対馬事変
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「どうなっているんだ?韓国人は本当に頭がおかしいよ!」ジェフティアの安田建設の基地の食堂に日本語の大声が響きわたる。稔たち㈱アサヒのスタッフも全く同意見だ。
彼らは大食堂で朝食を食べているところだが、そのテーブルには両側に画面がついているテレビ受像機があって、そこからはそのテーブルではっきり聞こえる音声が流れている。これは大食堂ではローカルスタッフも食事を摂るので、その際にテレビの番組を日本語または英語をテーブルごとに選べるようになっているのだ。
今流れているのは日本からのニュースであり、韓国政府が日本政府に向けて『独島(日本名竹島)と同様対馬は、歴史的に韓国領であるので、明け渡せ』と言う声明を出し、それに対して韓国民が熱狂しているという場面であった。
それを視聴している彼らとて、韓国にそのような世論があり、その勢いが増しているということは知っていた。しかし、歴史的にどのように調べても、韓国が対馬を支配したと言う事実は元寇の時の一時しかない。
ただ、対馬を領する宗家が朝鮮王に対して、勝手に日本国としての様々な文書を出したものがあって、それがあたかも対馬が朝鮮領であることを認めた如くのものもあるようだ。朝鮮との貿易がないと成り立っていかない貧しい領主の悲しい工作であるが、そのようなものを国として認めるわけにはいかない。
それだけに、今回の騒ぎは韓国大統領府から出された声明が元になっているという点で事態は深刻である。とは言え、いくら何でも韓国が軍事行動には出るとは誰も思っておらず、その面ではいつもの韓国の日本に対する嫌がらせと考えてある意味気楽ではある。
しかし、ここ対馬の自衛隊の矢立山レーダーサイトでは、九州総監部からの命令で同じ画面を見ながら、いささか深刻に受け取っている。だから、サイト長岸田3佐以下風間3尉、佐川陸曹長を含めた6人の隊員は、無言でお互いに顔を見合わせている。
「岸田3佐、これは来ますね」風間が口を開いて言うのに、隊長の岸田が答える。
「ああ。なんで韓国人というのは自分の都合のいいようにしか考えないのだろうな。どこをどうやっても、我々の組み上げたミサイル防衛網を突破できるわけはないにな。それとも、我々が探り出せていない隠し玉があるのだろうか?」
たしかに、日米安保条約に係わる協議が半月前に行われて、枠組みを組み替えるという合意が発表されたのだ。これは、核に対する傘は米が変わりなく提供するものの、通常兵器に関してはその能力を著しく高めてきた日本が自主防衛することを原則とするというものである。実際に米軍はすでに、2年前から在日兵力を削減させており、沖縄の海兵隊のグアム移転もその一環である。
水面下ではアメリカから日本に対して核武装も認めるという話はあるが、未だに核アレルギーが強い日本では正式の核武装は無理だろうという現在の政府の見解である。さらには、現在の憲法では防衛のための『戦闘』しか認められていない日本が、核を防衛のために使うということは聊か無理がありすぎる。
ただ、若者を中心に日本も核武装をするべきという論が増えていることは事実で、最近のある週刊誌のネット投票によると42%の賛成を得ている。一方で、いわゆる都市を標的とする核は実際的には使える兵器ではないというのが、現在の一般的な軍事的な判断になっている。少なくとも数十万人が死亡して、しかも長くその後遺症に苦しむ人々がその何倍も出るような兵器を使うことは、余りに威力が大きすぎるのだ。
実際に、最もそれを使う可能性の高い中央集権である中国や似た体制のロシアであっても、それを先制攻撃に使うことは世界の孤児になることを覚悟する必要がある。だから、相互破壊保証と言う意味で、相手に使わせないためのものでしかない。
ただ、威力の大きい爆発物と言う意味での戦術核兵器については、別の問題であり、アメリカ・中国、ロシアでも大いに研究されており、主力兵器としてクローズアップされつつある。
