表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

10「誘拐」sign of rain.

 午睡。

 短い眠りを補うまどろみ。

 老人の糧。

 若き日の栄光にすがり、睡眠薬を食いあさる者もいるが。

 ローザはまどろみを気に入っている。

 ベッドに流れた赤毛はほとんど白く。湯とシャンプーの香りをさせている。

 ガウンの下も白い。

 数年前、ある日本人が「トキのようだ」と表現した肉体。

「天然記念物だよ」

 結局。一夜のあやまちの女で終わった。

 そして今。1月の曇った冷えた朝。

 ローザの()(わい)()は、恋敵の元に着いただろう。

 何度も男を奪い合い。

 最終的に、生涯ただ1人の愛人となった女。

 クラシカルなメイド服を、律儀に無邪気に着続けている男の子が、ローザの可愛子が訪れる。

 1階の窓をノックする。

「こんにちは、マダム・スワン」

 女は、脂肪にたるんだ体を動かし。

 かつて男たちを魅了した、豊満な体を動かし。

 のそのそと動かし。

 葉巻の箱を、ぞんざいに。

 チョコレートボンボンの箱を、大事に取り出し。

「いらっしゃい、ユーリ。おつかいご苦労様」

 葉巻の箱を渡してやって。

「おまじないをかけてあげる。キラキラのお目々を閉じて、かわいいお口を開けてごらん」

 わくわくと従うユーリの口に、チョコレートボンボンを放り込む。

 たった9歳のちいさなメイド。

 ローザの可愛子。

 まどろみ。

 ふいに背筋を寒気が走る。

 勘。

 (つちか)って研ぎ澄ました生きる(すべ)

 電話が鳴る。

「ハロー?」

「ローザ! 大変よ! ユーリが誘拐されたわ! うちから10歩と離れてないところで!」

 頭の中が白くなる。

 混乱。

 混乱している。

 ローザ・テーラーが混乱している。

 自分が混乱しているとわかる。

 それ以外のことがわからない。

 自分がはうしてしまったのか。

 ユーリはどうなってしまうのか。

 手が震える。

 80年。

 80年も自分は何をしていたのか。

 何もわからないではないか。

 何も。何も。

「ローザ、車のナンバーを覚えてるわあたし」

 混乱は続く。

 早口に言いつのる。

「車って。誘拐犯の車? それは確かなの? それは確かな番号なの? それは――」

「しっかりおし!」

 恋敵の一喝。

「あたしがなんで売れっ()だったか忘れたの? 客の電話番号を一度で覚えるからよ! それであたしが誘拐犯に言ってやったのはね! 「あんたたち後悔するわよ! 絶対に手を出しちゃいけないモンに手を出した! あんたたちは今、グラウンド・ゼロよ!」って!」

 混乱の沈静。

 ローザ・テーラーの頭が冷える。

 代わりに瞳に炎が宿る。

「ありがとう。やるべきことがわかったわ」

 鮮紅の花が燃えさかる。

「グラウンド・ゼロよ。開始する」


 おしごと おしごと 奥様はおしごと

 メイドちゃんのゆくえは どこかしら


 Next おつきさま!

 

 2021/06/19

次回更新は9月17日(金)! よろしくです!

お気に召したら評価をポチっとお願いします。最新話の下にございます♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