Last Loop Dance
「ぅっっっ‼︎」
胸を抉るような痛みに声にならない悲鳴を上げる。
痛みにはだいぶ耐性がついてきてしまったがこの痛みは、彼女の痛みだけはいつまでたっても耐性がつきそうにない。
それでも、少しでも彼女の痛みを代われるとするならば。
地面に這いつくばっている体に鞭を打ち血だらけの、しかし目立つような大きな傷のない少年は手を伸ばしてどうにか顔を上げる。
顔を上げた先ではちょうど血と埃にくすんだ黒髪の少女が胸から大量の血を流し力なく崩れ落ちた。
「ア..ラ....ディ.....ァ」
崩れ落ちていく彼女を抱きとめようと必死に伸ばした手は虚しく空をきる。
また守れなかった、という呟きとともに彼の意識はまた暗闇の中に落ちていく。
深く深く、永遠に終わりのない闇の中へと。
* * * * *
「ここはどこだろう?」
周りを見渡しても記憶にない見知らぬ場所だ。
そもそも。
’'僕はだれだ?''
思い出そうとしても自分に関することなど何もわからない。
何もわからないという事実に呆然として立ち尽くす。
しばらくしてあてもなくようやく歩き出す。
この中世のヨーロッパのような街を歩いていると明らかに普通の人ではない、亜人と呼ばれるであろう人もたくさんいた。
ここはもしかするとおぼろげな記憶の中のもといた世界と違うかもしれない。
しばらく歩いてみて周りの話に耳を傾けるが言葉がわからない。
もちろん書いてある文字も読めない。
やはりここは僕の知らない場所だろう。
これからのことをどうしようかと考えながら街をさまよう。
「あっ」
ぼーっとこれからのことを考えながら歩いているとすれ違った人と肩をぶつけてしまう。
「すみません」
振り返って謝るもそういえば言葉が通じなかったなと思い出す。
顔を上げてぶつかってしまった人を見るとそこには白銀の髪の少女がいた。
思わずその少女のかわいさに見惚れてしまう。
その後我に返ると少女も赤い瞳でこちらを見つめている。
ああどうしようか、ジェスチャーで伝わるだろうか。
「いいえ、こちらこそごめんなさい」
どうしようかと思っていると少女が口を開く。
え、通じた?と一瞬思考が止まってしまう。
「もしかして言葉がわかるんですか?」
「えぇ、昔知人から少し教わったので」
この世界に来て初めて言葉が通じるかと言う希望に彼女は肯定をする。
その知人はもしかしたらもといた世界の人で話を聞けば何かわかるかもしれない。
「あの、その人は」
僕の言葉を遮るように彼女は僕の唇に指を当てる。
「ごめんね、もうあまり時間がないの」
そう言って微笑んだ彼女の笑顔に僕は魅了されてしまう。
「あの、君の名前は?」
「私の名前はアリティア」
不意にアリティアの手が僕の頬に添えられる。
「私を守ってくれる?」
可愛らしく首を傾げたアリティアに思わず僕はうなずいてしまう。
「ありがとう、ルエル」
アリティアの言ったルエルとは僕の名前だろうか。
そんなことを考えていると彼女の顔が近づいてくる。
「私を見つけてね」
アリティアの言葉と唇の柔らかい感触とともに僕の意識はまどろみの中に沈んでいった。
* * * * *
目が覚めると僕は広場に立っていた。
周りを見渡すと後ろには大きな噴水があった。
「あれ、アリティア?」
周りを探すも彼女の影はない。
また知らない場所へきてしまったのだろうか。
仕方ないのでまた歩き出す。
ここは先ほどの世界と同じかなと思いながら歩いていると先程と違いを感じる。
「わかる!」
先ほどまでは言葉がわからなかったはずだが周りの声に耳を傾けると言葉がわかった。
日本語とは違うようだが理解することができる。
それはそれとしてどこへ行こうか。
しばらくあてもなく歩いてみて考える。
気の向くまま歩いてきたしもちろんこの場所を知らないので迷子のようなものだ。
周りの人に話を聞こうか。
そもそも何から聞けばいいのか。
そんなことを考えていると不意に妙な胸騒ぎがした。
行かなければ行けないと言う使命感に駆られて駆け出す。
誰かが僕を呼んでる気がする。
「がぁっ!」
走っていると突如右足にえぐれるような痛みを感じて転んでしまう。
慌てて太腿を押さえて見てみるが特に何もない。
今転んでしまった擦り傷があるだけだ。
何が起きているのかわからないが足の痛みに動けずにいると次は左腕を噛まれたような痛みに襲われる。
「アァーーーッッ!」
あまりの痛みに思わず声を上げてしまう。
何事かと周りに人が集まってきている気配がするがそんなことを気にしている余裕なんてない。
あまりの痛みに意識を手放して楽になろうとするがそうはさせないとその痛みによって意識を戻させられる。
何が起きているんだ?どうなっているんだ?この痛みはなんなんだ?