話がそれたが、先述の日米の合意を韓国としては勘違いした可能性があるのだ。つまり、日本が侵略されたとしても、米軍はその侵略軍が核を使わない限り介入しないというように。たしかに、その解釈そのものは正しい。
だがそれは、日本が進めてきた自主防衛のシステムが、アメリカの介入を必要としないレベルのものであることを、日本自衛隊と米軍の大規模なシミュレーションの結果確かめられた結果である。
つまり、日本が配備したミサイル防衛システムは、通常兵器によるほぼあらゆる侵略の試みを撃破できるレベルのものであるのだ。風間3尉の配備されている対馬の矢立山レーダーサイトは、その重要なピースの一つであり、主としてすでに潜在敵国と位置づけられている韓国への防衛の最前線である。
そのシステムとは、日本国自衛隊が慢性的な定員不足を考慮した上で、費用対効果が最も高いとして選択したミサイル防御システムである。つまり、ミサイル本体においては大々的な大量生産を前提に、その生産において自動車におけるような効率的な生産システムを導入して、従来の防衛調達品に比べて、コストを1/3程度までに圧縮したものである。
しかし、ミサイルが有効に働くためには敵をいち早く発見して、適切に誘導するシステムがより重要であり、そこがシステムの胆である。このレーダーによる探知技術とその活用、さらにミサイルなどの飛翔体の無人操縦技術は、2020年に始まった国を挙げてのIT技術への投資に際して、重要なメニューの一つになっている。
この開発は、総合的なAIを含めたIT技術全般の応用技術からの波及効果もあって、思ったより順調に進み、従来とは隔絶した技術レベルに到達した。3年前に行われた日米軍事技術交流会において、この中間的な成果が米側に開示され大いに驚かれた。それは、その後のミサイル開発が全て日米共同になったことを見ても米側の衝撃の大きさが判る。
そして、大きく分けて5種類のミサイルが日米共通の調達品になり、生産は日本が担うことになった。この点は、アメリカ軍需産業にとっては不満の残る結果になったが、このミサイルが従来通りの調達を行う場合の半分以下の価格に収まったことから、米側も異論の出ようはなかった。
現在における、機械やメカトロニクスにおける生産技術はアメリカが見劣りすることは事実であり、それでも軍需産業のみはアメリカで生産していたのは、その軍事機密の故である。しかし、これらのミサイル開発において、その技術の根幹を日本が握ったことから、明らかにコストパフォーマンスに優れている生産技術を持つ日本が生産するのは理の当然である。
日本もアメリカが加わったことによって、生産母数が3倍程度になったためにさらにコストダウンできたことは大いに有難いことであった。これらのミサイルシリーズは従来のものに比べ、速度やそのコントロール精度において圧倒的に優れているが、米からに大幅に過小な性能が漏らされている。
それでも、現状ではトップクラスの性能にその低いコストから多数の同盟国からの購入希望があった。これらの要望については、性能を発表値どおりのグレードダウンさせたミサイルを販売されたので、さらに量産効果があがったことになる。
日本は今のところ、この監視システムとミサイル基地から成るミサイル網構築のために6兆円近くをつぎ込んでいる。監視システムにおいては、静止衛星を含めた12機の衛星の追加によって、日本列島の上空においては、常時衛星による管理が可能になった。
さらには日本の西側と北側についての多数のレーダー網の構築を行うと共に、そのレーダー基地の防衛を含めたミサイル基地をその周辺に巡らせている。
この結果、日本列島は弾道ミサイルを含めたミサイル、戦闘艦船へのほぼ完全な防衛体制を整えている。現状のところ考えられている穴としては、領海の境界程度の近海から水中発射されるミサイルについては、その対応できる時間の短さから対処が困難であると想定されている。
