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日本国破産?そして再生へ  作者: 黄昏人
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令和の所得倍増政策2

読んで頂いてありがとうございます。

 斎田稔は、大学の同窓の皆木健太それに西村瑞希と地元のM市の居酒屋で集まって飲んでいる。35歳から36歳になる彼らは、いずれも社会人で働き盛りであり、皆木は建売会社の設計部に属し未だ独身で、西村は地方公務員で同僚の夫とその親の家に2人の娘と一緒に暮らしている。電車を使えば、それほど家が離れていない彼らは年に数回こうやって会って飲みながら近況を語りあっている。


 その居酒屋は個人がやっている『岬』というこじんまりしたところで、家庭料理が売りである。5年程前には、居酒屋のみならずあらゆる業種に大資本のチェーン店が隆盛で、個人の店はどんどんつぶれていた。

 しかし、RIDP(令和の所得倍増計画:Reiwa Income Doubling Planの略)が進展するにつれて景気が目に見えて良くなると、とりわけ居酒屋などに個人経営の店が増え始めたのだ。

    ー*ー*-*-*-*-


 ちなみに、日本の「令和の所得倍増計画」は直ぐに世界的に有名になり、“Reiwa Income Doubling Plan”と英訳されるとむしろその頭文字をとったRIDPで通るようになった。日本でもこれが逆輸入されて呼びやすさもあってむしろその方が一般に通る名称になったのだ。


 RIDPは、2020年オリンピックの年に予算化されてスタートした。もちろん、いきなり予算を10兆円増やそうという予算案であったので、抵抗は大きいであろうと考えられたが、意外に大きな障害はなかった。これは、首相の談話によって、多くの人々がその内容に希望を見出して世論がほぼ完全に賛成に回ったこと、更に財務省が税務庁を通じてマスコミに圧力をかけようとしたことを政府に掴まれたことがある。


 後者によって、生え抜きの税務庁長官が生まれたことで同庁は財務省の影響からほぼ脱し、財務省も表立って反対を言えなくなった。さらに、すでに財務省の脅しに屈していたマスコミは、その事実の非公表と引き換えに政府に表立って反対できなくなった。しかし、彼ら自身も人気商売である以上、本心では国民に人気のある政策に反対はしたくはなかったのだ。


 国民がRIDPの意味を理解して、心から賛同したのは、高橋の率いる財政再建省が理論的な背景を積み上げた上で、万人が理解できる資料によって徹底したキャンペーンを張ったことが大きい。

 公共事業費、防衛費、IT研究への集中投資などを中心としての10兆円の予算の投入は、非常に大きな効果を現わした。またその予算の配分について、大まかな年次計画も公表されているので、その予算による事業の受注にあたる民間企業はその人員や、工場への投資計画を立てることが可能になったのだ。


 だから、政府の直接支出に加えて、それを当て込んだ企業のその関連の設備投資や人員増も同様にGDPの増加に寄与することになる。このようにして、2020年度のGDPの増加は32兆円になった。2019年度のGDPが総額553兆円だったので、585兆円、実に名目で5.8%の増であった。

 とは言え、最初の内は設備投資などの効果が早めに出るので、年が経つにつれてこの効果は割り引いて考える必要があるが、長く凍り付いていた日本経済が廻り始めた兆しが見えたことも確かである。


 ところで、防衛費であるが、2兆円の増額はさすがに野党から強い抵抗があった。しかし、大統領戦で苦戦しているスペード大統領が言いだした、日米安保の片務性、アメリカは日本を守る義務があるが逆はないという点の是正は対抗馬の民主党の候補も言い出している。


 だから、日本の自衛隊の根本的な問題であるところの、米軍の補助としての立場を早急に是正する必要はあるのだ。現状において、間違いなく日本の領土を狙っている、中国とその同盟にならんとしている韓国に加えて、核がなくなってほぼ力はないが北朝鮮という存在がある以上、核への対応を含めてアメリカとの同盟堅持は是非とも必要である。


 そして、その同盟国が要求している客観的に見れば至極もっともな要求は満たさざるを得ないし、それを満たさない限り日本はアメリカからの従属的な立場を抜け出せないのだ。阿山はある意味で、アメリカの日米安保の片務性を解消するという要求は大きなチャンスとだと思っていた。


 そのためには、2020年度防衛費としてこの程度の予算増は必要である。日本はその予算の振り分けを、ミサイルに集中的につぎ込むことにしている。防衛省で様々なシミュレーションを行った結果、ミサイルを増やすのが最も確実かつ安価ということなったのだ。


 なにより現在で人工知能とセンサーが格段に進化しつつあり、戦闘機のように人間を乗せるがゆえに様々な制限が生じる兵器より、無人が前提のミサイルを様々な機動が可能なようにすれば、敵のミサイル及び有人攻撃機を確実に撃破することが可能である。


