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日本国破産?そして再生へ  作者: 黄昏人
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令和の所得倍増政策

読んで頂いてありがとうございます。


 当初予想された通り、日本政府の財政拡大は容易なことではなかった。戦後最長の首相在位年数を遂げた阿山首相のリーダーシップと、衆参両院で2/3に近い議席をもっている与党の力をもってしても、財務省、日銀、それに主導されたほぼ全マスコミのネガティブキャンペーンが始まってみると、それに抗するのは嘗てであれば不可能であっただろう。


 しかし、日本におけるバルブ崩壊、それに続く20年に及ぶリセッションの主犯は日銀であるという、高橋新財政再建相の持論は彼が大臣になったこと、また論理的に詰めれば事実であるとしか言いようがないこともあって、たちまちにして浸透した。


 そのことから、日銀の論、自らが持つ国債は日本政府の資産に等しいということは認められないということ、には殆ど味方がいなかった。また、日銀も7年に渡って『異次元』の財政オペを続けてきて、目標のデフレ脱却ができなかったという負い目は自覚しており、ここは政府による財政拡大しか手はないのでは?という内部的な意見は強まっていたのだ。


 また、財務省もモリカケ問題、親分である次官のセクハラ問題など、世間へのマイナスアピールの種は事欠かず、世間・政界への威信はがた落ちであった。そこに、内閣から出たのは、これまた高橋の持論であった税務庁の財務省からの切り離しである。実のところ財務省がマスコミや企業、また政治家にさえに大きな影響力を振るえたのは傘下に税務庁を抱えていたことが大きい。


 マルサ(まる査)という名で有名であるように税務署は民間や個人への捜査権を持つ。一方で、複雑な税制の下で、全く瑕疵のない納税を行うことは事実上不可能である。だから、個人、企業が税務庁をある程度恐れるはやむを得ない面があるのだ。


 話は違うが、財務省が消費税という間接税それも例外事項が多い税制の成立に血道をあげるのは、そこに自分たちの裁量の範囲を大きくしようという狙いがあるのではないかという者もいる。そうなれば、自分たちが様々な相手に裁量を利かすことも可能であり、なによりそういう知識と人脈が豊富なOBの再就職には困らない。


 それが事実であるかどうかは解らないが、そういう権力を握っているということは、疑われてもしようがないとも言えよう。むろん、財務省は増税のない財政拡大には猛反対であるが、そのトップの麻山大臣が火付け役をつとめたのだ。財務大臣の麻山の談話である。


「ええ、この度消費税は国民の皆様のご理解を頂きまして、消費税は10%に上げさせて頂きました。阿山首相はこの度の引き上げによって、我が国の財政は健全化を目指すべきであって、今後10年間は引きあげをしないと明言されております。

 私も内閣の一員として、その意見に与するものであります。しかし、今回の引き上げでは不足である、今後10%、20%の引き上げが必要だと申す方もおられますし、わが省にもそういう意見があるのは承知しています。

 今回の引き上げは、わが省を含め政府の総力を挙げて様々な対策を施しておりますので、大きな景気後退はないと考えていますが、それでもある程度の影響は避けられないでしょう。

 そして、過去の引き上げは全て景気後退につながりました。皆さんの記憶に新しい平成26年度の引きあげは、順調に回復に向かっていた景気に冷や水を浴びせました。だから、今の日本政府は消費税のみならず税金の引き上げに頼らずに健全化を目指そうとしています。この件についは、首相自ら詳しく語るとおっしゃっていますので、ここではこれ以上は申しません。

 一方で、今話題になっている税務庁の独立つまり、財務省からの独立でありますが、間もなく閣議決定を行い来年にも実行する予定であります。本件については、すでに高橋経済再生担当大臣から、財政再建の一つの手段としてその妥当性の公表がありました。

 機能上では、実際的に税務庁を財務省に傘下に置くことに問題はないと考えていますが、ここでは、財務省傘下に置いていたが故での問題点が散見されましたので、この決断をしたとお考え下さい。また、税務庁長官を広田浩二君から、現在副長官の宮田健太君に交代します」


