心の一歩
よろしくお願いします!
「はぁ……これだと先が思いやられるのだ」
二人が散々騒いだ後、ショウがため息をついてそう小さな声で独りごちる。しかし、それはハトに聞こえていた。さすがに罪悪感のあったハトはこれを否定することはできなかった。
「返す言葉もない……け、けど、ショウだけには言われたくないよ!」
だからと言って、納得できたわけではない。ショウだって杜撰な計画を立てていたことに変わりなく、自分のことを棚に上げてそう言ったショウに文句を叩きつける。
「むぅ……すまない、そうではないのだ。我も含めて、なのだ……」
「うぐっ……ごめん」
しかし、これに対してショウは少し気落ちした様子を見せ、ハトも言葉が詰まる。謝罪もしたが気まずくなってしまい、ハトはその次の言葉がでてこなくなってしまった。
ショウはこれに気づいて苦笑しながら、
「いや、こちらこそすまなかったのだ……ひとまず、休憩でいいのだ?毛が濡れて気持ち悪いのだ」
と、理由をつけて提案をする。二人共に気分を変えるべきと考えたからである。
「……うん、わかった。それなら、ショウの毛、僕の火で乾かそうか?」
理由をつけて提案にのりやすくするというショウの気遣いをハトは無碍にはしなかった。そして、ハトはその優しさに応えるべくこちらからも提案を返した。
「む?ハトの火は熱くないから、乾かせないはずなのだ。何を言っているのだ?」
しかし、その提案の意図は理解できても内容までは理解できるものではなかった。それは、ハトの火が通常のものと異なり、熱を持たないことから乾かすということができないはずだからだ。ショウはそのことを指摘して、何を言っているのかと問いただす。
「いいや?水を水蒸気に再生すれば乾かせると思うよ?」
これに対するハトの答えは、ショウの想像を超えるものだった。再生といえば、まず、生物の怪我や欠損、物の破損を元に戻すというようなことが考えられるからだ。
「ほぅ……なるほど、そんな方法が……それじゃあ、頼むのだ。少しずつ、でお願いするのだ」
「おっけー!」
ショウはハトの提案を受け入れた。もちろん、少しずつという保険を入れることは忘れずに。
これを受けてハトがショウに近づいて早速、毛を乾燥させようとその羽をショウに向けた。しかし、当のショウは何かを思案するかのようにその場に立ったまま微動だにしなかった。これにはハトも不思議に思い、声をかける。
「……どしたの?」
今回は今までとは異なってすんなりと耳に通ったらしく、ショウはハトの声に反応してピクリと動いた。そして、その口をゆっくりと開く。
「……すまないのだ。念のため、全身にお願いしてもいいのだ?覚えてないのだが、頭とか打ってたらシャレにならないのだ」
「あ、うん。ほんとにごめん……ほんとに」
*
「あー……熱くはないけど、なんだかぬくいのだぁ……」
ショウはゆっくりと少しずつ毛の乾燥を始めて、今では全身の乾燥が終わりハトの羽に包まれ首だけを外気に晒していた。その様子はさながらこたつに入っているかのようだ。仰向けならば温泉だっただろうが、今はうつ伏せ。コタツムリである。
目を細め、完全にリラックスしているショウに対してハトは微笑ましい気持ちになり、そんな二人の空間にはほんわかとした雰囲気が漂っていた。
「あはは、おっさんみたい」
「年齢だけならおっさんどころではないのだぁ……」
「おじいちゃんどころでもないねぇ」
「まぁ、人間の年齢で考えればまだまだ若者と言えるのだぁ」
二人はダラダラとのんびりしているが、当初の目的である毛の乾燥を終えているにもかかわらず、未だにここに留まっているわけにもいかない。
だが、コタツムリは動かない。動いたとしてもその動きは緩慢だ。であれば、どのようにしてこの状態から脱するのか。その答えは簡単で、こたつが動いてしまえばいい。
ハトは布団のように被せていた片翼を勢いよくどけた。
「ぬわ〜!?寒いのだ〜!?」
突如、布団を引き剥がされて背中の面の全てを外気に晒されたことで思わずショウの口から悲鳴が漏れる。
「バッチリなセリフをありがとう!……ほら、もういいでしょ?この茶番。セリフはばっちりだけど、ほとんど今の棒読みだったし。それで、毛の感じはどう?」
「うむ。ゴワゴワしないくらいでちょうどいいのだ!助かったのだ!」
