朧気な記憶
よろしくお願いします!
最後に見たのはなんだっただろうか。
その者は微睡のなか、そう思考する。
脳裏に浮かんできたのは泣いている女の子の顔。
「だめだよ、こんなの嫌!どうして、ねぇ、お願い、私を……置いてかないでよ!!生きて、ずっとそばに居て!!!」
どうしてだろうか。どうしてその子はそんなに悲しそうに、苦しそうに泣いているのだろうか。その子の泣いている様子は必死で、その者に対して呼び掛けているのだろうが、その者はその子の泣いている理由も名前すらも思い出すことができない。
この時にどんな声をかけたのか、その子とどんな関係だったのか。
その者は、その子に関してほとんど覚えていなかった。否、思い出すことができなかった。
唯一、思い出せたこと。それは、その子が大切であったということだけ。
その子の全てが、泣いている表情すら愛おしくて、ずっと一緒にいたくて、それができなかったことが申し訳なくて。
もっと、もっとこの子のことを知りたいと、そう求めてその子のことを思い出そうとするが、その願いとは裏腹に、その子の顔は遠ざかっていく。
それからその子のことを考えても他には何も思い出せず、その者が半ば諦めかけたそんなとき、その者は別の人物の顔を思い出した。
次に浮かんできたのは、怯えを隠すように笑っていた女の子の顔だった。もともとは快活な女の子だったのだろうことが服装や髪形から推測できたが、目の下にはクマがあり、肌も少し似合わないと感じるくらいに青白い。
その者はその時のことを少しだけ思い出すことができた。その者がその子と出会った場所は人がまばらにいる謎の白い空間だった。何か大切なものを失ってしまった、そんな感覚からぼんやりとしていたところにその場所で話しかけられたのだ。その子が驚きを含んだ声で突然話しかけてきたものだから、その者は不意をつかれて驚き、咄嗟に振り返った。それがその者とその子の出会いだった。
その子はそれから黙ったまま、その場に立ち尽くしていた。あり得ないことが起こって思わず話しかけてしまったが、それ以降のことを考えていなかったかのように。仕方なくその者が近づいてみるとその子は震えていて、その者は思わず手をとってしまった。
その者は少し気持ち悪いことをしてしまったかと後悔するが、その子は優しげな安心した表情を見せて口を開いた。
「あはは、ありがと。……これは運命、なのかな?ねぇ、君。ちょっとお願いしたいことがあるの。出会ったばかりだけど……一生のお願いだよ。ボクにはもう、耐えられそうにないんだ……」
そのまま、意を決した様子のその子に何かを頼まれたが、その者は肝心な内容を思い出すことができない。
最後に、その子は笑ってその者に別れを告げた。
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