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無属性の僕はダークヒーロー  作者: 荒波 瑞稀
飲み込む闇
4/10

クロア街とティンバーウルフ




揺れる馬車の中、玲央は思いつめた表情をしている。

その右手には一通の手紙が握られていた。



家を出る前、貴虎から渡されていたものだ。


怜央は疑問に感じていた。


その手紙は色あせ、所々黒ずんでいた。

最近のものでないことは、誰から見てもわかるだろう。



なぜ貴虎は、このような手紙を自分に預けたのだろうか。

不気味な手紙に戸惑いながらも、ふぅと大きく一息つき、封を開けた。


中には同じく色褪せた便箋と、まだ新しい便箋の2つが入っていた。


色褪せた便箋に興味を持つが、その不気味さ故、手に取ることはできなかった。



玲央は真っ白な新しい便箋を開いた。


[とうとう旅立ってしまったな]

[いつかは渡そうと思っていたんだが、なかなか切り出せんかった]



色褪せた便箋に目を配る。



[両親を探すお前には大事なことだろう]

[その手紙はお前を拾った時、一緒に入っておったものだ]

[そこには玲央、()()()()()()()()が書かれておる]


玲央の瞳はぐっと見開いた。


[自分の目でしっかりと見るがいい]


[これからは好きな名を名乗りなさい]


[貴虎]



読み終えて尚、色褪せた便箋を見つめる玲央。


「僕の…名前」



ゆっくりと手に取る。


おりたたまれた色あせた便箋。ゆっくりと開いていく。

玲央の手はかすかに震えているようだった。


色あせた便箋の端は、朽ち欠けていた。

中央に小さく書かれた文字。



[レオン・ロ…ノ……ル]

[私のかわ…い息子よ。強…生きな…い]

[あなただけでも]



