竹島奪還、そして国際裁判所へ
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清水3尉は、暗い海の中をウェットスーツ越しに水の抵抗と推進機の振動を感じながら進んでいる。ここは、竹島沖1㎞水深30mで午前1時の真夜中である。後に続く柳井2曹の推進機の振動も変わらず感じられている。
やがて、岩がゴロゴロしている海底がぼんやり赤外線スコープに浮かび上がる、清水は柳井に手で海底を示して海底から2m程高さを保って尚も進むと、やがて波による揺れをはっきり感じるようになってきた。また、見上げると上に揺れ動く海面が見える。
水圧計によると、現在の自分の深さは8mだから、海底までの2mを加えると水深は10ほどだ。出発前にじっくり調べた海底を含めた竹島の立体データによると、岸まで概ね200mのはずだ。そこで、また柳井に合図して速度を時速20kmから半分に落とす。そのまま進んで、さらに岸に近くなったところで、推進器の動力を切り直径25cm長さ1.2mのそれを海底の岩にワイヤーで固定する。
岩がゴロゴロ転がっている波打ち際を、2人で腰をかがめて慎重に歩き水からあがると、目の前にはコンクリート舗装した小道があり海側にフェンスが巡らされている。流石に海からの侵入者にも備えているようで、触れば無論警報が鳴るのだろう。
しかし、やはり韓国クオリティーで、崖を登る階段部分に隙間があり十分人が抜けられるので、2人はウェットスーツを脱いでそこを慎重にすり抜ける。やがてかれらは、頭に入っている地図を辿って、慎重にしかし素早く目標の唸りを立てている発電機の位置までやってくる。
予備を入れて2台ある主発電機は、1台は故障して1ヵ月経つがまだ代替品は到着していない。この国ではこうしたことはよくあることで、彼らの誇りとする“独島艦”の発電機の1台が故障して長期に放置された間に、残った1台が塩水を被って故障して艦が漂流したということがあった。
主発電機は、レーダーに電力を供給するもので、これが故障するとレーダーや、大型の照明は使えなくなるが、小型発電機があるので、屋内照明・隊員のための家電など生活には支障はない。清水は、防水ケースから拳銃のような形のものを取り出して、それを発電機の操作盤に向けて引き金を引く。バチ!という音と一瞬火花が散って、発電機がストンと止まる。電子回路を焼き切ったのだが、この場合の原因は破壊工作とは判らないだろう。
「任務完了、引き上げるぞ」清水は低く柳井に言って、素早くもと来た道を引き返す。再びフェンスをくぐり、素早くウェットスーツを着て海に潜り、推進器の固定ワイヤーを外して、1㎞沖で水面下30mに沈んでいる“こくりゅう”のエアロックから艦に帰還する。その時点では、上方の建屋では明かりが点いて、大勢が右往左往して大騒ぎになっている。
独島駐留所のリー・ジョアンは、監視室でいつもようにインターネットゲームに没頭していた。駐留所には47名の駐在員がいるが警備員が40名、灯台担当員が7名である。灯台は、駐留していることを誇示するためのもので、実際に船舶の航行に寄与はしていない。
大体において、日韓が領土と主張しているこのような海域をわざわざ航行するような船は少数であるし、GPSの発達した現在において灯台の存在価値は薄れている。
27歳のリーは、警備隊の3人いる副隊長の一人であり、先任順で言えば最も低いため、夜間の監視は大抵彼が押し付けられることになる。彼は、沿岸警備隊に大学を卒業して入っているので、いわばエリートであるが、あまり人気のない職場であり家族友人にも誇れる立場ではない。
独島は韓国人が愛国心を発揮する中心的な存在であるため、あまり考えもせずに希望したところ、2年の新人研修と初期訓練の後にあっさりかなえられた。彼も最初は独島駐在ということで、張り切っていたのであるが、その任務が耐えられないほど退屈であることはすぐに思い知り、同僚や部下からこの任務がいかに人気のないものかを散々聞かされることになった。
「くそー、何でこんなところを希望したんだ、俺は!」ぶつぶつ言いながらゲーム機を操作するりーであったが、同じように宿直を割り当てられた、ソウ隊員が話しかけてくる。彼は他に1人いる宿直の一人であり、もう一人は灯台担当員であり若い無口な男である。
「リー第3副隊長、嘆いても年季明けにはなりませんよ。副隊長はあと1年じゃないですか。私なんかはまだ3年あるんですよ」
その言葉を聞きつけて、髭面でむさくるしい中年のソウはそのように言うが、彼は前の勤務地の不始末で5年の任期で送り出されている。彼は学歴がなく反抗的な態度から、出世することはなかったが、優秀な男で技術的にはなかなか優れた技能を持っている。
ソウとキムも画面を見ているが、いずれもゲームとエロ画像で任務には関係ないものである。離島の勤務にうんざりしている点はリー同じである。
