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7「休日」おひさま!

 伝統と文化の街、倫敦。

 この物語は、倫敦のちいさなお屋敷を舞台にお届けする。

 9歳のちいさなメイドちゃんと、お年を召し

た奥様の、1年間の日常です。


「熱いよー。気をつけてね」

「ありがとうございます!」

 紙袋の中からぶわっと湯気。

 鼻をくすぐるジャガイモの香り。

 アツアツ揚げたてチップスです。

 場所はいつもの市場なれども、このチップス屋は初対面。

 ひげもじゃご亭主、にっかと笑い。受け取ったるは初任給。

 そうです。

 メイドちゃんは、日頃の功績を認められたのです。

 首から下げしガマグチは、いつもの黒ではありません。

 情熱の赤いチューリップ柄。

 中には、メイドちゃんのお給料が入っています。

 敬愛する奥様は、日頃の目覚ましい働きをお認めくださり。

 週2ポンドのお給料を、メイドちゃんの采配にお任せになったのです。

 お祝いにいただいたのが、このガマグチ。

 フランソワーズさんがブラウン先生を通してくださいました。

 プライベート用のお財布なのです。

 あっぱれ! これぞ英国紳士!

 かように信任厚いメイドちゃんですから。

 奥様は安心して、お外で1泊なさることになり。

 本日は休日でございます。

「あふあふあふ」

 いつものクラシカル調のメイド服。されど本日、エプロンはありません。ちょっとお塩がこぼれたけれど。

 やけどしそうなアツアツポテト。

 わんわんちゃんがうらやましげに見ます。

「わんわんちゃんもほしい?」

 ウィスキーしか喉を通らぬはずでしたが……。

 わんとうなずく老忠犬。

 なんと大慶至極なり。

 お屋敷での生活は、老いたる体を癒やしたようです。

 ジャガイモ見つめる視線も熱し。

「半分こねー」

 分け合う友情あな清し。

 チップス食べ食べ家路を歩み。

 目を輝かすのは髑髏にコウモリ。

 奇々怪々なるハロウィンの飾り。

 メイドちゃんも、お菓子をもらいに行くスケジュールです。

 先日和解した少年たちの提案。

 メイドちゃんたちのお屋敷は、なんにも飾りはしていないですけれど。

「ただいまかえりましたー」

 誰もお屋敷にはいないですけれど。

 そろそろ時計は12時です。

「おひるごはん作ろうねー」

 ポリッジを1.6オンス。ボウルにお水と一緒に入れて。塩一つまみ。レンジで3分。

「いただきまーす!」

 半分食べて。

 しばしの間。

「あげる」

 わんわんちゃんと半分こにしました。

 つぶらな瞳で見上げるわんわんちゃんです。

 時刻はまだ12時15分。

 やること……。

 お洗濯……。昨日、ドラム式洗濯機に1週間分詰め込みました。

 お掃除……。奥様から「今週はお客が来ないから、客間の掃除機はしなくていいわ」と。

 お勉強……。宿題も昨日済ませてしまいました。

 いけません。いけません。これではワーカホリックです。

 できる男は、オフも充実しているのです。

 ラジオを聞いてくつろぎましょう。

『一連のテロ行為について、スコットランドヤードは「市民は安心してハロウィンを楽しめるだろう」と正式なコメントを出しました。しかし根拠を提示しない態度に――』

 メイドちゃんには、少々むずかしすぎるようです。

 無益な時間を過ごすのはもったいない。

 スイッチオフ。

「お茶の時間のご用意しようねー」

 ポリッジを前にわんわんちゃん。おひるごはんいらなかったのに? の瞳。

 そしらぬそぶりで、ダイジェクティブビスケットを取り出します。

 ティーセットはウェッジウッド。

 奥様のお気に入り。

 しばしの間。

「今日はいらないもんねー」

 しばしの間。

「夕ごはん作ろうねー」

 わんわんちゃん、懸命にポリッジのボウルをアピールします。

 されどメイドちゃん、動きを止めず。

 1.6オンスをボウルにあけて。

「……」

 しばしの間。

「あげる」

 わんわんちゃんにおかわりをあげました。

 麦のままなのですけれど……。

 休日ですよとメイドちゃん。

 階段下、使用人部屋へ向かい。

 取って返す手にパディントン。

 奥様にいただいたぬいぐるみ。

 大きなくまを抱っこして。

 玄関にちょこんと座ります。

 お日様明るいお外だけれど。

 休日すなわち自由時間。

 くつろぐ場所が玄関だって、自由な時代じゃありませんか。

 お昼の太陽天高く。

 いつにもなしに、暖かく。

 なんともなしに、離れずに。

 メイドちゃんゆっくり夢の中。


「あらあらユーリ! こんなところで寝ちゃってまあ」

 瞼を開けば朝ぼらけ。

 瞳に映るは我が主人。

 80歳の奥様は、両手いっぱい袋を抱え。

 気品に満ちたるお姿を、のぞくは袋の髑髏にコウモリ。

「奥様、奥様、おかえりなさい!」

 お留守番はこれでおしまいです。

 初めてにしてはできたでしょう。

 メイドちゃんは優秀なメイドですから、次からはもっとできますよ。

 ですから、帰っていらしたら。

 毎回こうしてぎゅうってしてね。


 Next moonlight.

2021/03/19


次回更新は5月21日(金)!

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