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武神憑依バトルロマンス  作者: 北のシロクマ
序章:武神使い
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武神

「――で、あるからして、この連立方程式を解くには――」


 ふぁ~ぁ……。早く終んねぇかなこの授業。

 ――などと、教師の話を右から左へと聞き流して机に突っ伏している俺は、高校に進学したばかりの男子高校生、幅滝成(はばたきじょう)だ。

 突然だが俺は、退屈な毎日に嫌気をさしている。もっとこう、ファンタジックな毎日を送りたいんだよ。

 具体的には剣と魔法と実力主義のような世界観が理想で、神と契約した俺は武神として呼び出し、敵をバッタバッタと――


「お~い、幅滝。昼飯は何食う?」

「――って、何だよ鮫島(さめじま)、今武神を展開するところなんだから邪魔すんな」

「はぁ? ブシン? なんじゃそら……」


 ――という素っ気ない反応を見せるのは、幼馴染みでありクラスメイトの鮫島雄太(さめじまゆうた)

 奇遇にも同じ高校に通う事になり、しかも同じクラスになったという珍しいパターンだ。

 あんま言いたくないが、学力も俺と同レベルで下から数えた方が早かったりもする。


「もう二人とも、授業中だよ? 静かにしなきゃ先生に怒られるよ?」

「わーってるよ。成宮こそ、あんま大きな声で喋るなよな。俺は武神を召喚するのに忙しいんだから」

「へ? ブシン?」


 俺の武神というカッコいいフレーズを聞き、感動のあまり目を白黒させてるのは、鮫島と同じく幼馴染みの成宮彩愛(なるみやあやめ)

 ショートカットに黄色いヘアバンドが似合うおとなしい奴で、鮫島を含め一緒に登下校をする事が多い。

 ちなみにクラス委員なんて誰もやりたがらない役割を引き受けるという、面倒見のいい性格だったりするな。


「……ねぇ鮫島君、幅滝君はいったい何を言っているの?」

「さぁ? きっと楽しい夢でも見てたんだろ」

「授業中なのにまた寝てたんだ……」

「うるさいぞお前ら。夢の中だろうがなんだろうが、俺は武神を召喚してヒーローになるんだ。あ、そもそも今日は()()寝てないからな?」

「まだって事は寝るつもりだったんでしょ? それこそ威張って言う事じゃないよ……」

「へいへ~い」


 なぁんて事を喋りながらも俺の意識は途切れ、寝息をたて始めた。




「――きろ」


 ん? 誰だ、俺の体を揺するやつは?


「おい、起きろ」


 うるさいなぁ……。眠いんだからもう少――


「起きろっつってんだろ幅滝! ボサッとしてると死ぬぞ!?」

「ふご!?」


 誰かによって強引に頭を掴み上げられた。

 目をこすって見りゃ、えらく緊張感に包まれた顔の鮫島が、片手間で飛来したコウモリを斬り落としてるところだった。


「ちょ、鮫島お前、それ動物虐待じゃ――」

「アホな事言ってないで、さっさと避難しろ。他の連中はもう体育館に向かったぜ?」

「は? 次の授業は科学だぞ?」

「こんな時まで冗談はよせ! それともお前、もしかして武神憑依(ぶしんひょうい)できるのか?」

「武神憑依?」


 コイツさっき、俺が武神て言ったら呆れてなかったか?

 しかもファンタジックな剣にマントまで付けやがって、さっきの鮫島に見せてやりたいぞ。


「だぁぁもぅ、こりゃ完全に寝ぼけてやがるな。今日の昼前後に魔物の行進(スタンピード)警報が出てただろ! それが今やってきたんだよ!」

「え……」


 待て待て待て。 さっきまで普通に授業が行われてたよな? それがなんで武神やらスタンピードやらの話にたってんだ?

