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日本国破産?そして再生へ  作者: 黄昏人
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2035年、令和所得倍増計画終了!

読んで頂いてありがとうございます。

  2034年度末、すなわち2035年3月末、令和所得倍増計画が終了した。

 昨年度2033年度末の時点で、日本のGOPは1340兆円であり、最近5年は名目で5%成長を遂げている。現状の予測ではその1年後2034年では、成長率はやや落ちてきて4%の1380兆円と予測されている。


 所得倍増計画15年間の名目成長率は2.42倍であるが、平均インフレ率が2%程度なので、実質成長率も2.07倍であり、この点でも計画を達成していることになる。実際のところ、計画の10年時点では名目成長率が3%程度になっており、実質成長率の2倍達成は危ぶまれていた。


 しかし、それも地球寒冷化という事象に備えて、世界全体でその対策に走ったことから、その重要パーツの供給基地になった日本の経済が大きく改善されたということだ。むろん、日本自身が寒冷化への対策に乗り出していることも経済が大きく伸びた原因になっている。


 その一つの核融合発電所の大量建設のみでもその成長の大きな要因になっている。現状では、核融発電所は95基が運転中であり、32基が建設中であるが、それでもなお130基が着工を待っている状態である。日本以外の世界では核融合発電所はすでに320基が運転中で420基が建設中であるが、各国ともに日本に対して猛烈に心臓パーツを渡すように働きかけている。


 日本としては、自国の建設を優先したいのであるが、国際関係を悪化させないためにはやむを得ないとして、輸出をできる限り優先している。

 日本が開発した核融合炉は従来の各発電と同様に熱を発して、タービンを回すことで発電しているのであるが、水素を重合させてそれをヘリウムに変換させている。


 だから燃料として供給するのは水素ガスであり、発生したヘリウムは強い放射能を帯びているが、量としてはわずかであり、すでに放射能を消去する方法を確立した日本にとって無害化するのにわけはない。そのようにほぼ、無公害のシステムの上、燃料費としては微々たるものであるために、㎾H当たりの原価は5円程度になる。


 このことから、世界の国々が出来るだけ早急に自国の発電システムを核融合方式にしたいと考えるのは当然である。その上に、寒冷化に伴って、最高効率の熱源であるという核融合炉の存在は大きく、その発生熱を寒冷化する世界の植物工場、都市の熱源等への使用したいという面でも待ち焦がれる国が多い。


 なお、日本については、今や日本海のみならず太平洋岸からもメタンハイドレートを採取できるようになり、採取のための浮体基地も日本海側に8ヶ所、太平洋側に6ヶ所建設されている。さらに、それを受けいれてガス化あるいは液化するメタン変換工場も全国に5箇所建設されて、燃料化を行っている。そういう意味では日本における燃料輸入は劇的に減っており、数年内には輸入は必要なくなると言われている。


 このように豊かになった日本であるが、人々の暮らしは以前とそれほど変わったわけではない。実質のGDPが2倍になって、人口の減少は止まりつつあるものの、殆ど横ばいなので実質の人々の収入は所得倍増計画が始まる前の2倍近くになったわけだ。


 ちなみに、一時期は労働力の不足から外国人を入れようとする試みもあったが、ICT技術の発達のために生産性の変革が起き、逆に人手が余る分野も出てきて、結局その政策はすぐに取りやめになっている。


 現状ではICT技術の発達とその活用の広がりのために、産業界・社会は大きな変動のさなかにあり、国のかじ取りもAI技術も使って、政策の策定に当たっているところだ。そして、その最優先課題は、伸びているGDPの適切な配分であるので、政策の課題は雇用と賃金の上昇に置かれている。

 また、『働き方改革』の考えは未だに残っており、その大きな目的の一つである過重労働の防止・禁止は大きな柱になっている。


 さらに、基本的には、工場生産を含めた生産活動、さらに経理や法律などのデータの処理については自動化がどんどん進んでいる。その結果、機械やICT技術を用いた工業製品・サービスはどんどん安価になっていき、逆に人手がかかった製品やサービスは高くなっている。


 人々が豊かになって、更に余暇も十分とれるとなると、様々な人々の楽しみのための産業が人々の雇用の主役になり始めている。これは、インターネットを通じた映像、物語、ゲームを始め、スポーツ、旅行などの業界が嘗てないほどの隆盛を極めていることからも明らかである。


 その中で、日本へは多くの国の人々が訪れるようになり、多く滞在するようになってきている。とは言え、これらの人々は決して日本の企業が人手不足から雇うものではなく、観光、調査、それぞれの国の企業の商売などのために来ているものである。


 一方で、日本人も数多くが海外の国々に出かけて、様々な活動をしている。これは、実のところジェフティアの建設がその一つのきっかけになったと言われている。これは、アフリカの地に、主として農漁業のために日本領ができたため多くの日本人が移り住んだのだ。


