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日本国破産?そして再生へ  作者: 黄昏人
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稔、ジェフティアへ

読んで頂いて居りがとうございます。

どうもヒューマンドラマには合わないので、近未来史ということで歴史に移します。

 斎田稔の乗った専用機旅客機JF201は、ジェフティアの首都(予定地)西日セイニチ市の、西日市(仮設)国際空港に着陸した。ここは標高7mの低地であって、元はジャングルだったところで、滑走路の足元は穴あき鉄板が敷き詰めており、昨夜の雨にまだ濡れている。


 3階建ての、まだ内装工事を行っているターミナルビルまでは150mほどの歩きであり、早朝の熱帯の朝日が昇るところである。気温は26℃で、生ぬるい風が吹いている中を鉄板の上を歩く稔からは、幅50mほどの仮設滑走路の向こうに本設滑走路の建設工事が見える。


 空港の工事は24時間連続で行われているので、コンクリートプラント、転圧機、大型ダンプやバックホウなどの重機が動いているが、全ては無人機である。人の担当者は、夜勤の2名がコントロール室で重機コントロール盤への指示と非常時に備えての監視に当たり、更に作業者10名が非常時の予備と、人手の必要な場所の軽作業に当たっている。


 西日市そのものも盛んに工事が進んでいて同じような状況であるが、最も初期の工事関係者はモザンビークの首都のマプト国際空港に降りて、そこからここへは最初に建設された仮設港に向けて、日本から持ってきた高速船でこの地に来たものだ。


 本設の空港は、24時間操業で建設しても1年半を要するのでそれ待っていると、多数の工事関係者の移動の効率が悪いので、今のような仮設滑走路が計画されて8ヵ月で開港されたのだ。


 滑走路の構造は、第2次世界大戦中のアメリカ軍が建設した鉄板敷きのようなものであるが、軍用機と違って民間の旅客機はデリケートなので、基礎工事は格段に丁寧に施工されている。幸い、西日市の予定地は全般に粘土質で強固な地盤であるため、基礎工事は簡易に済んでいるが、さすがに5階建て以上の建物は杭基礎が必要になっている。


 稔は自分の会社の営業の林と、自分が率いることになるチームメンバー、西村、狭山、斎藤、村木及び仁科と一緒である。林は39歳の自分と同年齢の同期であり、西村と狭山が35歳と34歳、他は20歳台である。


「ほう、まだ遠くには原生林が見えるな。2月だけど気温は日本とは偉い違いだな。まあ、でもこの位だったらそれほど暑くはないな」林が気安く話しかけてくる。


「ああ、でも昼間は晴れると32〜34℃だ。日本との差に慣れるのが大変だよな。でも湿気は日本の夏よりない感じだし、風もあるから日影に入れば暑さはそうでもないな。まあ、ここは南半球で夏だからやむを得んな。ところで、お前、元請けの安田建設との交渉は大丈夫か?俺たちの仕事にも関わってくるから頼むぜ」


 稔の返事に林が安心させるように言う。

「ああ、話は日本でついているよ。現地を見て調整するだけだ。それに、安田建設の現地調達担当は俺の高校の後輩だから、まあ大抵の無理は利くよ。大体この工事に関しては、安田は相当いい価格で取っているし、変更は利くからね。厳しいことは言ってこないよ。俺も年に2回程度は来ることになっているから、心配するな」


「まあ、75億の工事だからな。国内の景気は良くなってきていると言っても、うちではそれほどの工事はないから、ちょっと神経質にはなるよ」


「まあ、斎田のみならず工事としてわが社の最大の工事だよな。でも規模と量が大きいだけで、今までやって来たこととやることは変わらないよね。大体、この今現在のジェフティア建設機構の発注金額が5兆5千億で52社が受注している。まさに国家事業であって、一カ所の事業としては規模において空前絶後だよ。

 すでに、現地に乗り込んで働いている日本人技術者と専門職のみで3500人を超えているし、サポート要員が1500人で5千人を超える日本人が来ている。さらに、現地人の雇用者が現状で5万人と言うね。半分はジンバブエで半分はモザンビークかららしい。他にも南アとかコンゴとかもいるらしいけど少数派らしい」


「ほう、良く調べているなあ。でもモザンビーク人が大部分と思ったけれど、ジンバブエが半分か。それは何でよ?」


「いや、お前は国内では準備でてんてこ舞いだったろ。その点俺はそれなりに時間もあったし、安田と交渉にするにあたっても現地事情を掴んでおく必要があるわけよ。

 ジンバブエ人が多い訳は、元々ジンバブエというのはアフリカの先進国でな。教育も進んでいたわけよ。それが例のハイパーインフレを起こすようなあほな政治をやったお陰で、経済は未だにだめで多数の出稼ぎがいる訳だ。それらの人たち、多くは南アで労働力を買いたたかれてきた人たちが大挙して来ているわけだ」