 そもそも警報だと? そんな天気予報みたいのがあったなんて初耳だが。

 ――なぁんて呑気に考えてる場合じゃなかった。 


「「「キィーーーッ!」」」

「な!?」


 開けっ放しの窓からコウモリが――いや、普通のコウモリの三倍くらいはあると思われるヤツが教室へと侵入してきた。


「チッ、新手が来やがった。幅滝、死にたくなかったら魔物の攻撃を避け続けろ、その間に俺が片付ける!」

「え……避けろってお前――」

「いくぜ、エアーバット!」


 俺に構ってるところじゃなくなったのか、鮫島はコウモリ相手に戦闘を開始。

 だいたい避けろって言われても――


「キィーーーッ!」

「やべっ、後ろか!」


 背後から迫っていたコウモリに気付かず反応が遅れた!

 振り向けば今にも腕に噛みつこうとしているコウモリが――




 ヒィキーーーーーーン!


 な、なんだ? 体が動かねぇぞ?

 しかもコウモリまで噛みつく直前で止まってら。


『おおぃ人間、聴こえるか~?』


 ん? なんだこの声は? 頭の中に響いてきやがる。


『ああ、その様子だと聴こえてるみたいだな』


 その様子って……体も動かせなけりゃ声も出せないってのに、なんで分かるんだか。


『んなもん当たりめぇだろ? なんてったってあたしは神なんだからな』




 プッ!


『あ、笑いやがったなこの野郎。万物には神が宿るって知ってんだろうが』


 …………いや、初耳だが?


『……へ? お前、ひょっとして小学校出てないのか!?』


 んなわきゃない。そりゃ頭の良い方じゃないが、神が宿るとか聞いたこともない。


『う~ん、嘘は言ってないな。ちょっと調べさせてもらうぞ』


 神だけに嘘は通用しないってか? だいたい調べるって何を――




『はは~ん、そういう事か』


 そういう事――って、一人で納得しないでくれ。俺には何がなんだかさっぱりだ。


『お前の記憶を覗いたんだよ。そんで分かったのが、お前は俗に言うパラレルワールドってやつに紛れ込んじまったらしいんだ』


 パラレルワールド――ってアレか? もしもの世界がいくつも分岐して存在するっていうアレなのか?


『そうそれ。気の毒だけど、元の世界に戻れる可能性は殆どないな。もう一度パラレルワールドに紛れ込んで元の時間軸に飛ばされる確率なんて、有って無いようなもんだ』


 いや、むしろ嬉しいぞ。

 何もない退屈な日常から解放されたんだからな。


『意外とポジティブだなお前……。まぁいいや。そんじゃ歓迎の意味も込めて、今からあたしと繋がれ』


 繋がる?


『あっと、すまんすまん、こっちの世界を知らないんだっけ。詳しくは後で話すけど、繋がるっていうのは契約するって意味で、そこにいる鮫島ってやつみたいに武神としてあたし憑依(ひょうい)させて、魔物と戦う事ができるんだ』


 おおっ、まさに望んでた世界じゃんか!

 神と契約できるんなら、こっちからお願いしたいくらいだぜ。


『異論なしって事でいいな? じゃあ繋がるぞ――――はい完了』


 はやっ!


『さっそくだけど、名前を決めてくれ。契約した神の名前は人間が決める事になってるんだ』


 ほうほう……。


『ちなみにあたしは完全燃焼(かんぜんねんしょう)の神だぞ』


 完全燃焼かぁ……じゃあ――




 太郎(たろう)でいいや。


『ちょ、おま、そんなダサい名前つけやがって! だいたいどうやったら()()()から()()に繋が――あーーーダメだ、間に合わねぇ!』


 何をそんなに焦ってんだか。


『バッキャロー! ダサいのはともかく、女のあたしに太郎なんてつけんじゃねぇ! しかも名付けが完了しちまって取り消しできないじゃんか! そんでもって太郎とか、完全燃焼と何の関係もねぇ!』


 ああ、なんかすまん。言葉遣いが乱暴だったから、てっきり男かと……。


『こんな可愛い声した男がいるか! どう考えても美少女の声だろ!』


 コイツ、自分で自分を――って考えたら、また心を読まれんだろうなぁ……。


『当たり前だろ。そんな事よりそろそろ動き出すから注意しろよ? 今のお前はエアーバットに噛みつかれる直前なんだからな』


 やべ、忘れてた! エアーバットってのはこの鼻がでかいブサイクなコウモリの事だろ? 何とかならないのか!?