疑問はいくらでも溢れてくるが痛みによって頭が回らずなんの解決策も考えられないままただただ痛みに耐えて道端で倒れていることしかできない。
この痛みに終わりはくるのだろうか?早く楽になりたい。
そう思った時に首に噛みつかれる感覚がきた。
なんとなくこれで楽になれるなとわかった。
意識がどんどん薄れていく。
まだ死にたくないな。
もう一度彼女に、アリティアに会いたかったなという思いがそんな中で浮かんできた。
でもそれも。
叶わないのだろうな。
僕の意識は暗闇に落ちていった。
『運命ノ歯車ハ回リ回ル。止マラナイ。'止マッテ'ト願ッテモ。'止マリタイ'ト願ッテモ』
* * * * *
目を開けるとそこはそこは見たことがない場所だった。
いや、違う。
僕はこの広場を見たことがある。
気づいた瞬間あの死へと繋がる痛みを思い出す。
うまく呼吸ができない。
冷や汗が止まらない。
しばらくしてなんとか落ち着いて深呼吸をする。
あれは何だったんだろう。
考えてもわからない。
そこでふと痛みがくる前に胸騒ぎがしたことを思い出す。
前回は間に合わなかった。
胸騒ぎがあった方に行けば何かわかるかもしれない、そう思い僕は歩き出す。
「たしかこっちの方だったと思ったんだけど」
しばらく歩いた僕の目の前には大きな門がある。
ここまで歩いてきたが胸騒ぎの原因だと思うものがなかった。
この門を越えれば街の外だ。
通り過ぎたか方向を間違えたのだろうか?
引き返そうかと思った瞬間またあの胸騒ぎが起きた。
街の外で誰かが僕を呼んでいる。
今度こそ間に合わせる。
そしてあの痛みの原因を探る。
胸騒ぎに従い走っていくと草原の先に森が見える。
どうやらこの森の中のようだ。
先ほどよりも胸騒ぎが大きくなっている。
森の中を走っていくとまだ幼い少女がうずくまっている。
どうしてこんなところにいるんだ?
「グルルルゥウアァッ」
「行かせないっ!」
そこに頭に浮かんだ疑問を一瞬で吹き飛ばすような雄叫びをあげる狼のような魔獣とそれを追いかけるように銀髪の少女が茂みの奥から現れる。
「アリティアっ」
僕の口から彼女の名前がこぼれる。
あの綺麗な銀色の髪に赤い瞳、そして今は真剣な表情をしているがそれでもわかるあの可愛らしい顔。
見間違えではなく、きっと彼女だろう。
「人がいるっ?」
一瞬こちらに視線をやり、僕を認識した彼女はすぐに魔獣に視線を戻す。
「その子をお願い」
魔獣と睨み合ったまま彼女は端的に告げる。
「わかった」
聞きたいことなどもいろいろあったがそれは後だろう。
すぐに少女の側に駆け寄る。
「大丈夫?動ける?」
顔を青ざめている少女は小さく首を横に振る。
恐怖でその場から動けないようだ。
まだ幼い少女だし仕方ないことだろう。
実際、僕も怖いし。
さてどうしよう。
下手に動いて魔物に襲われたら僕らはあっさり殺されてしまうだろう。
やはり邪魔にならない程度の距離で後ろに隠れているべきかと魔獣と対峙している彼女の方を見る。
「はあぁっ!」
彼女が手を振るうと不可視の刃が魔獣の足を切り裂く。
「これで終わりっ」
そう言って再び彼女が手を振るうと魔獣の首が落ちた。
魔獣が息絶えたのを見て僕はふうっと息を吐き出す。
「ありっ」
彼女が振り返り口を開こうとした瞬間、表情を変える。
「後ろっ!逃げてっ!」
振り向いた時には大きな黒い影が目の前まで迫っていた。
反射的に出した腕に狼の魔獣が噛み付く。
「うああぁあぁあぁぁっっ!!」
腕の肉がえぐれる感覚に意識がとびそうになるがその痛みにより意識を取り戻す。
「離れろっ!」
彼女の声が近づくと同時に魔獣が吹き飛ばされる。
腕の肉が持っていかれた反動で自分の血がかかる。
力が入らず肩から垂れ下がっているだけの僕の左腕は見るだけで痛々しい。
「その腕っ!止血するから見せて」
魔獣を倒した彼女がこちらに戻ってくる。
僕は左腕を彼女のほうに差し出す。
「うっ、ひどい傷ね。残念だけど私では治せないわ。とりあえず止血をするわ」
そう言って彼女は髪を結んでいたリボンを解く。
