東アフリカ日本自治区設立!
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「東アフリカ日本自治区か。『アフリカ友好領』ね、いよいよ今日成立したな」
2024年10月1日、稔はテレビを見ていて、妻の涼子に言う。テレビでは、モザンビークで日本の三嶋首相がモザンビークとジンバブエの大統領と、それぞれに条約にサインして握手を交わすところが映されている。
『東アフリカ日本自治区』は、すでに三嶋から国民に向けてその概要と意義に向けて説明があり、政府からは更に詳しい内容が示されている。そして、その場所に多くの日本人が移り住む日本の一部として、アフリカ全土に友好関係を広げる(影響を及ぼす)という意味合いを込めて名称を「Japan Friendship Territory in Eastern Africa」、JFTEA(ジェフティア:東アフリカ友好領)としたのだ。
その大まかな内容は、モザンビークとジンバブエにジェフティアの領土合計約15万㎢を取得して、その地に広大な農場と栽培漁業の巨大な基地を建設する。この場合における、この場所の大きな利点はその中央をザンベジ川が貫流するが、その川の上流に巨大な発電ダムがある。
そして、その発電のために定常的に莫大な量の水が流れていることで、まず水不足が生じることはあり得ないことである。
そして、この農場と漁業基地の建設と運用によって、日本が輸入している主要食料の殆ど全てを賄うものとしている。また、近年は成長に陰りが出ているが、今後適切な刺激によって急速な発展が見込めるアフリカの成長に寄与するのだ。それはアフリカ全土のため、工業センターとしての役割を果たすための工業基盤も設置する。
このため、当然多くの労働力が必要になるが、今後5年間に日本人として50万人から75万人が移り住み、さらにその後5年間ではその2倍程度になると見積もられている。しかし、全体の労働力としてはその2倍から3倍とされ、これらは周辺諸国から集まった人々を雇用することになる。
さらに、学術的な面でも全アフリカへの成長のバックアップをするために、日本の国立大学としてジェフティア大学を高原のジンバブエに設立して、6割以上の学生をアフリカ人とするとしている。
このため、日本政府はジェフティアの土地代として230億ドルを5年分割で支払うこととしている。さらに開発費として、今後5年間に農業・漁業地開発、さらに工業基盤の整備のために概ね20兆円を見込んでいる。加えて工場・住宅などの民間投資も当然行われるが、これらについては今後5年で15兆円と見込まれるが、今後10年を考えれば30兆円を超えると見込まれている。
現在日本では15年間での令和の所得倍増計画(RIDP)が進められているが、ジェフティアは日本の一部としてカウントするので、この投資はその成長のための一部として考えられることになる。さらに、ジェフティアは日本領扱いになるため、その警察権と防衛権は日本が持つので自衛隊が駐留することになる。それに伴い、日本とモザンビークとジンバブエとの間には相互不可侵条約と相互防衛条約を結んでいる。
まさに人類史に残るだろうあり得ないような計画であり、国内的にも国際的にも大きな賛否の声があった。国内的には、まず代表的には「アフリカの海岸部という病気が蔓延するような熱帯の地に農地・漁業地を作っても誰もいかないだろうし、そうすればその莫大な投資は無駄になる」という声があった。
これについては、代表的な熱帯の病気であるウエストナイル熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、デング熱、マラリアなど蚊により媒介される病気については、3年前から日本の研究機関が総力を挙げて予防法と治療法を開発にかかっていた。これはすでに行われている予防方法、治療方法を整理し、その有望な手法の追求を行ってその治療結果についてもデータを整理している。
さらに最新の検査手法、分析技術を用いた疫学的手法を用いて、感染のメカニズムをほぼ完全に把握した。そうなれば、予防・治療についてもいくつかの候補技術を抽出して、試行してすでに完全な予防、治療法を確立してすでに熱帯諸国では使われ始めている。
さらに、これらの病気を媒介する蚊についてもその生態を既存の研究結果から解明し、かつ撲滅できる薬品を抽出して効果的な駆除方法を確立した。このようにして、最大の懸念材料の一つである熱帯特有の感染病に対して完全な対処法を確立している。
しかし、当然ながら気温のみはどうにもならないが、この点はエアコンを使えば室内では快適に過ごせる点はすでに認識されている。また、農作業を始め実際の現地の作業は重機によることになるが、その運転席は密閉式で、エアコン付きで計画されている。その意味で、アフリカと言えどもそれほど日本と変わらない作業環境で、農業・漁業に従事できるとして大いに宣伝している。
