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武神憑依バトルロマンス  作者: 北のシロクマ
序章:武神使い
6/20

漢の挑戦状

「おお、美味い美味い。これがラーメンってやつか! このガッツリと胃袋にくる感じが最高だな!」


 昼休みになり、太郎と成宮、そして鮫島を伴って学食へと来たわけだが、俺が注文した味噌ラーメンを太郎に強奪された結果がこれだ。


「そんなに食いたきゃ自分で食券買えよ。だいたい武神って食う必要があるのか?」

「基本いらないな。例外的に空腹の神とかがいたら必要かもしれないけど」


 四六時中寝る時でさえ空腹に(あえ)いでそうだな……。


「あ、そういやあたし、金持ってないから(じょう)(おご)りな」


 ちっきしょうめ、やられたぜ!

 帰ったら姉ちゃんに支援要請しなければ。


「ところで太郎ちゃんって、授業中はどこにいたの?」

「それ、俺も気になってたな。幅滝に憑依してる様子もなかったし、教室にはいなかったって事だろ?」


 そういや近くには居なかったな。全校集会でも出番がなかったし、いったいどこをほっつき歩いてたのやら。


「普通に校内を彷徨(うろつ)いてたぞ? でも先公には見つかってないから安心しろ」


 ならいいか――と思っていたが、どうやらそうは行かないらしい。

 周りの連中が太郎を見てコソコソと(ささや)き始めたんだ。


「ねぇ、あの子見たことある?」

「ううん、私は見た覚えはないわ」

「どこのクラスだ? 転校生か? 俺、けっこうタイプなんだが!」

「一緒にいる三人はCクラスだね。僕もあの子は可愛いと思うよ」

「くっそ~、Cクラスの連中が羨ましいぜ!」


 女子はともかく男子が厄介だな。

 このままだとクラスに突撃かましてくる奴まで出てきそうだ。


「ふぅ、食った食った。明日は別のメニューを頼むぜ」

「頼むぜってお前、また奢らせる気か?」

「?」


 いや、なぜそこで首を傾げる。俺が飯を食わせるのが当たり前みたいな――


「そんなの、(じょう)の武神なんだから当たり前だろ?」

「た、確かにそうだが……」


 そう言われると反論できん。だがこのままだと昼飯代が倍かかっちまうし、やはり姉ちゃんの援護が必要だ。


「ねぇねぇキミ、Cクラスの転校生って聞いたけど本当?」

「名前、聞いてもいいかな? 正直キミに興味があるんだよねぇ」


 チッ、ウザい連中が寄ってきた。

 どこにでもいるナンパ野郎共だし、テキトーにあしらうか。


「お前ら――」

「あ~、悪いけどさ、あたしって男が苦手なんだよねぇ。特に知らない男子とかに近寄られると鳥肌がね。できれば離れてくれるとありがたいかな~って」


 お? 太郎がガツンと言いやがった。

 てっきり満更でもない雰囲気で上機嫌になるかと思ってたが。


「ええーーっ? そりゃもったいない。この機会に慣れた方がいいよ」

「そうそう、僕らも手伝うからさ」

「なんだったら放課後にでもどうだい? ちょうどいい遊び場を紹介するよ。そっちの子もどうかな?」

「え……わ、私は……」


 しつこいなぁ。簡単に引き下がったらナンパなんぞできねぇってか? ったく、太郎が美少女すぎるのも考えものだな。

 しかも成宮まで誘いやがって、完全に俺と鮫島は眼中にない――と。

 ここまで舐められて黙ってるわけにはいかねぇ。


「おい、お前ら――」

「おぅテメェら、そこをどきな!」


 ナンパ野郎共を押し退け、リーゼントをキメたいかにもな連中がやってきた。

 堪らずナンパ野郎共は学食から撤退していく。


「おぅ、お前が幅滝ってやつだな?」

「確かにそうだが、何か用か?」

「おぅ、俺らの番長が呼んでるぜ。ちょいと面貸してもらおうか」


 番長ねぇ……。番長ともなれば恐らくは三年か?

