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1話「宿敵」Moonlight.

「だからね、作ってみたかったから作ってみたで売れる業界じゃないのよ。この業界は」

 スマホの先から、早口の弁明が並べ立てられる。

「いやいやいやいや。作ってみたいものを作ってみるには、先立つものが必要じゃないか。そうすると作ったものを売るしかないだろ?」

 まったく最近の若者は、と一瞬考えたが。

 年齢問わずモノを作る連中はこういうものだ、と考え直す。

「それで作ったものの処分料で、借金をするはめになってれば世話はないわ」

「いやいやいやいや、まさか作っただけで逮捕されることがこんなに大ごとだとはね。誰も想像がつかないよ! ましてや開発チームのボスが逐電するなんて! イエス様だって想像しないよ! ローザ、あなたは本当にマリア様だ!」

「異端審問にかけられるわよ。で、返済のメドは立ってるの?」

「ああ、内蔵1個でいいらしいんだ。ラッキーだった」

「どこの内蔵?」

「聞いてないけど、死ぬようなことはないだろ。えー、それでさ。ローザ、【鮮紅のローザ】、ローザ・テーラー、マリア様。やっぱりもう一度作品を見ることはできないかな? 大丈夫だよ。12000字の数字とアルファベットと記号を正確に入力しなくちゃ絶対に爆発しない。絶対にだ」

 ため息。

「そのパスワードを入力したら、倫敦全域が吹き飛ぶんでしょう?」

「そう! しかもサイズは直径2センチ厚さ3ミリ! ペンダントに隠せるという芸術品! これがまさか」

 思わずこめかみを押さえる。

 ゆっくりと、区切りながら言い聞かせる。

「けっして、私は、扱わない。まともな国家が顧客にいる同業者で、扱うものは、いない。なぜなら、まともな国家は、敵国に持たれたら手に負えない武器は、結託して、禁止するから。だから、違法なの。大口の顧客ともめて小銭を稼ぎたい商人、想像できる?」

 向こうからもため息。

「使用することを前提に何かを作るなんて、ナンセンスだ」

 心底疲れる会話だ。

「なら、なんのために作るの?」

 だいたいわかっているけれど。

「挑戦するのは男のさがだからさ!」

 ああ、頭が痛い。

「とにかく。あの爆弾は同じような男の性の結果、私でも見つからないところにいきました。あなたは支払いの心配だけしなさい。よい夜を」

 通話を切って、ぐっと背中を伸ばす。

 鏡台に写る老いた女。

 置きっぱなしのアクセサリーカタログが目に入る。

 挑戦が男の性だとしたら、女の性は着飾ることかしら。

 だとしたら、ペンダントにカモフラージュした爆弾を離さなかったあの猫。

 メス?

「ああ、いやだわ。こういう考え方をしてしまうのは、まったく年寄りの性ってものだわ。年寄りの宿敵は、年寄りの性。ほんとにいやだこと」

 手元の仕事に視線を戻す。

「女の性は、爆弾の方かもしれないわね」

 彼女は再度、老眼鏡をかけた。


 おしごと おしごと 奥様はおしごと

 メイドちゃんはちっちゃいから もうねんね

 了

 

2020/04/09


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