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日本国破産?そして再生へ  作者: 黄昏人
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ジンバブエと稔

読んで頂いてありがとうございます。

ジンバブエにはしばらくいたのですよね。その経験から書いています。

 稔たちの乗った特急イースト・アフリカが、ハラレ駅に滑り込んだのは午前11時であった。


 ハラレは、標高1200m以上の高原に建設された街であり、現在の人口は130万人を超えている。駅のある中心部はビルの立ち並ぶオフィスと商店街であり、その外周を貧しい層が住む住宅街が囲み、さらにその外周を広い宅地のお屋敷の住宅街が囲む格好であるので、街の形は概ね円形である。


 かつてこの国が白人に支配されている頃、中心部に近い住宅地には黒人が住み、最も外周の広い住宅街には白人が住んでいた。しかし、貧しい層の住む住宅街と言っても、宅地の広さは大体200㎡程度で日本の地方の住宅団地並みであり、外周の白人用の住宅に至っては、その宅地は平均的に500㎡程度ある。


 むろん、そんな広さの家が家族のみで管理できるわけはないので、黒人の使用人が数人雇われていた。さらに、先に述べたように国内には多くの白人の経営する大農場があって、当然それらには多くの黒人が雇用されていた。


 このように、土着のジンバブエの人々、黒人は、よそ者であるヨーロッパから来た白人の使用人になって暮らしていたが、それなりに教育制度も整っていて全般的に見るとそれほど過酷な支配は受けていなかったようだ。


 その結果が、ジンバブエはアフリカの諸国に比べると治安が良いという国民性にあるのだと言う。しかし、それら土着の黒人は、結果として白人を追い出して、アフリカでも最も豊かで、教育レベルも高いと言われた国を一旦は破壊してしまったことになる。召使から主人になったという意味では歓迎すべきであろうが、なかなか重い代償だ。


 その後の、100兆ジンバブエドルを発行する必要があったハイパーインフレを経て、暫くは中国の援助に主として頼ってきた。しかし、それは結局搾取されるということに気づいて、中国の退潮と共にどのようにすればよいかと迷っている所に、ジェフティアの話がモザンビークから始まって、それに飛びついたわけである。


 何しろ、国内の殆ど活用していない土地を譲ることで、彼らからすれば莫大な資金を得られ、しかもその土地は間違いなくあの日本人たちによって大開発されるのだ。だから、その得られた資金を使って、ジェフティアと歩調を合わせた開発をしていけば、自国も急速に経済発展することは疑いない。


 このような、ジンバブエ政府の思惑は、現状のところは期待以上にうまくいっている。開発計画については、自国の力では合理的・効率的なものはできなかったが、“お隣に来た”日本人が大勢で助けてくれて、計画の策定から・工程・品質の管理までやってくれる。


 さらには、ジェフティアに用いる余裕を持たせた灌漑設備・電源設備を建設して、そのお余りは隣接地に使わせてくれるなど、隣に日本人が来るという効果は大きいものがあった。


 ジンバブエは平地が多く農業適地は広大であるが、大きな水源がないところが弱点であったために、嘗ての支配者であった白人が、多くのため池を作っている。しかし、それでは十分でないのであるが、国境を流れるザンベジ川という巨大な水源がある。この活用のためには、日本が実施しているように、数百mの高さの揚水と大延長の灌漑水路が必要になる。


 ジェフティアの旧ジンバブエ領は標高が1000m以上の高地なので、灌漑のために概ね高さ800mほどの揚水を行なわれている。そのため、揚程100m毎程度の揚水場を設けているが、設備費もさることながら、電力費が莫大なものになる。


 だから、揚水量は現地の降水の有効活用を十分考慮したもので、現地にも適宜貯水池を組み合わせて揚水量を最適化している。とは言え、旧ジンバブエ領での農業は、大部分自然流下の灌漑ができる低地のモザンビークのそれに比べ灌漑の面でも気温の面でも効率は良くない。


 しかし、熱帯の低地の旧モザンビーク領では、その高温と安価豊富な灌漑水を生かした作物を育てる農業を行い、高地で灌漑用水を用いにくい旧ジンバブエ領では灌漑水を多く利用しない作物また、牧畜などを行っている。そして、ジェフティアで実施しようとしているその技術は、ジンバブエの農場にもそのまま生かせるのだ。


 そのようなことで、ジンバブエではすでに農地面積は白人支配の時期を超えており、単位収量も30%以上も改善されている。その生産物の小麦、トウモロコシ、大豆、花卉、牛肉などは国内需要を大きく越えて、日本やヨーロッパに輸出されている。

 このように、農業生産により人々の収入が増えると人々の購買意欲も増すので、農業以外の消費も高まり、商工業全体の経済活動が高まっている。


 ちなみに、稔たちの勤める㈱アサヒは、地元資本と共同で会社を設立して、ハラレにガスタンクを備えて、市内にガス供給施設を運営しており、未だどんどん供給エリアを広げているところだ。こうして、ハラレ市内ではガス供給事業を行い、周辺エリアにはプロパンガスの供給を行っている。