「痛いかもしれないけど我慢してね」
「ありがとう」
「それじゃ、えっ?」
止血をしようとした彼女が驚き声を出す。
つられて僕も自分の腕を見る。
「あれっ?」
確かに先ほどまで肉がえぐれていたはずなのに傷が塞がってきている。
「どうなってるの?これ。あなた人間?」
彼女が不思議そうに、怪しむように見てくる。
「人間のはずだけど...僕もどうなってるのか」
「ふーん、まぁいいわ、あの子を守ってくれてありがとう。私はアリティア」
アリティアは茂みに隠れていた子のところまで行く。
「この子は森で迷子になっているところを保護したの。あなたは?」
「僕は...」
僕の名前は...まだ思い出せないけれど。
彼女の、アリティアから呼ばれた名前は。
「僕の名前はルエル」
「そぉ、ルエルっていうの。ここで話すわけにもいかないしとりあえずこの子を連れて森をいっしょに出ましょ」
「わかった」
とりあえずアリティアについて行こう。
この世界は分からないことが多すぎる。
「それじゃあ行きましょっかはっ!」
突然の胸の痛みとともにアリティアが血を吐き崩れ落ちる。
「えっ?」
何が起きたのかわからない。
視界が狭まりふらつく。
自分の胸を押さえるが特に異常は感じられない。
意識が暗闇に呑まれていく。
あぁ、ここで何もできず、何もわからず終わるのか...
できることなら...
『君ハ狂ワズイラレルカ?終ワリノナイ時ノ中デ。愛スル者ガ死ノウトモ』
* * * * *
「そぉ、ルエルっていうの。ここで話すわけにもいかないしとりあえずこの子を連れて森をいっしょに出ましょ」
あれ?
目の前には変わらずアリティアの顔がある。
変わらず?この台詞確かさっきも。
「ねぇ、聞いてる?どうしたの?急にぼーっとして」
「え、あぁごめん」
確かさっきは。
「それじゃっ」
「危ないっ!」
とっさにアリティアをその場から突き飛ばす。
その瞬間に何かが僕の頬をかすめる。
「ほぉ、今のを避けますか」
どこからか声が聞こえる。
「いたたっ。誰?」
アリティアが周りを見渡す。
「誰かと聞かれて素直に答える襲撃者はいませんよ」
不意に頭上から降ってきた人が僕の胸をナイフで刺す。
僕はもちろん、アリティアも反応できない。
「はぁ、最初のを避けなければあなたまで殺すつもりはなかったのに」
そう言って紳士然とした男はナイフを抜き血を払う。
口から血が溢れてきて倒れてしまう。
あぁ、意識が朦朧とする。
「ルエルっ!」
どこか遠くからアリティアが呼んでいる気がする。
「そう慌てなくともすぐに彼のところに送ってあげるよ、おや?」
アリティアたちの方へ近づく男の足を朦朧とした意識の中でなんとか掴む。
「はやく、逃、げて」
なんとか声を絞り出した僕を見て、されどアリティアは首を振る。
「ダメよっ!ルエルを置いてなんていけないっ」
アリティアは幼女を後ろに庇ったまま逃げようとしない。
「心配しなくても2人はここで死ぬんだよ」
男は僕の手を蹴りほどく。
「こんなことをして覚悟はできてるんでしょうねぇっ!」
アリティアが腕を振るうとともに不可視の刃が男に襲いかかる。
「はぁっ、その程度でこの私をどうにかできるとでも?」
しかし、男はため息を吐くと同時に手で刃を軽く払ってしまう。
「せっかくだから出し惜しみなんてせずに闇魔法を使ったらどうなんですか?」
「闇魔法?」
アリティアは訝るような顔をする。
「はぁ、まったくもって期待外れだ」
男は再びため息を吐き首を振る。
「せめて冥土の土産に闇魔法を味わうがいい」
次の瞬間男の足元から黒い影が溢れ出す。
「私の糧になれたことを光栄に思って逝きなさい」
その言葉が終わると同時にアリティアはなす術もなく影に体を貫かれた。
『力無キ者ニ自由ナドナイ。理不尽ニ蹂躙サレルノミ。タダ永遠ニ』
* * * * *
「そぉ、ルエルっていうの。ここで話すわけにもいかないしとりあえずこの子を連れて森をいっしょにでましょ」
まただ。
これはアリティアの死とともに時間が巻き戻っているのか?