 防衛研究所ではミサイルに係わる研究は、長期間基礎から積み上げており、様々タイプが開発面では完了している。自衛隊がミサイルに力を入れたのは、日本においては前大戦への反省と嫌悪から、戦死者がでるような戦闘は実質的に難しいというのは早くから認識されていた。その点で、無人で長距離攻撃の可能なミサイルに優位性があるという認識からミサイル開発は重視された。


 しかし、今までは予算の制約から、実際に製造ラインに乗せられて実戦配備されたものはごく一部でしかない。それを、増やした予算の半分以上をつぎ込むことになったのだ。また、人工知能を使ったミサイルシステムに何より必要なのは、敵の位置を正確に掴むレーダーシステムであるが、このために無人レーダー機も研究されており、これも実戦配備されることになった。


 このような国産ミサイルを製造することの経済にとって有利な点は、内需であるため日本のGDPの向上に貢献できる。この点での問題は、アメリカと約束した100機余のF35などの購入があるが、同機には技術的な問題が指摘されつつあるので、極力引き延ばして年間当たりの費用を下げることにしている。


 実は最も予算の投入が大きかったのは、30年以内の発生が確実視されている南海トラフ地震などの大地震、さらに激甚化が進み頻発している豪雨による洪水・土砂災害に備える国土強靭化計画の前倒しである。実のところ、国と地方の予算の投入によるGDPの増加に最も効果が大きいのは公共事業である。


 この分野は、過去の公共投資の削減によって従業者が減って来てはいるが、とりわけ地方部においては依然として基幹産業であることは間違いない。さらに、今後の大幅増額が示されたことにより、業者は従業員を雇い、重機を買うし、実際の建設に当たっては様々な資材を大量に買う。

 資材を売る業者は、従業員を増やし工場を建てるので、2次的、3次的に消費の拡大、すなわちGDPの上昇に繋がるのだ。


 また公共投資の対象である道路や、河川の護岸、海岸の防波堤などについては、一旦建設が終われば費用を要しないようなものではなく、補修と更新も必要である。日本にある公共資本財への2020年頃の総投資額は800兆円といわれ、とりわけ橋や上下水道設備などは、順次老朽化が進み今後もその維持補修、更新に莫大な費用を要する。


 人は、道路や護岸など災害から守る施設や、上下水道など暮らしを支える施設なしに今更暮らせないのだ。社会保障費も同様であるが、これらの施設の維持管理も、日本経済の大きさが縮小すると維持できなくなることになるので、経済規模を大きくする意味はここにもある。


 この他に、増大させた予算によって注力したのは、ICT(Information and Communication Technology)の産業への活用手法の研究と実用化である。例えば、社会資本整備を行う建設業に関しても、ICTの活用は大きなテーマとして挙がっている。これは、この産業においては屋外が主要なサイトであり、現状のところ労働集約的であるなど、工場現場などに比べると生産性がほとんど上がらない傾向にある。


 これら労働集約の現場で働く人々は、3K (きつい、危険、汚い)の代名詞であり、彼らを管理する監督者は昼間は現場で管理、夜は深夜まで報告書作りと、これまた悲惨な状況に置かれている。これを、現場は自動化を進めることで工場化して3Kを解消し、監督業も情報化による事務所からの管理と情報整理の自動化で大幅な省力化で生産性を上げようとしている。


 これらは実用化するテクノロジーはすでに開発されているが、適用研究と実用化が必要である。だから、建設のみでなくすべての生産、設計、管理等にICT技術導入の実用化に毎年1兆円を超える巨額の国費を投じて実現しようとするものである。


 研究開発というものは当たり外れが多いが、この投資の対象はすでに基礎的な技術は実用化されていたために、その改良、他分野への応用と魔改造が得意な日本人に最も向いた作業になった。だから、その成果は早々に現れ、この『ICT実用化プロジェクト』による生産性向上は極めて大きなものになった。


 しかし、無論その成果を生かすためには相当な設備投資が必要であり、そのための投資を行うことが、民間企業にとって競争に伍して生き残っていく唯一の手段となった。だから、当然企業も官庁も実施に必要な投資を行って、それは当然GDPの向上という効果になって現れた。


 さらには、生産性の向上は生産量・額の増加ということになり、結局内需の増加という結果になって現れており、これもGDPの増加に大きく寄与した。それらの効果が相乗して、GDPはやや悲観されていた年率5%を上回る成長率を見せて、先にも述べたように2024年には700兆円になっている。


 こうして、日本に始まったRIDPは順調な成果を上げていったが、その中にいてその変革を実行する人々にとってはそれほど容易なことではなかった。なにしろ、多くの業種で仕事のやり方が大幅に変わっていくのだから、若者はともかく50代になるような人たちは戦々恐々であった。


 しかし、無論開発チームはそこまで考えて仕事の実行システム及び端末を組み上げていた。だから、プロジェクトの実行場所に選ばれた職場では、導入後最初の1週間は多くの混乱が起きたが、1カ月過ぎるころには既に作業はルーチン化しておおむね問題なく進行するようになっていた。


