


「……今回のことで何もわからなかったのだ?」


「何がさ?」



 再度問いかけるもハトの考えに変化はなかった。ショウは衝撃のあまり、数秒ほど自身の考え方を言語化しようと試みるが失敗に終わって諦めた。



「いや………………それなら今は、それで別に良いのだ」


「……?変なのー」



 結局、ハトは気にした様子を見せず、これで会話は終わってしまった。ハトはハトで、ショウのことが不思議すぎたらしく、怒りはどこかへいってしまったようだ。


 ショウは気を取りなおすために先ほどの敵を解析しようとして探し始めた。



「さて、ではさっきの魔獣を……あれ、魔獣がいない、のだ……」


「魔獣?さっきのやつ?なんか、サァーッて消えてったけど……」



 しかし、ショウはそのお目当ての物をみつけることができなかった。困惑するショウを見て、その理由はハトによって明かされた。



「……まずい!?ハト、そこから離れ……!」



 何かに気づいたショウが鬼気迫った表情でハトに警告をするも、



「……あ、え?」



時既に遅く、ハトの首が……胴体から離れた。



「……!ハトォォーーー!!?」

ありがとうございました!

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