五月十三日 その5
「彩乃!」
息を切らしながら屋上のドアを開いた俺は、そこにいた小さな人影に向かって叫ぶ。
屋上の入り口のドアに向かって背を向けるようにして立っていた一人の少女は、体勢をそのままにゆっくりとこちらを振り返る。
「……どうして私がここにいるって分かったんですか?」
「いや、分からなかった。だから、他に人がいなさそうな場所をしらみ潰しにあたっていったんだ」
俺は彩乃が行きそうな場所を走りながら考えた。
はじめに向かったのは生徒会室。が、扉の窓から中を覗くと中から一色が覗き返してきたのでスルー。次に向かったのが、調理室。鍵が開いていたのでまさかと思って入ってみたが、家庭家の先生が次の授業の準備をしているのと鉢合わせしたので退散。次に思い当たったのがトイレ。一人になれて簡単に鍵をかけれる場所は……と思ったが、流石に女子トイレに男の俺が入るわけにもいかず、いつの間にかはぐれてしまった漆巴守と合流するまで後回し。
そして五番目に考えたのが、――ここ、屋上だ。
「どうして来たんですか」
「お屋敷から追い出されて泣いているお姫様を慰めに来たんだよ」
「意味が分かりません」
「つまり、お前がお姫様のように可愛いってことだ」
「やっぱり分かりません」
そう言って彩乃はそのまま再びこちらを睨みつける。俺は心のなかでガッツポーズする。やったぜかわいい!
「彩乃ちゃぁん~!!」
その時、ばあん!と勢い良く扉を開き、ぜえぜえと息をつきながら漆巴守が入って来
――ようとして扉が跳ね返り、ばあん!と跳ね返った扉に膝を打ち付け、その場に蹲る。こいつも学習しないなあ、と思う。
「……卯美々ちゃん」
彩乃は少し駆け足で漆巴守の方に駆け寄り、手を伸ばす。漆巴守はその手を取ろうとするが、彩乃は慌てて差し出したてを引っ込めようとする。
が、漆巴守は引きかけた手を半ば強引に掴む。そして、笑顔で、言う。
「ありがとう、彩乃ちゃん。やっぱり大好き~」
突然告白めいた好意を聞かされたせいか、彩乃は一瞬顔を赤らめる。が、すぐに我に返ったように掴まれた手を振りほどこうとする。しかし漆巴守が掴む力は思いの外強く、何度振っても自分の手首に絡むその指は解けない。
「どうしてそんなに探そうとするんですか。卯美々ちゃんも会長も、変ですよ。もう放っておいて下さい。私と仲良くしていてもいいことないですよ。教室の中を見たでしょう?」
彩乃が力なくそう言った時、再び屋上の扉が開く。
誰だ、こんな時に。もし教師だったら面倒だ。が、
その答えは、今この瞬間においては教師よりも面倒な人物。
「そうですよ、会長も漆巴守さんも。もう放っておいてあげましょうよ」
「……一色」
事の元凶とも言うべき、副会長。一色。
「いやあ、プリント折りが終わったんで探しに来ちゃいました。流石にあの量を一人でやるのは骨が折れました」
一色がニヤニヤと笑いながら言う。彼のイケメンボイスがいつにも増して憎らしい。
「あなた、よくその面下げて彩乃ちゃんに会いに来れましたねっ~……!?」
一色に掴みかかろうとする漆巴守。が、彩乃は漆巴守の手を逆にもう一方の手で掴み返し、離さない。
「離して彩乃ちゃん! だいたいこんなことになったのはこいつのせいで~!!」
「いいの」
彩乃が静かに告げる。その口調に、漆巴守は困惑する。
「初めから、こうなることは分かってたの」