ところどころ黒ずんでいて読むことができない。

よく見ると、この黒ずみは乾いた血痕のようにも見える。


手紙の右下は大きく欠けている。

ここに彼女の名前でも書かれていたのだろうか。


レオン…僕の名前。

読めない部分はおそらく苗字だろうと悟った。




自分の名前よりも、母と(おぼ)しき人が存在するという事実に、胸がどよめく。

いったい母はどんな人なのだろう。生きているのだろうか。なぜ、私を捨てたのだろうか。

母のことで頭がいっぱいになる玲央。




「玲央様!」


ハッと我に返る玲央。馭者(ぎょしゃ)が心配そうな顔をしていた。

馬車が止まっていることに全く気づかなかった。


微かに賑やかな声が聞こえる。



「お疲れ様でした」


馬車を降り、代金を支払おうとすると、


「お代は村正様より頂いております」


「えっ?」


ふっと笑い、礼を言う玲央。

先程までの緊張感はすっかりほぐれていた。


「なにもいってくれないんだから」

『村正、ありがとう』


届くかもわからない()()飛ばし、自分を鼓舞する玲央。

街の門をくぐる玲央。その歩みはいつもより、少しだけ速いような気がした。






クロア街

クロア王国の城下町である。

世界有数の街であり、一般的な城下街に比べ、約3倍の領土を有する。

さまざまな国と貿易協定を結んでおり、さまざまな文化が取り入れられている。



玲央は門番に呼び止められた。

どうやら、この街では武器の所有は禁止されているらしい。

来客は、門前で受付をし、許可証を貰わないと中へは入れてもらえないようだ。


武器の所有が認められているのは、王国兵士と特別な国家組織だけらしい。



…結構治安よさそうだなぁ



許可証を貰った玲央は、ようやく門をくぐることができた。

前へ進むたび、徐々に光が増していく。


「わぁ…」


思わず声に出してしまった。


愉快な音楽、並ぶいろいろな店、高くそびえる建物。

見たことない景色に、胸がはずむ。


すれ違う人々の中には、鎧を着た戦士や、大きな杖を持つ魔道士らしき人々の姿があった。

彼らの衣服には見たこともないバッジが飾られている。


身なりからするに、王国の兵士ではなさそうだ。


「大きい剣だなぁ…」


その戦士の背中にかけた剣に目をやる玲央。

あんなの僕には使えないや…


ヘヘッと心で笑い、また歩き出す。






今回街へ来たのは、玲央の刀について調べるためであった。

ドーア村にはそれらしき書物はなく、

もしかしたら、街のどこかにあるかもしれない。

と、一番に訪れたのだ。


だが、探せど探せど一向に見つからない。



気が付くと、じっとりとした茜空。


玲央は深いため息をふぅと吐き、宿を探すことにした。


少し先に宿屋の看板を見つける。


今日の夕飯をどうしようかと考えながら、宿屋をめざし歩いていたその時。

すれ違ったフードをかぶった何者かに一瞬の違和感を覚えた。


視界もあまりよくない夕暮れに、深めにかぶったフード。

決して人通りの多くないこの道。

なのにぶつかってもおかしくない距離ですれ違った。


玲央が振り返ろうとしたその瞬間、その何者かが走り出し路地へと入り込む。

いつの間にか玲央は走り出していた。いつ反応したのだろうか。自分でもわからない。

しかし、はっきりと見えた。路地へ逃げるそいつの手に握られた長刀。




玲央の刀だ。




無言で追いかける玲央。左手の木刀は逆手で握られていた。

腰に手をやり、刀の有無を確かめるが、やはり刀はない。


間違いない!


玲央のスピードがぐんとあがる。


狭い路地を走り抜け、必死で追いかける。


あと少しで手の届くという所まできたとき、

少し開けた広場へと出た。フードの何者かは振り向き足を止める。



【大地の怒り!】


後ろのほうから声が聞こえた。


思わず、振り返り木刀を胸の前で構える。


轟音と共に、地響きがなる。

地面が盛り上がり、路地を塞いだ。

人の姿は見えない、どこかに隠れているのだろうか。




周りは高い建物で囲まれ、おまけに退路を断たれてしまったのだ。


…誘い込まれたのか!?


「ヘヘッ、のこのこついてきやがって」


男の声がした。フードをかぶったやつだ。


「この刀は俺がもらってやるよぉ!」

「もってる有り金、全部おいてけ」

「そして、死ね!!」


男はヘラヘラと笑いながら左手を突き出す。


何かくる!!!


そう感じた玲央は反射的に、右へと避ける。


火炎(フレア)


彼の手から炎がものすごい勢いで噴射される。


あっつ…


とっさにかわした玲央だったが、左足をわずかにかすめた。


じりじりと痛む左足、やけどしたようだ。


…だけど、まだ動ける!


痛む左足で思い切り地面を蹴る。地面すれすれを飛ぶように駆ける。

2秒もかからなかっただろう。


「なっ…」



フードの男は玲央の姿を一瞬見失う。だがふと足元の殺気に気づいた時にはもう遅かった。

玲央の右手は男の足首をつかみ、前方へとはじく。


宙を舞うフードの男。頭から落ちていく。


玲央はそのまま体をひねりながら、追い打ちをかけるように、木刀を振り下ろす。




(きし)むような音が辺りに響いた。


背後から岩で固められた拳が、玲央が振り下ろす木刀よりも早く、玲央の右腕にめり込んだ。

勢いよく吹っ飛ばされる玲央。激しく砂埃(すなぼこり)をたてて転がり続ける。


しばらくもがいていたが、やっとの思いで立ち上がる。


激痛で声も出せない。


自分の腕を見ると、重力に逆らうことなくゆらゆらと揺れている。

感覚がない。どうやら砕けてしまったようだ。


「カッハッハハ!もう終わりだな!」


体つきの良い坊主頭の男が、豪快に笑った。

フードの男も立ち上がり、坊主頭のほうへ歩む。


「ちきしょう、ムカつくぜ!」

「おい、こいつはおれがぶち殺す」


顔を真っ赤にして、怒りを(あら)わにする。


「俺の炎で焼き殺してやる!」


火炎(フレア)


…どうする?足はまだ動くが避けきれるか!?