さらに熱帯は、基本的に年間を通じて温帯に比べてはるかに大きい太陽エネルギーを浴びているので農業生産もはるかに効率が良いはずである。この点も、年間を通じて耕作を行って、面積当たりの収量を温帯の倍以上とする手法が実用化され、すでにモザンビークに設置された試験農場で成功している。
熱帯のおいてこの条件を生かせなかったのは、不十分な肥料と、高温に適する品種が無かったこと、不十分な灌漑(熱帯は通常雨季と乾季があり、灌漑設備がないと乾季には通常耕作はできない)等が原因であり、日本自治区においてはこれらは全てクリヤーできるのだ。
一方で、日本国内においては、農業は規模が小さい事と、兼業が多い事が主たる原因で生産性が極めて低く、その解決策は大規模化するしかないということがコンセンサスであった。この生産性の低さの故に農家を継ぐ者は少なく、実際に農作業に従事する人々はどんどん高齢化している。
従って、日本政府は日本自治区の農業・水産業開発は、日本国内のこれら産業の生産性向上と一体化するという方針を立てている。だから、大規模化のために、小規農家・兼業農家に対する補助金や、助成制度の見直し・カット、逆に大規模家への投資の優遇税制によって露骨に大規模化への転換を促している。
従来はこのような措置は、与党への集票の減少に繋がって実行できなかったが、2020年以降の自民党は所得倍増計画が成功しつつあることもあって盤石の支持を集めているので、実行できるようになったのだ。
一方で、ジェフティアへ日本人の人手を集めることは、相当なインセンティブが必要であると当初から考えられていた。人材としては農業・漁業経験者が望ましいことは明らかであるので、個人として現地で自ら農業経営を行う人々の募集、さらにそれでは不足することが予想されたので、農地の相当な割合は企業化も考えられた。
個人分は、現役農家・漁業者に現地で農場と魚類などの養殖場を経営してもらうことを前提に、日本における資産の有利な買い取り、超低利貸し付け、移転費の補助、初期の免税などをセットに与える仕組みを作っている。
また、現地における平均の農場面積は20haであり、先述のような熱帯ならではの太陽エネルギーの大きさによる効率向上で、収入は1世帯当たり2千万円に近いという試算が出ている。
この程度の収入があれば、初期の貸し付けである2千万〜4千万円は、5年から10年で楽々返済できる計算になっている。しかも、基本的には機械化によって常駐の1人が1日8時間程度と、繁忙期の4ケ月にもう一人が働けば、必要な労働力は得られる計算になっている。
漁業については、沿岸部の大規模な養殖池、及び海浜部の生け簀による養殖が主な生産施設になっており、個人の場合には農業と同程度の収入と労働時間になるように設計されている。また、養殖のみではなく、漁港も3ヶ所に建設して1000隻の漁船も準備されている。
これらの生産が企業による場合には、農場などの規模は極めて大規模になり、個人の場合の1/3程度の日本人の従事者に加えて現地の人々を雇用して運営する計画になっている。
ジェフティアの建設は2024年に始まったが、その時点では基本コンセプトと基本設計は終了している段階であった。つまり、建設する施設の内容と配置は決まっている段階であり、その段階で実際に建設にあたるゼネコンやエンジニアリング・メーカーに発注がかけられた。
つまり、これらの会社は基本設計に沿って、自ら必要な調査を行って詳細設計と施工を進めていくことになる。その工事のスピードアップを図るために、発注する機関である(社)JFTEA建設機構は一定の資格を持つ建設コンサルタントとゼネコンやエンジニアリング・メーカーなどの施工業者を選んで、基本設計段階から共に作業を進めている。
だから、基本設計を終了した時点では、発注対象企業は基本的に決まっており、その受注金額はコンサルタントが算定したものをネゴで決めている。その1年次工事金額は約3兆円もの巨額になるが、基本設計に加わって準備ができ、かつ過去列島強靭化計画で大規模な工事を営々とこなしてきたゼネコン等にとっては困難なものではなかった。
ちなみに、ジェフティアの計画は、当然のことながら国際的にも大いに注目を集めた。これは、当初はRIDPの順調な進展によってすでに国際的に注目されている日本がまた新しいアイディアの計画を始めたということでの、興味本位のものであった。しかし、その中身が詳しく知れていくにつれて、各国で真剣な議論が始まった。