「それにしても、レーダーが使えない状態じゃ、こんなところに詰めても無意味ですよね」
ソウがさらに言うのに、リーが不貞腐れたように返す。
「ああ、それにしても、栄誉ある独島駐留所の防衛の主体たるレーダーが使えないとはお粗末極まる。大体予備機が、1ヵ月経ってもまだ来ないのだからな。どれだけここを重視しているかよく分かるというもんだ」
「それにしても、何であの残った発電機が壊れたのでしょうか。まだ1年も使っていないでしょう?」灯台担当のキムが聞くのに、多少電気の技術が判るソウが応える。
「結局は不明だ。電気担当は迷走電流とか言っていたが、電子回路が焼け切れている。よくある初期故障の一つだな。どうしても、我が国のものは今一つ信頼性に欠ける。まあ、ちょっぱりがここを攻めてくるなどのことはあり得んだろうが、いささか今はきな臭いのでちょっとな」
「しかし、対馬は聊か無残でしたね……。だけど、あの場合に何で海軍が全く出張らなかったのかな?」キムが再度話しかけるが、海軍にいたソウはいらただしげに返す。
「今回の対馬の件で改めて解ったことだが、あいつらのミサイル防衛網はとんでもなく固い。我が国の全艦艇で攻め込んでも恐らくすべてミサイルで沈められて終わりだ。戦闘機が振り切れないミサイルを、艦艇のアンチミサイルシステムではまず防衛することは無理だろう。
空母を作るという話があったが、この東海に空母を浮かべても同じだ。その意味では無駄なものを作らなくて助かったかもな。中国だったら数があるからそれなりに勝負になるかもしれないが、いまのところ陸以外では規模でも劣る我が国でチョッパリに勝つ術はない」
ソウは言うが、彼のような冷静な意見は少数派だ。果たして、上官であるリーが叫び始める。
「ソウ、何を言う!そんなことを言うなら、この独島も簡単に取りかえされるというのか!そんな敗北主義でどうする!お前は、我々世界に冠たる朝鮮民族があのチョッパリに敵わんと……」
椅子から立ち上がり目を吊り上げて叫ぶリーを忌々しく見つめるソウであったが、ドン、ドンという音と振動にリーの言葉も止まり、皆で窓の外を見る。監視室の明かりに照らされて、20mほど離れた下方から火が立ち上っており、数瞬後には薄く煙が立ち上る。
「なんだ、あれは!」キムがドアを開けてそれを見に行こうとするがソウが叫ぶ。
「ドアを閉めろ、ガスかも知れん」
ソウはあの火炎はミサイルのもので、爆発は無かったので、弾頭部にガスが詰められていたのではないかと思ったのだ。だから、ドアを開けるのは馬鹿なことだが、元来監視室は密閉構造になっていないので、ドアを閉めても無駄だろうと思った。
『なるほど、チョッパリはまずレーダーを無力化して、翌日にガスを詰めたミサイルを撃ち込んできたわけだ。まあしかし、吹き飛ばせば簡単なのに、爆薬を使わずこれだけ苦労してやったということは、ここの駐在員を殺すつもりはないな。命は助かるな多分』
頭がぼんやりしてきたのを感じながらソウは思った。
3発のガスを詰められたミサイルが着弾して1.5時間後に、ガスが気散するのを待って、2㎞沖に浮上した“こくりゅう”から25名の陸戦隊と共にゴムボートが到着した。かれらは素早く行動して、全ての建物を点検しガスによって眠り込んだ人員を運び出した。
そして、係留していた連絡艇にそれらの47名の韓国人を詰め込んだ。連絡艇の定員は操縦者を入れて15人であるが、気を失った47人を詰め込むことは可能であり、浮力的にも問題ない。幸い海は穏やかであったので、連絡艇の方向を韓半島のカンヌン市に向けて舵のハンドルを固定して発進させた。
さらにその間、隠岐の島付近の領海を遊弋していた自衛隊のイージス艦の“こんごう”“ちょうかい”が全速で急行し、取り返した竹島の周囲を哨戒し始めた。加えて、境港の美穂基地からF15の4機編隊が離陸して、島の上空を通過して引き返している。これは一種のデモストレーションである。
韓国軍がそのことを把握したのは、まず“こんごう”“ちょうかい”が彼らの独島に急接近してきたのに対して、警戒して島の駐留隊に連絡をしたのだ。それに対して応答がなく、騒いでいるところに、F15が島の上空を通過した。
これをレーダーで検知した韓国軍が、今まで経験のない事態に狼狽えながら、無線で領空から出るように警告したのに対するF15の編隊長の返信がさらに騒ぎを大きくした。
「これは自国領竹島の哨戒飛行である。言われない抗議は受け付けない」
この騒ぎは、午前6時に日本政府の宗方官房長官が緊急会見を開いて説明したことで、事態が明らかになった。
「本日早朝、我が自衛隊が韓国による占領状態にあった島根県竹島を奪還しました。同地には韓国政府の警備員、灯台担当員47名が駐留していましたが、彼らは島に係留していた韓国の連絡艇によって、韓国本土に送り返しました。