日本政府は、国民に対して日本列島は防衛ミサイル網によって安全に守られていると称しているが、一方で衛星による探知性能、ミサイルそのものの性能は一切発表していなかった。とは言え、ミサイルは米軍と共通のものであることは公表されおり、米側からそのグレードダウンされた性能が漏らされているために、日本のミサイルも当然それと同じであり、ただコストが低いことが長所の、平凡なものという評価になっている。
韓国も日本の構築したミサイル防衛網が、それなりの規模であり、韓国の侵入に対しても備えていることは承知しているが、監視網もミサイルも平凡な性能であり、付け入るスキはあると信じている。この点で軍備の規模・性能の公表は難しい面があって、公表された規模・性能が自らのものに比べ、明らかに勝っていれば、相手に仕掛けることはしないが、明確な目標があればそれに追いつき追い越すのは可能である。
だから、自らが相手に勝る武力を持っていると公表することは、一定期間の戦争防止はできても将来裏をかかれる恐れがあるのだ。
韓国特設旅団長のムン・ジシャブ少将は、出動が迫った慌ただしいひと時、自分の仮のオフィスで部下のパク中佐に話しかけている。
「パク、君は空挺大隊を率いることになる。だから、地上に降りて民間人と接触することもあるはずだが、くれぐれも部下のモラル面には留意してほしい。言っておくが民間人へのいらざる暴行や、とりわけ女性への性的暴行は厳しく罰するからその旨は隊員に厳しく言っておけ。
君も知っているようにベトナムにおけるライダイハンは、すでにわが大韓民国の軍の恥として国際的に知れ渡りつつある。我々は当然我々のものである対馬を取り戻すために行動を起こすのであるが、それに際して同じ非難を受けないように私も政府から厳に命じられている。判っているな!」
「はい、閣下、当然であります。私からは何度も部下には言い聞かせております。しかしながら、こういうことは申し上げたくはありませんが、はっきり言ってかなりの危ない者達がおります。ですから、中隊長の1人と、小隊下士官の3名は今回の任務からは外しました。私自身もその点は厳しく監視するつもりです。
ただ、閣下、我々空挺の輸送機は対馬上空にたどり着けるのでしょうか。あの島の最高峰に設置されているレーダーでキャッチされて、撃墜されるのではないでしょうか?」
「うむ、その点は私も確認した。これは機密事項なので、部下に対してもまだ漏らしてはならんぞ」 パクが頷くのを確認してムン少将は言う。
「実は、本土から発射する短距離弾道ミサイルが用いられ、あのヤタテ山のレーダーサイトは真っ先に破壊する。他の2ヶ所のレーダーサイトについては、巡航ミサイルで破壊する。来週1週間は天気が悪いという予報なので、雨の夜明け時にそれは決行される。
対馬のレーダーが潰されれば、悪天候のなか、本土のレーダーでは我々の動きはキャッチできんだろう。君たちは決行の前に離陸している程度のタイミングだから、1時間後には対馬上空に差し掛かることになるはずだ。どうだこういう作戦だが?」
「はい、良さそうですね。しかし、所詮我々は総勢300人の小部隊で、山また山の対馬には重火器は持ち込めません。情報によると対馬には自衛隊のレーダーミサイル部隊が250名、陸上部隊が150人、海上部隊が50人おります。目標の飛行場には、陸上部隊が50人配備されているとされます。
早急に飛行場は占領しますので、後詰めの人員と機材を早急に下すようにお願いします」
「ああ、もちろんさ。君も知っているだろう、リ中佐の300人の部隊が続くことになっている。かさばる重火器は無理だが、小型ミサイルを含めた携行兵器は多く持たせる」
「海軍はどうなんでしょうか?やはり重火器は船でないとは運べません」
