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波うさぎ

作者: Lyric Lilly
掲載日:2022/05/21

明け方近くだろうか?


昨晩からの発熱のせいか、よく眠れなかった。


漸(ようや)く、意識が霞(かす)み始め、レースのカーテン越しに、ぼんやりとした月の明かりを見たような気がする。


最近は、熟睡するということもなく、気がついたら朝だったとか、昨晩の顛末を思い出すのに苦労するだとかもなく、起きているつもりが、いつのまにか夢の世界だったり、現実のはずが、ふと思い出すと辻褄の合わない話の中で、もがいていたりもする。


昨晩の熱は、体の中に這(は)う虫がいて、無理矢理に血管の中を押し進み、どんよりとした鈍めの痛みというか、皮膚を浮かせて溶けた鉛(なまり)を流し込むようなというか、なんとも伝えるに表現の言葉が見つからない、得体の知れない苦しみを味わわせてくれた。


隣の部屋で寝ている女に、毒でも盛られたのかなとさえ考えた。

普段なら、親しい女(ひと)のことを「隣の部屋の女」などと呼び捨てることもないのに、ほんと、どうかしている。


「うさぎ」は海の上を走っていた。

鮫も鰐(わに)もいない。

因幡の白兎ではないようだ。


月は赤く、波は砂漠の蛇のように、無数の生き物が捩(よじ)れ、戯(たわむ)れながら、舟の後ろに流されていく。


進む先には、影だけが浮かび上がる竹生島か?

はたして、私には、その島に向かう資格はあるのだろうか?


「悩むな。惑うな。」

ただ進むのが良い。


その声に驚き、波を越えて走るうさぎは、無数の蛇に呑まれてしまう。

赤く、ぼんやりとした月から、一粒の真珠のような光りが溢(こぼ)れて、海に落ち、ひとまわり大きく膨らんで、波の下のうさぎを包み込み、また浮き上がる。


私は安心する。


「ねえ、キスしよ。」

隣の部屋にいたはずの女が、私を誘惑する。

目を開けたはずなのに、手も足も、体のどの部分も動かない。

遠慮なくぶちゅっと押しつけられた唇は、昨日の私の体温よりも熱く、しかも異様に湿っている。


動かないはずの体のある部分だけが、眠っていても分かるほどに膨らんでくる。


どこまでが現実なのだろう?


彼女の手は、口は。


私は、恥ずかしながら、下着と寝具を汚してしまったようだ。


ようやくに起き上がる。

熱はすこし下がっているようだ。


隣の部屋の彼女は、まだ静か。


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