 そして、作業に当たる人々はまず重労働はなくなって、それぞれの生産性は業種にもよるが平均的には2倍近くになっているため、残業も基本的に必要なしに以前以上の収入が得られるようなった。

 もちろん、この収入増は、技術を握った国が基本システムと機器の開発に係わる費用を企業と相殺するとして、雇用している企業に要求した結果である。


 ちなみに、一時期話題に挙がった外国人労働者であるが、2020年の段階で減少し始めているのが現実である。これはは『働き方改革』と一緒に取り入れられた外国人労働者の導入拡大は、条件として不当な低賃金の厳しい禁止と、『日本人並みの報酬』があった。


 そもそも外国人労働者が重宝されたのは安いからであり、安く使う道を閉ざされると、企業の採用意欲はいっぺんに落ち込んだ。その代わりに、採用が増えたのは女性と高齢者であり、彼らの報酬は歴然と増加している。


 つまり、言葉もなかなか通じず、常識とするモラルも異なる外国人をそれなりの給料を払って雇うより、女性や高齢者を雇った方が良いということだ。この結果をみたマスコミから、外国人への労働市場への参入の推進というのは、目くらましであって、阿山内閣の国内の休眠労働力の引っ張り出しが真の意図であったという意見が出されている。


 つまり、家庭に引っ込んでいた女性や高齢者は、それなりの収入になれば働こうという意欲はあると見ていて、敢えてあのような政策を立てたというのだ。ただ、これは阿山自身が否定した以上真相は藪の中である。


 こうして、廻り始めたRIDPを、その成果が顕著であることから他国も真似をしようとした。しかし、日本政府は、機器及び方法に至るまで、開発の成果は全て特許で固めて外には出さなかった。基本的に日本の労働生産性は全体として低く、ICTを導入しての改善によっても未だ導入の途上にあって、2024年でも世界的には高いとは言えない。


 あるシステムを導入して労働生産性を高めるのは、小国の方がより容易に実行できる。今回の国が莫大な予算を投じて開発したシステムと機器については、もし公開してしまえばたちまちに追いつかれて、追い抜かれる可能性が大きい。


 むろん、ICTの産業への活用は世界中で試みが行われている。ドイツが提唱し始めた“インダストリア4.0”などは有名なものであるが、実際の活用は企業任せの面があることも災いして、遅々として進んでいなかった。だから、巨額の予算で様々な業種に適用を始め、成功しつつある日本の実施状況は当然注目を集めている。


「この、ICT活用生産システムは、我が国が税金を使って開発した大きな財産です。いつまでも秘密にはできませんが、この方法による生産性の向上の効果は、しばらくは独占したいと思っています。

 結局生産性というものは絶対的なものでもありますが、国同士でいえば相対的なものです。だから、それが高い国は競争上優位に立ちますので、できるだけ長期に我が国のみがその成果を享受したいと思っています。

 従って、このシステムを急ぎ国内に十分に浸透させて、その成果にわが日本の人々が豊かになった時に、先進国に対しては十分な対価のもとで、途上国に対しては無償で公開することで良いと思います」ある会議で首相の阿山はこのように語ったと言われる。

      ー*ー*-*-*-*-


「それにしても、ICT導入だけど、最初は結構大変だったよな。俺の会社で最初に入れたのはガス管の敷設だけど、まあパイプの敷設というのは定型的なので実用化しやすかったらしいな。

 センサーを備えた調査ロボットと自動掘削兼管の敷設溶接ロボット、交通整理ロボット、埋戻し舗装ロボットに見張りの2人の人と全体の監督、まあ大体俺だったが。ダンプトラックはまだ今のところ運転手付きだな」

 稔が最初のビールの乾杯の後何杯か焼酎を飲んで顔を赤くして喋ると、皆木健太が応じる。


「うん、おれも何回も見たよ、一連隊のロボットだな。あの一連隊のロボットで、どのくらいのコストがかかっている?」


「うん、新しく作るとダンプは別で一億近いらしいな。会社は当然リースで借りている。コストは人間が機械を使っていた前に比べて8割くらいだ。だけど、工期は1/3で従事する人間は1/3だ。まあ、それだけ人一人当たりの生産性は上がっている」皆木の質問に稔は答える。


「でも、RIDPが始まって、世の中の変化のテンポが速いわね。幸い、働き方改革を守るのは厳重にフォローされているから、残業とか休日出勤はほとんどないから助かるけど」西村瑞希が言う。


「うーん。たしかにブラック企業というのはなくなったな。うちなんかは入ったころはその典型だったけど、国の標準化が進んで設計半分自動でできるものな。ICTの活用というのはRIDPの過程から出て来たのだけど、俺たちにしてみれば給料もそこそこ上がっているし、いい方向かな」皆木が言う。


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