いやこれ百合じゃないですよ。
『いやこれ百合じゃないですよ。最後は男とくっついてるじゃないですか。あらすじにちゃんと明記してください』
某小説投稿サイト上で半年かけて執筆した拙作『お嬢様JDですが、附属幼稚園からの同級生㊛に異常に懐かれてます』。
分かりやすさを重視した、タイトル通りのシンプルな内容。33件のブックマーク、総合評価84ポイント。感想、0件。最終話を投稿した後のこと。この作品に初めての感想が残された。つまりは上記のコメントである。
「(半年書いて、最初の感想がこれか……)」
作品のラストでは、ヤンデレ+ストーカーと化した同級生㊛に恐怖した主人公が塩顔優男のところに逃げ込む。どうやらこの読者様、この展開に納得がいかないらしい。ちなみに作品には「百合」タグがついている。
この感想、読者様からすれば親切な助言なのだろう。しかし、しかしだ。こちとら半年かけて、あれこれ悩みながら物語を書いてきたのだ。物語の整合性とか、主人公の身の安全とか、そんなことを。そもそも主人公がレズビアンであるという描写はない。塩顔優男のところに逃げたのだって、物語の構成上仕方ないことだったのだ。なぜそれが分からんのだ。
画面の向こうの誰かさんが書き残したその感想を咀嚼して飲み込むために、自分には少しの我慢が必要だった。早い話が、ちょっとだけ、いや、結構いらっとした。物語を一つ書ききった自分に「お疲れ様です」の一言もないのか。
しかし強気に返事をするのも失礼にあたるか。まずは心を落ち着けるため、感想を残した仮想敵の登録情報を集めることにしよう。
「あぁ……やっぱり百合好きの人か……」
コメント主であるHN「ゆーりゆーり」様のユーザーページを見て、思わずため息が出た。
どうやらこの方、筋金入りの百合ファン……いや、百合薔薇ファンのようだ。ブックマークの「百合」「薔薇」カテゴリには、それぞれ五百を超える短編中編が保存されていた。すげぇ。本人の作品欄には未完の百合薔薇小話。そして月並みな内容と見えるエッセイが数点。「読み専でしたが、ちょっと書くのも始めてみましたっ♪」といったところか。あるある。そこは頷ける。
「(こういう人、ジャンル分けにはホントうるさいんだよな……)」
君子危うきに近寄らず。こちとら既に、将来への不安から大きなストレスを抱えているのだ。ストレス解消のために物語を書いているのだ。百合っぽい展開にしたのだって、異性愛を書くのがなんかつまらないというそれだけの理由だ。
そうして自分はこの問題を問題とも思わずに「ゆーりゆーりさま、次回から気を付けます」と、そう簡単にコメントを返し、ノート型PCをそっ閉じ。お前のせいでこっちの気分はモヤモヤだと、後から考えればなんとも傲慢な事を思いながら外出する準備を始めた。
その日は、大学の後輩との飲み会の約束があった。
次回タイトル「ジャンル分けのできない人って、救いようがない阿保だと思いませんか」
人物紹介は次回。作中作とHN「ゆーりゆーり」様は架空の名称です(筆者は調べていませんが、実際にいらしたら名前を変えます)。そして作中程度の感想では筆者はいらっとはしません。それからもし、当小説でいらっとした方がいらしたら、ごめんなさい。しかし筆者にはどなたかを批判しようとか恨みを晴らしてやろうとか、そういった意図はありません。