2024年の段階で、アメリカの中国離れと共に自国第1主義が始まった結果、いわゆる開発途上国は成長の鈍化に苦しむようになった。これは将来の成長センターと言われたアフリカにとっては殊に著しかった。アフリカがこのように将来有望と言われたのは、基本的には資源の豊富さとその貧しさ故であり、特に貧しさというのは成長の余地が大きいということである。
しかし、過去5年において投資が集中したのは環太平洋地域であり、これはアメリカが音頭をとって中国の代替として生産システムを整えたのだ。その分、アフリカは割を食ったといえるであろう。つまり、成長するには何かの種が要るのだが、その原資が国内にない以上は、国外に期待するしかないのにその資本の流入が細ったのだ。
そのアフリカにおいて、モザンビーク・ジンバブエはGDPに相当する現金を得て、与えた土地と言えども隣接地にGDPの何倍もの投資が集中するのだ。しかも、その土地には先進国である日本のインフラが整えられ、先進の農業・漁業の実践地になるのだ。それに加えて、アフリカの人々の対象にする大学などの教育研究施設も整えられるという。
大部分のアフリカの国々、さらには多くの開発から取り残された国々はこの両国を羨んだ。一方で日本の立場になりうる先進国、またはそれに近い国々では、日本を見習えという議論が巻き起こった国もあれば、失敗の可能性が高いとして注視する、という国に分かれた。
西側と隔離されて経済が低迷している中国と韓国は、日本の明確な敵であるので、日本がJFTEAを建設することに対する反対を、モザンビーク・ジンバブエはもちろん殆ど全アフリカ国に言いふらしその危険性を訴えた。
中国は、依然としてアフリカではそれなりの力を持っていたが、その今までのやり方で敵になっている国も多い。その親中国のいつくかの国の指導者が日本に対して非難の表明を行い、モザンビーク・ジンバブエに対して協定の破棄を勧告したが、ジェフティアのコンセプトに満足している両国は完全に無視した。
「私たちもここに行くのね」
涼子が稔に言う。稔の勤める会社、㈱アサヒはガスの供給会社であるが、ジェフティアのガス供給システムを担うことになったのだ。これは、彼の会社の供給する天然ガスを、割安なモザンビークから輸入することになったことがきっかけである。
その縁で、ジェフティア建設機構から話があって、その天然ガスの積み出し設備の整備に合わせて、ジェフティアの首都、東亜市のガス供給を彼の会社が担うことになった。㈱アサヒは、モザンビークから天然ガスを買うことになったことを機会に、まずはジェフティアにおいてガス供給の基盤を作り、順次アフリカへの展開を考えたのだ。
稔は企業関係相手のガス供給システムのエンジニアであるが、ジェフティアにおけるガス供給システムの建設を実施し、供給事業を軌道に乗せる役割を与えられた。このことで彼は、国内において限界の見えた会社の更なる発展を、アフリカにおいて目指すその先兵に選ばれたのだ。
そして会社からは、できれば暫くでもJFTEAに住み着いて欲しいとの話があった。最初は「ええ!アフリカに住むの?」と言う思いがあったが、社内においては大きなチャンスだ。40歳にもならない彼がアフリカに行く8人の技術者のリーダーであり、他の5人の営業や購買担当を含めた全13人のサブリーダーになる。
また、当然少なからぬ現地手当もついて、年収では5割程度の増加になるし社宅も与えられる。彼はアフリカ赴任の経験もある父の意見を聞いた。
「うーん。俺はアフリカには行ったけど、高原地方ばかりで低地は行ってないのよね。低地で怖いのは病気だけど、政府はその点はもはや解決したようだね。現地は暑いには暑いけれど、まあ台湾程度で日本の夏ほど暑くはないはずだぞ。いまはエアコンがあるからな、それほど苦痛に思うほどではないよ。
なにより、ジャフティアは日本領ということで主たる住民は日本人だ。ということは、便利さも社会システムもそのまま持ち込まれることになる。それに、仮に涼子ちゃんや翔、ゆかりを連れて行くとしても、学校はしっかりできるようだから、特に不自由はないと思うぞ。
会社内で評価されるということであれば、いいんじゃないかな。まあ、気に入らなければ帰ってくればいいのさ。その点は、日本の自分の土地などを売って移る、農業や漁業の人たちに比べれば楽なものだ」
そう言って笑った父であったが、妻の涼子も反対はしなかった。
「うん、稔さんが行きたいのなら、反対はしないわ。あなただけが先に行って、私たちが住める街ができる1年後に私達が行くのよね。その1年は2回帰るだけというのは、私も子供たちも寂しがると思うわ。でもこういうのはいい経験だと思うのよね。お父さんが新しい街というより国を作る姿を子供たちに見せるのは長い目で見ていい事だと思う」
稔が、国内でできる範囲の詳細設計をあらかた終えて、資材発注の準備も済ませて、ジャフティアの建設基地に向けて日本を発ったのは2025年の3月であった。