いや、踏ん張っているのが精いっぱいだ。くそ!どうしたらいい?


避けようと意識は左へ。だが、まったく体が動かない。

足が地面に張り付いているかのようだ。


…まずい


ふと気づいたときには、目の前は炎の海。

玲央は目を(つぶ)り、左腕を顔の前へと構え、顔を下げる。



…やっぱ、魔法ってずるいや。僕も魔法がちゃんと使えたら、うまく戦えてたのかな。

じいちゃん、ばあちゃん。ごめん。


村正。  


ごめん。



【打水!】


岩の壁で塞がれていた通路が、爆音とともに砕け散る。


玲央に向かって、水の塊が落ちる。

全身びしょ濡れになった玲央に、炎が襲いかかる。


熱くない…!!


致命傷は免れたようだ。


「生きてるかい少年!」


そこには、見たことのない帽子をかぶり、さらしをまいた女性が腕を組んで立っている。



キョトンとした顔で小さく(うなず)く。


「あ、あいつは時雨(しぐれ)!!」

「ちっ、ずらかるぞ!」


逃げようとする2人組。


「ちょっとまちな」


【水の監獄】


逃げる2人の足元から、水の渦が巻きあがり、やがて球状に閉じ込める。

中では息ができないようでとても苦しそうだ。


「これは返してもらうよ!!」


玲央の刀を奪い取る。同時に、浮かんだ水の球体が地面へ落ちた。


「ゲホッ、ゲホッ」

「おぼえてろよ!」


路地裏の奥へ消えていく。




玲央の刀をじっとりと見つめる彼女。


「あ、あの…」


「あっ、ごめんごめん!」

「君のでしょ、どうぞ」


優しく笑って刀を返す彼女。


「ありがとうございます」


「まずは手当てするから、座って?」


彼女は玲央の折れた右手に両手を添えた。


すると、患部がじんわりと熱くなるのを感じた。

動かせなかった右腕が、ピクリと動く。


この回復術は無属性魔法の一種で、難易度が高く、繊細な魔力コントロールと、

膨大な魔力量がないと使えない。


どうやら只者ではないことは察した。


「あたしは時雨」

「骨だけは治しといたよ」

「私の魔力じゃこれくらいが限界かな、ごめんよ」


とても優しくしてくれる彼女に戸惑う玲央。


「いえ!治していただいて申し訳ないです」

「あの、さっきの彼らは…」


彼女は、彼らがティンバーウルフと呼ばれる、クロア街の盗賊団だと教えてくれた。

その数は知れず、王国騎士団が捕まえても、被害はまったく減らないそうだ。

赤いベストに白銀の狼の刺繍。盗賊団にしては実に目立つ服装である。



「さっきの奴らは下っ端だろうね」

「そうなんですか…」


自分の弱さに悔しさを覚える玲央。

唇を噛みしめ、俯いている。


「…ねぇ、あんた玲央でしょ!」


目をキラキラさせて見つめてくる時雨。


「えっ?あ、はい」

「そうですけど…」


「あいたかったよおおおお!」


玲央に抱きつく時雨。大きな胸に埋もれる玲央。


「い、痛いです…」


傷口がズキズキと痛む。


「やっぱりそうだよな~、やっと会えた!」

大人とは思えないはしゃぎ方だ。


「どちら様でしょうか…?」


「だーれでしょーっ♡」


ますます混乱して、何が何だか分からなくなる玲央。


「その木刀、あたしが作ったんだよ?」


玲央の木刀を指さす時雨。


「え?」




「だーかーらー!村っちに頼まれてその木刀つくったのあたしなの!」

「初めて作った木刀なんだから、すごく覚えてるの」


「村っち!?」


「玲央!あんたうちに来な!まだ宿とってないんだろ?」


「まぁ、そうですけど」


カッカッカと大笑いしながら、玲央を引っ張る時雨。


9年前の出来事を話しながらゆっくりと歩く。


電飾の輝くにぎやかな街の中、彼女の笑い声は一段と響いていた。









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