 現在でジェフティアには、日本国籍を持つ者のみで600万人を超えているが、それ以外の主としてアフリカ人がその2倍の1千2百万人住んでいる。そして、ジェフティアは日本の農漁業基地でもあるが、一方で産業界のアフリカ進出の基地でもある。そのためには、製鉄から機械・電気などの最新鋭工場も建設され、販売の拠点も設置されてアフリカというマーケットに売り込まれている。


 そこに働く人々として、農漁業生産者のみならず、これらの企業はアフリカ人を積極的に受け入れて、働かせてきたので、ここは当然アフリカの最も先進的な地域として機能するようになったのだ。また、ジェフティア大学の働きも大きかった。8千人を超えるアフリカ人を受け入れているこの大学は、アフリカ最高峰の大学として、アフリカの国々の人材育成の場として活用されている。


 そして、日本の人々はジェフティアを足掛かりに、発展著しいアフリカの国々に散っていったし、その同じノリでアジア全土に南米に散っていった。そこで、非常に有効であったのが、スマホによる音声翻訳機能である。


 日本人が、英語と言えども不自由なく使えるようになるのは容易なことではないが、この進化した翻訳機能が使えれば、殆ど不自由なく会話が成り立つのだ。さらには、会話が音声で翻訳出来るなら文章を自動翻訳することはより容易である。


 それを後押ししたのは、地球寒冷化である。核融合発電所、セルロース・澱粉変換工場等の世界中での建設に加え、ジェフティアの経験を世界へ広げるための技術指導に、家族を加えれば数十万の日本人が世界に散らばっていると言われる。結局、現在では日本人は世界に300万人ほども散らばっていることになっている。


 寒冷化であるが、すでに明らかに顕在化して進んでおり、地球全体の平均気温はすでに3℃下がって、北半球では農業生産に大きな影響が生じている。北緯50度以北では、夏にわずかに暖かくなるが、春と秋がない状態になって実質的に穀物は実らない。


 しかし、すでに150ヶ所以上のセルロース・澱粉変換工場が稼働しており、全力で澱粉を作っている。そして、寒冷地でも短い夏に茎は伸びるので、それからセルロースを取って変換工場の原料に供給している。こうして北の国々は、成長の早いセルラという種の茎の栽培を農家に推奨してそれを買い取っている。


 こうした地域の農家の人々の半分程度は、各国がアフリカ、ニューギニアなどのアジアの国々、さらに中南米の国々と契約して開発した農地に移住しているが、半分ほどは残って上述のセルラを栽培することでその地で農業を続けている。


 このような農漁業生産については、FAO(国連食糧機構)が主として指揮をとっているが、この組織にはその重要性に鑑み、日本を始めG7から多くの職員が送り込まれて組織としての効率を大幅に上げている。その結果、2030年以降の寒冷化に伴っての、既存農作地域の生産高の減少に対応する施策を効率的に実施してきた。


 従来であれば、こうした飢饉が起きることが確実な情勢になった場合、地域紛争・戦争が起きてきた。しかし、その解決の道筋を日本が示し、G7が一致してそれを支持したことから、1億を超える人々が居を移すという事態にも拘わらず、結局大きな紛争はおきていない。


 そして、それは世界で突出した軍事力をもつアメリカ合衆国という存在が、積極的に紛争回避に動いたことから、平和が保たれたということも言われている。実際に、中国が東南アジアに向けて軍を動かす準備をしていたのであるが、G7の警告とアメリカ空母部隊の派遣によって思いとどまったという事実もある。


 そのFAOの施策は、日本の提言に沿ったものであり、農作物の寒冷に強い品種の導入、セルロース・澱粉変換工場による澱粉の大量生産と、混合するたんぱく質や様々なミネラルの生産体制の構築、栽培漁業の大拡充、昆虫、オキアミなどたんぱく質源の生産体制を構築することなどが主たるものだ。


 これらの方策は、FAOの引いたラインの下で基本的に国家主導の計画が立てられ、民間企業に農家や漁業者もそれぞれの役割を割り当てられて、全力で取り組んできている。

 それに並行して、食品生産に係わる私企業も、全力でこれらの新しく供給される食品材料を使った味の良い食品の開発に乗り出している。その結果、味・栄養価ともに人口澱粉などを使って天然ものに劣ることのない食品がすでに売り出されている。


 こうした活動の結果として、過去5年に渡って地域的に食料の不足する地域はあったが、適切な食品の割り当てによって飢餓がおきることはなかった。その意味では、むしろその前の5年の方が地域的な飢餓が起きた件数は多いと言われている。



 2035年5月2日、日本政府主催の令和所得倍増計画達成祝賀会が開かれている。これは、東京ビッグサイトの国際会議場で行われており出席者は1000人である。司会は初の女性内閣官房長官の斎藤みゆきである。