ともかく、
「ねぇ、私の話聞いてる?」
「早く逃げなきゃ!」
僕はアリティアと幼女の手を引き駆け出す。
「えっ?ちょっと待ってよ」
しかし、走り出してすぐにアリティアに止められてしまう。
「いきなりどうしたのよ?」
「ここにいたら危ないんだっ!すぐにでも離れないとあいつがくる!」
「あいつって誰よ?」
当たり前だがこれから起こることを知らないアリティアは初対面の僕を信じてすぐについてきてはくれない。
説明をしようにも時間は残されていない。
「ごめん、細かい説明をしている暇はないんだ。今すぐここから離れないと」
「私がやってくる、ですか?」
いつの間にきたのか。
返事は後ろから返ってきた。
一瞬、固まってしまうがすぐに振り返り距離を取る。
「ふむ、この距離にいたのに声をかけるまで気づかなかった。しかし、私がくることはわかっていたようで。不思議なこともありますねぇ」
男はあごに手をあて少し考えた後、顔を上げる。
「まぁ、そんな些細なことはどうでもいいですか」
「早く逃げてっ!」
僕は男の方に向き直る。
「逃げてって言われてもっ。ルエルはどうするの?」
「僕なら大丈夫だから、早くっ」
アリティアを急かすがなかなか逃げようとしない。
「そんなに慌てなくてもすぐにみんな仲良く殺してあげますよ」
そんな中、男は一人だけ余裕な態度でこちらに歩いてくる。
おそらくあの影を使えばすでに全員男の間合いだ。
「いいからさっさと逃げろっ!後ろにいても邪魔なんだよっ!」
いつまで経っても動こうとしないアリティアに声を荒げる。
「っ!わかったわ。すぐに戻ってくるから絶対死んじゃダメだからねっ!」
ようやくアリティアは幼女を連れて森の外へ向けて駆け出す。
「ふふっ、君ごときでは足止めにすらならないというのに。いっしょに逃げなくていいのですか?」
男はすぐに追いつけるという余裕からか今回は話しかけてくる。
「大丈夫だ。僕は死んでも絶対に貴方を止める」
「それは残念ですね」
耳元でささやかれた。
いつの間にか僕の胸にはナイフが刺さっていた。
「まぁ、どちらにせよ」
男は僕の胸から優雅にナイフを抜き、空にかざす。
「犬死にですけどね」
男はナイフを一閃し、血を払う。
僕の体が傾き、膝をつく。
「死んでも止めると言いましたがどうするのですか?なんて、死者に聞いても仕方のないことですね」
こちらを振り返ることもなくそう言った男の腕を僕はつかむ。
「こうやってだよ」
男の手を引っ張り、立ち上がった反動で振り抜いた拳は軽々と交わされる。
「確かに心臓を貫いたはずですが」
男は塞がりかけている僕の胸の傷を見ると面白そうに口角を上げる。
「これはこれは、君は本当に人間かい?」
「ごぼほあっ」
痛い。苦しい。息ができない。
喉を抑えてうずくまる。
今度は喉を切られたようだ。
息をしようにも血があふれ空気も漏れていく。
「これでどうでしょうか?」
「がはっ」
血を吐き出す。
抑えている首が塞がりかけているのを感じる。
空気を。
体が空気をもとめている。
喉に残っていた血を吐き出しどうにか呼吸をする。
「これでもまだ死なないとは」
男はその綺麗な顔を喜びに歪める。
「あんな魔力の弱いいつでも殺れる小娘よりも君の方がよっぽど興味深い」
ようやく喉が塞がり僕は息を整えつつ立ち上がる。
「アリティアのことを諦めてくれる気になったのか?」
「ふむ、諦めるのとは違いますが。今日は非常に興味深い君に免じて君だけにしてあげましょう。それに、今からでは流石に追いつくのは難しいでしょうから」
そう言って男はナイフを懐にしまう。
「それでは次にいきましょう」
男が腕を広げると足元から影が溢れてくる。
あれはまずい。
「これでも生きていられますか?」
逃げようとするが影が僕の体を次々と貫き動きを封じられてしまう。
いた..い...から..だ..が....