 ジンバブエでは、白人支配の時代には煮炊きから風呂に至るまで熱源は薪か電気であった。それが、経済が崩壊して電源供給が不十分になると、首都の中でも地域に分けて計画給電になり、1日に4時間から10時間の電気供給しかなくなった。

 現在ではカリバダムでの発電所を増設して、かつ日本の借款で石炭火力発電所が建設されたが、十分とは言えないので、熱供給は電気でなくはるかに効率の良いガスによることが提言されている。


 これは、単純に熱を発する場合には、火力発電の場合、石油や石炭あるいはガスの熱量の40%程度が電気を生み出すのに使われ、さらに電気で熱を出すのにさらに効率が落ちる。しかし、ガスの場合には熱量の80%以上がそのまま使えるのだ。


 そこで、ジンバブエ政府は、ガス事業の展開を見ながら、熱源に電気を使う場合には割増料金を取るという法律を作ったことから、稔たちの会社がジンバブエでガス事業を展開することになったのだ。提携先の会社はジンバブエの半官半民の電力会社が設立した会社であり、お互い50%の株式を握っている。



 稔と仁科が改札を出て、車寄せに行くといつもの場所に、会社のロゴの入ったバンが止まっている。日本のトンダ自動車製の電気自動車だ。現在では、世界的に自動車は殆ど電気自動車になっており、ジンバブエではジェフティアの効果もあって町ゆく車は大部分が日本製になっている。


 その意味では、日本産業界もアフリカの商売という意味ではジェフティアの効果は十分にあって、多くの会社がアフリカでの商売を見据えた何らかの出先を設けている。またジンバブエは海に面しておらず、従来飛行機で運べないものは南アに陸揚げして陸路で運び込んでいたし、輸出の場合は逆のコースを使っていた。


 その意味でジンバブエにとってジェフティア鉄道は輸送の面で極めて大きな存在であり、西日市の大規模港と相まって、従来より大きくコストと時間を短縮している。その意味でも、この鉄道はジンバブエの農業の支えにもなっていると言えよう。ちなみに、この国では花卉が大規模に栽培されているが、これは軽い事もあってヨーロッパに空輸されていて、現在もそうなっている。


「ハーイ、ミノル、ヨージ。列車の旅は順調だった?」


 稔たちが近づくのを見て、長身の引き締まった体の中年の男が車から降りて、手を差し伸べる。マイク・ジヌルク、ジンバブエガス供給会社(ZGDC)の技術部長だ。彼は、未だにアフリカきっての高レベルというジンバブエ大学卒の47歳だ。


「やあ、マイク。わざわざすまんね。我々だけでも良かったのだけど」

 稔は差し出された手を握り返す。


「いや、いや、㈱アサヒのアフリカ支社の技術部長様が来るのに出迎えなくちゃね。まあ、それに私もチトンギザの配置については少し議論しておきたかったのだよ」

 ジヌルクは、黒光りしている顔の白い歯を見せて言う。


 彼らが車に乗り込むと、運転席にいる若手のエンジンアが振り返って頷いて歯を見せる。彼らは、今からハラレに隣接する人口40万人のチトンギザ市のガス供給基地の建設予定地に行くのだ。


「そう言えば、君の父上が以前にチトンギザに来て仕事をしていたと言っていたよね?」

 ジヌルクの問いに稔が応える。


「うん、2013年だからもう30年近く前だな。JICAの仕事でチトンギザの上下水と廃棄物の環境関係の仕事で数カ月いたらしい。親父は上水担当だったそうだ。それで懐かしいからと言って、2年前に鉄道がハラレに繋がった時に母と一緒に来たんで、おれは案内役だったよ」


「30年前と言えば、その後少なくとも15年位はまだ我が国の経済は無茶苦茶の時だったなあ。おれも、大学を出てから南アに出稼ぎにいったものな。上水と言えばその頃なんかまともな水源はなかっただろう?」


「ああ、親父から散々聞かされたよ。当時、ハラレから水を貰っていたけど、必要量の半分程度だったらしいな。地下水を探して大分ボーリングをしたけど、まともな水源はなかったようだし……。そもそもハラレ自体が全然水が足りていなかったそうじゃないか」


「そうなんだよな。ハラレの水源は人工湖のチベロ湖でちょっと渇水だと足りなくなるし、浄水場の能力は足りなかったしね。それに、ハラレはチベロ湖の流域に入っていて、その下水を処理する下水処理場がまともに動いていなくて、暫くは自分の出した汚水を処理して飲んでいたんだよな。

 その頃の水質は怪しかったよな。今では下水処理場がちゃんと動いているけど、湖というのは一旦汚したらその水質はなかなか回復しないからなあ。でも、知っての通り、今はザンベジ川から取ったハラレ水路があるからね。ハラレもチトンギザも水道については問題なしさ」


「うーん、確かに、ハラレ水路を始め、3本の大規模水路が完成したからね。どれもどちらかというと灌漑が主だったろう」


「ああ、そうだ。都市用水なんかはわずかなものだよ。おかげでまだ農地は5割くらい増やせるらしい。なにしろ、1500億㎥のカリバ湖の発電で使った水を汲み上げるのだから、水不足になることはないからね。