 面倒なやつに目を付けられたが、無視すると余計に面倒そうだ。 


「分かった。付いてけばいいんだな?」

「おぅ、付いてきな」


 やむを得ず二人と別れ、俺と太郎が番長の舎弟について行く。

 別れ際に成宮が「大丈夫なの?」と聞いてきたが、いざとなりゃ太郎がいると言って納得させた。


「おぅ幅滝。そっちの女は関係ないだろ? こっから先は――」

「いや、俺の武神だから関係あるぞ」

「「「お、おぅ……」」」


 物分かりのいい舎弟だな。案外番長とやらも暴力的なヤツじゃないのかもしれん。


「おぅアニキ、幅滝を連れて来やしたぜ!」

「おぅ、ご苦労様じゃったけんのぅ」

「おぅッス!」


 体育倉庫まで案内されると、跳び箱の上で片足を立てているネジリ鉢巻をした長身の男が待っていた。舎弟の態度を見るに、コイツが番長で間違いないだろう。


「おぅ、よぅ来たのぅ幅滝。知らねぇだろうから名乗っとくが、ワシがこの学校の番長をやってる宝蔵院保(ほうぞういんたもつ)じゃけん」

「ご丁寧にどうも。知っての通り、幅滝(じょう)だ」

「おぅ、知っての通り――け。オメェ随分とスタンピードで活躍したそうじゃけんな? あの高遠千夏が大絶賛するほどじゃあ、そこらの武神使いとは一味違うんじゃろがぃ?」

「自画自賛になるけど、そうなるな」

「おぅフッ……自分に正直な奴やのぅ。そんな野郎は……嫌いじゃないぜ?」ビシッ!


 いや、そこでサムズアップされてもな……。


「おぅ、だが自分だけが違うとは思わんことじゃあ。ワシとて伊達に番長やってるわけじゃなかけん、学校(ここ)で強い野郎が現れよったら白黒つけなきゃならねぇのが筋ってもんじゃあ」


 目を(つむ)り、まるで自分自身に言い聞かせるように告げてくる番長。

 俺を武神使いと分かってて挑もうとしてるんだ、コイツも武神使いなんだろう。


「おぅ、勝負だ幅滝! もしワシに勝てたら隣の彼女に自慢すると「コイツは武神だぞ?」いいじゃろ――――え?」


 あ、やっぱここで固まるんだな。


「おぅ、実体化とくりゃ上位の武神に違ぇねぇけん。悔しいがワシの負けじゃあ……」

「え……」


 いや、そこは相手にとって不足なしで挑む場面じゃないのか?


「おぅアニキ、それじゃあ俺らは負け犬以下じゃねぇか」

「おぅ、このままじゃ引き下がれねぇぜ」

「おぅバーローがぁ! 相手は上位の武神やぞ? 闘うだけ無駄じゃけん! それともアレか、お前らが闘うっちゅうんかぃ!?」

「お、おぅ、ノーッス……」


 それだと何のためにここに来たのか分からんのだが……。


「んだよ、せっかく楽しめるかと思ったのにつまんねぇ奴らだなぁ……。じゃあ特別にあたしが特訓してやっから、全員でかかってこいよ」

「「「おぅッス姐さん! その胸借りさせていただきやす!」」」

「胸の事に触れるんじゃねぇ!」


 ドゴバギドガズドッ!