「血塗られた綺麗な赤い花ですね」
体が穴だらけで...まだ.僕の体はあるのか...?
影が消え、僕の体は地に落ちる。
「これでも息があるだけではなく再生を始めているのか。不死性だけでいったらまるでかの伝説の闇の王のようだな」
これだけ地獄を味わっても僕は死ねないのか?
「これだけやっても死なないのならば次は...」
まだ終わらないのか?
死ねない体でいつまでも苦痛から逃げる事は叶わないのか。
「せっかくだしこのまま持ち帰って実験の続きでもしますか」
『あなたは私だけのものよ』
耳元で誰かがささやいた気がした。
男には聞こえなかったようでそのままこちらへ歩いてくる。
『こんなのはさっさと片付けて早く私のもとへ戻りなさい』
底のない闇のように深い黒が僕を包み込む。
「ほぉ、これは闇の魔力?」
でも僕は...戦い方を知らない。
この男から逃げ出せもせずただ地に這いつくばっていることしか。
『そんなことはないわ。大事なことは全てあなたの中に深く刻み込まれているわ』
僕は力をふり絞り立ち上がると僕の周りを支えるように闇が絡みつく。
「素晴らしいっ!ここまで深い闇は初めて見た。ぜひとも私が手に入れるっ!」
『私のものは私だけのもの。決して誰にも渡さないわ』
闇に触れるとたちまち傷が塞がっていく。
『さぁ、全てを支配してみなさい。準備はすでにできている。あなた自身の全てを、この闇でさえも!』
「血よ」
たった一言で十分だ。
なんだかとても懐かしい気がする。
男の頬が切れ一筋の血が流れる。
男が頬に手を当てる。
「今、何をした?」
「それを知る必要はないし、それにすぐにわかるよ」
自分の体に意識を向ける。
血の一滴まで、先ほど流した血さえも。
全てを支配する。
闇を纏った体は風になったかのように軽い。
「さっきのお返しだ」
赤い血の雨を男に降らせる。
男は闇で自身の体を囲うが守りきれず全身に切り傷を受ける。
「まだだっ」
すぐさま自分の手に血を集め、剣を形成し斬りかかる。
「あまり舐めるなっ!」
男も残った闇を集め盾にするがそれごと斬り裂く。
「くっ」
男は血を吐き捨てる。
剣が届く瞬間に後ろに飛んだようで浅い傷しかつけられなかった。
『それでいいのよ』
僕を包み込む闇がささやきかける。
『私たちの邪魔をするものは全て消さないと』
男は再びナイフを取り出し闇を纏わせる。
「私はっ、私はこんなところで終わるわけにはいかないのだっ!」
『「いいや、僕たちの障害となるものは全て消すっ!」』
僕は再び駆け出す。
今なら男の動きについていける。
いや、僕の方が速い。
何度も斬り結ぶうちにナイフに纏わせていた闇が削れてくる。
「ここだっ!」
振り切った血の剣がナイフを両断する。
「これで終わりだっ!」
返しの刃で男の左腕を切り飛ばす。
「観念しろ」
僕は男に剣を突きつける。
「私は私の野望のためにこんなところでは…こんな奴には…」
男は左腕を抑え、ぶつぶつ呟いている。
「お前だけは絶対に許さない。いずれその闇さえも、全てを奪ってやる」
そういった瞬間、男は懐から何かを取り出し地面に叩きつける。
「逃すかっ」
すぐさま追おうとするも視界を煙でうまる。
さらに足にも力が入らず、崩れ落ちる。
なんとか剣を支えにするも、剣も形を保てなくなり流れ落ちる。
しまった。限界がきてしまったようだ。
「ルエルーっ!」
遠くから僕を呼ぶ声が聞こえる。
近づいてくる声と足音が意識とともに遠くへ離れていった。
* * * * *
『アナタハダレニモ渡サナイ。アナタサエイレバソレダケデイイ』