 それに、今後地球の寒冷化に伴って、我々の国のような地域の食料の需要は増えるしね。食料はセルロールから澱粉の変換でかなりを賄うらしいけど、やはり天然の穀物には敵わんようで、結構我が国の将来は明るいのじゃないかな」


 そのような会話をしている彼らの乗った車は、平坦なハラレ郊外を駆ける。市街の住宅を過ぎても国道沿いにはしゃれた住宅と商店などが立ち並ぶ。2年前に来た父は、その景色を見て言ったものだ。


「ここにまばらに家はあったが、どれも掘っ立て小屋だったぞ。電気も大体は引いてなかったしね。だけど、あの丸っぽい岩の塊がたくさんあるのは変わっていないな」


 車は駅から10㎞ほどを走って谷を取り過ぎ、小高いチトンギザの街に入る。チトンギザはハラレで働く労働者の街であり、ハラレにあるような白人が住むことを前提にしたお屋敷は少ない。そうした街であるために、街の中に大規模な商店街はなかったらしいが、現在では街の入口に日本のエオンの巨大なマーケットがある。


 それを見た父が感嘆したものだ。

「ほーお、エオンがあるのか。なるほど、ジェフティアがあるからな。それにしてもジンバブエの人の購買力も上がったものだ。うーん、町並みも綺麗になったなあ、人々の服装もこざっぱりしている」


 彼らの目的地はエオンから1㎞ほど入ったところで、そこには10haほどの整地された有刺鉄線のフェンスに囲まれた用地がある。ここに2000㎥のガスタンクを設けて、チトンギザのガス供給を行うのだ。彼らは現地で合流した、サブコントラクターの技術者と図面を見ながら1時間ほど現地を見ながら協議をした。


 稔と仁科はその後、チトンギザのガス管の主要幹線のルートを視察して、町並みをチェックして家屋へのガス供給の詳細について確認した。

 彼らが、ハラレのZGDCのオフィスに入ったのは午後も5時に近くなってからであった。その後も、オフィスでチトンギザ・プロジェクトのコスト計算のすり合わせを、現場担当スタッフと行った。


 稔が仁科と共に、オフィスの近くのホテルにチェックインして汗を流し、フロントで待っていたジヌルク部長に若手技師のモコと合流したのは午後も7時半であった。その後、彼らは食事のため少し離れた場所までタクシーで移動する。


 タクシーが止まったのは、レストランや商店ビルが立ち並ぶ通りで、向かったのは5階建てビルの1階のしゃれた地元風のレストランである。


「日本食とも思いましたが、ミノル達には珍しくもないだろうから、ジンバブエ風のレストランにしたよ。最近ではジンバブエ料理も進化したので、それなりだと思うよ」


 ジヌルクが言うが、ミノルはこのレストランは初めてではあるものの、確かに前に味わったジンバブエの地元料理も悪くはなかった。


 白いクロスのかかった6人かけのテーブル席に落ち着いた彼らには、スタータ―、前菜、メインとそれぞれに料理を順次もって来る。稔は未だに、どちらかというと居酒屋や中華料理風の、シェアして食べるタイプが好きだが。招待される側で注文も出来ない。スタータの果実酒の後はビールで乾杯して食事に入る。


「ところで、地球寒冷化に当たって、日本のジェフティアに対する方針はどのようなものになりそうだい?もちろん、その重要性はもっと増す事になるだろうけど」


 ジヌルクが切り出すのに、稔が応える。

「ああ、もちろん政府も民間もジェフティアがより重要になるということは認識しているよ。実際に、ジェフティアについては当初は否定的な考えの人も多かったのだけど、ここに来て、よくぞ建設したという人が大部分だね。日本が、寒冷化を見出し、核融合、セルロース・澱粉変換の技術を確立したと言っても、ジェフティアがなければ、状況は随分悪かっただろうね。

 なにより、ジェフティアのお陰で貴国を始めとするアフリカの国々と本当の意味で友好関係を持てたことが大きいね。寒冷化が始まった今、温暖な位置にあるアフリカの重要性はますます高まるから。

 それで、ジェフティアに対する方針としては、日本政府はジェフティアのまだ未開発で農地転用可能な3万㎢について至急開発をすることを決めた。また、主としてモザンビーク領になるけど、ジェフティアの隣接地6万㎢を開発することになった。これは、カナダと共同の仕事になるよ。

 また、アフリカ全土で、カナダ、ロシア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、バルト3か国と共同で総面積50万㎢を超える農地開発をするらしい。これらは、日本は紹介や調整役に徹することになりそうだ。日本の場合は日本本土にジェフティア、それにセルロース・澱粉変換で十分食料は確保できる予定になっているので」


「なるほど、我々アフリカ諸国には大きなチャンスだね」

 ジヌルクが言うが、彼も多くの北の国々から、自国への開発のオファーがあっていることを知っている。


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