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4「教育」Moonlight.

「確かに襟元にハーケンクロイツがあったわ。ネオナチ気取りの若者ね。きちんと組織として機能しているわけじゃない連中。つまり、私の情報を流した上がいることは確定事項よ。襲撃場所の癖としては――、ファイルをもう一度見せて。そう、この団体の癖があったわね」

「ありがとうございます、テーラーさん」

 ブラウンに向かって、ローザは軽く愚痴をこぼす。

「ユーリは仕事をしている私が好きらしいけれど……。たまにモナコやセーシェルあたりでぐうたらして余生を送りたくなるのよね」

 ブラウンは同じようなうんざりした表情をする。

「私もそういった余生を検討していましたが……。あなたのおちびさんの家庭教師をすることになりましたね……」

 年寄りになったからといって、思い通りには生きられないのだ。

 再度ため息。

「そもそも私は教師ではなく教官なんですけどね……」

「そもそも私はあなたの教え子に守られるべき市民のはずよね……」

 繰り返すため息。

「教え子の誰一人、尻尾をつかめなかった武装集団が……80歳の女性に蹴散らされたとあっては……。失礼ながら、私の教育方針が間違っていたのかと不安になります」

「つくづく、教育とは厳しいものね」

「……ええ。改めまして、スコットランドヤードよりご協力を感謝します。ローザ・テーラーさん」

「どういたしまして。ブラウン教官。あら失礼、ブラウン先生」

 フランソワーズには内緒にしてね、とグラスを取り出す。

「そして改めてお礼を言わせて。ユーリの身元を探してくれてありがとう」

「私が探したのではありませんよテーラーさん。お礼は探してくれた者たちに伝えておきます。赤ん坊のころに難民として入国記録アリ。国籍カザフスタン。しかし、記録の際父親を名乗っていた男は、実父ではないでしょう」

「赤ん坊連れなら、申請はゆるくなる。人道的だわ。あの子の容姿は東洋系が強いけれど、あちこちの血が混ざり合った混血児でしょうね」

「恵まれている方です。しかしそれでもやるせない」

 ローザはしばし瞑目する。

「ユーリの歳を「書類」という形で見たとき、自分が80歳であることを強く感じたの。時間がないと思ってしまったのよ、あの子に人並みの幸せを与えるのに。だから、学校について焦りすぎてしまったの。恥ずかしい話だわ」

「しかたのないことですよ。ですので、私も母に告げ口をさせていただきました」

 微笑。

「やっぱり、あなただったのね」

 返される微笑。

「話が戻りますが……」

 ブラウンは酒を注ぎながら問う。

「襲撃された際、右手しか使わなかったとうかがいましたが……。それは例の新作兵器の特性ですか?」

 思わず声を上げて笑ってしまう。

「そんなたいそうな理由じゃないわ。ごくシンプルに……。左手にラッピング済みのぬいぐるみを抱えていたからよ。くまのパディントン、ちょっと大きめのね」


  おしごと おしごと 奥様はおしごと

 メイドちゃんはちっちゃいから もうねんね

 2020/10/02

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