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7話「休日」Moonlight.

 同刻。白昼。

 ヴィクトリア朝めいたワンピースの老女。

 ほとんど白くなった赤毛。

 見るからにの上品さ。

 されど、ローザ・テーラーは不機嫌である。

 理由は三つ。

 一、ずるずると自宅に居座ってしまったマッドサイエンティストに、子守を任せるはめになったこと。

 二、そのマッドサイエンティストが、何やらまた自分を改造して悦に入っていること。

 三、

「公式に発表することないじゃない」

 彼女の一言で、運転手は巨躯を縮める。

「は。その、焦りからの先走った行動であるとは、本官も自覚しておりますが」

 ローザは葉巻を取り出す。

「窓を開けてちょうだい」

「はッ」

 速やかに開く窓。公用車は煙草1本ごときに気をつけねばならない。

 冷風は年寄りにこたえるというに。

 脳内でひとりごちる。

 口に出すのは「それで?」だ。

「はッ」

「自覚しておりますが、の続き」

 鉄板でも入れたかのように、運転手の背筋が伸びる。

「ハロウィンが近づけば、子どもたちだけで出かけることが多くなりますので……。市民感情を鑑みますと……。その……どうしても……」

 ローザは煙を深々と吸い込む。

「どうしても?」

「お礼の方、本部と相談いたします」

「よろしい」

 優雅な仕草で、葉巻を携帯灰皿に入れる。

 そして

「シートベルトをしっかりしめて、歯を食いしばりなさい」

「はっ」

 反射で指示に従う巨躯。

 次の瞬間、背後の車が火を噴く。

 引火。

 衝撃。

 爆発。

 横転!

 ひっくり返った廃車を眺め、ローザ・テーラーは宣言する。

「今夜中」

 毅然と苛烈に宣言する。

 思っていた以上に、子どもはハロウィンが楽しみなものらしいのだから。

「今夜中に、連中を全員檻か棺桶に入れてあげる」

 スコットランドヤードの運転手は、電話にわめく。

「もう限界だ! このクソババア、いきなり車ごとふっとばしやがった! 今夜中かけて全員ふっとばすんだとよ! 上に伝えろ! ブラウンのもうろくジジイに伝えとけ! おばあちゃんにおこづかいとお休みをさしあげろってな!」

 ローザはゆっくり電話をかける。

「ハロー、ドリー。休憩時間にごめんなさいね。まあ、サイズがあったの? きっとかわいい狼男になるわ。そうなの。お任せしてわるいことだわ。私、ハロウィンの飾りなんて無縁に生きてきてしまったから。花のない年寄りであきれたでしょう?」

 電話先。ハロッズ社員は朗らかに返す。

『何をおっしゃるの奥様。いつもエレガントでいらっしゃることよ。ああ、そうだわ。宅配とうかがっていたのだけれど……。どうせうちはお隣なのだから、私が玄関に届けた方が早いと思うのよ。いかがかしら?』

 ローザは顔をほころばせる。

「まあ、助かるわ。今夜はちょっと帰れそうにないのよ。明日からはお休みなのだけれど」

 電話先の隣人は心配げに注意する。

『お仕事なのだから、しょうがないことでしょうけど……。最近の倫敦は物騒でしてよ。あまり夜歩きをなさらないでくださいな。ほら、例のテロリストたち、まだ捕まっていないのだから』

 ローザは軽く微笑する。

「まったく困ったことよね。こんな年寄りにまでしわ寄せがやってきているのだもの。でも安心なさい、明日からは休日よ」

 夜に向かって突っ走る。

 HALLOWEEN! HALLOWEEN! HALLELUJAH!

 

 おしごと おしごと 奥様はおしごと

 メイドちゃんはちっちゃいから もうねんね

2021/03/15

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次回更新は6月18日(金)! お楽しみに!

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