『大丈夫だ。動き出すのと同時にあたしが憑依(ひょうい)する。(じょう)はおもいっきりコウモリをブン殴れ』


 よし、分かった。イマイチ理解できないところもあるが、今は危機を脱するのが先だな。


『そういうこった。じゃあカウントダウン始めるぞ。3……2……1……』



『0!』


 太郎が0というのと同時に身体の自由が戻った。


「オラッ!」


 バゴッ!


「ピギィィィ……」


 噛みつこうとしてたコウモリを、透かさず裏拳で弾く。

 ――つぅかすげぇ力! 一気に窓の外まで吹っ飛んでいきやがったぜ。これが武神の力ってやつか!


『ボサッとするなよ、まだエアーバットは残ってるぞ!』

「おう。――いくぜコウモリ!」


 鮫島が相手してるのを抜かせば残り4匹。

 一気に蹴散らしてやるぜ。


「フン!」


 バスッ!


「ピギャッ!」


 豪快な音とともにコウモリが消し飛ぶ。ワンパンで倒してるし、初戦にしてはなかなかじゃないか?


『おっし、その調子でいけ!』

「おう!」


 ベギッ!


「ピギュゥゥ……」


 気分良くして別のコウモリにも右ストレートを見舞う。俺の方が遥かに速いためか、まったく反応できずに弾け飛んだ。

 うん、爽快爽快(そうかいそうかい)


「よし、次だ――よっと!」


 ベキャ!


「ピギャァァ……」


 動きを試すように宙へと舞い、くるりと回転しつつ奥のコウモリに(かかと)落としを叩き込む。こっちも威力絶大で、すぐに動かなくなった。

 最初の裏拳もそうだが、太郎が憑依してる間は身体能力が劇的に上がるっぽいな。


「ピギ、ピギ、ピギィィィ!」

「あ、コイツ逃げやがった!」


 不利を悟ってか、最後の一匹が逃走を開始した。殴ろうにもコウモリは窓の外だ。


『慌てるな。こういう時こそ魔法の出番だろ?』


 だろ――じゃねぇ! やり方が分からん!


『身体で覚えろ。飛んでったエアーバットに掌を向けて、発動させたい魔法をイメージしろ。ちなみにあたしは火属性の魔法が得意だ』


 火か……なら!


「これでどうだ――ファイヤーボール!」


 シュゥゥゥ――――ボム!


「っしゃあ、命中!」


 即席で思いついた魔法だ。イメージしたのは野球のボールが火に包まれてる感じにな。

 100メートルは離れてたが、追尾するように念じたら当たるまで追ってくれたぜ。


『上出来上出来。あたしが見込んだだけはあるな』

「見込んだ――って、どういう事だ?」

『詳しくは後でな。それより鮫島に教えてやったらどうだ? お前が戦ってるのを見て、(あご)が外れるくらい驚いてるぞ?』


 そういえばと横に視線をずらせば、戦闘を終えた鮫島が口をあんぐりと開けて固まっていた。


「おーい、生きてるかーー?」

「ハッ!?」


 目の前で手をブラブラさせたら正気に戻ったっぽい。


「――って、幅滝お前、武神憑依できんじゃねぇか! いつの間に契約したんだ? しかもその動き、まるで熟練の武神使いだぞ?」


 やべ……さすがにたった今契約したとは言いにくいし、少ぉしばかり誤魔化しとくか。


「あ~すまんすまん。数日前に契約したばかりなのを忘れててさ。つ~かそんなに凄かったか?」

「あ、あれで数日前……」


 あ、また固まりやがった。

 どうやら普通の武神使いよりも動きが良いらしい。その熟練の奴らを見たことがないから何とも言えないが。


「それにしちゃ動きが速すぎな気が――って、それどころじゃねぇ、まだ他のクラスに侵入した魔物が残ってるかもしれねぇんだ、早く倒しに行かねぇと!」

「俺もいくぜ。もっと慣らしないからな」

「助かる!」


 そんなわけで俺こと幅滝成は、現代でありながらもファンタジックな世界の一員となったわけさ。




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