 これは、首相が消費税を今後10年は引き上げをしないと明言した時に、猛烈なマスコミからのバッシングがあったのだ。その種の火元はたいていの場合、財務省関係からの示唆によるマスコミの動員であるのだが、この場合は高橋の示唆もあって政権側も待ち構えていた。


 結果、財務省の大物OBを使っての税務調査をてこにした動員であったことが、関係会社の証言によって政府に掴まれてしまった。その証拠によって、財務省、税務庁は財務省出身の広田長官の更迭、税務庁生え抜きの宮田の長官への任命を拒めなかった。


 さらには、そのような理由で首相に対するネガティブキャンペーンを張ったマスコミ各社は、その証拠を公表しないことを条件に政府の方向に逆らえなくなった。

 とは言え、マスコミも国民の多くが現在の国の財政状況の本質を概ね理解しており、増税・緊縮財政ではその問題の打破はできないことは知っていることは掴んでいたため、財務省に賛同する路線のキャンペーンを張ることは自殺行為であるとの認識はあったのだ。


 財政拡大に先立って阿山首相の談話があったが、それに先立って高橋大臣からの自らの持論である日本国政府の財政状況の表と図を駆使した詳細な説明と、日銀保有の国債の意味あい等の説明によって、大多数の国民が現状の把握は出来ていた。


 無論、以前から財務省の手先を勤めていた学者また、財務省の外部機関からの反論はあった。

 しかし、彼らの反論は財政規律や、〇〇の理論によるとそれは間違っているなどとの反論であって、一般の人々に理解できる形のものではなかった。

 さらに、決定的であったのは、アメリカのノーベル経済学賞受賞者のアブラス・デリーマンMIT教授が、Dr. 高橋の論が正しいとお墨付きを出したことが大きかった。


 ただ、デリーマンはこのようにも言った。

「確かに、Dr. 高橋の日本国政府の現在の財政状況は特段危険ではないという話は正しい。しかし、現在の政府予算を続けると早晩破綻することもこれまた確かである」


 こうして、高橋は対策の出発点について、国民の理解をあることに成功し、次に長期的に破綻=破産を避けるための処方箋、財政拡大の説明に取り掛かった。ちなみに、真面目な人ほど財政破綻論者の論を聞いて将来に不安をもっていたところに、高橋の論を聞いて当面の不安からは解放された。


 しかし、こうした論の方が好きな人はいる訳で、悲観主義者は今度は将来のことを破綻確実と大袈裟に書きたて、その種の本を読むのが好きな人は夜も眠れなくなるという訳だ。しかし、大部分の人は現状では大丈夫で、将来も大丈夫のような手を打つという高橋と政府の言葉を聞いて、信じるに足ると思ったようである。


 もっとも財政破綻論者は、別段嘘を言っているつもりはなく彼ら自身もその論を信じてはいた。しかし、ノーベル学者からも現状に大きな問題はないと請け合われてしまうと、現状については彼らも高橋の論を受け入れるしかなかった。そして、日本政府には解決策はなく、財政破綻は間違いなく起きるとこれまで以上の情熱をこめて語り始めた。


 こういう話を書くのは、そういう話が好きな人々だとことだが、人々の理解が進んだにおいて、書いた本が売れるとは思えず、こういうとんでも本も出版社を見つけることができなくなったようだ。そもそも、この種の本は証券会社などが、人々の恐怖をあおって商売の種にするために書かせる場合が多いというが、その種の会社ももはや無駄と割り切ったということだ。


 財務大臣の話にあったように、首相の阿山から財政拡大に係わる国民に向けての談話があった。


「国民の皆さん、今晩は。内閣総理大臣の阿山でございます。今日は、皆さんに私どもの政府の財政的方針の転換について、責任者の私から皆さんに説明するためにこの時間を取って頂きました。