「「「おぅぅぅっ!?」」」


 特訓が始まった瞬間、滅多打ちにされる宝蔵院と舎弟。

 これはコンプレックスを刺激したコイツらが悪いな。

 というか、なんだこの流れ……。


「ほらどうした、その程度じゃ番長の肩書きが泣くぞ?」

「お、おぅッス!」


 ボロボロになりながらも立ち上がる宝蔵院。

 涙ぐましいが、上位の神に武神憑依無しで挑むとか色々と無謀だ。舎弟は10分足らずで伸びてるし。


「なぁ宝蔵院、なんで武神を憑依させないんだ?」

「お、おぅバーロー、女子供相手に武神憑依なんぞできんわぃ。ワシが本気を出すのは漢だけじゃけん」

「じゃあ俺が相手なら本気を出すと?」

「おぅ、それなら遠慮なく闘っちゃる」


 コイツもこう言ってるし、試しに俺が闘うのもありか。


「じゃあ改めて勝負してくれ。ちょうどグランドも空いてることだし」

「おぅその勝負、番長という肩書きにおいて全力で受けちゃるけん!」


 とまぁ結局は闘う事となった。

 武神使いは一般人を巻き込まない事を条件に、鍛練目的の模擬戦を行うことが許されているので、俺と番長が闘うのは問題ない。




 舎弟のみのギャラリーが見守るグランドで、互いに距離をとって向き合う。

 フレーフレー、ば・ん・ち・ょ・う――という声援が物凄くウザい中、宝蔵院が肩を震わし含み笑いを見せてきた。


「おぅッフッフッ、逃げずによく来たのぅ。まずはその勇気を誉めてやろ――」

「長くなるなら巻きで頼む」

「お、おぅ……。ではこちらから行くけん。我が武神――鉄下駄の神よ、今こそワシを漢の中の漢にしちょれぇぇぇ!」


 よく見たら上に袢纏(はんてん)下に鉄下駄という状態の宝蔵院が、真っ直ぐに俺へと向かってくる。


「おぅ、食らえ――番長~~~鉄下駄キィィィック!」

「おっと!」


 ガシィィィィィィ!


「おぅ、やはりこの程度じゃ怯まんのぅ」


 両腕をクロスして飛び蹴りを防いだ。

 なんでもない風を装ったが、鉄だけに割と痛いな……。


「おぅ、ならこれでどうじゃい――ホーミング鉄下駄ショットォォォ!」


 シュンシュン!


 今度は鉄下駄を飛ばしてきたか。

 だが――


「当たらなけりゃ意味がないぜ――と!」


 飛んできた下駄二つを飛び上がって回避する。

 ――が、やり過ごしたはずの下駄がクルリと反転し、俺目掛けて飛んきた。


「チッ、追尾型か!」

「おぅ、そうじゃあ。これぞホーミングじゃけん、当たるまで追い続けちゃる!」


 当たるまでか……よし、これでいくか!


『何か思いついたのか?』


 ああ、ちょっと面白い事をな。


「よっと!」

「おぅ、いつまで避け続けよる? スタミナとて無限じゃなかじゃろ?」

「ああ、無限じゃないな。もっともそれは鉄下駄も同じだがな!」

「おぅ!?」


 鉄下駄に追われたまま宝蔵院に突っ込む。

 驚いた宝蔵院が全身を大きく仰け反ったのを確認し、そのまま飛び越えてやった。


「さぁこれでどうだ!」

「おぅ、いったい何を――」



 ボゴボゴッ!


「おぅッフ!?」


 俺を追尾していた鉄下駄が、宝蔵院の背中に直撃した。

 ま、作戦通りってとこだな。


「「「おぅアニキ、大丈夫ですかい!?」」」


 舎弟たちに助けられ、何とか立ち上がった宝蔵院。

 闘いを続ける様子は……うん、ないな。


「おぅ幅滝、やっぱオメェは噂通りの漢だったぜ!」

「どんな噂か知らないが、俺の勝ちでいいんだよな?」

「おぅ、ったりめぇじゃあ! 今この瞬間からオメェは堂々と番長を名乗ると――」

「それはいらない」

「お、おぅ……」


 そんなもん、押し付けられても嬉しくはないしな。

 代わりに宿題をやってくれるなら喜んで受けるかもしれんが。


「おぅ、しっかしアレじゃあ。そんだけ強いんなら部活の勧誘も激しくなろうのぅ」

「勧誘? 俺は部活に入るつもりはないぞ?」

「おぅ、そうは言うてものぅ、どの部も武神使いを欲してるんは違いないけぇ、そのうち(たか)られるんは目に見えちょる」


 ああ、なるほど。武神使いは身体能力が向上するからな。それを当て込んだ勧誘が起こるって事か。


「おぅ、新学期から二週間は学校慣れさせるために勧誘ば禁止されとろぅが、来週からは解禁じゃあ。特に生徒会からは絶対に接触されるけん気をつけるこっちゃあ」


 来週――って、三日後かよ。

 こりゃまだまだ落ち着きそうにないなぁ。


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