竹島は国民の皆さんもご存知のように、歴史的に見て明らかに我が国固有の領土であり、韓国が我が国の戦後の混乱に乗じて不当に占領してきたものであります。我が国政府がこのような奪還という行動に踏み切った理由は、7日前の韓国軍による対馬侵攻の試みがありました。
竹島は無人島であり、人が居住する条件を備えておりません。しかし、対馬は古来より人が住んでおり、これらの人々は日本人であるという自覚を持っております。このように、対馬は歴史的にも日本領であることはもちろんとして、実態として我が国の領土であります。
しかしながら、韓国の相当な割合の人々さらに、その政府ですらその対馬を自国領と強弁し、実際に進攻しようとしたものです。
このことに関しては我が国と政府も反省すべき点があります。つまり、竹島の不法状態を放置してきた結果として、我が国が領土を侵されても黙認する存在として認知されたのではないかということです。結果として、韓国政府をして、日本国民が住む領土を侵略しようという、近代の国家としておよそ正気とは思えない行動を招いたのではないか。
その反省に基づいて、わが政府は今回の竹島奪還の作戦を実行し、それは成功しました。このように、我が国は竹島の実効支配をするに至ったわけですが、我が国は韓国政府が我々の措置が不当であるというのなら、国際裁判に応じます。そして、その判決が、竹島を韓国領とするならその判決を受け入れます。
我が政府は、過去何度も韓国政府に対して国際裁判に応じるように呼び掛けてきましたが、韓国政府は『歴史的に明らか』と言うのみで全く応じようとはしませんでした。そのように、『歴史的に明らか』であるなら、裁判に応じることに何ら不都合はないはずです。そして、今や実効支配している我々は、裁判に負けたら竹島をお返しすると言っているのです。
なお、いま言っている裁判の決着がついて我々が負けるという結果にならない限り竹島は日本領であり、その領土は対馬同様に防衛致します。現在、竹島の領海周辺には自衛隊の護衛艦が遊弋して警戒しています。また、対馬事変でその実力の一片が明らかになったように、我が国の防衛網はすでに竹島を含んでいます。
したがって、他の日本領と同様に、武装したあるいは武装が疑われる航空機または船舶が領海内に侵入した時は、ためらいなく撃墜または撃沈します。非武装の場合であっても、不法侵入の罪で逮捕拘束します。
最後に、現在竹島にいた韓国の人々は多分あと1〜2時間で目を覚ましますが、定員15名の船に47名を詰め込んでいますので、迎えに行くことをお勧めします」
しかし、韓国がおとなしくその話を飲むわけもなく、午前8時に太田基地から、F15K-8機、F16- 8機が竹島上空に向かった。日本も最寄りの美穂基地からスクランブル状態にあったF35-16機とF15-8機が同じく竹島上空に向かい、小松基地から管制機E-767が発進した。
美穂基地は、竹島奪還作成をいずれ実施するということで、基地機能を大幅に拡張されているのだ。また、もちろんすでに隠岐の島のレーダーとミサイルは待機状態にあるし、竹島周辺の海上には2隻のイージス艦が遊弋している。
日本の自衛隊幕僚長が、韓国の参謀総長に電話を掛けて、自衛隊側の布陣を説明して発進した航空機を引き返させるように説得を試みた。さらに、自衛隊のサイバー部隊が、ダミーのアドレスを使ってインターネットで日本側の体制と韓国軍の戦力をあからさまに暴き、韓国から出動した編隊が日本側から見れば鎧袖一触の存在であること図を使ってビジョアルに公表した。
また、韓国から出動した編隊も、当面竹島の領海に入らないように命じられているので、その周辺を飛び交うものの戦端は開かれていない。韓国軍のパイロットは、出動したものの自機と本土のレーダーでは日本側のF15は確実に捉えられているが、ステルス性の優れたF35の位置は、部分的にしか掴めていない。
だからF35の撃墜は無理で、逆に好きなように狙われるとすでに勝つことは諦めている。だから、任務として出動してきたものの、負けるのが判っている戦闘に入りたくなかった。
また一方で、韓国のネットでは、『対馬の空挺部隊に続いて、また戦闘機のパイロットを無為に殺すのか』という抗議が溢れ、それを軍人、官僚、国会議員も目にして、遂には大統領のリーの目にも入った。この結果、大統領の同意も得て、参謀総長の命令で韓国軍の編隊は引き上げることになった。
その後も韓国政府・軍はあきらめることなく、何度かの再奪還の試みを行ったが全て失敗した。そのため、国民に対しては『裁判で取り返す』と見栄をきったが、実際には自国の持つ資料は証拠として自信がなかった。だからいつものように、裏からのロビー活動を試みたが、それを防止するために万全の備えをした日本側のガードを崩せなかった。
結局、豊富な資料から日本領であることに説得力を持って示すことができた日本側に対して、断片的で矛盾した資料しか示せないかった韓国側とでは相手にならず、裁判は僅か1年以内で決着がついた。