「皆さま、本日はこの令和所得倍増計画達成祝賀会にご出席有難うございます。この会は、令和元年に始まった所得倍増計画が、成功裏に終わったことを祝すものであります。令和元年に始まったこの計画は、計画年である15年後のこの3月末にGDPが実質で2倍を超えることができ、文字通り計画を達成しました。

 この良き日にあたり、当時の財務副大臣を努め、その後財務大臣、さらに途中2度に渡って内閣総理大臣を努められ、現在第3次三嶋内閣を率いておられる三嶋内閣総理大臣に、まずお話を頂きます」


 その言葉に、拍手の中を59歳の誰もが“精悍な”と言う三嶋が登壇する。ラガーであった彼も、延べ7年に渡る内閣総理大臣と言う激務の中でしわがはっきり現れ、半白の髪になっている。


「皆さん、本日はこの会にご出席有難うございます。

 思えば、令和元年この計画が始まった時には、我が国は平和ではありましたが、閉塞感が蔓延した活気のない社会でもありました。とりわけ、若者の収入が伸び悩み、そのためもあって出生率が低迷して人口がはっきり減少を始めた時期でもありました。

 そこで、当時の阿山内閣において、日本の活気を取り戻すこと、また収支の合わない国の財政を均衡させるためにこの計画が策定され始まったわけです。この計画は、当時任命された高橋財政再建担当大臣のお考えに沿ったものでありました。

 ですから、その前年度、私も阿山首相と共に高橋教授からレクチャーを受け、その後財政再建担当大臣になって頂くために口説いたその席に同席していました。

 そして、皆さんもご存知の通りに、高橋教授はその大役を快く引き受けて下さり、令和所得倍増計画のレールを引くとともに最初の5年間の指揮を取って頂いたのです。有難うございました、高橋先生!皆さんも拍手をお願いします」


 三嶋は、招待されて最前列に座っている高橋氏に頭を下げて拍手をすると、会場の出席者からも盛大な拍手があり、小太りで真っ白な髪の高橋は立ち上がって出席者に頭を下げる。

 高橋が座り、拍手が治まったところで三嶋は話を続ける。


「さて、令和所得倍増計画は言ってみれば、政府支出を増やして、できるだけ国民の所得を上げることのできる分野に投入して、所得成長の呼び水にしようというものでありました。具体的には、多くを国土強靭化のための建設費と、そのころ必要が生じた防衛費さらにICT技術に投入しました。

 その頃の政府の財政は、マスコミは国の借金はGDPの2倍ということが書きたてていましたが、実のところ政府自体がその半分ほどの金融資産が持っており、さらに子会社である日銀が同じ程度持っていて、それほど悪いものではありませんでした。

 ただ、支出に対して収入が70%足らずしかなく、さらに支出も社会保障費など硬直的なもので、そのままの状態が続けば破綻は避けられない状態でもありました。それに対して政府支出を増やしたわけですが、当初の支出増は約10兆円であって予算の10%足らずで、高橋先生からも不十分と言う言葉はありました。

 しかし、政治状況からその程度が限度でもあったわけです。とは言え、そのころ技術自体はほぼ熟しかけてはいましたが、応用面でまだ弱かったICT技術への投資が効果的であり、思ったよりもずっと大きなプラスの効果が出ました。加えて、政府の大きな資産ではあっても利益を生まなかった、政府関係の諸機関への様々な施策・働きかけで、それなりの利益を生むようになってきました。

 そんなことで、9年後にプライマリ―バランスを取ることができ、国土強靭化への投資も一巡して、防衛への投資もミサイル防衛網の完成でこれまた一巡しました。その中で、大型の政府投資としてはジェフティアの建設でありましたが、これは結果的に言えば、誠に孝行息子というか娘というか、大きな利益を生んでおります。そして、この地球寒冷化の件があってことで誠によくぞ実施したということになりました。

 この、地球寒冷化は世界でも1億人を超える人々の移動を促すことになりましたし、我が国でも北海道の方々を中心に、100万人近くの人がそのためにジェフティアに移動のやむなきになりました。しかし、一方で本令和所得倍増計画が実質成長率で2倍を超すことが無理だろうという状態であったものを、世界から殺到する注文のお陰で実質2倍を余裕をもって超すということになりました。

 しかし、当初は達成には悲観的であったこの計画が、名目で2倍のみならず、実質で2倍を越したのは我が国の国民の皆さんが営々と努力した結果であります。そして、全体として経済が大きく伸びたのみならず、その貧富の差が大きく縮み公平な社会になったのも国民の皆さんの意識の高さの故であります。

 令和所得倍増計画は終了しました。しかし、日本の我々の社会はまだまだ続いていくわけです。今後ともより良い社会を構築して、皆が幸せに暮らしていくために今まで以上の努力をお願いしまして私の話を終わります」


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