 さて、皆さんもご存知のようにわが日本政府は対GDP比で2倍に近い国債、つまり国の借金を背負っています。この率は世界最大と言われており、将来日本の財政は破綻すると長く言われてきました。しかし、この点については、主として財政再建担当の高橋大臣の努力と、ノーベル経済学賞受賞者のアブラス・デリーマン教授の御賛同もあって、現在のところは皆さんも心配する水準では無いと御理解いただけたかと思います。

 しかしながら、同時に我が国政府の財政は、健全ではないということも明らかになったわけであります。それは主として、政府の予算の構成にあります。この図をご覧ください」


 阿山は円グラフを出して説明する。

「令和元年度の予算について言うと、歳出101.5兆円のうち、国債費23.5兆円、地方交付税16%で残り62兆円が一般会計であります。一般会計62兆円の内で34兆円が社会保障費であります。

 つまり、101.5兆円のうち、73.5兆円が国債費、地方交付税と社会保障費といった固定費的な費目に消えていって、残り28兆円の中で、人件費や、公共事業費、防衛費、教育費など諸々に使われるわけです。

 一方で収入ですが、この図にあるように税収と税外収入で68.8兆円と国債33.7兆円でなっています。なお、国債はいわゆる足りないから借りる赤字国債が27.6兆円、建設国債つまり将来のための投資という意味合いの国債が6.1兆円ありますが、いずれも借金ではあります」


 阿山はここで一旦言葉を切ってカメラを向く。

「つまり、我が国の予算の1/3は借金で賄われているのです。最近では、国は個人と違って寿命がないから、いくら借金をしてもかまわないという説もあります。しかし、お金を借りるということは金利を払う必要があります。

 だから、そういうことを続けていくと、その国債をもっている組織なり個人に対して国が税金の中から莫大な献金をするような形になるわけです。結果として富むものがますます富むようになる。従って、私はこの状態を長く続けられないことは明らかであろうと思います。

 では、どうするかです。すでに有名になっていますが、過去GDPの2倍以上の国の負債を正常に返した例は、イギリスを始めいくつかあり、それは経済成長の中でその負債を薄めていって返したというものです。

 それが普通であり、苦痛の少ない方法でありますが、我が国の場合には使えません。今あげた例は、負債が積み上がった原因が戦争によるものであったために、戦争が終わると一遍に支出も減るから返せたわけです。

 我が国の場合は状況がずっと悪く、社会補償費、地方交付税、さらに国債費という借金返済の費用が75%を占めており、いわば生活費と借金のために新たに35%もの借金をしているわけです。つまり、現状のところは節約の余地は非常に少ない上に、もし減らすと皆さんの生活に重大な支障が生じるだろうと思います。

 また、財政の健全化のために増税が必要と言う方がいますが、この不足する部分を増税で賄うとすれば、この図から明らかなように増税は赤字国債の部分、約28兆円は最小限必要です。ですから、税金は現状の約1.5倍近くになります。この部分を消費税増によるとすれば、現状で大体消費税1%で2.5兆円税収増ですから。11%増になります。

 しかし、残念ながら今までの実績から言うと、消費税を引き上げると景気が悪くなって、とりわけ企業からの事業税などが減ります。ですから、事業税減などを見込んで本当に均衡が必要ということで試算すると、約25%の引き上げが必要になります。

 その場合には、日本のGDPは20%〜25%縮む、つまり貧しくなるという計算になっています。国民の皆さんがずっと貧しくなって、しかも大幅な増税、消費税率40%の世界にすれば、財政は均衡するという訳です。しかし、私ども政治家は所詮人気商売ですから、そんな手段は取れる訳はありません。

 もし私がそういうことをすると言えば、同僚政治家諸君に反乱で1週間以内に私は首相の座から降りることになるでしょうね。つまり、増税による均衡という方法は取れないということです。

 ではどうするのか。私の内閣の結論は、まず支出を膨らませることで、日本経済のマス、つまり大きさを脹らませてまず借金返済の部分を除いて収支を均衡させます。ただ、お断りしておきますが、政府の支出のみで日本経済のボリュームが大きくなっていくとは思ってはいません。