先程までの空気はどこへやら。二人はダラ〜ッとした喋り方をやめて、既に次の行動へと移っていた。
「それはよかった。それじゃ、さっそく出発しよ!」
簡単にお礼を済まし、いざ出発。……そんな時だった。
「うむ!……あ、ちょっと待つのだ」
ショウがいきなり道を逸れて、何かを見つけたかのようにとある場所へと駆け寄って行ったのだ。
「よいしょ、なのだ」
「どうしたの?」
「良いものを見つけたのだ!」
ショウは実際に何かを見つけたらしく、それを抱えてハトに見せつける。
「良いもの?……あ、それ」
その良いものを、ハトは知っていた。それは記憶に新しく、ほんの数時間前に見たばかりだ。
「む?知ってるのだ?これは兜!なのだ!何でここにあるかは知らないのだが、これからも飛んで移動するのだし、ヘルメット替わりに丁度いいのだ!」
ショウにとっての良いもの。それは、ハトにとってあまり良いものでなく、それから連想される記憶も良いものではなかった。そのため少し反応に詰まり、やっと出てきた言葉は少し後ろ向きなものだった。
「僕が言えたことじゃないけど、落ちる前提はやめてほしいかな、あはは……」
しかし、テンションが上がって興奮しているショウはそんなハトの様子に気付くことはなかった。
「まぁまぁ、念のためってやつなのだ。それで?この兜を知ってるのだ?」
だから、先程までかろうじて足を乗せているに留まっていた段階の地雷を踏み抜いた。ハトが知っているのかと問われて誤魔化したにもかかわらず、それに気づかずに問い直したのだ。
「……うん。その兜、多分、僕のことを襲ってきた人たちのだと……思う。さっき、鎧を着込んだ人たちに襲われたばかりだから」
だからと言って、別に無理に隠す話でもなかった。嫌な思いをしたことは確かであり、聞かれなければ答えることはなかっただろう。だが、ハトはショウに聞かれた。故に、気分はダダ下がりになりながらもハトは質問に答えた。
「むぅ?……なるほど、随分とこっぴどくやられたようなのだ。ふむ……お主と会う前に見たあの白い火はそれが理由だったのだな?」
「あれ、見えてたんだ」
「我は木の上にいたのだ。見えて当然なのだ。それで?最後はどうなったのだ?」
ショウはハトの様子に気づくも、今更話をやめることはなかった。それどころか、少しだけ何があったかを知っていたことから事の顛末が気になるらしく、ずけずけと質問をする。
これにはハトも気圧されてしまい、まだ続けるのかと思いながらも渋々ではあったが答えた。
「……追い返したよ。武器は全部使えない状態にして」
ハトの回答は簡潔なものだった。しかし、ショウにとっては十分なもので、その回答を聞いた瞬間にテンションが上がったのか声を大きくして、
「ほう!それなら、尚更丁度いいのだ!勝ったのだろう!?つまり、言ってしまえばこれはハトの戦利品!ふふん、気兼ねなくいただけるのだ!」
と、言い出した。
ハトはショウの発言に面食らった。つまり、落ちていたものとはいえ、兜を勝手にもらうことに抵抗があり、それを解決する理由がほしかったのだろうか。というか、自分の戦利品なのにもらうことに躊躇いはないのか。言いたいことはいっぱいある。だが、ハトの口から漏れた言葉はこれらではなかった。
「……あはは、その発想はなかったな」
漏れたのは笑いと感嘆で、ハトはそれと一緒に自身の気を重くしていたものもどこかに行ってしまったかのような晴れやかな気持ちになっていた。
「そうなのだ?ふははは!ほれ、何をぼんやりとしているのだ!ハトも勝ったのだから堂々とするべきなのだ!」
笑いながらそう言うショウに、ハトもついついつられて笑いが大きくなる。
「ふふっ、あははは!」
ハト一人では、襲われたことを思い出しては嫌な気分になっていただろう。何せ死ぬかと思った記憶なのだから。
しかし、ショウのおかげでハトはそれを戦利品を得た勝利の記憶へと変えることができた。それこそ、そのことを思い出すと自然と笑えるくらいのものに。
「ふーはっはっはっは!」
「あはは、あはははは!!」
「はっはっは!……あ」
「ははは!……え?あ……」
デッデデー!敵があらわれた!
……残念ながら当たり前である。
ハトの心は前に進んだ。しかし、二人は未だ、湖の側から動いていないのである!
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