「ほお、なるほど。まあ、南アよりこっちの方が条件はいいだろうからな」

 稔が言ったところで空港ターミナルに着いた。暫く待ちになるということで、そこにあった長椅子に座ったところで、西村が口を出す。


「僕らの宿舎は、2人部屋でまあ独身寮みたいなものですが、その現地人の宿舎というのはどんな風なのですか?それと、我々の宿舎との位置関係はどうなっているんでしょうか?」


「うん、君らも安田建設の建設基地の地図はもらっただろう?」

 林が答えると、西村がA3の紙を取り出す。


「ええ、これですよね」

 その紙には地図が書いており、地図には多くの建物が配置された長方形の用地が示されている。隅に示されたスケールによると、用地の大きさは300m×500mほどもある。その話にチームの皆が集まって地図を覗き込む。


「ちょうどいいや、皆に聞いてもらおう。この基地は、この空港から約8㎞の位置にあって、君らの入る宿舎群はここだ。大体200人位入るらしい」

 林が4棟ほどの建物を指す。


「ちなみに、これらはプレハブではあるけれど、仮設ではなく、建設工事が終わったあとは現地労働者のアパートになるようになっている。各部屋にはシャワーとトイレはあるが、風呂はここに共同の風呂棟があって、入りたい人は入れるようになっている。

 それから、ここが食堂棟だ。各自に配られるカードで食べるようになっていて、10種類程度の食事から選べるようになる。食堂棟の中にはカフェテリア、娯楽室や散髪屋もある。娯楽と言えば、海の家が用意されていて泊まることもできるし、泳ぎ、スキューバダイビング、磯釣り、沖釣りもできる設備がある」


 林の言葉に若いスポーツマンの村木が言う。

「いいですね。だけどスポーツをするグランウンドなんかはないのでしょうか?」


「あるよ。今はまだ締め固めたグラウンド状態だけど、サッカーや野球ならできる4面のグランウンドがあって、体育館が建設中だよ。サッカーと野球の移動式ネットはあるけど、バックネット、夜間照明なんかはまだできてないと言うね。

 ところで、現地人の宿舎だけどここだよ。大体日本人の10倍程度の人数を想定しているから広いだろう? エアコンはあるけど、日本人と違って6人部屋で、シャワー・トイレは室内になく共通だし風呂もない。もっとも彼らには風呂の習慣はないけどね。食堂棟はここで、仕組みは似たようなもので、彼らが日本人用のここにある食堂棟を使うことは自由だ。

 だけど、大分彼らの普段食べている食事が違うし、値段は大体2倍から3倍になるのであまり来ないだろうな。でも、日本食は高級料理として知られているし、それをリーゾナブルな値段で食べられるのだから、そこそこの数は来るだろうね。彼らの食堂棟にも散髪、カフェテリア、娯楽室はあるよ」


 林の話が終わったところに迎えが来た。褐色の肌の若い黒人の女性だが、流ちょうな英語で案内する。

「いらっしゃいませ。ようこそジェフティアへ。私はマリー・ジガリム、安田建設のアサヒ現場基地で働いています。今から、基地までご案内します」


 英語で交渉の必要のない林は余り英語ができない。しかし、現場で現地労働者を使う必要のある稔を含めて、彼のチームは英語を1年ほど前から勉強してきた。だからTOEICで700点レベルなので、この程度の話の殆どはわかる。練習を兼ねて、稔は彼女に話しかける。


「ミス・マリー、君の出身は?」


「はい、ジンバブエの首都のハラレです。そうハラレの中央部の、ジバラという黒人居住区です」


「ハラレというのは高原都市で気候はいいらしいね。学校は、大学を出たの?」


「ええ、ハラレは確かに涼しくて快適ですよ。でも、広い屋敷の白人居住区と狭い黒人居住区にはっきり分かれています。もっとも、今は白人があまり残っていませんので、その白人居住区にも黒人が住んでいますが。私の父は小さな商売をしていたので、大学まで出してくれました。ジンバブエ大学の経済学部です。

 ご存知のように、ジンバブエはムガベ大統領の政治のために、ハイパーインフレが起きたりして大変でしたし、その後も中国人がたくさん入り込んだりして混乱しました。今は政治もハビラ大統領の体制に変わってだいぶ良くなりつつはありますが、ハラレでは職がなくて困っていました。

 そこに、安田建設の求人広告があって採用されましたので、こちらで働いているのです」


「そうか。ジンバブエ大学というのは優秀な大学らしいね。だから、安田建設に採用されたのかな?」


「ええ、ジンバブエ大学は、今では優秀な教授陣も減ってまた予算もなくて、かなりレベルが落ちましたけどかつてはアフリカ一の大学でした。教育レベルは高いわがジンバブエの最優秀な若者が集まる大学ですから、学生のレベルは高いと思いますよ。だけど、折角大学を卒業しても思うような仕事がありません。

 安田建設は、半年程遅れて始まるジンバブエに作るジェフティア大学建設の仕事を請け負っているので、ハラレで求人したそうです。だから私も、ジンバブエ大学の仕事を担当するようになるようです」