 日本政府の財政支出は単なる切っかけです。政府の支出によって、民間、この場合は企業ですが、その収入は間違いなく増えます。そして、企業は増えた収入と仕事をこなすためと今後も増える仕事のため、ものを買いさらには工場を建てて人を雇います。物を売った企業は、そのものを作るために同じように人を雇い設備投資をします。

 このように、政府の支出したお金は、日本経済を巡る中で何倍かになって経済を大きくします。そのためには、その支出したお金の使いどころを慎重に考える必要があります。出来れば、投資した結果新たな多くの人を雇用するような産業が生まれて、経済を大きくするような対象が望ましいとわけです。

 このような効果も考えて、政府支出を呼び水として、ここで、いわゆるプライマリー・バランスを均衡させます。そして、その効果が検証でき、国民の皆さんが納得出来たらさらに支出を増やして国債、つまり借金の返済をできるまで、国の経済規模を大きくしてその財政も健全化します」


 そのように、阿山はカメラの向こうの人々を意識しながら、様々な図を用いて説明していく。

「このように、国の経済規模が大きくなることの良い点の一つは、国の借金の割合が全体の財政規模に対して小さくなることです。例えば、皆さんの家計について考えれば、年収500万円の家庭にとってと半分の年収の家庭にとっての100万円は意味合いが違うでしょう?

 ですから、当面の目標は日本のGDPを大きくすることです。日本のGDPが大きくなるということは、皆さんの所得が大きくなることです。私はこれを名付けて『令和の所得倍増計画』としたいと思います」

 

 阿山は、いったん言葉を切って視聴者を意識しながらカメラを見る。

「かつて、昭和の時代に日本政府は「所得倍増政策」を掲げて、人々の努力の元に見事にそれを成し遂げ、世界史の奇跡とも呼ばれる経済成長を遂げる中で、国全体もそうですが国民も先進国にふさわしい存在になりました。

 この場合の動機は、「豊かになりたい」ということだっただろうと思います。

 今回の私が言っている「令和の所得倍増政策」は、何もしなければ来るであろう “日本国破産”を避けるために考え出されたものです。しかし、考えて頂きたいのです。いま私たち日本人のみならず地球人類は、100年前の人々には考えられない生活をしています。

 かつて、人は機械を発明・開発することで、その力を何倍にもすることが可能になり、ものを大量に安く作ることが可能になり、非常な高速度で移動することも可能になりました。そして、電子の働きを使うことで、機械類を人間が介在することなく使えるようになりました。

 現在の我々は、コンピュータやセンサーを使うことで、その知覚・知力を何倍にも拡大することが可能になりました。そして、私達はその活用をさらに如何にして拡大していくか、という時代のとば口にいるのです。この「令和の所得倍増政策」では、その利用を極限まで進めるものであるべきです。

 この政策の実現をもって、100年前の世界に比べると、王侯貴族とも言える今の便利な生活水準を落とすことなく、一方で高ストレス社会と言われる社会を人々が幸福と思えるものにしたいと思います。しかしながら、この計画を始めて数年経てば様々な矛盾点や不都合な点も出てくるでしょう。

 私達政府は、その進捗状態を様々な切り口で、モニターしていきますので、矛盾点や不都合は見つかる都度修正し、場合によって計画の道筋を大きく変えるまたは、計画を中止することもありえます。これらは、国民の皆さんの意向によるものです。

 その意味で、国民の皆さんにもこのように政府が進めようという計画に、大きな関心を持って頂きたいのです。国政、地方の選挙に投票することはもちろん、もっと自分たちの声を出してください」


 この、阿山の呼びかけは、番組そのものの視聴率25%余と異例の高さであり、12歳以上に限れば半数以上は再放送を含めた映像を視聴したと言われる。その日から「令和の所得倍増政策」と言う言葉は日本国民にとって、最も口にされる機会の多い言葉になった。


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