「うむ、海軍はやはり速度が遅いので、ミサイルの良い的になる可能性が高い。船舶だとレーダーの能力が低くてもやられる可能性が高いから、結局君らがミサイル基地を無力化しないと海軍は潜水艦程度しか出せないようだな。潜水艦も浮上しての攻撃はできないので敵の艦船を攻撃するのみになる」
「ムン閣下、最初から思ってはいますが、この作戦は極めてリスキーなものだと思いますよ。命令ですから従いますが、敵の出方と状況によっては民間人を人質にとることもやむを得ないかもしれませんし、巻き添えで犠牲になる民間人もゼロにはできません」
「うん、これは領土奪還の戦争だからな。国民は沸き立っているし、多少の犠牲はやむをえん。しかし、我々が人道的であろうとしたと説明できるような証拠は極力残すように」
勝手なことを言い合っている2人であったが、実際にパク中佐がパラシュートを背負って輸送機に乗り込んだのは、1週間後の午前4時であった。
「岸田3佐殿、衛星の情報によると、太田基地を輸送機10機に、戦闘機6機も一緒に離陸したとのことです」レーダー基地の管理棟で風間自ら報告する。
「うん、ここを攻撃するためになにかが来るぞ。多分中国製の短距離弾道弾だな。待機して警戒を厳にして敵の動きに備えよ」岸田が応じるが、すぐに風間は再度報告する。
「ミサイル発射炎2点、プサンの東北50㎞、同じく発射炎4点、これはチンジュ郊外………。
AIの判断ではプサン東北、これをA点として、これについては短距離弾道ミサイル2基で個の基地を狙っています。チェンジェ郊外はB点としてこれは巡航ミサイル4基で、北レーダー基地と中レーダー基地を狙っています」それに続いて、迎撃担当士官である仁科2尉が言う。
「A点からのミサイル2基はロフテッド軌道を取ろうとしていますが、10秒後に迎撃ミサイルGZ23の4基で迎撃します。巡航ミサイル4基は15秒後に、各1基の地対空ミサイルGY18で迎撃します」
弾道ミサイルは、高度千㎞に上昇して秒速3㎞で降って来るので、確実を期して各2基をずらして発射して迎撃する。一方で2基の巡航ミサイルは速度が遅いので、各1発で迎撃して、外れたら再発射する。
実行後の結果から言えば、短距離弾道ミサイル2基は加速に勝るGZ23ミサイルによって、上昇途中でインターセプトされ近接部の爆発に巻き込まれて爆散した。さらに、巡航ミサイルの4基は正面から突っ込んでいったGY18の爆発に巻き込まれて爆散した。
「輸送機と思われる中型航空機と、戦闘機6機が近づいてきます。時速820kmです。後25分で領空を超えます」レーダーを睨んだ風間の報告に岸田3佐がマイクに向かって言う。
「こちら日本国自衛隊、矢立山基地司令の岸田3佐である。こちらに向かっている航空機群へ告ぐ、直ちに引き返せ。10秒間方向を変えなかった場合には全機撃墜する。オーバー」
それを再度繰り返し、近づいてくる編隊の動きが20秒間変わらないことを確認して「撃て、全機撃墜せよ」そう命じる。
16発の地対空ミサイルGY18が火炎をあげて発射され、編隊に向かう。秒速2㎞のミサイルを輸送機が避ける術はなく、迎撃ミサイルが全長25mのFWG3型輸送機の2m手前で爆発して、殆どの輸送機はへし折れて乗っていた各33人と共に墜落した。
戦闘機は空対空ミサイルを放ったが、常識を越えた速度のミサイルにあたるわけもなく、空しく飛び去り、さらに機動で避けようとしたが、ミサイルに追いすがられてその自爆に巻き込まれてこれまた、全機撃墜された。
ムン少将は、太田空港の管制室で戦闘機パイロットの叫びを聞いていた。
「早い、ちょっぱりのミサイルは早すぎて迎撃しようがない。追ってくる、ああ!……ジャリジャリ」という最後のパイロットの絶叫と雑音が入って永久に沈黙した。
「発射したミサイルはどうなった?」ムンの質問に管制士官が答える。
「いずれも途中で信号が途切れました。迎撃されたものと考えられます」
重苦しく沈黙した管制室に制御盤からの電子音のみが響く。
すみません、歴史に変えたつもりでいましたが変わっていませんでした。
今変更しました。