 マリーの話が一段落したところで、彼らは待っているマイクロバスに着いたが、乗ってからマリーからチームへの案内のあと更に彼らの会話は続く。

「ふーん。ジンバブエもジェフティアへ半分土地を提供しているけれど、ジェフティアへの期待はどうかな?」


「ええ、すごく期待しています。特に土地代として日本政府から払われるお金を原資に、ジンバブエ所得倍増政策を始めることになりました。我々の経済自体は小さいくて、それに対して入ってくるお金が大きいので、日本みたいに15年もの期間は考えておらず8年での計画です。私の入っていた研究室の先生がその計画策定の責任者だったのですよ」


「ほお、ジンバブエの所得倍増計画!聞いてはいたけど、モザンビークも始めるみたいだね。コンセプトは基本的にインフラ整備による経済刺激の他に、ジェフティアに隣接して同種の産業振興を進めるとか」


「ええ、称して『コバンザメ産業』です。私達には日本が進めるほどの質・量の農業・工業の基盤と産業は作れません。けれど、日本が運営するジェフティアでは間違いなく大量かつ品質の良い、農産品、工業製品が生産されてきて、とりわけ工業については近いうちにアフリカの中心になることは間違いないと思っています。

 日本は世界最高水準の科学技術と生産技術を持っています。だから、移り住む日本人はそれをジェフティアに移植するでしょう。一方で私たちの強みは貧しさというか、人件費の安さです。だから、私達は徹底的にジェフティアの日本人のやることを真似ます。

 さらには、お隣のジェフティアで作られる様々な肥料・薬品とか工業製品・部品については容易に入手できます。農業についてはそれらの資材と優れた技術を真似ることで、私達の生産性は大きく上がると思っています。工業については、ジェフティアの隣で下請けの工業を興したいと計画しています。

 そのためには、私達の国民ができるだけジェフティアの建設工事に雇われて、その中で様々なノウハウを身に付けていきたいと思っています」

 彼女はそう言って、照れたように笑って「これは先生の受け売りですけれど」そう続ける。


「なるほど、ジンバブエの人がたくさん雇われているのはそういう理由もあったのだね。だけど。ジェフティアにとっても、周辺のジンバブエやモザンビークが豊かになることは、間違いなく利益はあるからね。だから、ジェフティアの建設工事に当たって、水源施設や電源設備については、隣接地への供給を前提にキャパを大きく計画しているというね」


「ええ、その点も我が国の皆が大きく期待しているところです。それに、日本はすでにアフリカのみならず熱帯に住む人々に大きな貢献をしてくれているのですよ」


「ああ、マラリア・デング熱などの病気の予防法・治療法の事かな?」


「ええ、実際問題として、あのような熱帯特有の病気は、低地の開発には凄く有害で大きな妨げだったのです。それを、日本が僅か3年ほどで、それらを問題にする必要がないようにしてくれました」


「まあ、それはジェフティアを可能にするための自分達のためにやったことだよ。それに、何と言っても近年のデータ処理の技術と分析技術に発達に伴う分子生物学かな。それらの活用と、思い切った投資だね。それに資源を投入することが出来たのは、結局果実が大きいことを認識していたが故だね」


 そういう話をしているうちにバスは、安田建設の基地に到着して、とりあえず事務所に挨拶にいく。事務所は近年省力化のためにとりわけ発達してきたプレハブ2階建ての大きな建物であり、見かけは通常のビルに見えるが、鉄骨作りにパネルブロックを張り付けた構造である。


 まずは、林の後輩という調達担当の長瀬に挨拶に行き、彼がすぐに所長・副所長・事務長などの、2100億円の工事を進める基地の主要幹部の席へ案内する。


 50代後半の頭が薄い所長は、長瀬からの「㈱アサヒさんです。その営業担当者と技術チームの方々です」の声に稔たちが頭を下げるのに、それに丁寧に応じるがあまり関心がないようである。長瀬の紹介に続いて、まず営業の林、それから稔、さらにその部下たちの順に名刺を渡しながら名乗る。


 その後、改めて林が挨拶の言葉を発して再度皆で頭を下げる。

「この後はこの斎田以下が残って仕事をやっていきますのでよろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしく。良い仕事をしてください。じゃあ長瀬君お願いね」

 所長からの返しである。


 その後、副所長、事務長に同じことを繰り返して、長瀬と会議室に入る。長瀬とは、日本から送った荷物の荷受けと搬入、据付工事の責任者の紹介など必要な細々した話を終える。

 その協議は、様々な人が入れ替わりながら、昼食をはさんで、午後の3時頃まで続いたが、機中で夜を過ごした稔たちの一行は終わるころには疲れ果てていた。


 ちなみに、ジェフティアと日本との時差は5時間であり、彼らは日本から約14000㎞の距離を、途中スリランカのコロンボ空港で給油して飛んで来たのだ。

 乗ってきたのは、ジェフティア建設機構が購入した5機のエアバス300(中古)の1機であり、日本を午後6時に出発してきたものだ。19時間を過ごしたシートは、深夜バス程度のリクライニングができ、改良された睡眠薬で安眠してきたのでそれほどの眠気はない。


 ただ、今のところ健康に害がなく時差ボケを直す薬はまだ開発されていないので、日本時間の午後10時まで働けば疲れるのも無理はない。


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