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五月十三日 その4


 会長が一人で走っていってしまったのを見て、それを追いかけようと漆巴守も足を速める。

 間際、衿河をキッと睨みつける漆巴守。そのまま背を向けて立ち去ろうとする。が、

「お待ちなさい」

 何の後ろめたさもないといった口調で、衿河は漆巴守を呼び止める。もう動かし始めていた両足を落ち着け、衿川の方に向き直る。

「なんですか」

「先程の言葉、半分はあなたに向けたものですわ」

「……何が言いたいんですか」

「あら、見かけによらず聡明なあなたなら言わずもがな理解していただけると思ったのですが」

 漆巴守は、威嚇するようにもう一度衿河を睨みつける。

 が、あらあら、と言って衿河は表情を崩さない。

「もう少し言い方を考えるべきだったでしょうか」

 一呼吸置いて、衿河は続ける。

「例えば、聡明でない振りをしている、とか」

「…………」

「それよりも、会長さんを追いかけなくて止めなくもいいのですか? あの方、また天之川さんのところに行ってしまいますよ」

「追いかける。けど、別に彩乃ちゃんと会うのを止めるわけじゃない」

「あら」

 あらあらあらあら。

「安い挑発ですね」

 これ以上付き合っていられない、と思い、漆巴守は今度こそ教室に背を向けて走りだす。

 うふふふふふふふふ、と背後から聞こえる笑い声から逃げるように、先を急ぐ。性懲りもなく追いかけてくる笑い声。別にどうでもよい。が、彩乃までもが馬鹿にされているような気がして、漆巴守は大きな声で、――教室の中にいる全員に聞こえるくらいの大きな声で、宣言するように言った。


「私は、彩乃ちゃんが焼いたパンケーキを食べたことがあります!!」


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