この感情は尊敬なのか、好意なのか。
作家というものは二種類に分けられると自分は思う。プロットや構成、物語の終わりを考えてから書く人と、考えずに書き始める人だ。前者は自分であり、後者はどうやら、ゆーりゆーり様のようだ。
ゆーりゆーり様のようなタイプは魅力的な登場人物や独創的な世界観を描くことがとても上手だと思うけれど、言ってしまえば見切り発車故の、ありがちな問題にぶち当たっていた。
『物語の結末って、どうやって決めればいいんですかね……(*_*;』
結末を意識して書いてはどうかという自分のアドバイスに対する、ゆーりゆーり様からの返信である。
相互お気に入りユーザーとなった後、ゆーりゆーり様とは親しく交流する仲となった。
百合薔薇への深い愛情を持ち、人物・心理描写が抜群に上手いゆーりゆーり様。物語を完結まで書けていない理由は、結末までの構成を建てていないことが原因のようだった。
『何か問題が発生して、主人公が頑張って解決して一歩成長したり、周りの人が幸せになるとか。
そんなのが王道の結末かと思います。
ゆーりゆーり様のBLモノに当てはめてはいかがでしょうか』
ゆーりゆーり様のメッセージに、自分はそのように返信した。
会話のテーマとなっているBLモノ。主人公はとある大学生(男)。ホモともノンケとも知れない大学の先輩(もちろん男)のことが気になってしかたがないボーイズラブ。大学生の日常がギャグタッチで自然に描かれていて、読者もそれなりに獲得しているようだった。
その先輩とひと悶着あった末に思いを知ってもらい、後輩の空回りに終止符を打つことが分かりやすい結末になると思ったのだけれど。しかし、ゆーりゆーり様の返答は少し異なっていた。
『そうですか……
主人公が先輩に対して抱いている感情がなんなのか、自分自身よくわからないんですよね。
この感情は尊敬なのか、好意なのか。
結末を思い描けないのもそのせいだと思うんです(*_*;』
「おいおい何言ってんだこいつ」
その返信に、思わずツッコミを入れてしまった。
暇さえあれば先輩に絡み、本当はずぼらなのに先輩からのSMSだけは一瞬で返答して。
ファッションに疎い先輩のために一から服を選んであげて。
会う約束があればカフェやレストラン、バーを下見して。
そのおかげで苦手なお酒にも詳しくなって。
水面下ではたくさん努力してるのに、それを見せないために爽やかぶって。
この後輩、変態的に先輩のことが好きなように描写されているのだけれど、ゆーりゆーり様によれば尊敬と好意の間で揺れているらしい。
言ってBLの猛者である。もしかしたら深い深い考えがあるのかもしれない。というかBLタグ=男同士の恋愛、とは限らないのだということを自分は今知った。そんな自分が「いや明らかに好意ですよね」なんて返信して、自分の独断で変に方向づけてしまうのも良くないだろう。
『では、後輩君が自分の気持ちを自覚することを目標にされてはどうでしょうか。
自分の気持ちを受け入れることもまた、立派な成長です。
そこで物語を終わらせてもいいですし、章の区切りにして物語を続けられるのもいいと思いますよ』
そしてゆーりゆーり様の返答はというと。
『参考になります!自分の気持ちに向き合ってみます('◇')ゞ』
ん?自分の気持ち?BLモノの主人公の話をしていたのではなかったか。
次話タイトル「なんだかんだ、自分が教わることも多かった」
作中にはプロット考える派と考えない派があると書きましたが、そんなに綺麗に分けられるものではないですね。